第21話「見習い魔法薬師」
皆さま大変お待たせいたしました。今日から第二部を始めていきたいと思っております。そして、更新ペースなのですが、二日から三日のペースで一話を予定しております。よろしくお願いいたします。
第21話「見習い魔法薬師」
魔法薬師。
魔法薬師は錬金術師と似て非なる者だった。端的に言えば、魔法薬師は狭く深くで、錬金術師は広く浅くなのだ。魔法薬師は薬のことを突き詰めてひたすら既存の薬を強化したり、新薬の研究に没頭するのだ。そして、錬金術師の広く浅くと言うのは、錬金術師はあらゆるモノを作り出す。その為、色々な知識が必要となるため一つのことに関してそこまで極めてはいないのだ。
簡単な話、魔法薬師と錬金術師でまったく同じ薬を作ったところで効能は、専門職が作った、つまり魔法薬師が作った方のが強く、どちらの薬を買うと聞いたら間違いなく魔法薬師の薬に軍配は上がるだろう。
だが、例外はどの分野にもあって、その枠組みに囚われないのがリアム・ラザールと言う男だった。リアムは錬金術師の広く浅くと言う概念を覆し、広く深くと言った感じでやっている。
要は魔法薬師が作った薬と同等がそれ以上のモノを作り出してしまう。ルルネの父親が、リアムを目の敵にしているのはその為なのだ。いわゆる、魔法薬師としては商売敵なのである。
ルルネはリアムが未知の薬――除霊薬を作り出したとき、素直にすごいと感じていた。それと同時に自身の中に劣等感が生まれ始めているのも自覚していたのだ。
リアムは凄腕の錬金術師で、その妻であるルナは家事万能の完璧な奥さんで、グレンに至っては、この町の近衛団を任されている隊長だ。
自身の周りには天才しかいないと思っていた。そして、そんな天才たちに比べると自分は何て平凡なんだろうと感じていたのだ。
段々、自分の思考がネガティブになっているのを自覚して、ルルネは頭を横に振った。
こんなことを考えている場合ではなかった。ルルネは今、来月に控えた魔法薬師採用試験に向けて、猛勉強中なのである。
魔法薬師は魔法薬師養成機関と呼ばれる学校を卒業した後、二年間魔法薬師としての研修を行った後に採用試験を受けて、そこで魔法薬師としての肩書が与えられることになっている。
つまり、ルルネは今はまだ研修期間なのだ。そして、その間の魔法薬師は見習い魔法薬師と呼ばれているのだ。
ルルネは二年間の研修期間が終了して、採用試験に挑める条件を満たしたのだ。そして、その試験に無事に合格することが出来れば、ルルネは正真正銘の魔法薬師とし活動することが出来る。
そして、採用試験に受かった魔法薬師は役所に登録されて、役所から出される依頼などをこなすことになる。
採用試験は筆記試験と実技試験の二つがある。ルルネは筆記試験については大丈夫だと思っているが、実技試験に不安を感じていた。
実技試験では、二つから四つの素材を使って調整をすることになる。そして、ルルネは初歩的な調整なら出来るが、三つの素材を使う調整からは成功率は五割を下回る。そして、四つの素材を使う調整は一度しかやったことがなかった。
だから、ルルネは残りの一ヶ月はこの実技試験の方に力を入れようとルルネは考えていた。
目の前には三つの素材があった。これはロゼと言う魔法薬師が開発した、普通の風邪よりも強力な風邪に効く薬を作り出すための材料だった。
ヒールリーフ、中和剤、風邪薬。
これらの材料を掛け合わせることによって、その薬は完成する。
ルルネは深呼吸を一度すると、それらを容器の中に詰めた。すると、容器の中で素材が分解されて、それらが合わさっていく。
ルルネも容器に手をかざして魔力を注ぎ込んでいく。魔法陣が展開され容器の中が光り出していく。
よし、ここまでは大丈夫。
あとはこの反応が安定してくれれば良いんだけど……
ルルネがそう思っていた矢先に光は弾けて、容器の中に入っていたものは跡形もなくなくなっていた。
調整失敗である。すでにこの日十度目の失敗だった。
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「十回連続調整失敗か。ルルネの成功率、五割どころか二割もないんじゃないのか?」
ここはアトリエ【クレアスィオン】。ルルネはこのアトリエの作業場を借りて調整の特訓を行っていた。
それを自分の作業の片手間に見ていた俺は思わずそう漏らしてしまったのだ。
まざまざと見せられたのだ。俺がそう思ってもしょうがないだろう。
「うっうっさい! 次こそは絶対に成功させて見せるわよ!」
「ルルネさん、それも先ほどから何回も言っていますよ」
「ルナちゃん! そうかもだけど、そこは言わないで!」
ルルネはそう叫ぶと、頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまう。これだけ連続で失敗したのだ、こうなってしまうのも分かる気がする。
「でも、ルルネって本当に調整が苦手なのな」
「何よ! 悪いの!」
ルルネにキッと睨まれて、俺は慌てて首を横に振った。
「ちっ違う! 違う! 別にバカにしてるとかって訳じゃないんだよ。ただ、前に聞いた調整って、今やっているものよりも高度なものだったんだろう? だから、逆に何でそんなに失敗するのかが不思議でさ」
「そんなのあたしが知りたいわよ!」
んな逆ギレされても困るんだけどな。
ルルネは一頻り俺にキレて満足したのか、再び調整を行っている。十一度目の調整は、今度こそ上手くいったみたいで、ちゃんと薬が完成していた。
「どうよ、ちゃんと完成したわよ」
「十一回目でようやくな」
「あんた、喧嘩売ってんの?」
売っていません。売ったらどうなるか分かっているのに、売るはずがあるわけがない。
でも、本当に不思議な光景だった。ルルネは今行っているよりもはるかに難しい調整を成功させたのにも関わらず、どうしてこんな所で躓いているのだろうか? 何とも不可解な話である。
それにあの時はたまたま調整が噛みあって薬が完成しましたなんて、物語みたいな話で片付けても良い話でもない気がするし。
う~ん、何なんだ?
