第11話「死者が蘇る森6」
第11話目になります。もう少しでこの死者が蘇る森編が終わりますので、もうしばらくお付き合いのほどをよろしくお願いいたします。
第11話「死者が蘇る森6」
ルナの勘違い騒動から数日が経とうとしていた。あの後、俺はちゃんとセリアさんとの関係を説明して、改めてルナに謝罪した。すると、ルナも勘違いしてごめんなさいと謝れたので、俺たちは二人して謝り合戦をし始めてしまい、二人そろってルルネに呆れられたものだ。
それから、俺たちは役所に行って書類を提出して正式に夫婦になった。何だかルナのご両親にあいさつもしないで籍を入れてしまったのはあれだが、ルナの話だと元々家を出る時に俺の所にお嫁に行ってくると言って出てきていたので、何の問題もないそうだ。
でも、それで断られていたら、ルナはどうするつもりだったのだろう? いや、断らないけどね!
今日も俺はルナが作る朝食の匂いで目を覚ました。ルナが来てからというもの、こうして朝起きることが楽しみになっていた。朝起きるとこうして朝食の良い匂いがして、大好きな人の笑顔が朝起きると待っていてくれる。何とも幸せなことだろと思ってしまう。
「あなた起きたのですか? 顔を洗ってきてくださいね。わたしは用意を済ませてしまうので」
俺が寝室として使っている部屋からリビングに行くと、ルナが優しく微笑みかけてきてくれる。
ああ、天使か。天使が目の前にいるのか。
あまりのかわいさに俺は意識を失いかけてしまう。
そんな俺の姿を見て、ルナが不思議そうに小首を傾げている。その際にルナの綺麗な金髪もふわりと揺れた。
そんな何気ない仕草もかわいいのだからたまったもんじゃない。つまり、何が言いたいかと言うと、俺の嫁最高かよ! と言うことですよ!
「あー、はいはい、朝からごちそうさま。鬱陶しいからそのピンク色のオーラを引っ込めてくれないかしら」
俺が一人、ルナのかわいさに悶えていると、背後から絶対零度を思わせるほどの低い声が聞こえてくる。
後ろにはものすごくこちらを睨んでいるルルネと、爽やかに笑っているグレンがいた。
「あれ? 何でお前たちがいるんだ?」
今日って何かあったっけ?
「あんたねぇ!」
俺の言葉にルルネが犬の様に噛みつこうとしてくるが、そこはグレンが抑えてくれた。
「ルルネ落ち着いて。それにリアムはまだ寝ぼけているのかい? 今日は集まって情報を共有しようって話していたじゃないか」
ああ、そう言えばそうだった気がする。最近、ルナのことや依頼で忙しくてすっかり忘れてた。けど、俺だって何もしてなかったわけじゃないが。
「ちょっと待ってくれ、着替えてくるよ」
俺はそう言って寝室に着替えを取りに戻った。
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そして、今はルナが作ってくれた朝食を四人で囲み情報を出し合っているところだった。何だかこの光景も当たり前になって来たな。
「それで、まずは僕から話をさせてもらうけど、申し訳ないがこちらは何も手掛かりは見つけられなかったよ。でも、ここ何日かでも、あの森で前見た現象が発生していたのを確認している」
グレンは申し訳なさそうに話すと、そこで言葉を閉じた。
「それじゃあ、次はあたしね。あたしの方は収穫はあったかな」
ルルネの言葉に俺たちは耳を傾ける。
「あたしが分かったことは、あの現象は世界樹の雫のせいじゃないってことよ」
「どうして、そう言い切れるのか理由を聞いても良いかな?」
グレンの問いに、ルルネはもちろんと答え続きを口にする。
「あたしは主に世界樹の雫のことについて調べていたんです。そこで世界樹の雫を使うには色々な条件があったそうです。まずは、蘇らせる対象が死んで間もないってことと、後は大量の生き血が必要だったと昔の文書には書かれていたわ。その文書が正しいのであれば、そう何回もこんな短い期間で蘇生の儀式なんて出来るとは思えないわ」
ルルネの説明に俺はなるほどと納得はするが、
