第43話「北の街【ゲンブン】へ」
通算五十話目になります。
そして、本作から第三部がスタートします! お待たせしてしまって申し訳ありません。第三部もよろしくお願いいたします。
また、本日のみ二十一時に第44話目を投稿したいと思いますので、宜しくお願いいします。
今後は毎週1話投稿に戻ります。
第43話「北の街【ゲンブン】へ」
「はぁ~~~~~~~~~~」
「ずいぶんと長いため息だな、ルルネ」
「うっさい!」
理不尽な言葉が返ってきたのは気のせいだろうか。
俺はそう思いながらも、自身の作業を進めていく。
かれこれ、一週間はずっとルルネはこの調子なのだ。何でも、ルルネの試験合格を祝う会の後に、グレンと一緒に帰ったルルネは、そのままグレンに告白――見事に玉砕したらしいのだ。
そして、その次の日からここに入り浸っては、こうしてため息を吐き、机に突っ伏している状態だったのだ。
「ルルネさん、紅茶が入りましたよ」
「ありがとう、ルナちゃん! 今やルナちゃんだけがあたしの癒しだよ」
ルルネはそう言いながらぎゅっとルナのことを抱きしめている。
「ルルネさん、くすぐったいですよ~」
ルナはおかしそうにくすくすと笑っている。
そんな二人の様子を見て、俺は微笑ましい気持ちになってしまう。
しっかし、グレンの奴はどうしてルルネの告白を断ったんだ? 俺から見たらグレンも脈ありだと思っていたのだが。
本当に分からないな。
俺はそう感じながら、作業を進めていく。
「あなた、もう作業は終わりそうですか?」
「ああ、これさえ作れば取りあえず溜まっていた依頼は終了だよ。後は北に行く準備をしないといけないな」
依頼を貼ってあるボードを見てみると、いつもは依頼で山になっているボードは今はきれいさっぱりと片付いている。
俺はこれからこの南区画の【スーザック】を離れて、北区画である【ゲンブン】へと赴かなければいかないのだ。
しかもそれは、あのおてんば王女様直々の命令であるため、むげにすることも出来ずこうして作業を詰めて、【ゲンブン】へと赴く準備を進めていたのだ。
「ルルネ、俺がいない間、ルナのことを頼むな」
「ええ、任せなさいよ」
俺が【ゲンブン】へと行っている間、ルナはルルネの実家である【ヒール】で預かってもらうことになっている。
さすがに俺が留守の間、ルナをここで一人待たせているわけにはいかないと思ったのだ。
「あなた、北区画に行く準備は終わりそうですか?」
「ああ、何とかなりそうだよ。色々気にかけてくれありがとう」
「奥さんなんだから当然ですよ」
そう言って「ふふふ」とルナは微笑んでいる。
「それであんたはいつここを発つの?」
「明日かな。依頼品を依頼人に渡して、準備してから行くつもり」
「でも、王女様からの直々の依頼って何なんでしょうか?」
「分からない。ただ、王女様からなるべく早く【ゲンブン】に向かうようにってことしか言われていないんだ」
俺は少し嘘を吐いた。
本当は北区画の【ゲンブン】で何が起きているかは聞いてはいるのだが、さすがにルナやルルネに聞かせる内容ではないと思ったのだ。
「とにかく、早く帰ってくるようにするから、ルナは待っていてくれるか?」
「はい! わたしはいつまでも待ってますよ。だって、夫の留守の間を守るのも奥さんの役目ですから」
何とも頼もしい奥さんである。だから、俺は柔らかいルナの金髪を撫でていた。
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「それじゃあ、行ってくるよ。ルナ待っていてくれな」
「はい、待ってますよ。ああ、それとあなた、少し屈んでもらってもいいですか?」
「ああ、いいよ」
俺はルナに言われた通りに屈むと、ルナは恥ずかしそうに頬を赤く染めるとそのまま自身の唇を俺に重ねてきた。
「無事に帰って来れるおまじないです」
「ああ、ありがとうルナ。行ってくるよ」
俺は一度、ルナのことをぎゅっと抱きしめた。こうしていると、ものすごく勇気ややる気をもらえるのだ。
俺はルナに笑いかけると、【ゲンブン】へ向かうために北門に向かった。今回、【ゲンブン】に最短で行くためには、一度王都に向かう必要があった。王都を突っ切ってそのまま北区画に向かうのが一番最短距離であったからだ。
ルナとのしばしの別れをしてから、北門に向かうとそこにはすでにこの街の近衛団隊長であるところのグレン・アルタが立っていた。
「悪い待たせたな」
「いや、僕も副隊長にしばらくの間の指揮の説明などをしていたから、今ここに来たところだったんだよ」
「なら、よかったよ」
今回、北区画に行くにあたって、俺はグレンに同行をお願いしていた。俺一人だと何かあった時に対応しきれないと思ったからだった。
「それじゃあ、今日から頼むぜ」
「こちらこそ、リアムを頼りにしてるよ」
そう言って、俺たちは拳を打ち合わせた。
王城の者が北門には待っていて、荷物をその人に預け、俺とグレンは王城が手配したであろう馬車に乗り込んで、俺たちは王都に向かっていた。
その馬車の中で俺はずっと気になっていたことをグレンに尋ねた。
「なあ、グレン。一つ聞いてもいいか?」
「ん? 何だい急に改まって」
「ルルネのことなんだ」
俺がそう口にした瞬間、グレンの眉がピクリと動いた。
珍しいな。グレンがここまで反応するなんて。
「ルルネのことがどうかしたのかい?」
「いやさ、結構脈ありだと思ってたのにどうしてフったのかなって思ってさ」
俺がそう聞くと、グレンの瞳が細められた。
「どうしていきなりそんなことを?」
グレンは本当に不思議そうに顔をしている。
「単に気になっただけだよ。好きなのにフった理由が分からなかったからさ」
「逆だよ。好きだからフったんだよ」
好きだからフった⁉ 俺にはグレンの言っていることがいまいち理解できなかった。普通、好きだったらその人と付き合いたい、一緒にいたいと思うものなのではないだろうか。
少なくとも今の俺はそう思っている。今ではルナがいない生活なんて考えられない程に、ルナの存在は俺の中で大きなものになっている。
それぐらいに大切な人と過ごせるのは価値のあることだと思うし、自分では気づけなかった人生の幸せを教えてくれるのだ。それなのに何故?
