第2話「ルナ・アルサーノ」
第2話目になります。こんな感じでほんわかしたストーリー出来ればと思っております。
第2話「ルナ・アルサーノ」
「わたしをあなたのお嫁さんにしてください!」
少女の言葉に、俺とルルネは固まってしまう。
えっ? この少女は今何と言った?
隣にいるルルネも同じ様な反応で、なんと言葉を出したら良いか分からないと言った感じだった。
それに対して、爆弾発言を投下した件の少女は、これでもかと言うぐらいに顔を赤く染めて、恥ずかしかったのか両手をその頬に当てていた。
大丈夫なのか? 湯気でも出るんじゃないのか?
そんな少女の姿を見て、俺は場違いな感想を抱くと同時に、ある一つの真理に辿り着く。それは……
……この子、めちゃくちゃかわいくないか!
そう、目の前の少女がめちゃくちゃかわいく思えてしょうがなかったのだ。
ルルネの言った通り、本当にこの世のものとは思えないぐらいにかわいいのだ。しかし、それならばどうしてそんな子が俺なんかの嫁になりたいと言ってきたのだろうか?
俺の聞き間違いではなければ、この子は間違いなく俺のお嫁さんにしてくださいと言ってきた。それが事実なのであれば、どれだけ嬉しいことだろう。
俺たちが何も言えないでいると、目の前の少女が上目遣いでこちらの様子を伺ってくる。気のせいか、その翠色の瞳は潤んでいる。
ぐっ……その表情は反則だと思うのですよ俺は。
「ダメ……ですか?」
そして、追い討ちとばかりにそう聞いてくるので、俺は慌てて言葉を絞り出した。
「ダメじゃないです」
思いの外、声は小さくなってしまったが少女には聞こえていたようで、さっきまでの表情が嘘みたいに、花が咲いたような笑顔に変わったのだ。
「じゃあ!」
「チェイサーッ!」
「あばべりば!」
ルルネからいきなりの右ストレートをもらい、俺は奇怪な言葉を発しながら殴り飛ばされ、机に激突した。
「あんたバカじゃないの!」
すぐさまルルネから罵声が飛んできた。
「いきなり何すんだよ!」
俺は痛む頬を抑えながら、ルルネにそう言い返した。
「あんたがバカだからでしょうが!」
さっきからバカバカしか言われてないんですけど!
「バカはどっちだ! いきなり殴ってくる奴がいるか!」
「バカなあんたが悪い!」
無茶苦茶な理由だな! おい!
「あっあの〜」
俺たちのやり取り見ていた少女が、恐る恐ると言った感じに声をかけてくる。
ルルネは俺をひと睨みすると、少女の方に向き直る。
「あのね、取り敢えずお嫁になるならないの件は置いておいて、いくつか質問させてもらっても良いかしら?」
ルルネの問いかけに、少女は首を縦に振った。
「それじゃあ、まずはあなたの名前は?」
「ルナ・アルサーノのです。名乗っていなくて申し訳ありません」
ルナ・アルサーノと名乗った少女は、ぺこりと頭を下げてくる。
「そう。ルナちゃんね。あたしはルルネ・ニーチェよろしくね。それじゃあ次の質問ね。ルナちゃん随分と若く見えるけど、おいくつなのかしら?」
「十四歳です! ちゃんと結婚できる歳ですよ!」
十四歳だって⁉ 正直、それよりも若く見えるぞ! てっきり、俺は十二歳とかそこら辺だと思っていたし。
驚きの事実に愕然としてしまう。それはルルネも同じだったようで、顔が軽く引きつっている。
そんな俺たちをルナさんは、不思議そうに見ていたので、誤魔化すために今度は俺から質問した。
「それじゃあ、ルナさん。今度は俺からの質問に答えてくれるかな? ああ、それと俺の名前はリアム・ラザールだ」
「はい。存じております。それとその前に、わたしのことはルナって呼んでくださいませんか? これから一緒に暮らすんですから、さん付けは距離がある感じがしませんか?」
「いや、まだ決まった訳ではないですし、そう言うわけには」
それに存じているって?
「よ・ん・で・く・だ・さ・い」
何とも言えぬ迫力を感じて、俺には「はい」と答える以外の選択肢は残されていなかった。
「わたしはあなたと呼ばせて頂きますね!」
そう言ったルナさんは、これでもないぐらいの笑顔を見せてくるので、そちらも受け入れる他はなさそうだった。
しかし、あなたか。何ともむず痒い感じだ。……いや待てよ! つい乗せられてしまったが、まだ結婚すると決めたわけではないのだが。
「それであなたの質問って、何なのですか?」
ああ、そうだった。今は俺が質問しようとしていたんだった。けど、あなたって本当に言われると恥ずかしいな!
「どうして、ルナが俺のそのお嫁さんになりたいなんて言ったのか、その理由を教えて欲しいんだ」
いきなり現れた超絶美少女がそんなことを言ったのだ。何か裏があると思うのは世界を探しても俺だけじゃないはずだ。
ルナは少し迷う素ぶりを見せた後、その小さな口を開いた。
「わたしはあの時からずっと、あなたのお嫁さんになりたいと思っていました」
あの時から? それってどういうことなのだろうか?
