第12話「死者が蘇る森7」
第12話目になります。ゆるく進んでおりますがよろしくお願いいたします。
第12話「死者が蘇る森7」
何とか気を取り戻した俺は、ルルネからの説教を小一時間受けた後、何とか遅れていた依頼を済ませて、全てが終わった頃には日はどっぷりと沈んでいた。
森に行くための準備も何とか終わらせて、俺はルナと共に再び南門に向かっていた。
「ルナ、本当に家で待っていても良いんだぞ」
「いえ、わたしもついていきます。だって、わたしはあなたのお嫁さんですから」
恥ずかしそうに言う、ルナに俺は何も言えなくなってしまう。まったく、ルナは。
「ほら」
俺は手を差し出した。前にルナは幽霊に怯えていた。だけど、手を繋いだら少しは恐怖が和らいだと言っていた。だから、俺は手を差し出したのだ。
「ありがとうございます」
ルナは嬉しそうに俺の手を握った。ルナの柔らかい感触が手から伝わってくる。そのせいで、先ほどルナの胸を触ってしまったことを思い出してしまう。
「さっきはごめん」
俺の言葉にルナもさっきのことを思い出したのか、顔をさらに赤くしている。
「さっきのことは怒ってないですから、忘れてください」
ルナは早口でそう告げると、そっぽを向いてしまう。
「ごめん」
俺はそれだけ伝えると前を向いた。
それから無言で南門まで歩いて行くと、すでにそこには二人の姿があった。俺たちは合流すると、そのまま森に向かって歩いて行く。
森に辿りつき、俺たちは以前来た時にあの現象が起きた場所に向かう。
「グレン、あれから何回ぐらいあの現象が起きたのかは分かるか?」
「詳しい数は分からないけれど、二、三回は起きていると思っていいかな」
それだけの回数を重ねていれば、もしかしたらの可能性もあるじゃないか!
草の茂みに隠れて湖の近くにある大樹をじっと見つめる。
「リアム、そろそろ日付が変わるよ」
懐中時計を見ていたグレンがそう告げる。
「分かった。グレン一つ頼みがある」
「何だい?」
「ルナとルルネのことを頼む」
俺の言葉を横で聞いていたルナが、小さく息を飲む音が聞こえる。繋いだ手に力がこもるのも感じる。
「大丈夫なんだよね?」
グレンの問いかけに、俺は無言で頷いた。
「はぁ~、分かったよ。正し危険なことはしないように。君がやろうとしていることは、本来であれば近衛団の仕事だ」
「別に危険があると決まったわけじゃ……」
「良いね」
有無を言わせぬ迫力に、俺は頷くしかなかった。
「分かったよ」
俺はグレンにそう言いながらルナの方に向き直った。
「ルナ、少しここで待っていてくれるか?」
「あなた、大丈夫なのですか?」
「ああ、大丈夫だ。ちゃんと帰って来るよ。それに降霊術が関わっている以上、これは錬金術師としての仕事だよ」
仕事と言われてしまえば、ルナは何も言い返せなくなってしまう。
俺はごめんなと思いながら、目的の場所に向かおうとするのだが、ルナにローブを掴まれてしまう。
俺が振り返ると、最初ルナは何やらもじもじとしていたが、顔を上げると顔は真っ赤だったが、その翠色の瞳は覚悟を決めた色を秘めていた。
「るっルナ?」
そんなルナの姿に気圧されていると、ルナの顔が段々と近くなってきてそのまま俺はルナにキスをされた。突然のことに驚いてしまい俺は固まってしまう
少しした後、ルナは離れて行った。名残惜しいと思ってしまったのは、きっと俺の本心なんだろう。
「無事に帰って来られる、おまじないです。小さい頃母が良くやってくれたんです。だから、無事にわたしの所に帰って来て下さいね」
恥ずかしそうにはにかんだルナを、俺は思わず衝動で抱きしめてしまう。
「約束するよ。絶対に君の所に帰ってくる」
「はい!」
俺とルナはそう言って笑い合った。
「あれは何の茶番なんですか?」
「あはは、まあ、しょうがないんじゃないかな」
後ろからルルネとグレンの声が聞こえた気がするが、俺は聞こえてないふりをしていた。
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それから、ルルネに行くなら早く行きなさい! と怒られて俺は大樹を目指して、茂みに身を潜めながら進んでいた。
でも、ルルネも心配してくれてるんだな。何だか意外だ。
別れる前に、ルルネから何があるか分からないからと薬をもらっていた。何でも自分で調合して作ってみたと言っていたのを思い出す。
これにかこつけて、薬の性能を試したいだけなんじゃないかと思えてしまうが、くれるものは有り難く受け取っておこう。
俺が大樹に向かっていると、いきなり大樹付近が輝きだした。あの現象が始まったのだ。そして、俺は見たその近くに立つ一つの人影を。
光は止み、そこに降霊術で降ろされた女性の霊とも思えるものが、その場で浮遊している。
俺はその女性の霊を凝視する。またすぐに霧になってしまう。だからこそ、俺は早く降霊術を行った人物を見つけ出さなければ。
俺は茂みから飛び出すと、一気に駆け出していく。きっと光った場所の近くにその人物はいるはずだ。
俺の予想通り足早にそこから立ち去ろうとしている人影があった。
「待て!」
