第16話「王都デート」
第16話目になります。よろしくお願いいたします。
第16話「王都デート」
ルナの了承が得られたので、俺たちは早速王都の街へと繰り出していた。考えてみれば、こうしてゆっくりと街をルナと一緒に歩くのは初めてかもしれない。この一ヶ月、仕事や降霊術絡みの事件のせいでバタバタとしてしまい、ルナとこうしてゆっくりと出かけたことはなかったのだ。
ある意味、師匠に感謝かもしれないな。
「あなたとこうしてゆっくりと歩くのは、初めてですね!」
ルナも同じことも考えたらしく、嬉しそうに微笑んでいる。こうして喜んでくれるなら、もっと早くこうするべきだったなっと俺は後悔してしまう。
「ほら、はしゃぐと危ないぞ」
いつも以上にはしゃいでいるルナの姿を見て、俺は嬉しくなると共に軽く注意する。ルナのその姿は十四歳の年相応だった。
こんなにはしゃいでいるルナを見るのは初めてだな。何だか、今日は初めてのことばかりだな。
俺は苦笑気味に笑いながら、前を歩いているルナを追いかけようとするが、言っているそばから、ルナが目の前を歩いていた通行人にぶつかってしまう。
「申し訳ありません」
ルナは慌てて頭を下げている。俺もルナに追い付き通行人に頭を下げた。そしたら、「リアム、久しぶり!」と声がしたので、顔を上げると何とその通行人は俺の見知った顔だった。
「って! ザウラ!」
「そうだよ! 元気だったか!」
「ああ、俺は元気にやってたよ! お前は?」
「ああ、オレの方もぼちぼちかね。お前よりかはすごかねぇよ」
「またまた、謙遜すんなよ」
目の前に立っていた青年は、ザウラ・ザラン。俺が錬金術の学校に通っていた時の同級生で、何かと一緒に行動していたのだ。
学校を卒業をしてからは、俺は師匠の元で錬金術の勉強をして、ザウラは両親が錬金術師だったので、そこのアトリエに入り日々忙しくやっていたはずだ。
「いやぁ~、まさかザウラと会うなんて思わなかったぜ」
「そりゃあ、こっちのセリフだっての。お前、ここから出て二年間経ったけど、一度も帰ってこないわ、連絡寄越さないわだったじゃねぇか。だけど、上手くやってるみたいで安心したよ。ロゼルダさんがお前を追い出して、スーザックのアトリエに置いてきたって聞いた時は本当に驚いたからな」
「ああ、あれな。あれは俺も驚いたよ」
まさか、追い出されたのが言われた当日で、あのアトリエを与えられたのもその日だったのだから。
「それで、今日はまたどうして? まさかとは思うがお前のアトリエの評判が良くて、王都に移転するとかか? 結構、お前のアトリエのことは王都でも話題になってるところだったからな」
「へぇ~、そんなになってたのか」
「へぇ~、ってお前興味なさすぎないか!」
俺の態度にザウラは呆れたように肩を下ろしていたが、そこでルナの存在に気が付いたのか、両目を見開いてルナの姿を見ている。
そんなザウラの姿が怖かったのか、ルナは怯えるように体を俺の背中に隠している。
「おい、ザウラ」
俺は固まっている旧友に声をかけるが、まったく反応がない。屍なのかなっと思えてしまう。
俺が不思議に思っていると、次の瞬間、ザウラがいきなり叫んでくる。
「超絶かわいい!」
「いきなりなんだよ?」
突然叫びだした旧友に、俺は訝し気な視線を送ってしまう。
「なんだよじゃあねぇよ! お前の隣にいた少女って誰なんだ? めちゃくちゃかわいくなかったか?」
ザウラの言っているのはルナのことだろう。そういや、紹介してなかったな。それにルナも置いてけぼりにしちまったし。
「ルナ、ごめん。紹介が遅れたけど、目の前に立っている男は俺が学校に通ってた時に知り合ったザウラ・ザランだ。やかましい奴ではあるけど、良い奴ではあるから」
俺の説明に安心したのか、ルナは俺の背中から顔を出すと改めてザウラに頭を下げた。
「先ほどは申し訳ありませんでした。夫のご友人だったんですね。わたしはルナ・ラザールです」
