第15話「王都へ」
第15話目になります。よろしくお願いいたします。
第15話「王都へ」
ゆっくりと景色は流れていき、のどかな自然が広がっていた土地から、どんどん建物が密集しているような景色へと変わって行く。
王都【キーリン】
この王国【グリゼルダ】の中心となっている区画だ。東西南北で分割されているグリゼルダではあるが、そこには中央に位置する街があるのだ。それが王都【キーリン】だった。この王都には国王が住む城があり、それを中心に栄えていた。俺が暮らしている南区画【スーザック】は自然が豊かなのに対し、王都【キーリン】は人工物が多かった。様々な建物が建てられているため、栄えている反面、自然物はその分少なかった。それに王都には各分野での最高機関が置かれている。例を挙げるのなら、俺の錬金術師の錬金術研究機構であったり、ルルネの魔法薬師だとするならば、魔法薬研究機関なるものが色々と置かれていた。
「王都か。どんな所なんでしょう」
隣に座っているルナが、わくわくと言った感じに呟いている。俺たちは今馬車に揺られて王都に向かっている真っ最中だった。
王都か。二年ぶりになるのか。
「ルナは王都には行ったことないのか?」
「はい。話は聞いたことがありましたけど行ったことはないです。そもそも王都に入るには、入場許可書がなければ入れないじゃないんですか?」
「ああ、そういやそうだ」
ルナの言う通り、王都にはいるには入場許可書が必要になる。王都には王城があるため、王城から発行される入場許可書が必要となってくるのだ。それを持っていなければ王都に入ることは不可能なのだ。今回は師匠が入場許可書を用意してくれていたので、俺たちは何の問題もなく、王都に入れるわけだ。
「でも、今日は大丈夫。師匠が俺とルナの分を用意してくれたからちゃんと入れるよ」
「はい! だから、ものすごく楽しみです!」
ルナの翠色の瞳が輝いているのを見て、俺も自然と笑みが零れてしまう。
しかし、またこうして王都に来ることになるとは思っていなかった。
師匠はどうして俺を呼び寄せたんだろう? そして、あの手紙の真意は何なんだ?
『リアム・ラザール。至急王都まで来るように』
手紙にはそう短く書かれて、俺とルナの入場許可書が同封されているだけだった。どうして、俺たちを王都に呼び寄せたかの理由はまったく書かれてはいなかった。
本当に訳が分からない。
俺が思考にどっぷりと浸かっていると、隣から小さく「あっ!」と声が聞こえてくる。
「あなた見えてきましたよ!」
ルナが指差す方に視線を向けると、王都の象徴とも言える王城が見えてくる。
「そうだな。そろそろ着く頃か」
俺は頭を軽く振って余計な考えを振り落とした。どうせ師匠に会えばすべて分かることだ。今は考えるのは止めておこう。
俺はそう考え直し、隣に座っているルナに声をかけた。
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馬車から降りて、俺とルナは正門に向かって歩いて行く。やはり、王都と言うべきか、正門からしてしっかりとして作られている。俺が暮らしているスーザックとは大違いだなと思ってしまう。
俺とルナは正門で待機している近衛兵に、入場許可書を見せてから中に入って行く。
中に入ると俺はともかくとして、ルナが固まり驚きで両目を見開いていた。
それもそうだろうな。だって、王都にはたくさんの人が暮らしている。東西南北の各エリアで暮らしている人々の何倍も多い数がここで暮らしているのだ。それに、入った瞬間から、大通りでたくさんの人々が行き来して、出店が頻りに客に声をかけて商売をやっている。こんな光景はスーザックなどでは見られない光景でもあった。
「驚いたか? ルナ」
俺は未だに固まっているルナに、そう声をかけた。
「はい。話では知っていましたが、まさかここまですごいとは思いませんでした」
ルナの感想は最もだと俺も思う。スーザックなどしか知らない人から見れば、この王都はあまりにも別世界過ぎるのだ。
辺りを見渡せば家屋が建ち並び、人が往来する大通りがある。こんなのは王都だけだと言えるだろう。
「あなたは驚かないのですね」
「あっああ、実は俺、王都出身なんだよ。だから、これが当たり前だって思ってた。けど、スーザックで暮らしてみて、それが当り前じゃないって知った。だから、最初はあそこで暮らすことになって大変なことばかりだったな」
俺は昔のことを思い出して、苦笑いしてしまう。今も自分一人では生活態度は悪いが、昔の自分はもっと生活態度が悪かったと言えるだろう。
「そうだったんですね。やっぱり、ここでの暮らしの方が良かったですか?」
ルナのその疑問に俺は少し考える。
確かに王都はこれだけ栄えているだけあって、特に不便をすることはなかった。その反面、スーザックなどは王都ほど栄えていないため、不便することは度々に合った。
確かに暮らしの環境でどっちが良いのかと言われれば間違いなく王都だろう。だけど、
