番外編「ルルネとグレン・終」
番外編第3話目になります。また、番外編はこの話で完結となります。このお話は本編を補完するようなお話になっておりました。楽しんで頂けたら幸いです。
そして、第二部の方ですがこちらも着々と準備を進めておりますので、始動までもうしばらくお待ちいただければと思っております。
番外編「ルルネとグレン・終」
ルルネはグレンと共に、以前アレンが降霊術を行っていた森に来ていた。ここに目的となる素材を持つ魔物が棲息していた。
「それでルルネ、どのぐらい魔物を狩れば良いんだい?」
「う~ん、大きさを見てみないと分からないですけど、多分十体以上は倒さないと、素材は集まらないと思います」
「なるほどね。なら手段は選んでいられないね」
「えっ? グレンさん、それってどういう……」
ルルネが言い終わる前に、グレンは腰のポーチから球体の形をしたものを取り出すと、それを宙に投げ剣で斬り付けた。
その瞬間、辺りは異様な臭いに包まれた。
「グレンさん今のは?」
「今のは目的の魔物を呼び寄せる為の道具なんだ。実は前にもこの魔物を狩ることがあってね。そのことをリアムに相談したら、作ってくれたんだ。だから、精度はお墨付きさ。ルルネ、僕の後ろにちゃんと隠れててくれよ」
「はっはい!」
グレンの言葉に、ルルネは不安に思い持っていた杖をギュッと握った。
「さて、来るよ」
グレンは剣を構えると、真っ正面を見つめた。そして、その数秒後。グレンの視線の先が、太陽の光を反射して鈍色に光った。
奴が現れた証拠だろう。とグレンは推測する。
そのグレンの推測は当たることになる。森の茂みの中から、鈍色の鱗を持つ四足歩行の魔物が複数体が現れた。
この町では【ヴァラヌス】と呼ばれている魔物だった。強靭な足腰を持ち、手には鋭い爪を持っている。さらに、牙は鋭く毒が仕込まれていて、この町ではA級危険魔物に指定されている。そして、この【ヴァラヌス】は【飛ばない竜】とも呼ばれているため、ルルネはそこに目を付けていたのだった。
そんな魔物が、グレンの前に複数体の群れを成して立ちはだかっていた。
「グレンさん、これ大丈夫なんですか?」
ルルネは怯えたような声で、グレンにそう聞いた。もちろん、ルルネもこの魔物の危険性は承知していた。その魔物が目の前に十体一気に集まっているのだ。不安な声が出るのも当然と言えるだろう。
「ああ、大丈夫さ。ルルネはしっかり僕の後ろに隠れていてくれ」
グレンは柔らかな笑みをルルネに浮かべると、一気に気を引き締めた。その瞬間、グレンが纏っていたオーラがいつもの物腰が柔らかい優しい青年から、狩人のオーラへと変わっていく。
普段のグレンからは考えられない雰囲気に、ルルネは圧倒されてしまう。
「一瞬で終わらせるよ」
グレンの姿は次の瞬間には消えていた。そして、次の間には魔物の群れの中央に立っていた。そこから剣を円を描く形に薙いでいた。その刃は次から次へと魔物の首を斬り落としていく。
「すっすごい……」
ルルネの口からは、自然とその言葉が紡がれていた。
目の前で行われている光景は、ある種の狩りだった。それも圧倒的なまでに一方的な。グレンはまったく魔物を寄せ付けないまま、十体近くいた【ヴァラヌス】を狩り終えてしまう。
「ルルネ、これだけあれば足りるかな?」
そして、解体までもすでに終えていたらしく、グレンから必要だった牙と爪が綿さえる。
「えっええ、これだけあれば薬を作ることが出来ると思います」
「? ルルネどうしたんだい?」
「いっいえ何でもないないです」
ルルネは怯えていた。グレンの計り知れない戦闘能力に。
あたしはグレンさんのことを、まだ何も知らないのかもしれない。ふと、ルルネの頭にはそんな予感が過っていた。
***********************
狩りを終えた二人は、すぐさまルルネの実家に戻り薬を作りを始める。父親から少しの間緩和させる薬をもらっていたが、あれは持っても精々残り良いとこ一時間だろう。その間には薬を完成させなければいけない。
中和剤はあらかじめ作ってあるし、ヒールリーフもあの森に生えていたため採取することに成功していた。そして、一番の問題だった竜の牙や爪もグレンのおかげでこの通り手に入っている。
後はここから薬を作り出すだけだ。真の問題はここからだった。ここからこれらの素材を掛け合わせて薬にしなければいけない。
果たして自分の能力で、この薬を作ることが出来るのだろうか?