「ルナ・ラザール? 夫……?」
ザウラはルナの言葉を聞いて再び固まったが、すぐさま硬直から解けると俺の肩を掴むとグラングランと揺さぶってくる。
「夫ってどういうことだおら! お前まさかとは思うが、こんなかわいくて若い子を嫁にもらったって言うのか!」
その表現は止めてくれないかな。何だか年を取ったみたいだ。
「そのまさかだよ。ルナは正真正銘俺の嫁だよ。指輪だってしてるし、役所にも書類は出してあるよ」
俺はザウラを落ち着かせるために、あえて全てを話したのだがそれが逆効果だったようだ。
「ふざけんなよ! 俺は勝ち組ですアピールか! こちとら彼女の一つや二つも出来たことがないのに、何でお前がさらっと結婚してるんだよ!」
何だか段々とめんどくさくなってきたな。それに、旧友に会えたのは嬉しかったが、今日の目的はルナと一緒に過ごすことだ。こいつばっかりに構ってはいられない。
「悪いけど、俺らはこれから用があるからもう行くわ」
「ああん! デートか! リア充か! 爆ぜてしまえ!」
一々うるさい奴だな。でも、それがザウラではあるのだが。
俺はそんなことを思いながら、ルナの手を握るとそのまま歩き出した。
しばらく歩いたところで、ルナが心配そうに聞いてくる。
「良かったのですか? 久しぶりにお会いしたご友人だったのに」
「別に良いんだよ。むしろ、俺とザウラの感じはあれぐらいがちょうどいいんだよ。それに、今日はルナと過ごそうって決めてるからね」
俺の言葉に、ルナは嬉しそうにはにかんでいる。
「ありがとうございます。あなた」
「別に良いよ。俺だって仕事だ何だって、構ってはあげられてなかったし。それとルナはどこに行きたいとかあったりする? 無ければ俺が適当に王都を案内するけど」
俺の問いかけに、ルナは少しの間考えたそぶりを見せると、その行き先を口にした。
「あなたが良ければ、あなたのお家に行きたいです」
ルナの言葉は、俺を動揺させるには十分な破壊力を秘めていた。
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来てしまった。
結局、ルナのキラキラしていた瞳には勝てず、俺は実家へと来ていた。確かに俺は王都出身のため、ここが故郷と言うことになるのだが、この実家に戻ってくるのも二年ぶりなるのだ。
そこで考えてみよう。二年ぶりに帰ってきた息子が、いきなり嫁(結婚できる歳とは言え、実年齢より二歳ほど若く見える)を連れて来たら、果たして親はどんな反応をするのだろうか? うん、俺間違いなく王城に務めている近衛兵に捕まらないだろうか?
その考えが頭の中を過り、俺の足を実家の扉の前で鈍らせていたのだ。
いつかは自分の両親にルナを紹介するつもりではいたのだが、それがまさか今日になるとは思わなった。でも、考えてみればルナの性格上から両親にあいさつをしたいと思うのは至極当然のことかもしれない。
「あなた?」
俺が扉の前で固まっているのを訝しんだルナが、声をかけてくる。
ええい! こうなってしまったらなもうやけくそだ! どうとでもなってしまえ!
俺は決まらない覚悟を決めると、扉を押し開けた。
「ただいま」
部屋の中に声をかけると、中から齢四十ぐらいの女性が出てくる。説明するまでもなく、俺の母親だ。
「あら? リアム帰ってたの⁉」
俺の顔を見て、驚きを露わにしている。それもそうだろう。何にも連絡を入れずに帰っても来ればこうなるか。
「師匠にいきなり呼び出されたんで、こっちに来たんだよ。用が済んだらすぐに帰るけど」
「あらあら、そうなの。ゆっくりしていけば良いのに。それとそちらにいる可愛らしいお嬢さんはどうしたのかしら?」
母さんはルナの存在にも気が付いていたようで、ルナを不思議そうに見ていた。対して、ルナは一歩前に出ると母さんに一礼した。
「はっ初めまして。わたしはルナ・アルサーノです! リアムさんのおっお嫁しゃんにさせて頂きましゅた!」
噛んだ。しかも二回も!
