第18話「舞踏会」
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第18話「舞踏会」
レストランでの食事を終えて、師匠の家まで戻ってくると、俺たちを出迎えた師匠は何故だかパーティー用のスーツに身を包んでいた。
「どうしたんですか? その格好?」
「これからパーティーがあるんじゃよ」
「へぇ~」
そうなんだと思いながら、ルナと一緒に部屋に戻ろうとすると師匠に蹴られた。
「何するんすか!」
「バカモン! お前も一緒に行くんだよ!」
「はっ? 何で俺も?」
「錬金術研究機構の所長がお前に会いたがっている」
それから師匠に引っ張られるように仕立て屋に連れて行かれて、そこで俺とルナはパーティー用の格好に着替えさせられてしまう。
俺は無難にパーティー用のスーツに着替えさせられ、ルナは淡いピンク色のふわっとしているパーティードレスに着替えていた。何でもボレロとか言うドレスらしい。
綺麗なルナの金髪も今はパーティー用に結い上げられている。俺が贈った青いリボンの髪飾りは、今は髪を止めるのに使われていて、首には俺が贈ったネックレスが付けられていた。かわいさの中に美しさがあって、俺はものすごくドキマギとしてしまう。
「うぅ~、こんな素敵な服を着たのは初めてです。どうですか、変じゃないですか?」
ルナは心配そうに聞いてくるので、俺は自信を持って答えた。
「大丈夫だよ。ちゃんと似合ってるし、めちゃくちゃかわいいよ。ものすごく俺だってルナのことを見てドキドキするし」
俺の言葉を聞いて、ルナは「はわわわ」と恥ずかしがっている。うん、その恥じらいもたまらなくかわいいらしい! 俺の嫁はやっぱり最高にかわいいです!
「着替えはすんだかの?」
「ああ、済んだけど。俺たちはこれからどこへ連れて行かれるんだ?」
俺の質問に、師匠は呆れたようなため息を吐いた。何故だ?
「さっきも言ったように、錬金術研究機構の所長がお前に会いたがっているため、今日行われるパーティーに招待されているのじゃよ。だから、今からそこに向かう」
「それさっきも思ったけど、どうしてそんなお偉い人が俺なんかに会いたがっているのかが分からないんですけど」
「お前はとにかくつべこべ言わずについて来ればいいんじゃよ!」
何だか怒られた。とは言っても、俺たちは未だに王都に呼ばれた理由も説明されていなかった。その状況でんなこと言われてもと思うのも事実であったりする。しかし、今の師匠に聞いても何も答えてはくれそうにはなかったので、俺は師匠にこれ以上の追及はしなかった。
なので、俺とルナは顔を見合わせると、黙って師匠についていくのだった。
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パーティー会場は、錬金術研究機構の建物が近くにある建物で行われてくぃた。何でも、この建物はパーティーを行う為だけに建てられた建物らしく、中もそれ専門の内装になっているらしい。
俺たちは師匠に連れられ中に入った。すると、そこではすでにパーティーが始まっており、さながら舞踏会を思わせる感じだった。
中には大きなスペースがあり、舞踏会に合う音楽が流れている。壁際にはたくさんの料理や飲み物が並んでいた。
何だか随分と場違いな場所に来てしまった感が半端ないと思ってしまう。隣にいるルナもそうだったようで、あまりの緊張感からか体がガチガチに固まっている。
「ルナ大丈夫?」
「ひゃっひゃい!」
うん、大丈夫じゃないね!
俺はルナの手を握ると、壁際まで移動してテーブルから果実ジュースを取りルナに差し出した。師匠はいつの間にかどこかに行っていた。どうせ、どこかで女の尻でも追いかけているのだろう。どこにいてもブレない人だとまったく!
ルナは「ありがとうございます」と言ってからそれを受け取ると、それを一口飲むとふぅ~と息を吐いていた。
「すごいところですね」
「まったくだな」
このダンスホールとも思える場所の内装は、これでもかって言うぐらいに凝っている。そして、今ここに集まっている人々は上流階級の人々ばかりなのだろう。俺でも気後れするのだから、ルナは相当なものだろう。
ルナは今は違うが、昔はスラム街で暮らしていた少女だ。だから、どうしたって自分がこんな所に来るとは思えないし、今の現実を受け入れられないのだろう。そんなことを気にする必要はないと言うのに。
「大丈夫だよ、ルナ。君はここにいる誰よりもかわいくて綺麗な女性だよ。だから、もっと自信を持っても大丈夫」
ちょっと恥ずかしかったが、ルナを励ます言葉がそれしか思い浮かばず、言葉にしたのだが、ルナはルナでトマトの様に顔を真っ赤に染めて肩を震わせている。
あれ? 選択を間違えたかな?
俺が不安に思っていると、しばらくの間、顔を赤くして固まっていたルナだったが、いきなり俺のスーツに顔を埋めてきた。
「そういう事をここで言うのは、反則ですよ」
うーん、どっちかって言うと今のルナの反応の方が反則な気がするけど。しかも、ルナの場合は、ぶりっ子とかではなく無自覚でやってきているので、なおさらぐっと来てしまうのだ。だけど、無自覚でやっているので、その分、ルナを他の男に近付けさせられないが。ルナに惚れられたら困る。
俺がバカなことを考えていると、こっちに視線が集まっている気がする。そして、実際、視線が集まっているのは気のせいではなかった。
何だか、踊っている人もそうでもない人も、こちらをちらちらと見てきているのだ。俺はルナを庇うようにして立つ。
どうして、こんなにも人がこちらを見てくるのだろう? 確かに俺たちは、この場には似つかわしくないが、それでもその視線は明らかに不自然だ。好機の視線、興味の視線、蔑むような視線やその他諸々の視線が一挙に集まっている。
一応、これは錬金術研究機構が主催で開催されているパーティーなので、錬金術師もちらほらとこの場にいるのだが、何故だかそう言った同業者からもそんな視線で見られているため、俺は何でだと思ってしまう。
本当にどうして俺たちはここに呼ばれたのだろうか? そして、どうして錬金術研究機構の所長は俺に会いたがっているのだろうか?