ルルネは数度、深呼吸を繰り返した。あの子のため、信じてくれたグレンのため絶対に薬を作り出したい。
そう自分に言い聞かせるように、心の中で呟くとルルネは神経を集中させる。
目の前には集めてきた素材が並べられている。ルルネはそれを専用の道具に入れると手をかざした。容器を魔法陣が包み、その中が光り出した。
ここからが難しいところだった。今容器の中では、全ての素材が分解され一つの薬へと形を成そうとしている。魔法薬師の役割は、魔力を使って調合されるのを促し、効能を整えているのだ。容器を包んでいる魔法陣は、魔法薬師が魔力を使ってその素材を調整している証拠でもあった。そして、この調整をドジってしまうと薬は完成しない。さらには、この調整によって薬の効能も変わっていく。色々な調整を上手く行えて魔法薬師は魔法薬師と言えるのだ。
ルルネはさらに意識を集中させていく。ここまで来て絶対に失敗するわけにはいかなかった。
絶対に、絶対に失敗は出来ない。
ルルネは簡単な調整は行ったことがあるが、ここまで高度な調整をすることは初めてだった。
魔法薬師が作り出す薬は、最低でも二つの素材が使われる。そして、その数が少なければ少ないほど調整は簡単だ。四つ以上になるとかなり高度な調整となってしまうのだ。そして、ルルネはこの調整を三つまでしかやったことがなく、またその三つの調整でも成功率は五割を下回っていた。
そんな状態で成功できるとは、ルルネは最初は思わなかった。しかし、目の前で苦しんでいる少女がいるのだ。何が何でも成功させなければいけない。それに、こんな自分を信じて、自分を励ましてくれて、材料を集めを手伝ってくれたグレンの期待を裏切りたくはなかった。
だから、だからあたしは絶対に失敗できないんだ! だから、お願い成功して!
ルルネは今までにないぐらい、神経を研ぎ澄ませていく。何が何でもこの薬を作り出すために。
ルルネの心に反応するかのように、容器の中の光は次第に強まって、一気に光がはじけた。そして、容器の中にあった素材は全て跡形もなく無くなり液体となっていた。
「よし! 出来た!」
ルルネは出来たばかりの薬を注射器に入れると、すぐさま少女の元に走った。診療所に着くと、一目散に少女の元に駆けて行く。父親からもらった薬で何とか症状は抑えていたが、完全には症状を抑えられず少女はさらに苦しそうに呼吸を繰り返していた。
「サラちゃんの様子は?」
隣に着いていたサラの母親にルルネは尋ねた。
「サラは先ほどから、さらに苦しそうな呼吸をしてしまって」
「そうですか」
ルルネはしゃがみ込むとサラの様子を覗き込む。腕にはぶつぶつが出てきていてアレルギー反応はさらに進行していた。
「今治してあげるからね」
「お……姉ちゃん……?」
「あたしは魔法薬師。お薬屋さんだよ。サラちゃんを助けに来たの」
「わたし……死んじゃうの?」
「いいえ、死なないわ。だって、あたしが絶対にサラちゃんを助けるから。だから、少しチクッとするけど我慢してね」
意識が朦朧しているせいなのか、サラの言葉はどこかぎこちなかった。しかし、サラは弱々しくだが頷いた。
ルルネは苦しそうに呼吸を繰り返す少女――サラを安心させるために頭を優しく撫でると注射した。最初は痛みで顔を歪めたサラだったが、それも一瞬ですぐさま元の表情に戻っていった。
「サラちゃん、よく頑張ったね。えらかったよ」
ルルネが柔らかく微笑むと、サラも弱々しく微笑んだ。
「ルルネ、どうだい?」
「まだ分からないですけど、しばらく様子を見て発疹やめまいなどが治まればアレルギー反応は完全に抑えられたと思います」
「分かった。後はサラが無事に完治してくれることを願うだけだね」
グレンの言葉に、ルルネは頷くと溜めていた息を吐き出した。目の前に横になっているサラは薬の副作用の所為か眠っていた。
「ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」
サラの母親は感謝の言葉を繰り返していた。
そして、ルルネとグレンは二人してこう答えるのだった。
「「当然のことをしたまでですよ」」
