第42話「あなたのことが好きです」
第42話「あなたのことが好きです」
「全員に飲み物は渡ったかな?」
「ああ、俺は大丈夫だぜ」
「わたしも大丈夫です」
「あたしもです」
俺たちの返事を受けたグレンは一つ頷くと、音頭を取る。
「それじゃあ、ルルネの試験合格を祝して乾杯!」
「「「乾杯!!!!」」」
様々な形をしたグラスが四つそう言って打ち合わされた。
俺たちは今、ルルネの試験合格を祝いするために酒場【剣の舞】にいた。色々と話あった結果、ここでやるのが良いということになったのだ。
「本当におめでとう、ルルネ」
「おめでとうございます、ルルネさん!」
「おめでとう、ルルネ」
三者三様のお礼の言葉にルルネは照れながらはにかみ、「ありがとう」とお礼の言葉を口にした。
「でも、これでルルネも魔法薬師の一員になるわけか。何だか変な感じだな」
「何よ、あたしが魔法薬師じゃ悪いわけ?」
「いやいや、そう言うことじゃなくてさ。ずっと、見習い魔法薬師のルルネの姿を見ていたから、まだそのイメージと言うか印象が抜けなくてさ」
「この野郎と言いたいところだけど、実はあたしもそうなのよね。試験に合格してちゃんと役所に行って、これから魔法薬師として活動するための許可はもらったにはもらったんだけど、未だに魔法薬師になれたんだっていう実感は湧いてないのよね」
ルルネはそう言って苦笑いを浮かべながら、頼んでおいた果実酒を呷っている。
「ルルネさんはこれからはやっぱり、お家の薬屋さんで勤めるんですか?」
「そのつもり。結構忙しいみたいだし。これでやっとあたしも正式に手伝えるわね」
「だけど、本当に良かったのかい? 天才少女と呼ばれている魔法薬師の助手としての話を断って?」
グレンの疑問にルルネは、真っ直ぐとグレンの瞳を見て「はい」と頷いた。
「確かに魅力的なお話ではあったんですけど、今は少しでも両親のお店を手伝いたいと思ったんです。今まで沢山心配もかけてきましたし。それにラールも気が変わったらいつでも助手の話を受けてくれて良いって言っていたので、断ったと言うより保留の状態でずっと行く感じですね」
そうなのだ。ルルネはラーの助手の話を断っていた。俺も王城での用事を終えて帰って来て聞かされた時には大いに驚いたものだった。だけど、それがルルネの選択であるのならば、俺たちはルルネの背中を押すべきだろうとも考えていた。
「だけど、ラーも意地が悪いことをするよな。まさか、最初の試験はラー個人の試験だったとは。しかも、薬を完成させることが出来たのはルルネだけとか、やっぱり、鬼じゃねぇかよ」
「でも、その後に行った試験では無事全員合格できたんだから、結果オーライじゃないかしら……多分」
「そうかもしれないけどさ。俺だったら絶対にあんな試験受けたくないね」
「あたしだって、もう二度とごめんよ」
俺とルルネは同時にため息を吐いてしまう。
「あははは、二人とも本当にお疲れさま。今日は飲んで楽しもうよ」
グレンの言葉にそれもそうかと思い直して、取り合えず食って飲んで楽しむことに気持ちを切り替える。
「そう言えば、あんたはどうして王城になんか呼び出されてたの?」
ルナに勧められた料理を口にしていると、ルルネが思い出しかの様に俺にそう問いかけてくる。
「ああ、仕事の依頼をされた。その説明を受けてただけだよ」
「ふ~ん。けど、王城から、しかも王女様直からの依頼だなんて、普通に考えればすごいことよね」
「まあ、そうなんだけどアレを知っちゃうとどうもすごさが実感できないんだよ。うん……」
俺の言葉の意味を察したのか、俺と一緒に遠い目をしていた。ルナもルナであのおてんば王女様に散々振り回されてるからな。
そんな俺とルナの姿を見たルルネとグレンは、揃って首を傾げていた。
「まあ、何だ! 王女様も蓋を開ければ普通の女の子だったってことであははは!」
俺は無理矢理話を方向転換しようと試みる。ルナも俺の意図を察してくれたのか二人に料理を勧めて話題をすり替えようとしてくれている。
うん、セシルの体裁の為にもこれ以上話を続けるのは危険だな。もしもこのまま話を続けたら、確実にぼろが出る自信がある。
と言うか、何で俺がこんな心配をしてるのだろうか? 何かが間違っているような気がするのは気のせいなのだろうか?
