第17話「王都デート・続」
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第17話「王都デート・続」
「ああ、リアム。今日は家でご飯を食べてくいきなさいな。きっとお父さんも喜ぶし、ニアもあなたに会いたがっていたわよ」
親父は錬金術の学校で教師として働いていた。何かと教師と言う職業は忙しく中々早くは家に帰ってくることはないが、学校では顔を合わせてはいたので、特に寂しいと思うことはなかった。そして、ニアは俺の三つ下となる妹だった。今は錬金術師になるために、俺と同じ学校に通って日々勉強に励んでいるはずだ。
確かに二人にも久々に会いたいと思う気持ちはあるが、今日はルナと一緒に王都を見て回ろうと約束していたので、俺はゆっくりと首を横に振った。
「今日は止めておくよ。これからルナと一緒に王都をぶらつこうって約束してたんだ」
隣に座っているルナが、「わたしは大丈夫です」と言いかけていたので、俺は先に「大丈夫」と言って、先手をかけておく。別に今日一日でスーザックに帰るわけではないので、わざわざ今日会わなくて別に構わないかとも思うのだ。妹のニアに関して言えば、会うと絶対にやかましくなる。
何だか妹の癇癪を起しながら、怒る姿が容易に想像できてしまうために、兄としては悲しかった。それに、俺が王都からスーザックに引っ越す時にも、ニアはそんな感じで治めるのに結構大変だった思い出があるために、今は会いたいが会いたくないと、何とも言えない気持ちで一杯なのだ。
「あら、そうなの? それは残念ね。きっとお父さんもニアも寂しがるわよ。特にニア何て、ねぇ?」
意味有り気な視線を母さんから送られてくるが、俺はそれをスルーする。何となく言いたいことは分かったので、俺はそこを触れないでいた。ルナも隣にいることだし。
「それじゃあ、母さん。俺たちはもう行くよ」
「もっとゆっくりしていけば良いのに」
「ごめん。これも急な帰省だったから。それにルナが両親にあいさつしたいって言うから来ただけだったから」
「そうだったの。でもまあ、元気な姿が見れて良かったわ。それに自分の息子が可愛いお嫁さんを連れて来たわけだしね。学生時代何て、あんたに浮いた話なんて一つもなかったから、母さん達はあんたが今流行りの男の子にしか興味がないのかって心配していたんだから」
「ちょっと待て! それは初耳だぞ! それにそれは今流行りとかではない! そして、あるまじき誤解だな!」
母さんからの衝撃的なカミングアウトに、俺は一気にツッコミを入れたためむせてしまう。すると、ルナが背中を優しく撫でてくれる。
「大丈夫ですか? あなた」
「あ……ああ、大丈夫だよ。ありがとう、ルナ」
「いえいえ、奥さんとして当然のことをしただけです」
そう言って微笑むルナに、俺も微笑み返した。そこに目の前でその光景を見ていた母さんが「あらあら、仲睦まじくて良いことね」と茶化してくる。
「茶化すなよ、母さん」
「ごめん、ごめん」
母さんは笑いながら謝ると、そのまま笑っている。
「俺たちもう行くからな!」
「はいはい、気を付けて行って来なさいな」
母さんは玄関まで俺たちを見送ってくれる。
「マリアさん、今日は本当にありがとうございました。急な訪問で本当に申し訳ありませんでした」
ルナはぺこりと、母さんに頭を下げた。それに対して母さんは「ルナちゃん、顔を上げて」と言って、ルナに頭を上げさせた。
「ルナちゃん、そんなにかしこまらなくても良いのよ。だって、ルナちゃんはもう私達の家族なんだから。それにね、私のことはマリアさんじゃなくて、お義母さんって呼んでくれた方が嬉しいかな」
「すみません」
「すみませんも禁止ね」
「分かりました……おっお義母さん」
ルナは恥ずかしそうに呟いた。それを聞いた母さんはルナのことをぎゅっと抱きしめていた。
「うん、可愛い。いっそのこともうここに住んでほしいぐらいだわ。ねえ、リアムどう思う?」
「無理に決まってるっしょ。俺にだってアトリエがあるんだし」
「だったら、リアムだけ帰ったらどうよ?」
「どうよじゃねぇよ!」
何てことを言いだすんだこの人は。
「すみません、お義母さん。わたしもリアムさんと共にアトリエで暮らしたいです。決して、ここでの暮らしが嫌と言うわけではないです!」
「分かってるから、そんなに必死に弁解しなくても大丈夫よルナちゃん。今のは私の冗談だから。それと、すみませんは禁止」
「あっ……」
ルナは無意識のうちに言っていたようで、慌てて手を口で覆っている。
「ほんと、あんたにはもったいないぐらいのお嫁さんね。こんな良い子はそうそういないんだから、絶対に幸せにしてあげるのよ」
「分かってるよ、そんなこと」
分かってる。分かってるよ。ルナは今となっては俺にとってはいなくてはいけない存在だ。だから、何が何でも幸せにしてみせるさ!