俺はあんまりにもルナが微笑ましくて、笑ってはいけないと思ってるのに、クスクスと笑ってしまう。それを見たルナはぽかぽかと俺にやってくるが、ちっとも痛くなかった。
そんな俺たちを見て、最初は戸惑っていた母さんだがやがて笑うと、俺たちを中に招き入れた。
「改めまして、ルナちゃん。私はリアムの母のマリアよ。よろしくね」
「はい! よろしくお願いします!」
席に着いてすぐに母さんがそう言ったので、ルナもまた頭を下げている。
「少し待っててくれるかしら。今お茶を入れるわね」
「あっ! わたしもお手伝いします!」
「あらあら、お客さん何だから座ってて良いのよ」
「いえ、わたしがお手伝いしたいんです!」
ルナの申し出に母さんは少し考えた後、「それじゃあ、お願いしようかしら」と答えた。その言葉を聞いてルナは笑顔で立ち上がった。
キッチンでルナと母さんは並んでお茶の用意をしている。何だかその光景は親子としか思えなかった。そんな光景を見せられて、俺は本当にルナをお嫁にもらっても良かったのだろうか? と再び疑問に思ってしまうが、首を横に振ってその雑念を振り払った。だが、ルナと母さんが戻ってくるまでは、その雑念が頭を過っていた。
「それじゃあ、もちろん二人の馴れ初めを聞かせてくれるのよね?」
お茶の用意が終わった母さんとルナが席に着き、母さんは席に着くなりそう切り出した。
俺は特に隠すようなことはなかったので、素直に俺とルナがどう出会ったか、どうして、結婚することになったかを説明した。
母さんは終始無言で俺の話を聞いていたが、話を聞き終えるとルナの方に視線を動かした。
「それで、ルナちゃん」
「ひゃっひゃい!」
ルナはまだ緊張しているのか未だに噛みまくりだ。そんな姿も微笑ましいのだが。
「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
母さんもルナの緊張の仕方がおかしかったのか、くすくすと笑っている。ルナはルナで恥ずかしかったのか、小柄な体をさらに小柄にして縮こまっている。
「それでねルナちゃん。私が聞きたいことは一つだけよ。ルナちゃんは、うちのバカ息子のことをどう想っているの? もちろん、大好きってことは分かるわよ。ただ、改めてルナちゃんから聞かせてくれないかしら。なんせ、うちのバカ息子だからね」
おい、本人を目の前にしてバカ息子言うな。それと、どさくさに紛れて二回も言いおったよ、この母親は!
隣に座っているルナは、ぎゅっと俺の手を握り深呼吸をして心を落ち着かせてから口を開いていた。
「わたしは、リアムさんのことが大好きで愛しています。あの時、わたしのお母さんを助けてくれた時から、ずっとわたしはリアムさんのお嫁さんになってずっとそばで支えていきたいと思っていました。あんなにかっこいいリアムさんを誰よりも近くで支えたいって、そう思って二年間を生きてきました。だから、わたしの思いはこれから先何があっても変わることはありません。わたしはリアムさんのお嫁さんになりたいんです。リアムさんじゃなきゃダメなんです。だから……だから……この先もリアムさんのお嫁さんで居続けたいって本気で考えてます!」
十四歳とは思えない迫力で、ルナは母さんにそう告げた。本当にこの小柄の少女のどこにこんな決意が、熱意があるのだろうかと思ってしまう。
「ルナ……」
知らず知らずのうちに、俺はルナの名を呼んでいた。ルナの瞳は、決意の色で満ち溢れていた。
ああ、こんなにも誰かを想えたことも初めてだし、こんなにも誰かに愛されるって嬉しいことなんだ。
俺は恥ずかしい気持ちになりながらも、心の中はとっても温かくなっていくのを感じる。
母さんはしばらく何も答えなかった。しかし、やがて柔らかく微笑むとルナに言ったのだ。
「ルナちゃん、ありがとね。こんなにもリアムのことを想ってくれて。私も正直、ルナちゃんみたいな子がお嫁だと本当に嬉しいわ。リアムのお嫁さんになってくれてありがとう。それと、これからもリアムのことをよろしくね」
母さんの言葉に、俺とルナは顔を見合わせて微笑んだ。そして、
「こちらこそお願いします」
ルナの顔に満開の笑顔が咲いたのだ。
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