俺は腕を組んで思わず唸ってしまう。
「あなた、それにルルネさん。お茶を入れましたから休憩にしませんか? あなたはずっと仕事していて疲れたでしょうし、ルルネさんはずっと試験の特訓をしていたので、少しお休みになられた方が良いと思います」
ルナはそう言いながら、ティーセットと自分で焼いたクッキーを運んでくれる。俺は慌ててルナからお盆を受け取ると(背が低いため運んでいる姿が危なっかしい)、この作業部屋に備え付けたテーブルにそれを置いた。
俺一人の時には、作業部屋で一息つくなんてことは考えもしなかっただろう。朝起きて日が暮れるまで、ずっと作業をしている感じだった。しかし、その概念はルナがここに来て一緒に暮らすようになって大きく変わった。今では、作業の合間にこうしてルナとお茶をするのが日課になっていた。
ルルネもルナが焼いたクッキーの匂いに釣られたのか、黙ってソファーに腰を下ろしていた。
俺もルルネの対面に腰を下ろすと、ルナもすかさずその隣に腰を下ろした。
ルナからカップを受け取り、俺はそれを口に運んだ。淹れた人が思い浮かぶような優しい味が口に広がり、思わずため息が零れてしまう。
目の前に座るルルネも同じ気持ちだったのか、これまた同じようにため息を吐いていた。
しばらくの間、俺たちは無言でクッキーをかじり、お茶を啜っていた。
やっぱり、ルナが作る物は何でも美味いな。
俺がそんなことを考えていると、ルルネがポツリと呟いた。
「あたし、このまま調整上手くならないのかな?」
そうだよな。あれだけ連続で失敗してたらそうやって不安になっちまうよな。
「大丈夫……何て身勝手なことは言えないけど。俺はルルネなら合格できるって信じてるし、信じたいって思ってる。それにこんなにも頑張ってきたんだ。それでルルネが合格しなきゃ変だろ? それに落ち込んでるルルネ何てルルネらしくないしな」
俺の言葉を聞いたルルネは、最初は驚いた顔をしていたが、次第に肩を震わせて笑っていた。
「るっルルネさん?」
ルナが心配そうに声をかけている。が、その心配はまったくの杞憂だった。
「あははははっ! まったくあんたの言う通りよね。試験まであと一ヶ月あるし、今日はたまたま調子が悪かっただけよね。うん、きっとそうよ!」
ルルネはそう叫ぶと立ち上がった。いきなりのルルネのその行動に俺とルナは驚いてしまう。
「いっいきなりどうしたんだよ⁉」
「ううん、何でもない。ただ弱気になってる自分が馬鹿らしくなっただけ。それに確かに落ち込んでる何てあたしらしくないわよね」
ルルネは頬を両手でパチンと叩くと、作業部屋の扉の方に向かって歩いて行く。
「おい、ルルネ?」
「ごめん、今日は筆記試験の勉強をしたいからもう帰るね」
「あっああ、分かったよ」
俺の言葉を聞いたルルネは微笑むと、この場を後にしようとする。俺は思わずその背中に声をかけてしまう。
「ルルネ、本当に大丈夫なんだよな?」
その言葉に、ルルネは数秒考えた後こう答えたのだ。
「ええ、大丈夫よ。あたしに調整の才能がないのは、学校に通っている時から分かってたことだもの」
ルルネはどこか悲しそうな笑顔を見せると、ルルネは今度こそここを後にした。
「ルルネさん、大丈夫でしょうか?」
ルナが不安そうに俺に聞いてくる。きっと、ルルネが空元気であんなことを言っていたのではないだろうかって思ってるいるのだろう。
「分からない。だけど、ルルネならきっとスランプから立ち直るって俺は信じてるよ」
俺が微笑むと、ルナも不安そうな顔から安心したような微笑みを浮かべた。
「そうですよね。きっと、ルルネさんなら立ち直って、絶対に試験に合格できますよね」
「ああ、ルルネならきっと」
俺はルナを安心させるように頭を撫でた。俺はルナが目を細めている姿を見ながら、ルルネのことを考えていた。
でも、あの連続での失敗は明らかに異常だ。こっちでも調べてみるか。
俺はそう考えながら、ルナが淹れてくれたお茶を啜っていた。
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