母さんから解放されたルナも、俺の隣に立つともう一度母さんに向かって頭を下げている。
「それじゃあ、本当にもう行くからな」
思いの外、実家に長居してしまった気がする。そう思いながら今度こそ俺たちは実家を後にしようとするが、そこでまた母さんに声をかけられた。
「リアム、もう少し頻繁に帰って来なさい。それと、帰る時にはもう一度ここに寄るのよ」
「ああ、善処するよ」
「まったく、あんたはいつまでも変わらないバカ息子だね」
俺は手を上げて応えると、実家を後にしたのだった。
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「悪いな、ルナ。やかましい親だっただろう?」
王都の街を歩きながら、俺はルナにそう問いかけた。
「いえ、そんなことはありません! とっても温かい家庭だなって思いました。でも、あなたのお義父さんや妹さんに会えなかったのは残念です」
「まあ、いずれ会えるよ。それにスーザックに帰る時にも実家には寄ると思うから、きっとその時に会えるんじゃないかな」
出来れば妹には会ってほしくはないけどな。
俺はそう思いながらも、ルナにそう答えた。
「そうですよね。もし会えたら今度こそ噛まずにあいさつ出来ればと思います」
「ルナ、最初はガチガチで噛みまくりだったもんな」
「もう! 恥ずかしいから言わないでください!」
ルナはぽかぽかと叩いてくるが、決して痛くはなく、むしろマッサージみたいになっている。
「ごめん、ごめん。少しからかい過ぎた」
俺はルナの頭を撫でて落ち着かせた。
「あなたは意地悪です! もう知りません!」
完全にルナは拗ねてしまい、顔をぷいとそむけてしまう。やばっ! からかい過ぎた!
「ほんとごめん。ルナ! あの時のルナがかわいかったからつい!」
俺は慌ててルナに弁明を試みる。だが、よく見るとルナの肩が微かに震えていて必死に笑いを我慢していることに気が付いた。
「えっと、ルナさん?」
俺が戸惑いながらルナに声をかけると、ルナはクスリと笑いながらこちらに振り向いた。
「ふふ、冗談ですよ。怒っていないので大丈夫ですよ」
騙されたってわけか。まったく、この少女はやる仕草が一々かわいいのでやってられない。
「それで、ルナ。今度はどこに行きたいとかあるか?」
「そうですね。でしたら、あなたのおすすめの場所を案内してください!」
「ああ、お安い御用だよ」
俺はそう答えると同時に、ルナの手を握るのだった。ルナはルナで嬉しそうに俺の手を握り返してきたのだ。
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それから、王都でも有名な観光スポットを回って行き、日も丁度いい具合に沈んでいたので、今はレストランの中にいた。
「ご飯ならわたしが作りますよ」
目の前に座るルナはそう言ってくれているが、これはあくまでもルナに感謝するために用意した場なので、ルナには悪いがここは引き下がってもらおう。
「確かにルナが作ったご飯は食べたいよ。だけど、今日はここで食事をしよう」
「でも、王都でのこういうのは高いと聞きますし。それに先ほどはこれも頂いてしまいました」
ルナが言っているのは、今まさにルナのふわふわな金髪に付けられている青いリボンの髪飾りのことだった。
さっき露店販売で見つけて、ルナに似合いそうだったのでプレゼントしていたのだ。
「別に気にしなくても良いよ。ルナにはいつもお世話になりっぱなしだからね。それに、ルナはそう言うの付けたらもっとかわいくなると思うし。もちろん、素のままのルナも全然かわいいけど。だから、何て言うか、俺がリボンを付けているルナの姿が見たかったから、君にそれをプレゼントしたってことじゃダメかな?」
俺の何の飾りもない言葉に、ルナは両頬を染めている。そんなルナの姿を見てこっちまで恥ずかしくなってしまい、俺たち二人の間には何とも言えない空気が漂ってしまう。しかし、ナイスなタイミングでウェイトレスさんが料理を運んで来てくれたので、その空気を何とか払拭することに出来たので一安心だ。
「それじゃあ、食べよっか」
「そうですね」
俺たちはさっきの空気を誤魔化すかのように、料理を食べ始めていた。
しばらくの間。俺たちは無言で食べ続けていたが、俺はとあることを思い出してルナの名を呼んだ。
呼ばれたルナは、小首を傾げて俺の方を見ている。
「君に渡しておきたいものがあったことを忘れてたよ」
俺はそう言いながら、懐から一つのネックレスを取り出しルナに差し出した。
「これは俺が錬金術で作ったネックレスで、魔よけの効果があるように作ってあるんだ。以前の一件から何があるか分からないから、ルナが安全で平和に過ごせますようにって意味を込めて作ったんだ。だから、受け取ってもらえると嬉しいかな。ほら前におまじないって言って、ルナがキスしてくれたろ。あれが結構安心出来てさ。だから、何か俺もルナに贈りたいって思ったんだ。だから、それはお守り的な物だと思ってくれ」
最初は驚き戸惑っていたルナだったが、恐る恐るそれを手に取るとそれを首に身に着けた。
「ありがとうございます、あなた。一生大切にします」
「時間がかかっちまってごめんな」
「そんなことありませんよ。あなたがわたしのことを想ってくれて作ってくれたんです。どんなに時間がかかっても待ちますよ」
そう言って、ネックレスを大切そうに両手で包みながら微笑むルナの姿を見て、俺は何とかネックレスを完成させた良かったと思った。
実を言うと、今ルナに贈ったネックレスは、除霊薬のレシピを参考にして作っていた。要は薬を作る時に使うメディシン溶液の部分を、ネックレスなどを作り出す時に使う素材に変えたのだ。そうして、何度かの調整を行いネックレスを完成させたのだ。
「でも、今日は何だかあなたからもらってばっかりな気がします。本当に良いのでしょうか?」
「良いんだよ。俺だって普段はルナに助けて貰ってばっかりだからね。こういう時は素直にお礼をさせてくれ」
「でも、わたしはあなたの妻として当然のことしかやっていませんよ?」
「その当然のことが、何よりも俺にとっては嬉しいんだよ。だからさ、これからもよろしくな、ルナ」
「はい!」
やっと俺の言葉に納得してくれたルナを見て、良かったと思いながら俺は食事を再開させた。
シンプルなネックレスは、彼女の魅了をより引き出してかなり彼女に似合っていた。
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