番外編「看病」
この話にて第二部は完全終了となります。ここまでご閲覧本当にありがとうございます!
また、第三部の開始は一ヶ月~二か月後を予定しておりますので、第三部でもよろしくお願いいたします。
番外編「看病」
俺はいつもの様に作業を進めていた。今日も今日とて、色々な依頼が舞い込んでいるため、次から次へと依頼をこなして行かないといけない。
しかし、今日はどこか失敗が多い気がする。ここ最近ではなかった失敗が何だか今日は多い気がするのだ。
それに意識も軽くぼぉーとする気がするのだ。
調子でも悪いのだろうか? いやいや、気のせいだろう。
俺は首を横に振ると、作業を進めていく。
駄目だ、集中して作業が出来ない。意識も何だか朦朧とし始めている気がする。体もだるい気がするし。
「あなた? どうかしたんですか?」
一緒に作業を手伝ってくれていたルナが、そう問いかけてくる。
「別に大丈夫だよ」
俺はルナに心配かけまいと、気丈に振る舞ってはみるが、ルナは納得してないようでジーとこちらを見ている。
「るっルナ? どうした?」
「あなた、嘘を吐いていませんか?」
ルナの翠色の瞳で真っ直ぐと見つめられ、俺は「うっ……」と言葉に詰まってしまう。
「吐いてないよ、吐いてない」
俺は慌てて誤魔化そうと声を上げるが、何だか無駄な気がして仕方なかった。
「あなた、吐いてますよね、嘘」
俺はルナの瞳を見ていられなくて、俺は視線を逸らしてしまう。
「大丈夫だよ、大丈夫」
俺は動いて見せるが、意識が朦朧としている所為かふらついてしまう。
「あなた!」
ルナが慌てて駆け寄って来て、俺の体を支えてくれる。
「やっぱり、体調が悪いんじゃないですか!」
ルナが慌てて自身の額を、俺の額に合わせてくる。
「すごい熱です! どうして、こんな状態で無理をしていたんですか⁉」
「いやぁ~、依頼が溜まってたから」
素直な答えを口にすると、ルナの小ぶりの口からは「……バカ」と言葉が零れた。
そのままベッドへと連れて行かれてしまう。
「るっルナ。仕事があるから」
「ダメです。今日はゆっくりと休んでください!」
ルナはそう言うと、せっせかと看病の用意を始めてしまう。冷やし枕を頭の下に敷かれ、額には濡れタオルを置かれる。
「これって休まないとダメな奴なのか?」
「ダメです! 言うことをきいてくれないと、もうあなたのご飯は作りませんよ」
ルナの料理が食べられなくなるのは、辛いな。マジで辛い。
「分かったよ。今日はゆっくり休むことにするよ」
「はい! それを聞いて安心しました」
ルナは優しく微笑むと、席を立った。
「それじゃあ、わたしはおかゆを作ってきますので、あなたはちゃんと休んでいてくださいね」
「あっああ」
俺の返事に満足そうに頷くと、ルナはキッチンに向けて歩いて行った。
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あれ? 俺寝てた?
「おはようございます、あなた」
「おはよう、ルナ」
俺が目を覚ますと、ベッドの近くにあったイスに座っていたルナが、俺に向かって微笑んでくれる。
「俺は寝てたのか?」
「はい。おかゆを食べてお薬を飲んだら、ぐっすりと眠っていましたよ」
「今何時なんだ?」
「午後の三時を回ったところです。随分とお疲れになっていたみたいなので、眠りが深かったのではないでしょうか」
「そっか」
俺はそう頷きながらも、額に手を当てた。そこには未だに冷たい濡れタオルが置かれている。きっと、ルナが絶えず頻繁に交換してくれてたのだろう。それにぐっすりと寝た効果か、体のだるさも幾分か取れていた。
「三時ってことは、依頼してたお客さんとか来ちゃっただろ?」
まずいな。今日期限で完成させなきゃいけなかった奴が、いくつかあったはずだ。ここ最近は色々と立て込んでいて、期日までに余裕で完成させることが出来なくなっていたし。何より、今日の依頼品に関して言えば、午前中にあった二件しか完成させることが出来てはいなかった。
「大丈夫ですよ。お客様に誠心誠意謝ったら、許していただけましたよ。体調が完全に治ってからやってもらえれば大丈夫だからと仰っていましたよ。それにお大事にって言ってました。それに配達先にも行って来ました。配達先のお客さんも同じようなことを仰ってました」
本当に良く出来た嫁である。知らないうちにお客さんの対応も完璧にこなしていた。
「ごめんな、ルナ。迷惑かけて」
俺の言葉にルナはふるふると首を横に振った。
「そんなことを言わないでください。わたしはあなたのお嫁さんなんです。これぐらいは出来ないといけません。それに自分の旦那が倒れた時にこうするのは妻としての務めですから」
まったく、この子はいじらしいと思ってしまう。
「本当にありがとな、ルナ」
「はい! あなたもすぐに治ると良いですね!」
