第31話「ルルネの決意」
第31話目になります。今作もよろしくお願いいたします。
第31話「ルルネの決意」
カーテンの隙間から、太陽の日差しが入ってくる。その眩しさに沈んでいた意識は呼び戻されそうになるが、まだ眠っていたいと抗いたい欲求も確かにあった。そのため、ルルネはその日差しを遮るために、掛け布団を頭まで被ると二度寝を決め込んだ。
しかし、そんな二度寝もそこまで続かなかった。
「ルルネさ~ん、朝ですよ」
朝食を作り終えたルナが、ルルネを起こしに来たのだがルルネはルルネで二度寝を決め込み中だった。
「もう朝ですから起きてください」
ルナはルルネの元に行くと、肩を揺すって起こそうとするが、ルルネは「う~ん」と唸っているだけだった。
「あと五分寝かせてよママ」
「うふふ、わたしはママじゃありませんよ」
ルナはそんなルルネの姿を微笑ましいと思ってしまう。
「ほら、ルルネさん。観念して起きてください」
ルナはもう少し強めに揺すった。すると、観念したかのようにルルネの瞼が重たそうに持ち上がった。
「おはようございます、ルルネさん」
「うん、おはようルナちゃん。それとさっき言ったことは忘れてね」
顔を赤く染めそう訴えるルルネに、ルナは笑顔で答えた。
「分かってますよ、ルルネさん。さあ、朝ご飯にしましょう」
ルルネは顔を洗って、着替え髪を整えてからテーブルに着くとそこにはホカホカの朝ご飯が置かれていた。絶妙に焼かれたパンには、バターとイチゴジャムが添えられていて、あとはコーンスープにサラダ、スクランブルエッグにヨーグルトまでが付けられていた。まさに理想的な朝食メニューと言えるだろう。それを朝から一人で用意していたルナには、感心するしかなかった。
「「いただきます」」
二人で声を合わせて食べる前のあいさつをすませると、おもむろに各自で食べ始める。ルルネはそんな中でもパンから口にした。パンはサクッと気持ちの良い音立ててちぎれ、口の中にいれれば、香ばしく小麦の匂い、さらにはバターの風味やイチゴジャムの甘酸っぱさが広がり、パンの美味しさを際立たせていた。しかも、このパンはルナの手作りと言うから驚きだ。
ルルネはパンを置くと、次はコーンスープを口にした。これまた美味でコーンの自然の甘さとミルクの濃くが合わさって何とも言えない美味しさを作り出していた。
「はぁ~~」
思わず、ルルネの口からはため息が出てしまう。あいつは毎日こんなに美味しいご飯を食べているのかと思うと、恨みが次から次へと湧いてくる。
「美味しい、美味しすぎる! ルナちゃん美味しいよ!」
もはやルナの料理が格別過ぎて、ルルネの語彙力が低下の一途をたどっていた。
「そう言って頂けて嬉しいです。わたしもいつも通りに用意はしてみたんですけど、少し不安だったので」
「健気! 本当にルナちゃんって健気! あいつには本当にもったいないぐらいのお嫁さんよね」
ルルネは料理に舌鼓を打ちながら、何度となく思ってしまう疑問を思ってしまう。それはすなわち、どうしてルナがリアムのお嫁なのだろうと。
まあ、考えても仕方ないことなんだけどね。
ルルネはそう答えを出して、目の前の料理を食べることに集中した。
「ごちそうさま」
「ふふ、お粗末様でした。ルルネさんすごい食べっぷりでしたね」
「うん、それぐらいにルナちゃんの料理は夢中になっちゃんだよ」
「そう言って頂けて光栄です。今食後のお茶を淹れますから、少し待っててくれませんか」
「それぐらいあたしがやるよ?」
「いえいえ、大丈夫ですからルルネさんは座っていてください」
ルナはそう言うとすぐに、食器を流しに持っていくとお湯を沸かしていく。その間に次から次へと食器も洗っていくことも忘れない。
ほんと家事慣れし過ぎてるわよね。
ルナの小さな背中を見ながら、ルルネはそう思わずにはいられない。
食器の洗う音とお湯が沸き始める音が、この場に響いていた。
お湯が沸き上がる音と、蛇口から流れ出る水の音が止んだのは同時だった。洗い物を終えたルナが、ポットにお湯を淹れてティーセットと共に戻ってくる。
「お待たせいたしました、ルルネさん。今お茶を淹れますね」
「ありがとう、ルナちゃん」
ルルネは、ルナが淹れてくれた紅茶が入ったカップを受け取ると、その琥珀色の液体に息を吹きかけてからそのカップに口を付けた。
「ああ、そう言えばルルネさん。今日はどうするご予定なんですか?」
「う~ん、今日は今から色々な薬の素材を用意して、ひたすら調整の練習をするつもり。試験に合格するには、これをどうにかしないとどうにもならないから」
「そうですか。あの、こんなことを言うのは身勝手なことかもしれませんけど、ルルネさんならきっと大丈夫です。絶対に苦手な調整も克服できます!」
胸の前で両手で拳の形を作りながら、そう話すルナに、ルルネはどうしようもない愛おしさを感じてしまう。
「ありがとう、ルナちゃん! あたし絶対に頑張るね!」
ルルネは笑顔でそう返すと、ルナのことを抱きしめた。
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ルナとの朝のお茶会を終えたルルネは、街に繰り出していた。薬の材料を買い集めて、ひたすら調整の練習をしていかないといけない。
さてと、今日はどんな薬を重点において練習していこうかな。
