第5話「死者が蘇る森」
第5話目になります。よろしくお願いいたします。
第5話「死者が蘇る森」
グレンの言葉に俺は眉をひそめた。
「死者が蘇るなんて、そんなことがあるのか?」
「リアムの言いたいことは分かるよ。けど、それに関しては、君の方が専売特許なんじゃないかな」
「あなた、それはどういうことなんですか?」
今まで黙っていたルナが、そう聞いてきたので俺は説明する。
「ルナは錬金術師のことについては、どこまで知ってるのかな」
俺の質問にルナは少し考えた後に口を開いた。
「確か、あらゆる物を創り出す万能者だと聞いたことがあります」
「うん、多少語弊があるかもだけど、大体その認識で合ってるよ。それでね、錬金術師がどうして産まれたかのは知っているかい?」
今度の質問にはルナは首を横に振った。
「えっとね、錬金術師って言うのは、最初不老不死になれる薬や、有り余る黄金、人工生命体を創り出すために生まれたものだと言われている。人間の私利私欲に走った感じから始まったんだよ。けど、俺はこの錬金術って言うのが生まれてくれて良かったって思ってる。さっき、ルナも言っていたけど、錬金術師はありとあらゆるものを創り出せる可能性を秘めているんだ。それでね、最初の始まりはそんな感じで始まった錬金術師だけど、いつしか錬金術師の最終目標はある一つの石を創り出すことに変わっていったんだ」
「ある一つの石ですか。それは何なのですか?」
「賢者の石って呼ばれているもので、その石を創り出せればあらゆることが可能になると言われているんだ。不老不死でも、莫大な富でも、それこそ死者を蘇らせることさえもね」
俺の説明にルナは驚きの表情を表し、両手で口を覆っていた。まあ、最初にこの話を聞いた時は誰でもそうなるよな。
「つまり、グレンが言いたいのは誰かが賢者の石を創り出したんじゃないかってことだろ?」
俺の言葉にグレンは頷く。
「話が早くて助かるよ。だけど、まだ何とも言えないところなんだ。実際、僕もその蘇った死者を見たわけじゃないからね。もしかしたら、誰かが流した質の悪い噂って可能性もある。ただ、一つだけ言えるのはもしその噂が本当であれば、真っ先に疑われるのは君かもしれないからね」
「それはどうしてなんですか?」
そう聞き返したのは、ルルネだった。
「この区画で一番の腕の立つ錬金術師って言ったらリアムだからね。それに、賢者の石を創り出すことは法で禁止されている。あまりにも大き過ぎる力だから」
「けど、賢者の石ってまだ誰も創り出せていないんですよね?」
ルルネの疑問に今度は俺が答えた。
「創り出せないのは確かだけど、そもそも、賢者の石を創り出すことは今や禁忌に等しいことなんだよ。大きな力は人を狂わせるからな」
「それじゃあ、なんで?」
「人間って言うのは、不可解なことが起きれば何か無理矢理でも理由をこじつけたがるものだからね。だから、この噂が広まる前に解決しておきたいと思って、リアムの所に来たんだ。幸いなことに、まだ近衛団の中では誰かが見た幻だとか、都市伝説的なものだろうと言うことで片付いている」
「なるほどな。確かにそれは一大事な。仮に賢者の石の所為だとしたら、それもそれでビックニュースではあるしな」
俺はそう言いながら食事を進めていく。
「それでリアム、物は相談なんだか……」
「何だかものすごく嫌な予感がするんだけど……」
その予感は当たることになってしまうのだった。
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食事を終えると、グレンは仕事がると言って飛び出して行き、俺は俺で自分の作業に入り、ルナは忙しなく動いて家事をやっていき、ルルネは魔法薬師の勉強をしていた。
俺が作業に入ってからしばらくすると、家事を終えたルナが俺の元までやって来る。
「あなた、少しよろしいですか?」
どこか遠慮がちに言うルナに、俺は「大丈夫だよ」と答えて、続きを促した。
ルナは少し躊躇った後、その続きを口にした。
「実は錬金術の勉強をしたいです!」
「錬金術の? これまたどうして?」
いきなり、そんなことを言ってくるルナに俺は驚いてしまう。それに対して、ルナは顔を真っ赤に染めて服の裾をギュッと握っていた。その姿は、とてもかわいらしく俺の胸を激しくときめかせた。
俺はその気持ちを誤魔化す様に、咳払いをするとルナに続きを促した。
「あなたの作業のお手伝いがしたいんです!」
「俺の手伝いって、さすがにそこまでは悪いよ。家事全般を君にお願いしてしまっているわけだし」
実際、ルナのおかげで作業にかなり集中することが出来ているので、作業効率も上がっていた。それなのに、これ以上お願いするのは何だか申し訳なくもあった。
「いえ! わたしがしたいんです! あなたの奥さんとして精一杯あなたのことを支えたいんです!」
翠色の瞳が真っ直ぐこちらを射抜いてくる。その瞳はどこまでも真剣で、覚悟に満ちた瞳をしていた。
そんな彼女の姿を見て俺は「じゃあ、お願いしても良いかな」と言うと、彼女は花が咲いたように笑った。
「はい! 精一杯頑張ります!」
そう言って意気込む彼女の姿を見て、また激しく胸がときめくのを感じる。
あれ? 俺はどれだけ彼女に惹かれているのだろうか?