「俺は今の生活の方が良いかな。俺にはあのアトリエでの生活が好きだよ。ルナもいるし」
俺の言葉にルナは顔を赤く染めて「そうですか……」と呟いている。まさか、こんな回答がくるとはルナ自身も思っていなかったのだろう。もじもじと恥じらっている姿が何ともたまらなかった。
この場で抱きしめてしまいたい感情に支配されるが、とりあえずは師匠の家に向かわないといけないと考え直して、俺はルナに手を差し伸べた。
「それじゃあ、行こうかルナ」
「はい!」
ルナは嬉しそうに俺の手を掴んだのだった。
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師匠の家は意外にも普通な二階建ての一軒家だった。師匠クラスになると収入面は莫大な額が入ってくるため、豪邸を建てたりとして暮らしている錬金術師もいると聞いている。もちろん、それはあくまでも一部の錬金術師であって、他には自分の研究室を作って、新しいものを創り出すための研究をしている錬金術師もいる。要は人それぞれなのだ。
師匠もそれぐらいの金額を稼いでいるはずなのだが、まあ、師匠には悪癖があるわけですし。
俺は師匠の家までやってくると、チャイムを鳴らしたが反応はなかった。
はぁ~~、やっぱりか。多分昨日もお楽しみだったんだろうよ。
俺は空を仰ぎたい気分になるが、こうもしていられないのでルナに向き直った。
「ルナ、悪い。少しここで待っていてくれるか?」
ルナは素直に「はい」と頷いてくれるので、俺はルナに感謝しつつノブに手をかけて一気に扉を開けた。やっぱり、鍵は掛けられてはいなかった。
俺は昔の記憶を頼りに廊下を進み、突き当たりの扉を押し開けた。すると、その部屋には大きめのベッドが置いてあり、そこには裸の男女が抱き合って眠っていた。
やっぱり、こうなっていますよね。はい。
師匠は昔から女癖が悪く度々こうして飲み屋の女の子を持ち帰り、こうして朝までファイトしてしまうのだ。
紳士的ななりして何をやってるんだ、このエロジジイは!
俺はこのエロジジイを起こそうと思ったが、隣に一緒に眠っている子があんまりにも気の毒な気がしたので、何も言わずに俺はそのまま寝室を後にした。
玄関まで行くと、ルナがそこで大人しく待っていてくれた。本当に良く出来た嫁である。
「ロゼルダさんはどうでしたか?」
「師匠? えーと」
俺は一瞬何て答えようか迷った。こんな純粋な子にあんなものは見せられない。だからここ待っていてもらったわけだし。
「何だかまだ寝てたから、何も言わずに置いてきた」
俺は迷った挙句、無難な答えを返していた。
「そうだったのですか。ロゼルダさんも忙しい方ですものね。だって、あなたの師匠なんですから、すごい人なんですもの」
うん、確かに錬金術師としてはすごいんだけど、師匠が寝不足になっているのはそうじゃないんだよ。
俺は何とも思えない気持ちになりながら、このままでは意味もないし荷物を置くために二階の俺の部屋だった場所に向かった。
意外にも俺の部屋は、俺がここを出た(追い出された)時のままの状態だった。
「ここで、あなたが三年間暮らしていたんですね」
「まあ、そうかな」
ルナがやたらと嬉しそうなのは何でだろう?
俺はやたらとはしゃいでいるようなルナの姿を見て、不思議に思ってしまうのと同時に、自然と笑みが零れてしまっていた。そんなルナの姿がたまらなくかわいかった。俺がそんなことを思っていると、頭の中にルルネの声が再生された。
『あんたの場合、どんなルナちゃんを見たとしても、かわいいって言うでしょうが!』
俺は頭の中のルルネの言葉に、一人納得してしまう。確かに俺はどんなルナの姿を見てもかわいいって思ってしまうだろう。だってかわいいんだから。
それにルナは、この一ヶ月で様々な表情を俺に見せてくれた。仕事に詰まった時とかに、どれだけ彼女の笑顔に、存在に救われただろうか?
ルナが俺に与えてくれた影響を考えたら、キリがないぐらいに俺はルナに助けられていた。
本当に最初はどうなるかと思っていたと言うのに、今ではルナがそばにいてくれないと落ち着かないぐらいに、俺の中でのルナの存在は大きくなっていた。
だから、俺はこの王都に来たら彼女に何か恩返しをしたいと考えていた。いつも、俺のことを第一に考えてくれる彼女に。だから、俺はルナに恩返しをするための作戦を決行するために、ルナに声をかけた。
「ルナ、ちょっと良いか?」
「はい? 何ですかあなた?」
小首を傾げながらこちらを見るルナは、とても愛らしかった。
くそッ! かわいすぎるッ!
俺はルナの可愛さに悶えそうになりながらも、何とか続きを口にした。
「ルナさえ良ければ、これから俺と一緒に出掛けないか?」
俺の下手くそな誘いに、ルナは満面の笑みで答えるのだった。
「はい! 喜んでです!」
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