第32話「修羅場」
第32話目になります。よろしくお願いいたします。
第32話「修羅場」
はぁ、やっと解放された。
俺はとぼとぼと帰路に着いて歩いていた。
結局、あの後ラーの奴に根掘り葉掘りルナことを聞かれた挙句、ラーの仕事を手伝わされて、やっと解放されたのが次の日の昼間だった。
ああ、早く帰ってルナのことを抱きしめたい。ぎゅっと抱きしめてそのまま眠りにつきたい。もうラー嫌だ。あの子怖い。
一緒に作業している中で、ラーは幾度となく俺に向かって自白剤を飲ませようとしてきたのだ。
天才の考えていることは、まったくの理解不能だった。
ああ、早くルナの顔を見たい。
俺は幾度となく思ったことを頭に思い浮かべていた。
俺は帰路を急いだ。
***********************
一方、リアムが足早にアトリエへの帰路を急いでいる頃、アトリエでリアムの帰りを待っているルナは、いつものように家事の日課をこなしていた。
手慣れた手つきで次から次へと掃除をしていく。
リアムさん、早く帰って来ないかな。
リアムに早く会いたいと思いながら、掃除を進めていく。リアムさんからは、昼には帰れそうだと連絡は受けていたので、お昼はリアムさんの好物を作ってあげなくてはいけませんね。
ルナは気合を入れ直すと家事を進めていく。
無我夢中で家事を行っていると、アトリエの接客スペースから「すみません」と言う声が聞こえてくる。
ルナはリアムの妻として、接客するために表に出て行く。
「はい、いらっしゃいませ! アトリエ【クレアスィオン】へようこそ」
ルナは笑顔で表に出た。そこには七十を思わせる男性が立っていた。
「頼んでいたものは出来たかの?」
「お名前をお聞きしても良いですか?」
「ああ、申し訳ないね。俺はメイビスだ。それで頼んでおいたものは出来てるかな?」
「メイビスさんですね。少し待っていてもらえますか? だだいま確認しますので」
ルナはその男性――メイビスにそう告げると、作業部屋に急いだ。作業部屋に行き、依頼書を確認して、注文されていた商品を確認した。
よし、これですよね。
ルナは確認を終えると、その商品を持って接客スペースに戻った。
「大変お待たせいたしました。こちらですよね?」
「おお、間違いないよ。ありがとう。ところで、旦那は今日はいないのかい?」
「はい、主人は今仕事の都合上、出かけていまして」
ルナの言葉を聞いた、メイビスの口元が不敵な笑みを形作っていたが、ルナがその笑みに気が付くことはなかった。
「おほん」
メイビスはわざとらしく咳ばらいをすると、改めてルナに向き直った。
「ルナちゃん、一つ俺の話を聞いてくれるかな?」
「ん? どうしましたメイビスさん?」
「あのさ……」
メイビスが口を開こうとするのに、扉が外から開け放たれたのが同時だったため、メイビスの声はかき消されてしまう。
そして、そこから顔を覗かせたのは、ルナがずっと会いたかった人物だった。ルナはその顔を見た瞬間、最高の笑顔を顔に咲かせながら、カウンターから飛び出し、その人物の胸にダイブした。
「おかえりなさい! あなた!」
***********************
扉を開けアトリエに入った瞬間、ルナがカウンターから飛び出して来て、胸に飛び込んできたのはびっくりしたが、俺は何とかルナのことを抱きとめた。
相変わらず軽いなと思ってしまう。
「ただいま、ルナ。ごめんな、ルナ。いきなり家を空けちまって」
「良いんです。ちゃんと帰って来てくれたんですから」
ルナは嬉しそうにそう呟くと、俺の胸に顔を埋めぐりぐりとしてくる。
ああ、かわいい。
俺はそう思いながらルナの頭を撫でてあげる。
俺はルナの頭を撫でながら、目の前に立っている男性に向き直った。
「メイビスさん。依頼されたものは大丈夫でしたか?」
「あっああ、問題なく受け取ったよ。リアム、君の仕事は相変わらず丁寧で品質が高い。文句のつけようがない商品だよ」
「満足してもらえたようで良かったですよ。なら、依頼は完了ですね」
「ああ、また頼むよ」
メイビスさんはそれだけ言い残すと、アトリエを後にしていった。
何だか嫌な予感がしたけど気のせいだよな?
俺は去っていくメイビスさんの背中を見て、何だかそんな予感がしていた。
***********************
さてと、溜まってる仕事を消化しますか。
俺はそう思い、作業部屋に行こうとするがルナが俺に抱き着いたままだったので、俺は身動きが出来なかった。
「ルナ、そろそろ離れてもらえると助かるんだけど」
俺はぎゅーーと抱き着いて離れなさそうなルナに、そう声をかけるがルナからの返事が一向になかった。
あれ? 聞こえてないのかな?
いつもはすぐに返事をくれるルナなのにと、俺は不思議に思ってしまう。
俺が不思議に思っていると、ルナがぽつりと「あなた」とこぼした。
「はっはい!」
その一言に何とも言えない迫力を感じて、俺の声は謎に上擦ってしまう。
「昨日は一体どこに行っていたんですか?」
「きっ昨日⁉ 昨日はほら配達に行っていただろ。ああ、でもその後に知り合いの魔法薬師の所に行ったんだ。ほら、ルルネのことについて何か分かるかもしれないと思って」
やましいことはしていないはずなのに、どうしてここまで冷や汗が流れるのだろう?