「確かにルルネの言いたいことは分かる。だけど、その説明じゃ完全には世界樹の雫が使われていないって言うのは難しいな」
「どういうことよ?」
俺の言葉にルルネは不機嫌そうに眉をひそめた。
「ルルネが言いたいのは、そんなやすやす死んで間もない遺体と生き血を用意できないし、その薬自体作ることが不可能に近いからあり得ないって言いたいんだよな? だけどそれって、薬さえ用意できれば後は結構どうとでもなる問題なんだよ」
「あなた、それはどういうことなのですか?」
あんまりルナには聞かせたくない話だけど、この際仕方ないか。
「まず遺体は自分で殺して用意する。そして、生き血に関して言えば動物や魔物の血を使えば良い。だから、まったくの不可能とは言えないんだよ」
俺の説明を聞いて、ルナは両目を見開き口を両手で覆っている。十四歳の小女には少しショッキングな話だったかな。
「つまり、リアムはまだ世界樹の雫の可能性は捨てきれないって言いたいんだね」
「いや、そこまでは言ってないよ。むしろ、俺も世界樹の雫の線はないだろうって思ってるし」
俺がキッパリと言い切ると、ダンとルルネがテーブルを叩いて立ち上がった。
「ちょっとあんた! 今の思わせぶりな説明は何だったのよ!」
「いやまあ、可能性は少しでもあるぞってことを話しておきたかっただけなんだけど」
「ややこしいわ!」
ルルネのツッコミが炸裂する。んな、キレなくても良くないか?
ルルネが席に座るのを待ってから、グレンが今度は俺に見解を求めてくる。
「それで、リアムはどうしてその線はないと思ったんだい?」
「最初に言っておくけど、賢者の石って線もないからな。俺が話すのは第三の選択肢だ!」
人差し指と中指、薬指を立てながらそう言うと、俺とルナ以外の二人はポカーンとしていた。それもそうだろう。そもそも、この話は賢者の石が創り出されたかもしれないからと言って始めた調査だったのに、俺はその可能性も捨て第三の選択肢を提示したのだ。そんな反応になって当然か。
「とりあえず、話を聞かせてもらえるかな?」
驚きから回復したグレンが、そう聞いてくるので俺は頷いた。
「二人とも降霊術って聞いたことがあるか?」
俺の質問に二人は首を横に振った。それもそうだろう。俺だってこの降霊術を知ったのはルナのおかげだった。
俺は一冊の本を取り出すと二人に差し出した。
「それはルナがとある骨董品のお店で見つけてくれた本なんだけど、そこには降霊術のことが書かれている。その本によると降霊術は一昔前に流行ったものらしいが、段々とその危険性が浮き彫りになって来て、降霊術は行われなくなっていった」
「その危険性って? 何なの?」
「降霊術は死者の魂をこの世に呼び寄せるものだ。それが失敗して悪霊などのものを呼び出してしまい、体を乗っ取られるという事件が発生したみたいなんだ。そして、乗っ取られた人間は、理性を失ったように暴れまわるらしい。しかも、暴れるのを止めたと思ったら、抜け殻みたいな状態になってしまうとここには書かれている。それ以来、降霊術は禁止されている。あんまりにも危険な行為だってことでね」
「まさか、そんな術があったなんて知らなかったな」
「仕方ないさ。この降霊術だって、誰それと使える物じゃなかったんだから。流行ったと書かれているけど、それは占い的な意味合いが強かったらしい。降霊術師が霊を呼び出して、未来や過去を占うって言うね」
俺はそこで言葉を一度切ると、「それに」と言葉を続けた。
「俺だってルナがこの本を見つけてくれたおかげで、降霊術って言う術を知ることが出来た。だから、この功労者は間違いなくルナだよ。ルナ、改めてありがとう。君のおかげで真相に辿りつけそうだ」
俺が改めてお礼を言うと、ルナは慌てて首を振る。
「わたしは何もしてません! だけど、あなたの役に立てて良かったです」
まったく、ルナは謙虚過ぎる。俺はルナの頭を優しく撫でた。
頭を撫でられたルナは、えへへと顔を緩めている。
かっかわいい!
