番外編「ルルネとグレン2」
番外編第2話目になります。よろしくお願いいたします。
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番外編「ルルネとグレン2」
ルルネは走っていた。とにかく一秒でも早く自分の家に辿りつかないといけない。今でもあの少女は苦しんでいるのだ。あたしは早くあの少女の苦しみを取り除いてあげたいんだ。
ルルネの両親が営んでいる薬屋【ヒール】はもう目の前に迫っていた。ルルネは駆け込むように中に入ると、両親を呼んだ。
ルルネの両親は、娘の血相を変えた声に慌てて飛び出してくる。
「どうしたんだい? マイエンジェル⁉」
「ルルネちゃん⁉ どうしたのそんなに息を切らして⁉」
ルルネは息を整えると、過保護丸出しの両親の言葉を無視して、父親に向けて一つの紙を突き出した。それは医者から聞いてきた、あの少女のアレルギー反応を治す唯一の薬のメモだった。
「パパ、その薬って家に在庫ある? もしくは今すぐにでも作れる?」
娘のその言葉に、両親はすぐさま思考を仕事モードに切り替えた。
「これは王都で稀に見られるアレルギー反応を治す薬のレシピやないかい。ルルネがどうしてこのレシピを?」
ルルネは先ほど酒場であったことを両親に話した。そして、すぐにでもその薬が必要だということも。
しかし、その話を聞いた両親は揃って難しい顔をしている。
「あのね、ルルネちゃん落ち着いて聞いてほしいの。これは王都のみに見られるアレルギー反応なの。だから、ここにその薬はないわ。それに、ここに書いてある材料のうち二つは王都でしか取れない物なの。だから、ここで作り出すのは無理なのよ」
「そんな! それじゃあ、その子は助けられないの!」
母親の言葉にルルネは食い下がったが、両親は揃って首を振るだけだった。
「ごめんね。魔法薬師は確かに薬を生みだして人を助ける職業だけど、神様ではないの。だから、無から薬を生み出すことはどう頑張っても無理なのよ。それに、このレシピに書いてある材料って、王都でも中々手に入らない素材よ。そう考えると、どうしたってここで作り出すのは無理なのよ」
「何とかならないのママ? パパは?」
期待を込めて父親の方に視線を向けるが、父親の方も首を横に振るだけだった。
「ごめんな、ルルネ。魔法薬師は万能じゃないんだ。それとせめてこれを持っていきなさい」
そう言って父親がルルネに渡したのは、一つの薬だった。
「これは?」
「それは、アレルギー反応を少し緩和してくれる薬だ。俺たちにはコレが限界なんだ。そのお母さんや娘さんに謝っといてくれるか」
そんなことってある⁉ 本当にあの子は治せないの⁉
ルルネは両親の申し訳なさそうな顔を見ていられず、その薬を持って家を飛び出した。
他の薬屋を当たることも頭を過ったが、きっとどこでも同じことを言われて同じだろう。それに、まさか自分の両親までもがあの医者と同じことを言うとは思わなかった。
どうする、どうすれば良いの? それにあの少女のお母さんやグレンさんに何て説明したら。
そう考えながら歩いていると、すぐさま少女がいる医者の所に着いてしまう。そして、外にはグレンが立っていた。
グレンはルルネの顔を見るとルルネに駆け寄った。
「ルルネ! そっちはどうだった?」
ルルネはグレンの顔を見ると、我慢していたものが一気に崩れるかのようにダムが決壊していく。
「ごめん……なさい……」
「ルルネ?」
グレンもルルネの様子がおかしいことに気が付き、目の前で足を止めた。ルルネはルルネで、「ごめんなさい」と謝罪の言葉を繰り返している。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「っ⁉ ルルネ! どうしたんだい? 何があったんだい?」
グレンはルルネの両肩を掴むと、落ち着かせるためにルルネのことを抱き寄せた。
「ルルネ、君がどうして自分を責めているのか僕には分からない。だから、一度落ち着いて、僕に話を聞かせてくれないか?」
グレンは謝罪の言葉を繰り返して、話を聞こうとしないルルネに言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を口にした。その際にルルネの頭を優しく撫でることも忘れない。とにかく、ルルネのことを落ち着かせないといけない。
グレンの行動で少しは感情が和らいだのか、ルルネはポツリ、ポツリと語る。両親に言われたことを。少女を助けるための薬を作り出すことが出来ないことを。
グレンはそれを終始無言で聞いていた。そして、語り終わったルルネは再び泣きそうになってしまうが、そうなる前にグレンは言葉を紡いだ。
「本当にその薬を作ることは不可能なのかい?」
「ええ、無理よ。あたしの親が無理だって言ってたもの。この薬は王都にしかない素材でしか作れないって!」
「本当にそうかい?」
「だから、本当なんだって! 無理なのよ! それにパパも言ってたわ! 今の現状じゃこの薬しか用意は出来ないって!」