診療所から出た二人は、何とかなった安心感で一気に先ほどの疲れを感じてしまう。
「ルルネ、お疲れさま。本当にルルネのおかげで市民を救うことが出来たよ。君がいてくれて良かった」
「いえ、あたしは魔法薬師として当然のことをしたまでです。と言ってもまだ見習いですけどで」
「確かにそうなのかもしれない。だけど、君がいたから助けられたのは事実だ。だから、お礼を言わせてくれ。ありがとう。それと、これからも僕の良き友人としていてくれるととても嬉しいよ」
「もうグレンさん。大袈裟ですよ。でも、こっちこそありがとうございました。グレンさんがいなかったら、あの薬は作れませんでした」
「それこそお礼を言われる筋合いはないんだけどな。でも、これでおわいこってことにしよう」
「はい!」
ルルネの答えを聞いて、グレンは爽やかに笑った。そんなグレンの顔を見て、ルルネは胸が甘く疼くのを感じていた。
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「それで、そのサラちゃんはどうなったんですか?」
夢中になって聞いていたルナが、続きが気になるとばかりにそう聞き返している。そんなルナの姿を見たリアムは、微笑ましいものを見れたと思いながら、自身の手元にあった酒を呷った。
ここは以前ルルネとグレンが食事をした酒場【剣の舞】だった。
リアムが王都からこのスーザックに帰って来て数日後。ささやかながらの飲み会が、この【剣の舞】で開かれていた。
その飲み会の席で、リアムとルナが王都に行っている間、この町で起こっていた事件のことをルルネが話してくれていたのだ。
「サラちゃんは助かったわ。何とか薬は無事に完成したみたいで、あれから数日後には元気に生活できるぐらいまでに回復したそうなのよ」
「そうなんですか! 良かったです!」
リアムの隣に座るルナは、ルルネの言葉を聞いて嬉しそうに微笑んでいる。
「それで、結局その原因は何だったんだ?」
リアムは正面の席に座っていたグレンにそう声をかけた。
「あの時出された料理の中に、普段は使われない食材が入っていたようなんだ。王都から送られてくる食材の中に不備があったそうなんだ。それで、その特定の食材のせいでピンポイントで彼女にだけアレルギー反応が出てしまったと言うわけなんだ」
グレンの言葉を聞いて、リアムはなるほどなと頷きながら、テーブルに並べられている件の海鮮炒めを口に運んだ。
「美味いには美味いんだけど、やっぱり俺はルナが作った料理の方が好きだな」
リアムの素直な言葉に、それを聞いていたルナは恥ずかしそうに頬を真っ赤に染めている。
「あなたに好きになってもらえて良かったです」
「ああ、ルナの料理は世界一だって俺は思ってるからな」
「あなたにそう思って頂けて嬉しいです! これからもあなたに好きって思ってもらえるように頑張りますね!」
「大丈夫だって、ルナの料理はどれも美味しいから」
「なら、あなたに好物がもっと増えるように、奥さんとして頑張らないといけませんね」
そう言ってふんと気合を入れるルナの姿を見て、リアムは胸が温かくなるのを感じた。
ああ、俺の奥さんは文句なしに最高です!
リアムが感慨に浸っていると、リアムの右斜め前に座っているルルネがこっちを見て睨んでいた。
「だから、ナチュナルにイチャつくなって、何度も何度も言ってるでしょうが!」
ルルネはそう叫びながら、自身が頼んでいた果実酒をグイッと呷っている。その隣に座っているグレンも酒を呷った。
この国での飲酒は十八歳から許されている。ルナは当然十四歳なのでまだ飲めない。なので、ルナは果実ジュースを飲んでいた。
会話は弾み、料理やお酒が次から次へと消えていく。そして、この四人の誰もが感じていた。この四人でこうしたささやかな会が出来て良かったと。
そして、ルルネはまだ知らない。あの時行った調整は、絶対に成功など成しえないのに成功させてしまったことを。
そして、自身の中に心の中に、恋心が芽吹き始めていることにもこの時のルルネには知る由もなかった。
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