「ふ~ん、そうですか。ちなみに、その魔法薬師さんって女ですよね。しかも、わたしと歳が近いですよね」
ルナのその言葉に、俺の動揺は最高潮を迎えていた。
そうナゼワカッタノ? と言う疑問が俺をそうさせていた。
ルナの何とも言えないジト目が、こちらを真っ直ぐ射抜いてくるのを冷や汗が止まらないのを感じた。
「そっそんなわけないだろう」
そう返すが、その返しも何だかわざとらしくなってしまい全然誤魔化せていなかった。そして、思った通りその言葉は、ルナに反感を買っていた。
「わたしは昨日、配達に行くとだけ聞いていたんですけど、それはどういうことですか? どうしして、あなたから知らない人の匂いがするんですか?」
「えっ⁉ ラーの奴いつの間に匂いなんて付けたんだ!」
俺は慌てて自分の匂いを確認してしまうが、そこには何にも匂いなどせず、いつもの自身の匂いだった。と言うか、自分の匂いなんて分からないだろう。
俺はそう開き直るが、そこで俺はやっと自分の失言に気が付いた。
「あなたラーって誰なんですか?」
ええ、もう最高の笑顔で俺の嫁が問い詰めてきましたよ。はい。
***********************
「つまり、あなたはラール・レーメルさん十五歳の魔法薬師の所に行って、一夜を明かしていたというわけですね」
「あのルナさん? その言い方は何かひどい誤解が生まれそうなんですけど?」
俺は作業部屋に正座させられながら、そう小さく抗議する。
「誤解を受けることをやったのは誰ですか!」
はいすみません俺です。
「それで何か分かったんですか?」
「いえ、全然分かりませんでした」
そうなのだ。結局、ラーの奴手伝ってくれたら教えてあげるって言ってたくせに、教えてくれなかったのだ。そういうのってありですか!
「まったくあなたは。ハニートラップにかからないか心配です」
「いやいや、ハニートラップにかからないよ! 俺には嫁がいるし!」
「現にかかってたじゃないですか!」
おう、そこを突かれると何も言えなくなってしまう。
「えっと、本当にすいませんでした!」
俺は勢いよく土下座をした。こうして、六歳年下の少女に土下座をする二十歳の男という図が完成していた。何とも情けない話である。
「はぁ~、今後あなたが外出するときは、わたしも同行してもよろしいですか?」
「えっ⁉ マジで⁉」
「よろしいですか」
「はっはい」
ルナの何とも言えない迫力に押され、俺の選択肢は頷くしか残されてはいなかった。
「うん。分かってくれたなら良いです。それじゃあ、あなた。わたしのわがままを一つだけ聞いてもらっても良いですか?」
「はい、何でも言って下さい」
まさか、ラーの元に行ったらこんなことになるとは思わなかった。それにルナってこんなに怒るんだな。
俺はそんなことを思いながら、ルナのわがままとやらを待っていた。
「それじゃあ、あなた。わたしに大好きだよ愛してるって言ってくれませんか」
ルナのそのお願いに、俺は思わず吹き出しそうになってしまう。
それを言うのか! 恥ずかしすぎないか!
そう思わないでもないが、ルナを怒らせてしまった手前、何が何でもやるしかないだろう。それに、ルナの翠色の瞳に真っ直ぐ見られて断れるわけもないしな。
「分かったよ」
俺は深呼吸をしてから口にする。精一杯、気持ちが伝わるように。
「ルナ。俺はルナのことが大好きだし、愛してるぞ」
くそっ! 恥ずかしくて死にたい!
俺がそう感じていると、ルナもルナで顔を赤く染めて悶えている。何このかわいい生きもの!
まあ、とりあえずはこれでルナのわがままも聞いたことだし、仕事でも始めるかなと、俺は思考を切り替えて仕事に取り掛かろうと思っていたが、ルナのわがままはまだ終わってはいなかった。
「あなた、最後にもう一つお願いがあるんですけど良いですか?」
気が付いたら、ルナは俺の目の前にいて、上目遣いでこちらを見ていた。
ぐっ……その顔は反則じゃございません?
ここまで来たらもう変わらないだろうと考えて、俺は二つ返事で頷いた。
「ああ、良いよ。それでどんなお願いなんだ?」
「それはですね、あなたにキスをしてほしいんです」
そう恥じらいながら言うルナは、ひかえめに言って最高だけど、最後にとんでもない爆弾が落とされたのは事実だった。
ルナは両目を閉じると、小ぶりな唇をツンと前に軽く突き出した。何を隠そうキスが音呼ばれている顔だ。
ダメだ、俺の嫁がかわいすぎる件について!
俺はどうにかその叫びを飲み込むと、真っ直ぐルナのことを見た。本当にルナはかわいい。
女の子(しかもかなり年下)がこんなに頑張ってくれているのに、ここで男を見せないのはまずいよな。
俺は覚悟を決めると、ルナの小ぶりな唇に自身のそれを重ね合わせた。時間にして数秒だろうか。少しの時を置いてから俺は離れた。
「これで良いか?」
ルナの顔はさらに真っ赤になっているが、俺の顔も多分ルナと変わらない状況なんだろうな。
「はわわ、やっぱり、あなたとのキスは幸せな気持ちになりますね」
そう言って笑う嫁を、俺は問答無用で抱きしめた。
「ほんとにかわいい。ああ、ずっとこうしたかったよ」
「うふふ、わたしもですよあなた。ちなみに、さっき怒ったのは半分冗談だったので、そこまで気にしないでくださいね」
そんなルナのカミングアウトに、俺は何とも間抜けな声しか出せなかったである。
「あんたら、修羅場るのか、イチャつくのかどっちかにしておきなさいよ」
買い物から帰って来ていた、ルルネの呆れた声が作業部屋に響いたのだった。
面白いと思って頂けましたら、ブックマークや評価のほどをよろしくお願いいたします。
※ブックマークや評価など本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。




