第14話「突然の来訪者」
第14話目になります。楽しんで頂ければと思っております。評価やブックマークなど本当にありがとうございます。これからも頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。
第14話「突然の来訪者」
あれから、作業を再開したリアムを見て安堵の息を吐くと、ルナはアトリエの掃除を再開させていた。グレンとルルネの二人は報告を終えると、すぐさま帰ってしまった。
良かった。あなたの元気が戻ってくれて。
この一週間、リアムの元気がないことはルナも気が付いていた。なので、何とか元気を取り戻してほしいと思っていた。なので、リアムの元気が戻ってくれて本当に嬉しかったのだ。
ルナは鼻歌を口ずさみながら掃除を進めていく。このアトリエに来て一ヶ月が経とうとしているが、ルナとしてはこのアトリエに来てからの一ヶ月がとても早く感じていた。
ルナが掃除をテキパキと進めていると、アトリエの入り口の扉が外から開けられて、一人の男性が中に入ってくる。
「いらっしゃいませ」
ルナは笑顔で接客する。これもリアムの奥さんとしての大事な務めだ。
その男性は、背筋をピンと伸ばしスーツに身を包んでいた。齢は六十歳ぐらいだろうか。顔には皺が刻まれている。
「ご依頼はどういう内容でしょうか?」
ルナは笑顔で接客していく。しかし、その男性は何も答えずにその場に立っている。
ルナはその男性を見て、不思議そうに首を傾げてしまう。しかし、その表情はアトリエに響いた声で驚きへと変わった。
「師匠!」
***********************
俺は師匠――ロゼルダ・メールの突然の来訪に驚きの声を上げてしまう。
「あなた?」
俺の叫びにルナが小首を傾げている。ああ、ルナは師匠のことを知らないもんな。
「紹介するよ、ルナ。この人は俺の錬金術師としての師匠なんだ。俺が学校を卒業してからは、三年間は師匠の下で世話になったんだ」
ルナは俺の話を聞くと、師匠に向かってぺこりと頭を下げた。対して師匠はルナの姿をまじまじと見ていた。
何だろうと思っていると、いきなり師匠がルナの手を取って言ったのだ。
「そなた、ワシの嫁にならぬか?」
いきなり、ルナのことを口説き始めたのだ。
「おいジジイ! 人の嫁に何言ってんだ!」
そういや忘れてたが、この人は極度の女ったらしなのだ。錬金術師としての腕は間違いなく最高のランクに位置する師匠ではあるが、私生活の方は最悪と言ってもいいだろう。
そういや、俺が師匠の元にいる時も毎晩のように女の子と飲み歩いていたっけな。
「がっははは、こんなにかわいくて健気な子が小僧の嫁なんぞ片腹痛いわ」
「うっせーな。ルナは間違いなく俺の嫁なんでね」
「寝言は寝てから言えと、前から言うておるじゃのうて。ルナちゃんと言うたかの。こんなパッとしない小僧の嫁なんぞやってないでワシの嫁にならんか? こんなしょぼくれた生活よりももっと良い生活もしてやれるし」
ぐっ……痛いところを突かれたな。
確かに師匠の言う通りの所はある。師匠はその腕を見込まれて、王都【キーリン】で錬金術師として活動している。そこの研究機関に入ることが出来れば、完全なエリート人生が約束される。そして、収入面に置いても俺と比べれば天と地の差が出てきてしまう。
師匠が言っていることは最もだった。ルナの幸せを願うなら、確かに師匠と共に暮らした方が楽に暮らせるだろう。と思ってしまうが、ルナは首を横に振ると俺の手をギュッと繋いでくる。
「わたしはあなたと共に一緒にいると決めています。なので、どんな条件を出されたとしても、わたしの気持ちが変わることはあり得ません!」
キッパリと言い切るルナに、師匠は最初は驚いた顔をしていたが、次第にその顔は綻んでいく。
「そうかい、そうかい。なら、この馬鹿弟子を任せても良いかの?」
「はい! お任せください!」
師匠の言葉にルナは握り拳を作りながら答えるのだった。
***********************
「それで今日は何の用だったんですか?」
俺たちはルナが入れてくれた紅茶とクッキーを摘まみながら席を囲んでいた。
俺の記憶が正しければ、師匠がここに来るのなんて一年ぶりかそれ以上だ。
「リアムに一つ話がある」
さっきのふざけた感じはどこへやら、今は真剣な表情でこちらを見てくるので、無意識な内に俺も背筋を伸ばしてしまう。
「話とは?」
「その前に、リアム。お主ここ最近で新しい薬を錬金したじゃろ?」
「新しい薬? そんなの作った覚えはないけど、もしかしたらこれのことか?」
俺は以前に作った除霊薬の調合レシピを師匠に見せた。
「俺が作ったと言うのなら、ここ最近ではそれぐらいしかないですよ。それにそれはあくまでも新しい薬と言うよりも、昔のレシピを何とか今の形に落とし込んで再現させただけですし」
新しい薬を錬金したと言われても、あまりピンとこないのだ。あくまでも俺は昔のレシピを用いて作っただけだったからだ。しかし、目の前に座る師匠は何故だか難しい顔をしていた。
「使った素材は何じゃ?」
「えっと、虹色鉱石に蒸留液、ガーベラ、メディシン溶液ですね。ただ、蒸留液に関しては、蒸留に使った物によっても蒸留具合が変わってしまうので、それを調整するのが大変でしたけど」
「その薬の成分は調べたかの?」
「いえ、あの時は焦っていたのでそこまではしていませんけど、それがどうかしたんですか?」
「はぁ~」
俺が聞き返すと。、盛大にため息を吐かれてしまう。何故だ?
