番外編「リアムとグレン」
番外編「リアムとグレン」
「へっへっくしょん!」
俺は盛大なくしゃみをしてしまう。
「大丈夫かい? リアム」
俺の目の前に座っているグレン・アルタがそう問いかけてくる。
「ああ、何とかな。まさか、今回の標的があんな奴だったとは思わなかったよ」
俺は焚き火に手を当てて温まりながら、グレンにそう返した。
「確かにあれは予想外だったね。僕もこうなるとは思ってなかったよ」
グレンはそう言いながら、爽やかな笑い声を上げている。
俺たちは今、洞窟の中にいた。パンツ一丁で。
どうしてこうなったかと言うと、それは数時間前まで遡ることになる。
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数時間前、俺はいつも通りアトリエで作業をしていた。その時にグレンが訪ねてきたのだ。
「どうしたんだ? グレン」
「リアム、ちょっと依頼をしたいんだけど」
「依頼? 別に構わないけど、どんな依頼なんだ?」
「製作依頼じゃないんだけど、大丈夫かな?」
「それってどういうことだ?」
「討伐依頼なんだよ」
「討伐依頼⁉」
俺は驚きの声を上げてしまう。錬金術師の俺に討伐依頼とか、グレンは一体何を考えているのだろうか?
「ああ、実は南の森に魔物の大量発生が確認されたんだ。その討伐を手伝ってほしいんだ」
「南の森に? そんな話初めて聞いたけど」
俺は記憶を辿りながらそう返す。
「確認されたのは、昨日だからね。それで手伝ってくれるかい?」
「別に構わないけど、むしろ俺で良いのか? 戦えないわけではないけど、近衛団に比べると劣ると思うんだけどな」
「実は近衛団の方も人手不足でね。他にも見回りに行かないといけない所があったりして、手が離せそうにないんだよ。だから、付き合ってくれると嬉しいな。それにリアムの腕なら問題なく狩れるレベルの魔物だよ」
「分かった。少し待ってくれ。ちょうど、作業も終わるところだし身支度を済ませるよ」
俺はそうグレンに返すと、作業を中断して身支度を始める。持っていくものはそこまでなかったので、身支度はすぐに終わった。
「それじゃあ、行こうか」
「ああ」
俺は頷き、南の森に向かう為にアトリエの出入り口の扉に手をかけた。すると、その扉は外から開け放たれた。そこには籐の籠を提げたルナが立っていた。どうやら、夕飯の買い出しから帰って来たところみたいだった。
「あなた? どこかにお出かけですか?」
「ああ、ちょっと南の森まで行って魔物討伐に行ってくるよ」
「えっ⁉ それって大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。そこまで危険性がある魔物ではないから……」
俺がそう説明している間にも、ルナが正面からぎゅっと抱き着いてくる。
「ルナ?」
「無事に帰って来て下さいね」
「ああ、約束するよ。絶対に帰ってくるから」
俺はルナの頭を優しく撫でた。ルナはルナで気持ち良さそうに、目を細めて猫の様にすり寄ってくる。
そんな姿に俺はものすごく愛おしく思えてしまう。思わず抱きしめたい感情に駆られてしまう。
「リアム、仲が睦まじいのは良いけど、そろそろ行こうか」
「ああ、そうだな。ごめんな、ルナ。少しの間だけ待っててくれるか」
「はい。気を付けて行って来て下さいね。わたしはお夕飯を作ってあなたの帰りを待っていますから」
俺は力強く頷くと、もう一度ルナの頭を撫でてからグレンと共に南の森へと歩み出した。
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魔物討伐は順調に進んでいた。が、そこで思わる問題が起きたのだ。魔物の体液がものすごい異臭を放っていたのだ。それを体全体に浴びてしまい、水浴びをして服も洗って乾かさないと帰れなくなってしまったのだ。
そして、この話は冒頭に戻ることになるのだ。
「まさか、あの昆虫型魔物から、あんな異臭が放たれるとはまったく考えてなかった」
俺は洞窟内にあった岩に背を預けながら、そうぼやきを溢した。
「確かにね。これは予想外だね」
ん? 俺は今のグレンの言い方に違和感を覚えてしまう。
「なあ、グレン。お前まさかこうなることを知っていたんじゃないのか?」
「あははは、やっぱりバレたか」
「っておい!」
「実は今回の魔物が異臭を放つのは知ってたんだけど、その所為で近衛団のみんなはやりたがらなくてね。それで、リアムに協力してもらったと言う訳なんだ」
「すがすがしいぐらい、良い笑顔で白状しやがったな」
俺ははぁ~とため息を吐くと、服を乾かす為に焚き火に服を当てた。
「でも、やっぱりリアムは剣士としての腕も悪くはないね」
グレンもグレンで服を乾かす為に、焚き火に服を当てている。
「まあ、鈍ってなくて良かったよ。剣を振ったのは久しぶりだったし」
手に持っている服は次第に乾き始めているが、まだ着られるほどは乾いていなかった。
くそぉ~、早くルナの元に帰ってルナが作った夕飯が食べたいのに!