ルルネはそう考えながら、町の材料が売っているお店を見て歩き回っていた。
う~ん、どうしようかな? とりあえず材料を三つ以上使う薬の調整を練習しないと意味ないよね。
実技試験で出される課題は、その場で発表される仕組みになっている。そのため、事前に練習しておくことが出来ないのだ。なので、こうして色々と勉強をして事前に色んな薬の調整を出来るようにしておかないといけないのだ。
魔法薬師養成機関の学校では、魔法薬師になるための心得や基礎を学び、その後の研修期間では、応用や色々な対応方を学び、そして、魔法薬師になるための試験へとなるのだった。
そのため、この研修期間中にどれほど学べたかが試験合格への分かれ道となる。
だからこそ、ルルネは追い込みをかけていたのだ。
「本当にどうしようかな?」
「何か悩み事かい?」
「ひゃっひゃい!」
何気なく呟いた一言に返しがあったので、ルルネは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。しかも、それが今まさに気になっているグレンだったことに気が付き、ルルネの心臓はマックスまでバクバクと高鳴っている。
「ぐっグレンさん! どどどどどうしてここに⁉」
ああダメだ。とルルネはすでに感じていた。今までは普通に話せていたはずだったのに、意識しだした途端に声が上擦りしゃべりずらくなってしまう。
だが今のルルネには一つ分かることがあった。これを乗り越えたルナはやっぱりすごいと。
そして、そんなルルネの心中を知ることなく、グレンは不思議そうな顔をしながらルルネの疑問に答えた。
「僕は近衛団の仕事で町の巡回さ。それで偶々君を見かけたから声をかけたんだけど、まずかったかな?」
「全然まずくないです!」
グレンの言葉にルルネは即答する。
「そっそうかい? なら良かったよ」
うぅ~、グレンさんの顔がまともに見れないよ。やっぱり、あたしグレンさんのことが好きなんだなぁ~。
ルルネはどこかひとごとのように感じてしまう。
「ああ、そう言えば、ルルネ」
「はっはい!」
「あはは、試験が近いからってそんなにかちこちになることはないんじゃなかな。それにリラックスしていないと、受かるものも受からなくなってしまうよ」
「そうですよね。すみません、ありがとうございます」
グレンのその言葉は、素直に今のルルネに身に染みた。が、しかしである。
「ちょっと待ってください。あたしグレンさんにもうすぐ試験だって言ってましたっけ?」
そうなのである。ルルネは一切グレンには試験がある日付を話したことはなかった気がするのだ。
「いいや聞いていないよ。だけど、大事な友人の大事な日なんだ。だから、その日は絶対に把握して背中を押したいと僕は思っているんだ。迷惑だったかな」
ルルネのグレンのその言葉を慌てて否定した。
「いえいえ、むしろ覚えてもらってて嬉しかったです。でも、良いのかな? あたしなんかがグレンさんにそんなこと言ってもらって」
「こらこら、そんな言葉は禁止だよ。ルルネだって僕にとっては大事な友人なんだ。だから、僕はそうするのは当然のことだよ」
そっか。大事な友人か。
何でだろう? 昔だったら何にも感じなかった言葉だったはずなのに、今はその言葉にひどくもどかしさを感じてしまう。
やっぱり、誰が何て言おうとあたしはグレンさんのことが好きなんだ。今まで何とか気のせいだ、勘違いだって見ないようにしていたし、むしろこの胸の高鳴りは何だろう? 胸を締め付ける甘い痛みは何だろう? ってずっと思っていた。そして、その答えが今やっと分かった。いや、改めて実感したと言った方が正解なのかもしれない。だって、この感情の名前は既にルナちゃんが教えてくれていたのだから。それを頑なに認めなかったのはあたしだったのだから。
だから、だから、昨日寝る前にルナちゃんと話して決意したことを今グレンさんに伝えよう。そうしたら、あたしは一歩前に進むことが出来ると思うから。
ルルネは決意を確認すると、深呼吸を数回繰り返した。まさか、昨日の今日でこの決意したことを行うとは思っていなかったので、かなり緊張するが仕方ない。
よし、大丈夫だ。落ち着いていきた。
ルルネは自分の中でそう結論告げると、目の前に立っているグレンの顔を真っ直ぐに見た。
「グレンさん」
「どうしたんだい?」
そこでもう一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「もし、あたしが試験に合格出来たら聞いてほしい話があるんです。その時はあたしの話を聞いてくれますか?」
そうだ。あたしは魔法薬師になってやっと、みんなと同じ場所を歩めるんだ。だから、だから、グレンに告白するのもまずは受かってからだとルルネは決めていたのだ。
心臓の音がうるさいし、頬に熱が集まっているのも自覚していた。告白をしていないのにこのざまだ。本番はどうなってしまうのだろうか? って、今考えても仕方がないことだとルルネは考え直す。
グレンの返事を待つ時間がひどく長く感じる。そして、その時が来た。
「分かった。どんな話でも聞くよ」
「はい、ありがとうございます」
ルルネは顔に笑顔の花を咲かせたのだった。
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