第24話「女子会」
第24話目になります。これからもよろしくお願いします。
第24話「女子会」
「ルルネさん、これをどうぞ」
「ありがと、ルナちゃん」
ルルネはお礼を言いながら、ルナが差し出してくれたティーカップを受け取った。二人は今それぞれの勉強をリアムのアトリエで行っていた。
ルルネは魔法薬師の試験の勉強を。ルナは錬金術の勉強をしていた。そして、このアトリエの主であったリアムは、今は依頼された商品を依頼人に届けるためにアトリエから席を外していた。
ルルネはルナから受け取ったティーカップに口を付けると、中に入った琥珀色の液体を口に入れた。それは程よい温度で体内を温めてくれる。
思わずルルネの口からは、安堵とも似たため息が零れていた。
ルナもそんなルルネの様子を見ながら、ティーカップに口を付けた。
それからしばらくは、二人は無言で自身の勉強に打ち込んでいた。ルルネは試験に合格するために。ルナは今よりももっとリアムのサポートを出来るようにと。
小一時間ほどが経った頃だろうか?
ルルネは大きく伸びをした。さすがにこうも集中して勉強をしていると疲れてくる。目の前では、自分よりも六つも年下の少女がいつになく真剣な表情で、錬金術にまつわる本を読んでいる。
ルルネが初めてルナと出会った時、ルルネは少なからず衝撃を受けていた。ルナのこの世の思えない人形みたいに可愛い容姿に。それに突然、ここにやって来たかと思っていたら、いきなりリアムのお嫁になると言いだしたものだ。これで驚くなと言われる方が無理な相談と言うものだろう。
それにまさかあいつにお嫁が出来るなんてね。本当に夢にも思わなかったなぁ。そう言えば、ルナちゃんってどうしてあんな奴を好きなったのかしら?
ルルネは目の前で本を読んでいるルルネを見て、ふとそんな疑問を思ってしまう。
ルルネがルナのことを見ていると、こちらの視線に気が付いたルナが不思議そうに首を傾げている。その何気ない仕草は同性のルルネでも可愛いと思ってしまうほどだった。
本当にどうしてこんな子が、あいつの嫁なんかになったのだろうか? ルナちゃんなら絶対に引く手あまただと言うのに。
ルルネがまじまじとルナのことを見ていると、ルナが顔を上げその翠色の瞳がどうしましたかと問いかけるかのように、ルルネの紅い瞳を真っ直ぐ射抜いてくる。
ちょうど、あいつもいないし、聞くにはベストなタイミングよね。
ルルネはそう結論を出すと、わざとらしく咳ばらいをした。
「ねぇルナちゃん。一つ聞いてもいいかしら?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ルナちゃんって、どうしてあいつの、リアムのお嫁さんになろうと思ったの?」
これまでのあいつの行動を見ていると、どうしてもこんな良い子で、可愛い子があんな奴のお嫁さんになりたいと思ったのか、答えが一向に出てきそうになかったのだ。
「こういうことを言うのは、どうかと思うけど、あいつってぶちゃっけ微妙よ。顔はそこまでかっこいいわけじゃないし、性格だってそこまで良いわけじゃないじゃない。むしろ、どっちかって言うと、偏屈で嫌みっぽい性格だと思うんだけど。だから、魅力なんて皆無と言えるほどに、あいつには魅力なんてないと思うのよね。だから、ルナちゃんがどうして、あいつのことを好きになったのか、お嫁さんになろうとしたのかが分からなくて」
一気にそこまで話したルルネは、すっかり冷めきってしまった紅茶で喉を潤した。対して、ルナはそんなルルネの言葉に、戸惑くこともなく笑顔で即答した。
「リアムさんは、わたしの王子様なんです」
一瞬、ルナが何て言ったのかルルネには分からなかった。
王子……様? あいつが……?
ルルネは最初戸惑ってしまうが、それからルナが話してくれたリアムとの出会いを聞いて、ルルネはなるほどと頷いた。あいつは昔っからお人好しな部分があったけど、まさか、そこまでとは思わなかった。その姿を見て、同時十二歳だった少女は、リアムに対して強い憧れと恋心を抱いたのだろう。それに、ルナが昔の話を語っている時、彼女の顔は、昔よく読んでいたお伽話に出てくる王子様を語っているように目をキラキラとさせて、年相応の少女の姿だった。
「わたしの王子様はリアムさんしかいないんです。なので、リアムさんのお嫁さんになれて、今とっても幸せです」
そう言って微笑むルナを、ルルネは問答無用で抱き寄せると頭をわしゃわしゃと撫でた。
「そっか、そっか。ルナちゃんが幸せそうで、お姉ちゃんも嬉しいぞ」
「あはは、くすぐったいですよルルネさん。もう、頭を撫でるのは反則ですよ」
少し怒ったような口調を上げるルナだったが、あくまで怒ったふりだけだったようで、笑っているところを見ると嫌がってはいないようだった。
「それじゃあ、ルルネさんにはいないんですか? 王子様と思えるような人?」
一頻り撫でられた後、ルナはルルネにそう聞き返した。
「王子様と思えるような人かぁ~」
ルルネも小さい頃はよくお伽話などを読んでは、その中に出てくる王子様に憧れたものだ。そして、ルルネは想像してみる。自分の王子様は誰なのかを。すると、ルルネの頭の中にはある一人の男性の顔が思い浮かび、慌ててその想像を打ち消すかのように頭を振った。
あり得ない、あり得ない! それにあたしじゃ絶対に釣り合わないよ!