「ちょっと待ってくれ。あの時って、俺と君は以前に会ったことがあるのか?」
変な話ではあるが、ルナぐらいの美少女であればそう簡単に忘れないと思うのだが、どう頑張っても俺の記憶の中には、ルナと重なる人物はいそうになかった。
「はい、わたしとあなたは以前にお会いしております」
「ごめん、ちょっと思い出せそうにないんだ。良かったら、教えてくれないか」
「ごめんなさい、それはまだ秘密にさせてください」
人差し指を唇に当て、片目を瞑りながらそう言うルナの姿を見て、俺の心に何かが突き刺さる感覚に陥った。しかしも、かなり深く突き刺さったような感じで、何が言いたいかと言うと、今のルナの仕草に激しくときめいたのだ。
やばい、今のはやばい! 俺の年下好きと言う特性はなかったはずなのに、やばいぐらいに胸がときめいている。
俺がルナのかわいさに打ちのめされて何も言えないでいると、気が付いたら翠色の瞳が間近でこちらを覗き込んでいたので、大いに驚いてしまう。
「それであなた。わたしをお嫁さんにしてくれますか?」
ルナは改めて、俺の顔を真っ直ぐに見て聞いてくる。
正直な話、こんなかわいい子が俺の嫁になってくれるなんて、今でもそんな夢みたいな話があるのかと思えてしまう。でも、本当に俺なんかの嫁になっていいのだろうか?彼女なら婚約者ぐらい引く手数多だと思う。いや、確実にそうである。だから、俺は最後の抵抗に出ることにする。
「あのね、ルナ。それを答える前に今一度考えてほしいことがあるんだ」
俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべるルナ。無理もないと思うが、これだけは確認しなければいけない。
「ルナは俺のアトリエを見て、どう思った?」
「とても素敵な場所だと思いました」
「そ、そう?」
「はい! ここであなたがいつもお仕事をしているのだと考えるだけで、ここはとっても素敵な場所なんだって思えます」
瞳をキラキラと光らせ、両手で拳を作って力説してくれるルナ。そんなルナの言葉に俺は素直に照れてしまう。
「そこまでかな?」
「そうです! だってあなたのアトリエ何ですから素敵じゃないわけありません!」
純度百パーセントで言われていると分かるので、俺はますます照れてしまう。
「ありがとう、ルナ」
「いえいえです!」
「それでね、話の本題はここからなんだ。俺が何が言いたかったかと言うと、個人のアトリエを持っている人は、少なからずそれなりの収入を得ているはずなんだ。だけど、俺の収入は君が思っているよりも遥かに少ないと思う。だから、君が俺と結婚したところで幸せになれる保証はどこにもないんだ。それに、君ならいくらでも結婚相手はいると思う。結局、何が言いたいかと言うと、俺と結婚しても何にも良いことなんてないよってことなんだ。もちろん、お嫁になってくれるって言ってくれたことは、ものすごく嬉しかったよ。けど、君の幸せを考えるとどうしてもイエスとは言えないんだ」
俺は恥ずかしながら、今置かれている状況を説明した。儲けのほとんどを材料費の購入に充ててしまっているため、実入りはかなり少ない。俺一人なら良かったかもしれないが、これから誰かの人生を背負うと考えてしまうと、さすがに今のままと言うわけにもいかないだろう。
そう考えて言ったのだが、十四歳の小柄の少女の決意は固かった。
「わたしの幸せはあなたのお嫁さんになることです。だから、あなたが何を言おうとこの決意は変わりません」
「決して生活は楽じゃないよ?」
「一生懸命、やりくりを頑張ります」
「一日中仕事で構ってあげられない日とかざらにあるよ」
「わたしもあなたの仕事を手伝います」
「アトリエの中を見てもらえば分かるけど、俺って結構だらしないよ」
「大丈夫です。わたしが整理整頓してこのアトリエももっと使いやすくしますから」
どうやら、俺が何と言っても決意を変えないと言ったのは本当のようだ。
「それとも、わたしではあなたのお嫁さんには相応しくありませんでしたか」
そう言って見るからに落ち込むルナに、俺は慌てて弁明を入れる。
「決してそんなことはないって! むしろ、俺には超もったいないぐらいのお嫁さんだし! さっきも言ったけど俺のお嫁さんになってくれるなら、本当に嬉しいし! もしかしたら、嬉しすぎて空も飛べるかもしれない!」
途中から自分でも何を言いたいのか分からなくなってしまい、俺は一度深呼吸をしてから負けの一言を口にした。別に勝負をしていたわけではないけど。
「俺のお嫁さんになってくれませんか?」
もはや、彼女がどうして俺のお嫁さんになりたいかなんてどうでもよかった。いや、良くはなかったけど良かったのだ。
それぐらい、俺はこの少女に惹かれていた。出会ってまだ数十分ぐらいしか経っていないが、それほどその少女は魅力的だった。
俺の言葉に今度こそ、金髪少女――ルナは花が綻びるように笑ったのだ。そして、笑いながら、俺の手に自身の手を重ねた。
「はい! 喜んでです!」
彼女の手は驚くほど小さく細かった。だけど、そこから伝わる体温が心地良くて俺は不思議だなって思ってしまう。
ルナが笑うので、俺もそれにつられて笑ってしまう。
こうして、俺にいきなり嫁が出来ました。
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