「でもまあ、リアムのおかげで急激に増えた魔物の討伐は終了だ。近衛団の隊長として協力感謝するよ」
グレンは俺に向けて一礼してくる(パンツ一丁で)。それでも様になってるからグレンはずるいと言うか、すげーなと場違いな感想を抱いてしまう。
「顔を上げてくれよ、グレン。近衛団の隊長とか抜きにして俺たちって友人同士だろ? だったら、それ以外に理由なんていらないって思うけどな」
「まったく、リアムらしい答えだね。本当に」
「何だよ? 悪いのか?」
「いやいや、僕の友人としていてくれて本当に良かったなって意味さ」
「何だよそれ?」
俺はグレンの言葉にそう返したが、グレンはグレンで笑っているだけだった。
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「ところで話は変わるけど、君の新婚生活は上手く行っているのかい? まあ、さっきの光景を見せられたら、聞くまでもない気がするけれど」
「グレンからそんなことを聞いてくるなんて珍しいな」
俺の記憶が正しければ、グレンにそんなことを聞かれるのは初めてだった気がする。
「僕の友人が結婚して、新婚生活を送っているんだ。上手く行っているのか気になるのは仕方がないと思うんだけどな」
そう言うもんなのか?
俺はそんな風に考えながらも「順調だよ」と答えた。
「本当にルナは良くできたお嫁さんだと思うよ。あんな良い子、他を探してもいないと思うってぐらいに、ルナは良い子だよ」
俺は素直にグレンにルナの気持ちを打ち明けた。
「それにかわいいし、料理も美味いし、抱き心地も良いし、家庭的だし、かわいいし」
本当にどうして、あんな子が俺のお嫁さんになってくれたのだろうか?
「リアムもルナにぞっこんなんだね」
「確かにそうかもしれない。最初はどうなるかと思ったけど、上手く新婚生活が行ってるから良かったよ」
「そっか。なら安心かな。ルナと出会う前の君は、どこか仕事一筋で他に興味がないように思えてたから。それに君は本当にルナのことが大好きなんだな」
「ああ、大好きだよ。ルナのこと」
パンツ一丁でこんなことを話し合うのは、絵面的にどうかとも思うが今は気にしている場合でもないだろう。
「それはそうと、グレンはどうなのさ?」
俺はグレンの浮いた話を聞いたことがなかった。
「グレンには好きなやつとかいないのか?」
純粋な疑問だった。グレンはモテる。それもものすごく。そして、グレンに言い寄ってくる女性の中には、可愛い子や綺麗な子など色々いたはずだ。しかし、グレンはその全てを断っていた。俺はそれが不思議だったのだ。
「好きな人か。……どうなんだろう」
「どうなんだろうって、自分のことだろうに」
「あははは、まあ、それはそうなんだけど、僕も君のことを言えないな。近衛団の仕事にのめり込み過ぎていて考えたことがなかったな」
「人のこと言えないじゃん!」
「まったく、リアムの言う通りだよ」
乾いた笑みを浮かべているグレンだが、その笑みが不思議に思えた。何だか不自然に思えたのだ。
それに俺とルナの新婚生活のことを聞いてきたのも不自然だ。だからこそ、俺の口から自然と言葉が零れたのかもしれない。
「なあ、グレン。今日のお礼ってことで、一つだけ俺の質問に正直に答えてほしい」
「なんだい急にそんな真剣な顔して?」
「グレン、お前好きな奴いるだろ?」
俺の言葉にグレンの両目が見開かれるのを見た。
何の根拠もなかった。だけど、何となく直感が告げたのだ。グレンには気になっている女性がいるって。
「いきなり、何言ってるんだい? さっき言ったじゃないか考えたことがなかったって」
「本当にそうなのか? 俺には何となく、グレンには気になっている女性がいるんじゃないかって思えるんだ。これは俺の気のせいなのかもしれないし、気のせいじゃないのかもしれない。それは分からない。グレン、お前にはそう言う女性がいるんじゃないのか?」
俺は真っ直ぐにグレンのことを見た。
グレンは最初は驚いた表情を浮かべているだけだった。しかし、やがて諦めたかのように口を開いた。
「はぁ~、この気持ちに気が付いたのってつい最近なんだけどなぁ~。まさか、リアムに速攻でバレるとは思っていなかったな」
グレンは指で頬を掻くと、はっきりと口にした。
「確かに僕には気になる女性がいる。だけど、これが恋なのかどうかって言われてもまだ分かってないんだ」
グレンは気まずそうに言うと、「ああ、服が乾いたみたいだよ。これで帰れるね」と誤魔化すかのように言った。
グレンの言う通り、確かに服は完璧に乾いていた。俺とグレンはそそくさと服を着て身支度を整えていく。
身支度を整え終えると、俺たちは洞窟を出ると町に向けて歩いて行く。
「グレン」
「どうしたんだい? リアム」
「俺が言えた義理じゃないけど、気持ちを正直にぶつけるのってとても良いことだと思うぞ。俺もルナに気持ちを打ち明けられて本当に嬉しかったし、それがルナのことを気になるきっかけにもなった。だから、グレンのその気持ちがもしも恋であるなら、その女性に素直に気持ちを打ち明けるべきだと思うぞ」
余計なお節介なのかもしれない。余計な助言なのかもしれない。だけど、俺は言わずにはいられなかった。だって、後悔なんてして欲しくなかったから。
「ありがとう、リアム。真剣に考えてみるよ」
「ああ、そうしてくれよ」
この日のやり取りは、のちにグレンの人生に大きく影響を与えることになるのだった。
fin.
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