俺が声を出すと、その人影は焦ったように逃げようとする。俺は腰のポーチから丸い球体の物を取り出すと、逃げている人影に投げつけた。俺は咄嗟に目を庇うように腕を前にする。
今投げたのは、発光物質を閉じ込めた物だ。その球体は綺麗に円を描くように飛んでいき、逃げていた人影にぶつかり閉じ込めていた光が爆散する。
光が止んだ頃を見計らって、俺は全力ダッシュして逃げていた人影に近付いた。
「捕まえた!」
俺は目くらましを受けて地面に転げまわっている人影――男を取り捕まえた。
「くそっ! 放しやがれ!」
男はジタバタと暴れ逃げ出そうと抵抗してくる。俺は何とか押さえつけているが、あまりの力強さに俺は驚いてしまう。グレンが来るまでの辛抱だと思っていたが、何やら下にいる男はいきなり大人しくなっていた。
何が起きたんだと思っていると、いきなりその男の力が先ほど倍以上に強くなり、俺は突き飛ばされてしまい、俺は背中から地面に激突した。
「ぐっ……」
俺は痛む背中を庇いながら、すぐさま立ち上がり男の方に視線を走らせる。すると、その男はゆらりと立ち上がった。そして、獣のような雄たけびを上げた。
くそッ! 遅かったか。
目の前に立つ男は完全に悪霊に憑りつかれてしまったのだろう。目は血走り、口からはよだれがダラダラと流れている。明らかに正常ではない。
俺は立ち上がるとすぐにその男は駆けてきて、俺の腹に膝蹴りを入れてくる。俺は避けることが出来ずにそれを受けてしまう。
「がはっ!」
肺から空気が抜け意識が飛びかける。俺は反撃をしようとするが、奴の攻撃はまだ続いていた。今度は背中を殴られて、再び俺は地に伏せてしまう。そこにすかさず蹴りが襲い、俺は蹴り飛ばされてしまう。
完全に理性を失ってやがる!
目の前に立っている男は完全に理性を失い、そこらへんにいる魔物と同じようになってしまっている。あれを放っておくことは出来ない。
「あなた!」
「「リアムッ!!」」
そこにルナ、グレン、ルルネも合流した。
俺が立ち上がる際に、ルナが俺の体を支えてくれる。
「あれは一体?」
「すまん、遅かった。霊に憑依されちまった」
「あれがそうなのかい?」
「ああ」
「どうすれば良いんだい?」
「グレン、一番危険な役目をお願いしても良いか?」
「別に構わないよ。僕はこれでも近衛団だからね」
「ありがとう。あいつの動きを少しの間だけ止めてくれないか。そうすれば、俺があいつから霊を取り払う薬を打ち込む」
「分かった。出来る限りやってみよう」
「ああ、頼むよ」
あの本にはもし悪霊に憑りつかれてしまった人物を救う方法が記されていた。それは錬金術で創り出した薬が、その除霊効果があると記されていた。
そして、俺はそこに書かれていたレシピを元にそれを生成していた。もしものことがあると思って用意しておいたのだ。
「ルルネ、ルナを頼むぜ」
後ろにいるであろうルルネにそう声をかける。
「ええ、任せなさいよ!」
俺はその返事に頷くと前を向く。腰からルルネからもらった薬を取り出して飲むことも忘れない。
「あなた、頑張ってください」
そう言ってルナは精一杯に笑ってくれる。こんな状況なのに彼女は笑ってくれているのだ。そんな笑顔を見せられたら、頑張らないわけにはいかないな。
「リアム、行くよ」
「いつでも良いぜ」
目の前にゆらりと立つ男は、咆哮に似た叫びを上げるといきなりダッシュしてくる。男の動きに瞬時にグレンは反応すると、男の前に立ちはだかる。
男はグレンに向かい薙ぎ払うように腕を払ったが、グレンは完全にそれを見切って避けると、カウンターで回し蹴りを放ち、男は後方に大きく蹴り飛ばされた。
さすがグレンだなと俺は思ってしまう。グレンは二十二歳ながら、その実力を買われて、この街の近衛団を任されている。それぐらいにすごいやつなのだグレンは。しかも、そのことをひけらかしたりもせず、謙虚な姿勢なので彼は近衛団のメンバーや街の人などにもものすごい評判が良かった。
蹴り飛ばされた男は、地面に倒れたダメージも感じさせずに起き上がると、すぐに駆け出してグレンに襲いかかって行く。
しかし、グレンは次から次へと襲い来る男の攻撃を全て避けて見せて、逆に男に蹴りや拳を叩き込んでいる。数度の交錯を繰り返し、男が弱り始めたのを見てグレンは男の腕を掴むと後ろに持っていき、そのまま締め上げた。
「リアム!」
「分かってる!」
俺はグレンの声が聞こえた瞬間には走り出していた。俺は腰から注射器を取り出した。この注射器の中に入っている液体が目の前にいる男を唯一救える方法だった。
あの本には除霊薬と書かれていたっけ。
俺はこの薬を作るのに、何回も何回も調合を失敗していた。レシピはあくまでもその時代に作られていたものなので、今の時代の調合材料では合わない部分が出てきたのだ。俺は何とか似たような材料を錬金術で作りつつ、その薬に合う材料を合わせていった。そして、何回目かの調合を終えて何とか完成させたのだ。
これが完成なのかは分からない。だけど、頼むから元に戻ってくれ!
俺はそう願いながら、その注射器をその男の胸に突き刺した。
「戻ってこい!」
静寂が包む森の中に俺の声が響いていた。
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