俺は今更ながらの感想を抱いてしまうが、考えても答えは出なさそうなので考えることを放棄した。
「ルルネ」
「急に真剣な声で何よ?」
「本当におめでとう」
俺の言葉にルルネは最初、驚いたような表情をしていたが、やがてその表情を微笑みの形に変えた。
「ありがとう、リアム。あたしが合格できたのはあんたのおかげでもあるから」
俺は最初、ルルネの言葉に心底驚いたが最後は笑顔を向けていた。
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あれから飲んで食べてしゃべってと楽しい時間を過ごしていたが、楽しい時間というものはあっという間に過ぎてしまい、ルルネの合格を祝う会はお開きとなった。
リアムとルナの二人と別れたルルネは、今はグレンと一緒に夜の街を歩いていた。慣れ親しんだこの【スーザック】の街だが、こうして好きな人と歩くと景色が違ってルルネには見えていた。
「グレンさん、あたし一人で帰れますよ?」
こうして二人で帰っているのには理由があった。もともと、ルルネは一人で帰るつもりでいたのだが、夜の街は危険だと言うことでグレンがルルネに付き添った形だった。
「駄目だよルルネ。確かにこの町は治安は良い方だけど、絶対に安全ってわけじゃないんだから。それにお酒も飲んでるからね。少し無防備になっている女性を狙う暴漢をいないとは限らないんだからさ」
グレンは真っ直ぐルルネの顔を見ると、真剣だった顔を緩めてルルネに微笑んだ。
「それに僕もちゃんとお祝いの言葉を言いたかったしね。おめでとう、ルルネ」
「……ありがとうございます」
グレンの微笑みを見たルルネは、自身の鼓動が早くなるのを自覚する。
「それに僕は試験中のルルネに何もしてあげることは出来なかったしね」
自虐的に笑うグレンに対して、ルルネはすぐさまそれは違うと否定する。
「それは違います! だって、グレンさんはあの時、魔法薬師になろうって決めて折れかけていたあたしの心を励ましてくれました! 慰めてくれました! グレンさんの言葉があったからこそ、あたしは試験を乗り越えられたって思ってます。だって、あそこでグレンさんが言葉をかけてくれなかったら、あたしは『落ちこぼれ』と言われた言葉を気にして引きずって、試験自体を諦めちゃっていたって、今なら確信できるから。だから、グレンさんが何もしてあげることが出来なかったってそれは絶対にないです! あり得ないです!」
それは紛れもないルルネの心からの本心だった。あの日の夜、ルルネの心は確かに折れかかっていた。きっとあそこでグレンの言葉がなければルルネの心は完全に折れて、試験だってまともに受けていられたかは分からなかった。それぐらいに、あの時のルルネは追い詰められていた。グレンのあの言葉がなければ、今の自分はいなかったとルルネは断言出来た。
「だから、グレンさん。何も出来なかっただなんて言わないでください。あたしはグレンさんの言葉があったからこそ立ち直ることが出来たんですから」
ルルネの言葉に、グレンは今度こそ自虐的じゃない、心からの笑みを浮かべた。
「そっか。僕はちゃんとルルネの役に立てていたんだね。なら良かったよ」
ルルネとグレンはお互いの顔を見て、思わず吹き出してしまう。何が面白いのかは分からないが、どちらともなく笑ってしまう。
そして、ルルネは改めて自身の中にある気持ちを確認していた。
やっぱり、あたしはグレンさんのことが好きなんだ。
「グレンさん、聞いてほしい話があるんです」
だから、ルルネはあの時約束した話をするために、その約束を果たすための言葉を口にする。
「ああ、聞くよ。それが僕と君の約束だったからね。だから、どんな話でも真っ直ぐに聞かせてもらうよ」
ルルネはグレンが自身との約束を覚えておいてくれたことに嬉しさを感じるのと同時に、これから言うことに意識を取られて心臓がバクバクとうるさく鳴って、目の前にいるグレンにこの音が届いてしまうんではないかと言う錯覚に陥ってしまう。
落ち着け、落ち着け! あたしの心臓!
グレンに気持ちを伝えようと思うが、思うように口が動いてくれない。
『好き』って言葉を伝えることが、こんなにも難しいとは思ってはいたが想像以上の難しさだった。
やっぱり、ルナちゃんはすごいなぁ~。
ルルネはいきなりやって来てお嫁さんにして下さいと言った少女の姿を思い浮かべて、改めてその少女のすごさを実感してしまう。
言葉を出そうと口を動かそうとはするが、喉が萎縮してしまって言葉が出てきそうになかった。
ルルネがそうしている間、グレンはただ黙ってルルネの言葉を待っていた。
「グレンさん、大切な話があるんです」
「ああ。何だいルルネ?」
ルルネは深呼吸を数回繰り返して、気持ちを落ち着かせていく。
未だに心臓の音は鳴り止まない。けど、ルルネは自分の気持ちを伝えるために、必死に言葉を紡いでいく。
「グレンさん、あたしはあなたのことが……好きです」
真っ直ぐなルルネの本心の言葉。
「あなたのことが好きなんです! 気が付いたら好きになっていたんです! グレンさんを見るとドキドキが止まらないんです!」
両目を閉じて、両手を胸の前でぎゅっと握ってルルネは自身の想いを叫んだ。
グレンは初めは驚いた表情を浮かべていたが、やがてそれを真面目な表情に戻した。
「ありがとう、ルルネ。君の気持ちを素直に教えてくれて」
グレンの言葉にルルネは頷く。頷くことしか出来ない。
「ルルネの気持ちはとっても嬉しいよ。告白してくれて。だけど、正直な話をすると僕は驚いているんだ。ルルネにそう言った気持ちを持たれているなんて考えてもみなかったから。けど、嬉しいのは本心だってことは分かってほしいな」
グレンはそこで言葉を切って、一度深呼吸をしてから言葉を続けた。
「ルルネにそんなに想ってもらえて、僕は本当に幸せだと思うよ。だから……」
これにて第二部の本編は終了となります。ここまでお読み頂き本当にありがとうございました。また、この後は数話ほどの番外編となるお話を投稿させていただく予定です。これからも『錬金術師と幼な妻~俺に嫁が出来ました~』をよろしくお願いいたします。