天使かって思ってしまう。今日は何回彼女に癒され天使だと思わされたのだろう。
「だから! ナチュナルにイチャつくな!」
俺がルナのかわいさを堪能していると、ルルネから叱責が飛んでくる。
「それでリアム。その話が本当で、あの現象が降霊術のせいだとしたらまずいんじゃないかな」
グレンの言葉に俺は頷く。
「仮に降霊術だとしたら、その術者がやばいかもしれない。今まさに憑りつかれていないとも言えない状況だからな。だから、みんな手伝ってくれないか」
俺がそう言って三人を見渡すと、三人は当然とばかりに頷く。隣に座るルナは、他の二人よりも力強く頷いた。
「任せてください。わたしがあなたを精一杯支えますから!」
ああ、俺はこの笑顔を見れば、どんなことでも頑張れる気がした。
「でも、そんな危険なことまでして、その人は何がしたかったんだろう?」
「それは分からない。分からないなら、直接本人に聞くしかないさ」
「うん、そうだよね」
「それじゃあ、また前と同じ時間に南門で落ち合おう」
「ああ、こっちも色々と準備があるから助かるぜ」
「それじゃあ、またその時に」
グレンの一言で朝のミーティングは終了となった。
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それからルナとルルネに店番をしてもらいながら、俺は依頼品と並行してこの馬鹿げた騒動を終わらせるための準備をしていく。
術者が悪霊に憑りつかれていないことが一番良いのだが、グレンの話ではその降霊術はすでに何回も行われていると言う。何があっても良いように万全の準備を整えておかないといけない。
それに今回こそは俺とグレンの二人であの森に向かいたいところではあるが、ルナもルルネも絶対に付いてくると言い張るだろう。そうであれば、必ず何があっても彼女たちを守り抜かなければいけない。
俺がそう考えていると、「あなた」と声が聞こえてくる。
「ん? どうした?」
「依頼人さんが取りに来ましたよ。えっと名前はランドさんでしたか」
「ああ、ランドさんか。ランドさんの依頼は確かあれだな」
俺は依頼品を取ろうとして転びそうになってしまう。
「あなた!」
ルナが駆け寄って来て支えてくれるが、俺はそのまま倒れてしまいルナを床に押し倒してしまう。
「っ!」
俺は何とか左腕をルナの背中の後ろに差し入れて、ルナが床に激突することは抑えることは出来た。
「ルナ、大丈夫か?」
俺の下にいるルナの顔を見ると、何故だかルナの顔が赤く染まっていた。
「あっあなた……その……手……」
小声で言うルナに疑問に思いながら、俺はそこで自分の右手が何やら柔らかいものを掴んでいる感触が伝わってくる。
なんだ? これは?
俺が手を動かすと、ルナの口から「ひゃうん!」と声が漏れる。俺が慌てて右手の方に視線を向けると、俺はルナの胸を掴んでいた。控えめながら、確かに柔らかい感触が伝わって来るので、癖になりそうだった。いやいや、なっちゃ駄目だろ!
俺の頭は軽くパニックになっていた。そして、不幸は重なる。作業部屋にルナのことを迎えに来たルルネにこの状況を見られてしまったのだ。
「あんたは何してんのよ!」
すかさず、ルルネからの飛び蹴りが俺を襲った。
不可抗力なんだよ!
俺はそう叫びたかったが、気を失ってしまい弁明することは出来なかった。
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