ルナは顔を真っ赤に染めながら、首を横に振るルルネを見て首を傾げてしまう。
「ルルネさん?」
「ひゃっひゃい!」
あまりにも思考の海へと沈み過ぎていたため、ルルネの口からはかわいらしい奇声が上がった。
「どうしたんですか?」
「べべべ別にどうもしないわよ! グレンさんのことなんかこれっぽちも考えてないわよ!」
この時のルルネは自分が墓穴を掘っていることに気が付いてはいなかった。
そして、ルルネの悲鳴がアトリエ内に響き渡るのは、その数十秒後のことである。
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もう死にたい。
ルルネは先ほどの失言を思い出して、机に突っ伏しているところだった。ルナはルナでそんなルルネを必死に励ましている。
ルルネにとっての最初の恋は、お伽話に出てくる王子様。そして、次に恋を自覚したのが、つい最近なのだ。
自分では絶対に釣り合わないような男性。
それにグレンさんって、ものすごくモテるし!
グレンは顔もさることながら、その腰の低い態度や人当たりの良さ、さらには近衛団隊長の地位をものにしている実力者として、かなりこの【スーザック】の街では有名だったし、女性の黄色い声が常に絶えない程の人気っぷりだった。
そんな人にこんな自分が告白するなど、どうして想像できようか。いや、想像以前にそんなことを思うこと自体がおこがましいとまでルルネは思ってしまう。
周りは天才や秀才ばかりなのに、こんな何もない平凡な自分ではまったくもって釣り合わないと割と本気で考えていた。
「ルルネさんは本気でグレンさんのことが好きなんですね」
ルナの声に、ルルネは伏せていた顔を上げた。ルナは両手を組んでその上にあごを置いて、優しい眼差しでルルネのことを見ていた。
ルナは不思議そうに首を傾げているルルネを見て、ふふと微笑むと言葉を続けた。
「ルルネさん、恋をする乙女の顔をしてますよ」
ルルネはルナの言葉に「うそっ!」と驚きの声を上げてしまう。そんなルルネの反応が面白かったのか、今度はルナはくすくすと声を忍ばせて笑っている。
「もう、笑わないでよルナちゃん!」
「ごめんなさい、ルルネさん。ルルネさんが可愛かったのでつい」
「まさか、あたしをからかってたの⁉ もう意地が悪いなぁ~」
そう言ってぷくぅ~とむくれてしまっているルルネに、ルナは再度ごめんなさいと繰り返した。
「からかっていたわけではないんですけど、少し昔のことを思い出してしまいまして」
「昔のこと?」
「はい。わたしがリアムさんのことを好きになってからすぐのことでした。ある日突然、母に『恋する乙女の顔をしてるよ』って言われたんです。今までずっとその意味が分からなかったんですけど、今やっとその意味が分かった気がします。ルルネさんの顔が今まさにそれだったんです!」
ルナのその指摘に、ルルネの顔は熟したリンゴの様に真っ赤に染まっていく。
「ちがっ! そんなわけっ!」
もはやどんなに否定の言葉を並べようと、ルナを欺くことは不可能だとルルネは思っていたが、それでも否定の言葉を並べてしまう。それはまるで、自分の心の中に芽吹き始めている恋心を必死に否定しているようでもあった。
だけど、グレンのことを考えるだけで、ルルネの胸が温かくなり、さらに締め付けられるような、甘い疼きがルルネのことを襲った。
ルルネは改めて考えてみる。
目の前に座る、自分よりも六歳下の少女は、この感情を感覚を乗り越えてさらには告白までもして、さらには嫁とまでなってしまった。それって考えてみたらものすごくすごいことなのではないだろうか。
「ルナちゃんってすごいね。これじゃあ、どっちがお姉ちゃんか分かんないや」
それはルルネの本心から出た言葉だった。
自分の本心を告げるって本当にすごいことだよね。
「あたしにはそんな勇気ないよ」
思わずルルネは、力なく呟いてしまう。
「ルルネさん」
「あはは、ごめんねルナちゃん。何だか空気が悪くなっちゃったよね」
ルルネは変な空気になってしまったこの場を打破するために、声を上げて笑った。ルナはそんなルルネの姿をただ見ていることしか出来なかった。
ルナちゃん、あたしには無理だよ。ルナちゃんみたいに正面から真っ直ぐ想いを告げるなんて、あたしには出来そうにないよ。こんな平凡なあたしに。
この時のルルネはまだ知らない。平凡が秀才にもなりえるということを。
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