第35話「試験日前夜」
第35話目になります。本日もよろしくお願いいたします。
そして、2週間ほど休載させて頂きます。申し訳ありません。
第35話「試験日前夜」
あの一件から、すぐさま家に帰ってきた俺たちだったが、ルルネは帰って来て早々に部屋に引きこもってしまい、さっきの件での話をすることは出来なかった。
ルルネの奴、平気そうな顔をしていたけど、絶対に強がっていただけだよな。
俺は自分の部屋で先ほどのことを思い出しながら、そう内心で毒吐いてしまう。けど、なぜルルネはあんなに目の敵にされていたのだろうか? 俺が知る限りでは、ルルネがあんなに目の敵にされる理由が、まったくと言っていいほど見つからないのだ。まあ、確かにルルネは少し言葉が強くて乱暴なところはあるが、それを含めてがルルネだし、それを含めてもルルネと付き合っていきたいと思っていけるほど、俺にとってはルルネは良き友人なんだけどな。
もちろん、人によってその人に対する評価が違うことは分かっている。しかし、あそこまでルルネのコケにするほどまで、見下す必要は果たしてあったのだろうか? と俺はどうしてもそう思ってしまうのだ。
俺がベッドに寝っ転がり、そう感じているとひかえめに自室のドアが開かれた。そこから顔を覗かせたのは、ルルネの所に行っていたルナが戻って来たのだ。
「ルルネの様子はどんな感じだった?」
俺は起き上がりながら、中に入って来たルナにそう問いかけた。ルナは首をふるふると横に振ると、俺の隣へと腰を下ろした。
「ダメでした。勉強に集中したいからって言われてしまって」
差し詰め、面会拒否、放っておいてって所か。う~ん。
「ごめんんさい、あなた。ルルネさんを元気付けようとしたんですけど、わたしには上手く出来ませんでした」
謝りしゅんとするルナの姿を見て、俺は思わず苦笑してしまう。
「別にルナが悪いわけじゃないよ。それに、ああいう時に慰める役目は本来であれば、ルナよりも付き合いが長い俺の役目なんだからさ」
俺はルナの頭を撫でながらそう言葉をかけた。
そうなのだ。本当なら俺が慰めなきゃいけないのに、その役目を彼女にしてしまったのは紛れもなく俺なのだ。だから、本来であれば謝るのはルナではなく、俺なのだ。
「ごめんな」
「どうしてあなたが謝るんですか?」
ルナには俺が謝る理由が本当に分からないのだろう。
「まあ、とにかくごめんな。それとルルネのことは少しの間様子見かな。今のルルネに何を言っても無駄だろし」
「そうですよね」
ルナは少し残念そうに呟くと、俺の腕に頭を預けてくる。俺もルナに預けるように体を傾けると、二人で寄り添い合っていた。
ルルネならきっと立ち直れる。
気休めな言葉なのかもしれないけど、今の俺にはそう言うことしか出来なかった。
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「起きましたか。あなた?」
「あれ? 俺は寝ていたのか?」
気が付いたら俺は眠っていたらしく、目の前には優しいルナの笑顔があった。
「はい。あの後すぐに寝息が聞こえてきましたよ。お疲れだったのですから、仕方ないですよ」
そう言ってルナはくすくすと優しい微笑みを向けてくれる。
「そうだったのか」
確かに、ルナと一緒に寄り添い合う様に座ってから、ルナが寄りかかっているところから、ルナの体温が伝わってきてそれがものすごく心地良かった記憶がある。むしろ、そこまでしかさっきの記憶はなかった。何かルナと話していた記憶もあるような気がするのだが、その時点でもう俺の意識は微睡みの中だったってことか。
一つの疑問が解決して俺はうんうんと頷くが、そこで新たな疑問が浮上する。そうそれは、なぜ俺が目を覚ました時に〟ルナの顔が目の前にあった〝かだ。
そして、俺はその疑問の答えにすでに辿りついていた。と言うか、俺の後頭部に触れるその感触が、それが答えですって主張している。
えっと、マジか。マジですか。
「? あなたどうかしたんですか?」
ルナの翠色の瞳が、不思議そうな色を宿して、こちらの瞳を覗き込んでくる。俺はごくりと唾を飲み込んでルナに問いかけた。
「まさかだけど、ルナ膝枕してる?」
「うふふ、あなた大正解です!」
ルナは嬉しそうに声を上げている。その反面、俺は咄嗟に起き上がって隣に座り直した。
「あなたもう良いんですか?」
「ああ、もう大丈夫だよ。ありがとう」
あっ危ねぇ。今の状況を見られたら、あらぬ誤解を受ける所だった。
俺はそう思いながらため息を溢した。俺が安堵する反面、隣に座るルナは何処か名残惜しそうだった。
「どうした、ルナ?」
「もうちょっと、あなたのこと膝枕していたかったなって」
ルナの思わぬ答えに、俺は赤面してしまう。そんなこと真っ正面から言われたら誰だってこうなるでしょ! それに加え言った本人も顔を真っ赤に染めているのだから、堪ったもんじゃない。まったく、俺の嫁は最高だぜ!
