第34話「因縁」
第34話目になります。よろしくお願いいたします。
第34話「因縁」
ルナと母さんが作った晩ご飯を食べ終えた後、俺は早速ルルネのことを誘ってみることにした。
ちなみに、親父は今日も家に帰ってこないらしい。俺としては気が楽で良いけど。それに晩ご飯と言えば、ニアがルナの作った料理をむしゃむしゃと食べてたな。さすがルナ。ルナの料理は誰でも虜にする魅力があるということだろう。
俺はそんなことを思い出しながら、ルナと一緒に風呂に入って、今は試験勉強を再開しているであろうルルネの部屋へと向かった。
ルルネの扉の前で立ち止まり、その扉を軽くノックする。
「ルルネ、ちょっと良いか?」
少しの間の後、部屋の中から「良いわよ」と返事が返って来たので、俺は中に入った。
ルルネは机に座って、ペンを走らせているところだった。そして、風呂に入った後ということもあってか、いつもサイドで結ってある髪は今は解かれ、背中に流されていた。それに服も寝間着になっていたため、何だかいつものルルネとは違う雰囲気を感じさせた。
「それでいきなりどうしたのよ? まさかとは思うけど、実家であたしを襲うつもり? ルナちゃんがいるのにも関わらず」
「妙なことを言うなよ。そんなつもりは毛頭ない」
「あったら問題よね。それにあたしがここで悲鳴を上げれば、あんたは一発で地獄行きよ」
「行きたくないんで勘弁してくれ」
俺の反応がおかしかったのか、ルルネは声を上げて笑っている。
部屋に戻ろうかと真剣に考えてしまう。
「それで、本当にどうしたのよ?」
一頻り笑った後、ルルネは眦に溜まった涙を指で掬いながら、俺にそう問いかけてくる。
「明日なんだけどさ、ルルネはどんな予定なんだ?」
「予定も何も、あたしは試験勉強に集中するだけよ。見習い魔法薬師としての集大成なんだから」
それもそうか。
「なあ、ルルネ。今のルルネにこんなことを言うのはおかしいことかもしれないんだけどさ、明日一日だけ、俺たちにくれないか?」
俺の言葉に、ルルネの紅い瞳は大きく見開かれた。
「はあ? あんた自分が何を言ってるか分かってんの? あたしにはそんな時間ないのよ? 合格するためには、さらに突き詰める必要があるの。あんたも分かってんでしょ?」
「ああ、もちろん分かってるよ。だけどな、ルルネ。今のルルネは極度の緊張状態にあると思う。当たり前だよな。だけどさ、そんな状態で試験を受けてもきっとルルネの良さは引き出せないと思うんだ。だからさ、明日は俺たちと思いっきり遊んでリフレッシュしようぜ! もちろん、ルルネが良かったらだけどさ」
俺の言葉に、ルルネは考え込む仕草を見せた。
「やっぱり、駄目か?」
しばらくの間、ルルネはその仕草のまま考えていた。
「ふ~ん、あんたにしては、気が利く発想じゃない。分かったわ。明日はあんたの案に乗ってあげるわ」
ルルネは悪戯そうに笑うと、片目を閉じてウィンクしてきた。
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そして、次の日(試験まで残り二日)。
俺とルナ、ルルネは王都へと繰り出していた。
「へぇ~~、王都って色んなお店があるのね」
俺が案内しているのは、以前ルナとも行った露店販売が立ち並ぶ通りだった。前にルナの反応を見た時に、女の子は少なからずこう言った物が好きなのかなっと思い、ルルネのここに連れて来たのだ。
「ルルネさん、ここって色々なお店があるだけじゃなくて、売ってるものもかわいいものがたくさんあるんですよ」
ルナの言葉にルルネは目をキラキラと輝かせている。ああ、やっぱここに連れてきて正解だったな。それにルナも空気を読んでああ言ってくれたからかなり助かった。
俺は心の中でルナにお礼を言う。それが伝わったのか、ルナはこちらを向いて微笑んでくれる。しかし、それも一瞬ですぐにルルネに「あのお店に行きましょう」と言って、ルルネの腕を引っ張って歩いて行ってしまう。
俺はそんな二人の姿を見て、微笑ましい気持ちになりながら二人の後を追った。
しばらくの間、俺たちはこの露店販売が建ち並ぶ通りを歩いていた。その間、ずっと二人はアクセサリーを見て、どれが似合うかと言い合っていた。
その二人の姿は仲の良い姉妹のように見えて、とても微笑ましいものだった。
ルルネもルルネで楽しそうにしているし、やっぱり連れて来て正解だったかもな。
「あなた~、あなたもこっちに来て一緒に見ましょうよ」
俺が二人のことを眺めていると、少し離れた所にいたルナが、手を振りながら俺のことを呼びかけてくる。
「俺もか?」
俺はいまいち、二人の会話に入って行ける自信がなくて、二人から距離を置いていたのだが、ルナに呼ばれては無視するわけにもいかず、俺は渋々、ルナたちが見ている露店まで歩み寄った。
「それでルナとルルネは一体何を見ていたんだ?」
「ルルネさんに似合いそうなシュシュを見ていました。ルルネさん、可愛いのに髪を結わってるのが、ただのゴムなんてもったいないです」
「あたしはこのままで良いって言ったんだけど、ルナちゃんがどうしてもって聞かなくて」
ルルネは困ったような、嬉しいような、何やら微妙な笑顔を浮かべていた。
「良くありません。ルルネさんも少しはオシャレをした方が良いと思います。だって、絶対に今より可愛くなります! あなたもそう思いませんか?」
えっ⁉ ここで俺に振んの!