「どうして?」
気が付いた時には、俺の口からそう言葉が漏れていた。
「好きな人には幸せにいてもらいたいって、思うのは当然の感情だろ」
「確かにその気持ちは分かるけど、それでどうして、グレンがルルネのことをフったのかの理由にはなってない気がするんだけど」
「十分な理由だと思うけどな」
「いやいや、だからどう言う事なんだよ?」
「そんなの決まってるじゃないか。僕じゃルルネのことを幸せに出来ないからだよ」
そう言って笑ったグレンの微笑みは、とても寂しいものだと俺は感じていた。
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北区画の【ゲンブン】は、王都【キーリン】で一泊してから、向かうことになった。
俺はこれまた王城が用意してくれた宿泊施設の一室でベッドで横になっていた。
先ほど、ルナとの連絡を終えて――向こうは向こうで楽しくやっているようで安心した――ベッドに横になったのだが、思い出すのは王都へ向かう途中に馬車の中でグレンと話した内容だった。
「僕じゃルルネを幸せに出来ないか……」
どうして、グレンはそんなことを言ったのだろうか?
グレンとルルネはお似合いなんじゃないだろうかと、密かに思っていたりはしたのだが、何故グレンがあんなことを言ったのかが分からなかった。
それにあいつは確かにはっきり、ルルネのことが好きだと明言していた。
だったら、なおさらどうして? それに、この一週間、ルルネの姿を見ているのも辛かったし。一日目は泣き倒しで一日中ルナが慰めていたっけ。そこから徐々に立ち直っていってはいるが、未だに完璧なルルネには程遠い。
本当に分からない。何かきっかけがあればいいんだけど。とは言っても、簡単にきっかけだって作れるはずもないしな。
俺はため息を一つ吐くと、両目を瞑った。
取りあえず、【ゲンブン】のことを考えるか。
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北区画【ゲンブン】は、寒暖差が激しい区画となっている。そして、今はちょうど寒いよりなので、しっかりとコートを着込まないと寒さで震えてしまう。
「ああ、グレン。【ゲンブン】に入る前にこれを持っていてくれ」
「これは?」
「護符だよ。それを持っていれば瘴気を防げる。救援に向かった俺らまで『瘴気障害』に陥ったりしたら意味がないからな」
「それはごもっともな意見だね」
そう言いつつ、俺もその『瘴気障害』を防ぐための護符を首から下げた。
何でも今【ゲンブン】では、深刻な『瘴気障害』に陥っているらしく、それは一夜で村一つの全住人が、『瘴気障害』に陥ってしまったほどなのだと言う。その感染スピードの速さから、その村は完全隔離。これ以上の被害を防ごうとしてはいるのだが、それはじわじわと別の村などに侵食していっているらしい。
しかも、何故、その村人がどうしていきなり『瘴気障害』になってしまったかも原因不明のままらしいのだ。
そして、王女様の命は村人の治療と原因の究明だった。それを俺に命じたのだ。普通、この問題は北区画を治めている区画長が考えるのではないのではとも思わなくもなかったのだが、区画長は早々とこの問題を放置したらしい。何とも身勝手な話である。
「お二人とも、そろそろ【ゲンブン】に入ります。そこからは徒歩での移動になりますのでご了承ください」
馬車を引いてくれている男性に、俺たちは頷いて答えた。
件の村は【ゲンブン】の中央街かた、だいだい北西に位置するところにあるのだと言う。
中央街で降ろしてもらい、荷物を受け取ると俺たちはそのまま北西にある村へと向かった。
今は一刻でも早く村の状況が知りたいと思ったのだ。
その村は中央街から八キロほど離れたところにあった。中間地点には鉄の門が作られていて立ち入り禁止区画となっていた。その鉄の門に何やら錬金術で作られたお守りみたいなものが大量に付けられていたのが気になったが。
そして、俺とグレンはその村を見て言葉を失った。
だって、その村は死んでいたのだから。あらゆる生命と言う生命がまったくと言っていいほど感じなれなかったのだ。
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