「わっわたし! お夕飯作りのお手伝いをしてきます!」
ルナは早口でまくし立てるように言うと、部屋を飛び出して行ってしまう。飛び出して行ったルナの顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。
まったく、恥ずかしいなら言わなきゃ良いのにとも思わないでもないが、そんなルナもかわいくて、愛おしいと思ってしまうので、俺も相当ルナにやられてるよな。
俺はそう思う自分自身に苦笑してしまいながら、ベッドに倒れ込んだ。
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一方、部屋に閉じこもってしまっているルルネは、ひたすら机に向かって明後日の試験勉強をしていた。
またバカにされた。
ルルネは、三つの素材を使う調整での失敗率が高かったために、落ちこぼれと言われて養成学校時代は、バカにされ続けてきた。卒業して二年間は実家やリアムのアトリエで、必死に魔法薬師になるために勉強をし、調整の精度を上げていった。確かに調整の精度はいくらやっても、上昇した感覚はないがだけど、明後日のためにこの二年間は養成学校にいる時以上に努力していた。
明後日から始まる試験の為に必死で。
なのに、どうしてあんなことを言われなければいけないのだろうか?
ルルネはそう感じずにはいられなかった。
だからこそ、絶対に見返してやるともルルネは思っていた。
今のあたしは養成学校に通っていた時のあたしじゃない! それぞ絶対に明後日の試験で証明する!
無我夢中で試験勉強に没頭した。気が付くと、外は真っ暗になっていて時間を確認すると、二十二時を回っていた。
いつの間にこんな時間になっていたのだろう。確かここに戻って来たのが、十三時ぐらいだから、丸々九時間も勉強をしていたことになる。
今日はお風呂に入って眠ろうとルルネは思い、準備をしてから部屋を出ると、そこには三つのおにぎりと置手紙が置かれていた。
置手紙には『お腹が空いたら食べてくださいね ルナ』と書かれていた。
「ルナちゃん……」
ルルネはルナの気遣いに心が温まるのを感じる。
ありがとう、ルナちゃん。あたし絶対に頑張るから。
ルルネはルナの気持ちを受け取ると、そそくさとお風呂場に向かった。
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次の日も、朝からルルネは試験勉強をしていた。
試験は明日に迫っている。出来る限りのことはしておきたいのだ。初歩から応用まで多岐に渡って、ルルネは復習を続けていく。
とにかく今は出来る限りことをするんだ。あたしが出来る全力を出せるように。
こうして最後の一日は、あっという間に夜になってしまう。
本当にこれで良いのかな?
ルルネは復習をしながら、そんなことを思ってしまう。
ダメだネガティブになっちゃ。あたしは絶対に試験に受かるんだ!
パチンと自身の頬を叩くと、復習を続けていく。それからどれぐらいが経っただろうか? ルルネはふとそこで持ってきていた小型通信機である水晶体が光っていることに気が付いた。
こんな時間に誰からだろう?