「何なんですか、そのため息は?」
「いや、馬鹿な弟子を取ってしまったと、後悔していたところじゃよ」
「ひどくないですかそれ?」
あんまりな言われようだと俺は思ってしまう。
「それでここから本題何じゃよ」
「本題ですか?」
「実はな……」
師匠の話では、俺が今回作った除霊薬が王都の錬金術研究機構の間で話題になっているそうだのだ。いわく、除霊薬何てものは聞いたことがないと。それで錬金術研究機構から師匠の所に、その薬を調べさせてくれとの依頼が入ったと告げられた。
そもそもどうして王都がそのことを知っているかと言うと、ここで起きた事件は近衛団の報告書で王都に行くことになっている。きっとそこにその薬のことが書かれていて、研究機構が嗅ぎ付けたとかそんなオチだろう。
「だから、師匠はその研究機構からの依頼で、その薬を取りに来たってことで良いですか?」
俺の問いかけに師匠は頷いて見せた。
「でも、レシピさへ渡せば王都の連中なら簡単に作り出せると思うんですけど」
王都にいる錬金術師はエリートばかりだ。俺よりも腕の立つ錬金術師だってゴロゴロといる。それが何故、俺が作った薬を解析したがるのだろう。自分たちで作れば済むことなのに。
俺があーだこーだと唸っていると、早く作ってこいと追い出されてしまったので、仕方なく俺は作業部屋へと向かった。
***********************
錬金釜の前に立ち、俺は意識を集中させる。これは結構緊張する作業でもあるのだ。
前にやった手順を思い出して材料を釜に投入していく。
虹色鉱石を入れて、少し経ったところに蒸留液とガーベラを入れて最後にメディシン溶液を加える。
すべて以前に使った時のあまりなので、そのまま使っても問題ないはずだ。
以前行った時は、蒸留液作りに一番の苦戦を強いられていた。なんせ、一昔前に作られた蒸留液に使われた材料は今の時代では到底手に入らないようなものだったからだ。それに似た成分の物を用意して錬金して、蒸留液を作り出したのだが果たしてあれが正解だったのかは今でも分からない。だけど、アレンが目覚めて除霊を行えているのであれば成功だと言えるだろうな。きっと。
俺はそう考えながら、釜の中へと意識をさらに集中させた。釜の中では今まさに調合反応が始まろうとしていた。
釜の中の液体が赤色へと変わり、それは次第に青くなっていく。それは次に緑色に変わる。色の変化をトータルで繰り返すこと七回。遂にその時は訪れた。
釜の中が輝きだして、その輝きが止むころには中には一つの薬が出来上がっていた。
俺は青い液体が入った注射器を釜の中から取り出した。
「うん、寸分違わず出来たかな」
俺は薬の出来栄えを見て、俺は頷いて見せた。
よし、これで良いだろう。
俺は薬を持ってリビングに戻った。
リビングに戻ると、リビングではルナと師匠が楽しく談笑しているところだった。
「ルナ、悪かったよ。セクハラくそジジイの相手をさせちまって」
「あなた! 薬が出来たのですね」
「ああ、前に使った材料があまってたから、そんなに苦戦はしなかったよ」
「馬鹿な弟子の声が聞こえるわい。それで薬は」
このジジイ、人の嫌味を聞き流しやがった!
「ほら、これで良いんですよね?」
俺は作ってきた薬を師匠に差し出した。師匠はそれを受け取ると胸ポケットにしまい込んだ。
「うむ、確かに薬は受け取った。ワシはすぐさま戻って、これを研究機構に持って行こうと思っとる。その結果が分かったらお前にも連絡しよう」
師匠はそれだけ言うと立ち上がった。どうやら帰るようだ。
「本当に薬を取りに来ただけなんですね」
「ワシの用はそれだけじゃからな。それに、アトリエも上手く回っているようで安心したわい」
「師匠」
師匠はそのまま扉まで歩いて行く。
「ああ、ぞうじゃ。リアム、今の生活は楽しいか?」
いきなりの師匠の質問に俺は戸惑ってしまうが、思っていたことを即答した。
「ええ、楽しいですし何より幸せですよ」
俺の返答に師匠は満足そうに頷くと、今度こそアトリエを立ち去って行った。
「何だったんだ一体?」
俺は突然の師匠の訪問を疑問に思ってしまう。
「でも、とっても良い人でした」
「師匠が? 確かに良い人ではあるんだろうけど……」
師匠の悪癖を知っているため、素直に俺は頷けなかった。
「ところであなた。もうすぐ取りに来る依頼品は出来ているのですか?」
「依頼品? ……あっ! まずい! まだ作りかけだ! ルナ手伝ってくれ!」
「うふふ、はい! 喜んでお手伝いをさせて頂きます」
俺が慌ただしく作業部屋に戻る中、ルナも嬉しそうに俺の後についてきていた。
それから師匠から手紙が届くのは一週間後のことだった。
手紙には薬の解析結果が書いてあるのではなく、ただ一言こう書かれていたのだ。
『リアム・ラザール。至急王都まで来るように』
面白いと思って頂けましたら、ブックマークや評価のほどをよろしくお願いいたします。