ルルネはそう言ってグレンに、アレルギー反応を緩和する薬を突き付けた。あくまで緩和するだけなので、完全には治らずこのままでは結果は同じで少女は死に至ってしまう。
「確かにルルネのご両親が言っていることは正しいのかもしれない。だけど、僕は君なら彼女を救えると信じているよ」
しばらく無言だったグレンだが、真っ直ぐルルネのことを見てそう告げた。
「あたしが? それこそあり得ない話だわ! だって、あたしは魔法薬師見習いなのよ? 本物の魔法薬師が出来なかったことを、あたしが出来るなんてあり得ないわ!」
グレンが自分のことを信頼してくれていることは素直に嬉しかった。だけど、無理なものは無理なのだ。だって、あたしにはそんな力ないから。きっと、あいつならあの手この手で作ってしまうんだろうけど、あたしにはそんなことは無理だった。
そうだ、あいつなら救えたのだ。あいつなら……
「君なら出来る。絶対に」
グレンはさらに言葉を続けた。
どうして、そんなに言ってくれるんだろう? あたしに何てそんな力ないのに。ささっとあいつに連絡を取ればいいのに。そうすれば、何やかんや素材をやり繰りして、完成させ……
ルルネはそこであることを思い出した。
そうだ。あたしはあいつから教わっていたはずだ。もしもの時の為に素材をやり繰りする方法を。何とかその物を作り出す方法を。ただ、それは錬金術だから通用した技なのかもしれない。だけど、試す価値はあるだろう。実際、あいつはそれで古代の薬を再現してみせた。だったら、その技を使わせてもらえばいい。
「グレンさん! 力を貸してください!」
ルルネはそれを思い出すと、涙で濡れていた目をごしごしと拭くと、グレンのことを真っ直ぐに見てそう言った。
「ああ、もちろん。僕が貸せる力すべてを君に貸そう」
グレンはルルネの言葉に力強く頷いた。グレンの目の前に立つルルネは、先ほどまで諦めて涙を流していたルルネとは別人だった。
「あたしが、この薬を作ってみせます!」
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少女に父親から預かった薬を打つと、ルルネは早速薬のレシピとにらめっこを開始する。
えっと、使う材料は竜の牙、ヒールリーフ、竜の爪、中和剤ね……って! 明らかに手に入るわけがないものがあるでしょ!
ルルネはレシピを見て思わず突っ込んでしまう。
竜の牙と爪に関して言えば、かなり希少な素材となるため王都でも高価でやり取りされているものだった。そんなものがこんな所にあるわけがない。
これどうしろって言うのよ!
ルルネは頭を抱え込んでしまいたくなるが、こんな所で頭を抱えている場合ではない。
とりあえず、魔物素材でそれと同等のものを用意しなければいけない。
どうする、どうする、どうする! 考えろ、考えるんだあたし!
「ルルネ、どうにかなりそうかい?」
ルルネが考えていると、グレンがそう声をかけてくる。
「二つの素材はどうにかなりそうだけど、この二つだけがどうにも出来ないかもしれないんです」
ルルネは竜の牙と爪に苦戦していることをグレンに話した。
「竜の牙に竜の爪か。これはかなり厄介な素材が使われているみたいだね」
「そうなんです。グレンさん、一つお願いしたいことがあるんですけど良いですか?」
「ああ、何でも言ってくれ。僕に出来ることなら何でも協力するよ」
「ありがとうござます。それじゃあ、この町周辺の地図を用意してくれませんか? 後、この町周辺に出る魔物の一覧などがあればありがたいです」
ルルネの言葉にグレンはすぐに頷くと、「五分待ってくれ」と言い残し、その場を後にした。
ルルネはその間に出来る限りの準備を進めていく。
準備を進めていると、グレンは本当に五分でこの場に戻って来た。
ルルネはグレンから地図と魔物の情報が載った紙を見ていく。
どこかに竜の牙や爪と同じ成分を持つ素材を持っている魔物がいれば作り出すことは理論上は可能だ。ただ、どこにそんな魔物がいるだろうか?
ルルネは食い入るようにその地図と魔物の一覧表を見つめていた。
何かないか? どうにか出来ないか?
一刻を争う状況が、ルルネの思考を麻痺させていく。しかし、ルルネは深呼吸を繰り返し、頭を冷静にしていく。
大丈夫。何かしら手はあるはずだから。
そして、ルルネは思い出す。
昔、魔法薬師の学校に通っていた時、アレン先生が教えてくれたはずだ。竜の牙や竜の爪などの希少の素材は中々手に入れることは困難だった。そして、そこで代用した物があるのだと。
王都には王都のやり方。ここにはここのやり方があるのだと。
今思えば、その言葉を聞いてからルルネは、アレンの授業が好きになったことを改めて実感した。
あの素材を手に入れることが出来るのなら、薬を作り出せて少女を助けることが出来るかもしれない。
もうこれに賭けるしかないのだ。
「グレンさん! あたしをあの森に連れて行って下さい!」
ルルネのその言葉に、グレンは両目を見開いたが静かに頷いた。
「ああ、分かったよ。行こうか、あの森に」
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