俺はいきなりのルナの振りに、大いに戸惑ってしまうが答えないわけにもいかず、ルルネのことをじろじろと見てしまう。
ルルネって言葉遣いとかはあれだけど、結構な美少女なんだよな。それにスタイルも良い方だし。
少し丸みを帯びている顔の輪郭に、目尻ははっきりとしていて、大きくこちらを見つめる紅い瞳が印象的だった。それに小ぶりな唇は薄く赤色に色づいている。スタイルも言えば、胸は決して大きいわけではないが、だからと言って小さいわけでもないサイズで、手足は健康そうな肌をしていてみずみずしさを感じさせた。
って、俺は何を考えているんだ!
慌てて我に返ると、ルルネがものすごいジト目でこちらを見ていた。
「なっなんだよ?」
「変態」
ルルネに冷たく言い放たれてしまう。俺は聞こえないふりをして誤魔化すと、ルルネに似合うシュシュを選ぶために、その場にしゃがみ込んだ。
さて、ルルネに似合うシュシュでも探しますかね。
気を取り直して、俺がルナと一緒にシュシュを選び始めようとした時だった。「あれ? あれってルルネじゃね」と言う声が聞こえてきたのは。
俺とルナが声のした方に視線を向けると、そこには複数人の俺やルルネと同い年と思われる女子が立っていた。
ルルネの顔を見ると、気のせいか強張っているように感じられた。そんな俺たちを知ってから知らずか、そのグループのリーダー格と思われる女性が、ニタァーと笑みを浮かべて、ルルネに話しかける。
「やっぱり、ルルネだよね。覚えてるうちのこと?」
ルルネは強張った表情のまま答えている。
「ええ、もちろん覚えてるわよ。アーリ」
「きゃはっ! 覚えててくれたんだ! アーリ、超☆感☆激~!」
アーリと呼ばれた女性は、ハイテンションでまくし立てるようにそう発すると、急にテンションを下げると、さっきとは比べものにならないぐらいに低い声で発する。
「それで、落ちこぼれのルルネちゃんが、どうしてこんな所にいるのかな?」
「それは……」
ルルネは答えようとするが、それに被さるようにアーリが先ほどのハイテンションな声で声を被せる。
「ま・さ・か、落ちこぼれのルルネちゃん、本試験を受けようとしてるの? くっうふふふ、冗談は寝てから言わないとね。くふふふ」
「別にあんたには関係ないでしょ」
「え~~、そんな寂しこと言わなくても良いじゃない。色気を使って教師をたぶらかして、不正な卒業をしたくせに」
「だから、それは何の言われもない噂だって、あたしは否定したはずよ!」
ルルネはアーリの言葉を真っ向から否定するが、アーリとその取り巻きたちはくすくすと笑って聞く耳を持とうとはしなかった。
「そう噂よ。なのにそんなに慌てて、まさかルルネちゃんは本当にそうやって卒業したのかしら?」
「だから違うわ! あたしは正当な卒業をしたわよ」
「ふ~ん」
アーリは短くそう返すと、冷たく言い放った。
「まあ精々本試験を頑張りなさいよ。落ちこぼれのルルネちゃん。恥をかかないように気を付けることね。まあ、うちは恥をかくぐらいなら初めから出ない方が良いと思ってるけど」
最後にもう一度、アーリと取り巻きたちは忍び笑いをすると、そこから立ち去って行った。残されたルルネは悔しそうに両手を握りしめていた。
俺は何て声をかけたら良いかが分からず、何も言えず押し黙ってしまう。それはルナにも言えることだったみたいで、ルナもルナでルルネの所に行こうと体を動かそうとはするものの、実行には至ってはいなかった。
しばらくの間、俺たちの間には沈黙が降りていて、この通りを人々が往来する騒がしい音だけがひどく響いていた。
誰もが口を開けぬ中、果たしてその沈黙を破ったのはルルネだった。
「ごめんね、二人とも。せっかくの楽しい気分を壊しちゃって」
「別にそんなことはないさ。だけど、ルルネは大丈夫なのか?」
「あなたの言う通りです。ルルネさん、そんなこと気にしないでください」
「あはは、そう言ってもらえると少しは気が楽かな」
そう言ってルルネは笑っているが、無理して笑っているのがまる分かりだった。あんな笑顔はルルネの笑顔じゃない。
「ごめんね、今日はもう帰るね」
ルルネはそれだけ言い残すと、走って来た道を戻ってしまう。
「おいルルネ!」
「ルルネさん!」
俺とルナは走ってルルネを追いかけた。
結局、俺の実家まで戻ったルルネだが、部屋に引きこもってしまいその日は出てくることはなかった。
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