最終話「エピローグ」
このお話で完結です。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。
最終話「エピローグ」
「ごめん、お待たせ!」
「遅い」
ふわふわの黒髪を背中の辺りまで伸ばした少女が、先に門で待っていた赤髪をポニーテールに纏めた少女に謝っている。
黒髪の少女が待ち合わせ時間に遅刻をしてしまったのだ。
「ごめん、ごめん。お母さんを説得するのが大変で」
「ああ、あんたのお母さん、かなりの心配性だもんね」
「そうなんだよ~。まあ、こうして来れたから早く行こうよ」
「まったく、遅刻しておいて勝手なんだから」
少女二人は、これから南門から出てすぐ近くにある森まで、薬物などを取りに行こうと約束をしていたのだ。
二人の目的地であるその森は、南区画【スーザック】の街にある南門から歩いて十分ほどの距離にあった。
「それで今日は何を採取するつもり?」
「う~んとね、今日はちゃんとメモ用紙を持って来たんだ」
そう話しながら、黒髪の少女は腰のポーチを漁っているが、待てど暮らせどもそのメモ用紙が出てくることはなかった。
「ミア、まさか……またやったの」
「えへへ、そうみたい。ごめんね、レイちゃん」
ミアと呼ばれた少女は、恥ずかしそうに笑って誤魔化そうとしている。
「はぁ~、まったくもう。ミアらしいと言えばミアらしいけどね」
それに対して、レイと呼ばれた少女は呆れを含んだ瞳でミアのことを見ている。
「えへへ」
「えへへ、じゃない!」
ミアとレイは十二歳になっていた。今ではこうして二人で遊び合ったり、薬草などのを取るために森に行ったりするのだが、その度にミアが天然を発動するのだ。
今日のは用意したメモ用紙を忘れたということらしいのだが、これ一つで済めばいいとレイは思わずにはいられない。
やがて森に着いた二人は、早速材料になりそうな物を次から次へと採取していく。
「それで今日はどのぐらい採取するつもりなの?」
「う~ん、新しい薬とかも試してみたいから、割といっぱいかな」
「それはまた抽象的な表現ね」
レイはそうぼやかずにはいられないが、長い付き合いなのでもうミアのこういう発言には慣れていた。
しばらくの間、二人は材料採取に没頭していた。
「よしだいぶ材料も集まったし、ミア今日はこれぐらいでいいんじゃない」
近くで材料を集めているはずであるミアにレイはそう声をかけるが、ミアから返ってくる言葉はなかった。
「ミア?」
レイはミアからの返事がないことを不審に思い、辺りを見渡した。すると、ミアはちょうど森の茂みに入り込んでいくところだった。
それを見てレイは慌ててミアの後を追った。
「ちょっとミア! どこに行こうとしてるの?」
「この子、この子が助けを求めてるの!」
「この子?」
レイは最初ミアの言ってることが分からなかったが、ミアの腕に抱かれていたものを見て驚いてしまう。
「ちょっ! ミア! それって神狼の子どもじゃない!」
レイが驚くのも無理はなかった。ミアが抱いているのは、このグリゼルダ王国では神獣と呼ばれる動物で、その存在自体が幻と呼ばれている動物だったからだ。
「へぇー、そうだったんだ」
「そうだったんだって、ミア知らなかったの?」
「うん。ただこの子の声が聞こえた気がしたから、茂みに入ってみたら、この子が倒れてたんだ。取り合えず、効くかはわからないけど、この子には常備してた回復薬を飲ませたけど」
ミアの腕にはその黒い毛の神狼の子どもが抱かれている。
「妹を助けてって言ってるの!」
神獣は人間の言葉を喋れる動物が多いと聞いたことがあった。この神狼もその例外に漏れず人間の言葉が喋れたようだ。
その神狼の子どもの言う通り、森の奥に入って行くとそこには捕獲用の罠に掛かってしまっているもう一匹の神狼の子どもの姿があった。それに加え怪我もしているようだ。
確かにこのまま放置していたら、その神狼の子どもの命はないだろう。
そう言えばパパが、ここ最近この近くに神獣ハンターが神狼を狙っているって噂が流れてるって言ってたっけと、レイは今更ながら思い出していた。
ミアは駆け出すとすぐさまその神狼の子どもに近づいた。
「すごい怪我。すぐさま治療しないと大変なことになっちゃう」
ミアは怯えているその神狼の子どもに安心できるように優しく笑いかけた。
「レイちゃん。今から言う材料を集めてもらっても良い」
「もちろんよ。その子を助けるつもりなんでしょ」
レイの言葉にミアは頷いた。
「大丈夫だよ、わたしはミア・ラザール。錬金術士だよ」
ミアは錬金ポットを取り出すと、その神狼の子どもを助けるために錬金を始めるのだった。
レイはレイでそんなミアを助けるために、森の中を駆け抜けるのだった。
これは二人の少女が一人前になる前のちょっとしたお話。
fin.
【あとがきみたいななにか】
まず初めに、二年間と半年ほどの間、この「錬金術師と幼な妻~こんな俺に嫁が出来ました~」をご閲覧頂き本当に本当にありがとうございました。何回もエタリかけましたが、何とか完結させることが出来ました。読者様に最大限の感謝です! 本当にありがとうございます。
今思えば、この作品はまったくの偶然から生まれた作品でした。たまたまその時にやったゲーム、たまたまその時に読んだラノベからすごくインスピレーションを頂き、その二つを混ぜ合わせた結果がこの「錬金術師と幼な妻~こんな俺に嫁が出来ました~」でした。
当時は本当に第二部までの案しかなくて、それがまさか第四部に外伝まで書くことになるとは想像もしていなかったです。少しでも楽しんで頂けたら幸いでした。
長々と与太話を申し訳ありません。
最後になりますが、本当に今までお読みいただきましてありがとうございました。
また何かありましたらよろしくお願いいたします。
2020年6月14日 瞳夢