俺は首をぶんぶんと振って、その煩悩を追い出した。
「あなたどうかされたのですか?」
俺の行動を不思議に思ったルナが、心配そうに俺のことを見てきたので、俺は慌ててルナに大丈夫だと言う意思を伝えた。
「そうなのですか? わたしが何かしてしまったのではないのですか?」
察しが良すぎる!
「違うから気にしないでくれるとありがたいんだけど」
「そう……ですか。あなた、何か至らない部分があったら遠慮なく言ってくださいね。わたしもそれに応えられるように頑張りますから!」
「いやだから、その部分が逆にないんだって! むしろ、完璧すぎて俺の奥さんで本当に良いのかなって思ってるぐらいだよ!」
「それこそあなたが気にすることではありませんよ! むしろ、わたしの方こそあなたの夫で良いのかって不安で一杯です。だってあなたはすごい人ですから」
そう言ってルナは不安そうに瞳を揺らしている。
不安で一杯って、それこそルナが気にすることじゃないと思うんだけどな。まったく、この子はどこまで良い子なのだろうか。それに、俺はそこまですごい人でもないんだけどな。だから、俺は彼女を安心させるためになるべく優しくなるように彼女の名を呼んだ。
「ルナ、少し俺の話を聞いてもらっても良いかな?」
俺の言葉にルナは頷いてくれる。
「あのね、ルナ。俺と君はまだ知り合って二日も経っていないけど、君は俺のとっては、大切な存在になり始めてる。それに君は文句なしにかわいいし、変な話かもしれないけど、きっと昨日、君の姿を見た瞬間から、俺は君に惹かれはじめていたんだと思う。ルナのことを好きになっていたんだと思う。一目惚れだったよ。だからさ、そんな不安そうな顔をしないでくれよ。誰が何だって言ったって、俺の気持ちが変わることはないし、ルナが俺に釣り合ってないなんてことは絶対にあり得ないから」
俺はそう言って微笑むと、ルナの頭を撫でた。出会ってすぐの相手にこんなことを言うのはものすごく恥ずかしかったが、これでルナが安心できるのであれば安いモノだろう。
俺は俯いているルナの顔を見ると、こちらが心配になるぐらいに顔と体全体を真っ赤に染めていた。ルナの肌は元々が白かったので、その赤さはより目立っていた。
「るっルナ? 大丈夫か?」
俺が声をかけると、そこで我に返ったかのように顔を上げた。そして、
「ふにゃああああ! あっあなたに初めて好きとかかわいいと言われてしまいました」
あれ? そうだっけ? ああ、心の中ではもう何度も言っているから何だか言っていた気がしていたのか。
俺が一人で納得していると、ルナは両手で両頬を抑え、にやけるの必死に堪えているのか頻りに「えへへ」と言葉を漏らしている。
ぐっ……俺の嫁がかわい過ぎる件について!
俺は思わず叫びそうになってしまう。
俺が自分の感情を必死に抑えていると、服の裾をくいくいと引っ張られたので、ルナの方に視線を戻すと、ルナはなりやらもじもじとしていた。
「どうしたの?」
俺が促すとルナは恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
「えっと……ですね……あなた……わたしもあなたのことが……だっ大好きです……それにかっこいいです!」
ルナはそれだけ言うと、両手で顔を覆い隠してしまう。しかし、そんな仕草もかわいいなっと思っているほど俺には余裕がなかった。何故なら、今のは破壊力があり過ぎたからだ。
抱きしめても良いですか!
もう年齢とか関係なかった。ただただルナがかわいいです!
俺がルナを抱きしめようと、手を伸ばした瞬間部屋に声が響く。
「あんたたち、ナチュナルにイチャつくの本当にやめなさいよ」
呆れがちにルルネの声が、変な感じの空気になっていたのを変えてくれる。
「ああ、ルルネいたのか」
ルルネがいてくれて良かった。一瞬、理性が飛びかけた。
「あんたねぇ、朝からあたしはいたでしょうが。それに最初の話はどこにいったのよ?」
ルルネがジト目でこちらを見てくるのを無視して、俺は最初の話を必死に思い出していた。
最初って何を話していたっけ?
考えること数秒。俺は何とか思い出すことに成功する。
「そうだった。えっと、ルナは錬金術の勉強がしたいんだよね」
「はっはい! そうです!」
さっきの余韻がまだ残っているのか、ルナの顔はまだ真っ赤だった。俺も同じような状態だろうが、そこはあえて無視して話を進めていく。
「それじゃあ、本棚に勉強用の本があるからそれを使うと良いよ。それに、分からないことがあれば、俺に聞いてくれれば答えるよ」
「はい! あなたありがとうございます!」
ルナは本棚に駆けて行き、本棚を物色し始める。ああ、そんな姿も微笑ましいな。
俺がそう思いながらルナの姿を見ていると、横に立っていたルルネがものすごい目でこちらを見ていた。
「やっぱり、あんたって幼い少女しか愛せない特殊性癖の持ち主なんじゃないの?」
「だから、違うんだって!」
またこのくだりを繰り返すのか⁉
「いや、グレンさんがいなくて良かったわね」
「だから、俺はルナが好きなだけなんだって!」
俺はルナの姿を見ながら、ため息を吐くのだった。
かわいいはある種の罪だな、うん。
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