ルルネはそう思いながらも、通話をオンにした。
「はい」
『ルルネかい。僕だけど今大丈夫だったかな?』
果たして連絡してきたのは、ただいまルルネが絶賛片思い中の相手、グレンだった。
「ぐっグレンさん!」
いきなりのグレンの連絡に、ルルネは大いに驚いてしまう。まさか、グレンから連絡が来るだなんて夢にも思っていなかったので、ルルネは言葉に詰まってしまう。
『やっぱり、迷惑だったかな?』
グレンのその問いに、ルルネは慌てて否定する。
「そんなことありません! むしろ連絡してきてくれてめちゃくちゃ嬉しいです!」
『そっそうかい? なら良かったよ』
二人の間には沈黙が降りてしまう。ルルネは突然のグレンからの連絡のため、気持ちが上擦ってしまい、何て言葉を出したら良いのかが分からなかったのだ。
『ルルネ』
「はっはいっ!」
グレンからの急な呼びかけに、ルルネは上擦りながら言葉を返した。
『今から言うことは僕の気の所為であってほしいんだけど、今日の君は何処か無理をしていないかい? 何だか今日の君は空元気で話している。そんな気がしてならないんだ』
グレンのその言葉に、ルルネは小さく息を飲んでしまう。まさか、こんな短いやり取りで、バレてしまうなんて思っていなかったからだ。
『何か悩んでることがあるなら話してほしい。少しでも僕は君の力になりたいんだ。友人としてさ』
グレンの言葉に、本当にグレンらしいとルルネは思った。そして、ルルネは昨日あったことをグレンに話した。どうせ、隠し通せないと思ったからだ。
グレンは最後まで無言で聞いていた。
「あたしって、やっぱり魔法薬師に向いてないのかな?」
そして、ルルネはポツリとそんな弱音を吐いていた。リアムの前では絶対に吐いたことがない弱音だった。そして、一度吐いてしまった弱音は、堰を切ったように溢れ出てきてしまう。
「あたしは、魔法薬師になりたいって思って今までやってきました。確かにあの子たちが言う様に、あたしは落ちこぼれなのかもしれないですけど、その分、あの子たちよりも誰よりも努力してきたつもりです。なのに……なのに……どうしてあんなことを言われなくちゃいけないのかな…………」
グレンにこんなことを言っても仕方がないことは、ルルネにも分かっていた。しかし、どうしても言わずにはいられなかったのだ。
『ルルネ、君はどうして魔法薬師になりたいと思ったかを覚えているかい?』
グレンのその問いにルルネは即答する。
「もちろん、覚えてますよ」
『それじゃあ、その想いはそんな心無いことを言われて、揺らぐぐらいの想いだったのかい?』
「違います! あたしはあの時に絶対に魔法薬師になって、病気や怪我で困っている人たちを助けるって決めたんです!」
そうだ。あたしは決めたんだ。自分が作り出した薬で人を助けるって。あの時強く思ったんだ。魔法薬師に絶対になりたいって!
『うん。その答えを聞いて安心したよ。ルルネは自分の信念を強く持って試験を受ければ、僕は絶対に受かるって思うよ。それに、さっきは向いてないってルルネは言っていたけど、僕はそんなことは思わない。ルルネは魔法薬師に向いていると思うよ。だって、君はそうやって人のことを思いやることが出来る人だから。ルルネが心無いことを言われて傷付いていることは、僕にも十分に分かるよ。だけど、こんな時こそ、ルルネがどうして魔法薬師の目指したか、なりたいのかって言う気持ちや信念を忘れないでほしいんだ。きっと、その気持ちは試験中だって大事な気持ちになっていくと僕は思うよ』
黙ってグレンの話を聞いていたルルネではあったが、堪えきれずに紅い瞳からは涙が零れ、嗚咽を漏らし始めていた。
「うっうっううう……」
ルルネは声を上げて泣いていた。グレンはそんなルルネが泣き止むまでルルネのことを励ましていた。
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