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ルナの献身的な看病の甲斐があって、俺の風邪はすぐに治った。元々、熱と体のだるさだけだったので、すぐに治ったのかもしれないが。それはともかく、俺の風邪は治ったのだが……
「ルナ~、大丈夫か?」
「はっはい……ごほっごほっ」
「ルナ! 無理するなよ!」
俺は慌てて駆け寄ると、持っていたトレイを近くの机に置くと、ルナの背中を優しく擦ってあげる。
「ありがとうございます、あなた」
「別に良いって。ルナがこうなったのも俺の所為だから」
俺は完全に治って健康なのだが、その代り今度はルナが体調を崩してしまったのだ。
これは完全に落ち度は俺にあった。
あの後、ルナのかわいさに辛抱が溜まらずキスをしてしまったのだ。もちろん、唇同士だと問題大ありだと思い、頬にするだけで留めたのだが、今考えてみれば、それはそれでも問題はあったのだ。
「ルナ、水でも飲むか?」
「はい、ありがとうございます」
俺はルナの背中に手を宛がって、ルナの体を起き上がらせると口元に水を運んだ。ルナは少女らしくちょこちょこと水を飲んでいる。
「おかゆ、作ったんだけど食べるか?」
「あなたが作ってくれたんですか?」
「まあね。ルナみたいに美味く出来たか分からないけど、食べてくれると嬉しいかな」
「あなたがわたしの為に作ってくれたものですから、わたしはどんなものでも食べられる気がします。それが泥団子でもわたしは食べられる気がします!」
「いやいや、さすがにそんなものは出さないからね! ちゃんと食べられるものを出すから!」
ルナはおかしそうに、口元を隠しながら笑っていたが、途中で咳き込んでいる。
俺はもう一度、ルナの背中を擦ると、おかゆをルナの口元に持って行った。
「ほら、食べられるか」
「食べられますけど、一人で食べられますよ、あなた」
ルナは恥ずかしそうにしている。
「ダメだ。辛そうだから俺やるよ。ほら、ルナあーん」
「あっあ~ん」
ルナは恥ずかしそうに、ちょこんと匙を口に運んだ。
「美味しいか?」
ルナはぶんぶんと首を縦に振っている。体全体が真っ赤になっているけど、熱でも上がったのだろうか?
「ルナ、大丈夫か? 熱でも上がってるんじゃないのか?」
俺が慌ててルナの熱を確認しようとすると、ルナは俺から逃げるように後ろに身を引いている。
「だっ大丈夫……大丈夫ですから……ちょっと待ってください……」
ルナはいっぱいいっぱいの表情をしている。
何度か深呼吸をして、気持ちを落ち着かせるルナだが、改めてこっちを見た時には、綺麗な翠色の瞳には涙が溜まっていた。
「あなたはずるいです」
俺が……ずるい?
ルナの言葉に俺は心底心外だと思ってしまう。ずるいのはルナの方だと思うだけどなと俺は考えていたりする。
だって、両目に涙を溜めて上目遣いで、こちらを見てくるのは反則だと思う。そして、この表情が俺の理性をゴリゴリと削っていることに、この少女は気が付いているのだろうか?
それにこんな無防備な表情、誰にも見せられないよな。
「あなた?」
固まってしまった俺を、不思議そうに首を傾げて見ないでください! 俺の中の野獣が暴れてしまうから! キスしたい衝動とか抑えられなくなるから!
年下の女の子に何て言う感情を向けてんだって言われてもしょうがないかもしれないけど、一つだけ言えることがあるんです!
それはルナがかわい過ぎる件について! 俺の嫁がかわい過ぎます! 破壊級のかわいさなんです!
俺の頭の中は、もうすでにルナのかわいさでいっぱいだった。
you、やっちゃいなよと、どこからか悪魔の囁きが聞こえてくるが、俺はそれを全力で追いやり、今はルナの看病に努めるべく集中する。
「とにかく、ルナはこれ食べて薬を飲んでゆっくり休もうな」
俺が誤魔化すよう匙を出すと、ルナは不思議に思いながらもおかゆを食べてくれる。
何とか誤魔化せたのかな?
俺はそう思いながらも、ルナにバレないように安堵の息を吐いていた。
それから、おかゆを食べて薬を飲んだルナは、今はぐっすりと眠っている。
ルナの症状を見て、俺が急拵えで作った薬ではあったものの、無事に効いてくれているみたいで一安心だ。
いつも人一倍に何でも頑張ってくれる彼女。きっと、今日も体調が悪くなかったら忙しなく動いて、色々とやってくれていたことだろう。
俺もそんな彼女についつい甘えてしまっている自覚はあった。
俺もそんなところ改めないといけないよな。
俺はそう思いながらも、眠っているルナの頭を撫でた。
「だから、今日みたいな日はゆっくりと休んでくれよ」
そう呟くと、俺は眠っている彼女の額にそっとキスを落とした。気のせいか、彼女の眠っている表情が、穏やかだったのか幸せそうな表情に変わった気がした。
本当に彼女の姿を見ているのは飽きないな。
ルナの寝顔を見ながら、俺はそんなことを考えていた。
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