分からないことばかりだなっと持っていたら、急に流れていた音楽が止まったと思っていたら、壇上には一人の男性が立っていた。間違いなくあの人が錬金術研究機構の所長――アレックス・サンダラーだろう。齢は七十ぐらいだろうか。だが、それを感じさせない若々しさと言うかオーラがある。
「諸君、今日は私が開いたパーティーに良く集まってくれた。今日パーティーを開いたのは他でもない、重大発表があるからだ。しかも、この発表は今後の錬金術の歴史を新たに作ることになるだろう」
アレックスさんの言葉に会場は騒然となっている。もちろん、俺もその言葉に大いに驚いてしまう。錬金術の歴史を新たに作ることになるってどういうことだ?
俺が疑問に思っていると、アレックスさんは言葉を再開させた。
「諸君らは、今の私の言葉に大いに驚いたと思う。だが、驚くのはまだ早い。諸君らはこれから発表することにもっと驚くことになる」
アレックスさんは一旦そこで言葉を切ると、その続きを口にした。
「諸君らは万能霊薬と言う言葉を聞いたことがあるだろうか?」
万能霊薬。それは賢者の石と同じで、錬金術師としてそれを作れれば最高の名誉を与えられると言われている。だが、そんな話がどうしてここでされているのだろう? そもそも万能霊薬なんてものは、今となっては幻の薬と言われてしまっている。その話を、どうしてこんなところでしているのだろうか?
「勿体ぶってすまなかった。それでは発表したいと思う。実はこの中に万能霊薬の製造に成功した者がいる」
アレックスさんの言葉に、会場はこれまでないぐらいのどよめきに包まれた。かくいう俺もそのどよめきに包まれている一人ではあった。
万能霊薬の製造に成功って? それってかなりのビックニュース何じゃないのか⁉
確かにアレックスさんの言う通り、それは錬金術の歴史を新しく作ることになるかもしれない程の発表だった。それに、この中にその薬を作り出した人がいる。一体誰が作ったと言うのだろうか?
俺が考えていると、アレックスさんは言葉を補足した。
「ああ、すまない。一つだけこちらの説明に不足があった。正しくは万能霊薬とは少し違うが、けど限りなく万能霊薬に近いものだった」
その言葉に俺はますます戸惑ってしまう。アレックスさんの言いたい事がまったく見えてこない。
会場にいる錬金術師たちも一応に驚いたり動揺したりしている。この場に居合わせた上流階級たちは何の話が分かっていないようだった。まあ、そうだろうな。万能霊薬なんてものは、錬金術を学んでやっと知る薬だもんな。
「それで、その薬を作った人物は一体誰なんですか?」
我慢が効かなかった錬金術師の一人が、手を上げてアレックスさんに聞いている。
「諸君らはロゼルダ・メール博士を知っているだろうか? ロゼルダ博士は錬金術と言う分野で最前線を走っている方だ。そして三年前、博士は人生初の弟子を取った。その話はこの王都でも有名になった。三年が経った今、その弟子が快挙を成し遂げたのだ」
アレックスさんはそこで言葉を切ると、俺の方に視線を向けていた。
おいおい、それってまさか……
「リアム・ラザール、壇上へ」
名指して呼ばれてしまい、俺は壇上に上がらないといけなくなってしまう。俺はルナを連れて壇上のそばにまで行くと、ルナに向き直った。
「ルナ、ちょっとの間だけここで待っていてくれるか?」
「はい、お待ちしております。いってらっしゃい、あなた」
ルナが笑顔で送り出してくれるので、俺は緊張しているけど穏やかな気持ちで壇上に登ることが出来た。
「君がリアム・ラザールだね」
目の前に立って分かったことだが、アレックスさんはかなり長身のようで七十歳に見えないのは、身長も相まってのことなのだろう。
「それで、リアムくんはどうしてここに呼ばれたのか分かっているかい?」
「いえ、まったく分かりません。そもそも今の話の流れでは、万能霊薬を作り出した人が、ここに呼ばれる流れじゃなかったんですか?」
「だから、こうして呼んでいるのさ」
はぁっ? ますますこの人が言っていることが分からないんですけど。
「あの~、失礼ですけど僕は万能霊薬なんて作った覚えはありませんよ」
そうだ。俺は万能霊薬なんて作った覚えはない。そもそも作り方って誰にも分からないんじゃなかったっけ? だから、日夜今でもレシピを研究されているはずだ。
「いや、しっかりと君が作っているよ。前に君の師匠がとある薬を取りに行っただろう」
薬ってあの除霊薬のことか? でもそれが何の関係があると言うんだ。
「僕が作ったのはあくまでも、昔の本に書いてあったレシピで作った薬ですよ」
「だから、その薬が万能霊薬だったんだよ」
俺はアレックスさんが言った言葉に、耳を疑うことしか出来なかった。
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