第10話「死者が蘇る森5.5」
第10話目になります。そして、この回はルナにスポットを当てたお話になっております。
そして、遅くなりましたがブックマークや評価をして頂きありがとうございます! これからも投稿していきたいと考えておりますので、お付き合いのほどをよろしくお願いいたします。
第10話「死者が蘇る森5.5」
よし、これで買い出しは終了ですね。
ルナは買い出しを終え、時計台を見て時刻を確認した。
あっああああああッ! 早く帰ってあなたにお昼ご飯の用意をしないと!
予定では時計台の針がてっぺんでちょうど重なる前には帰るつもりでいたルナだったが、探し物に手間取ってしまい、時刻は予定していた時刻をすでに半周ほど進んでいた。
ルナは足早に帰路に着くと、今やルナの帰る場所になったアトリエの扉を潜っていく。すると、中からリアムと聞いたことのない女性の声が聞こえてきた。
「ひどい! リアムくん私にあんなことやこんなことをさせておきながら、私のことを捨てて他の女とくっつくなんて人でなしにもほどがあるわ!」
えっ? どういうこと何でしょうか?
ルナが中を覗いて見ると、そこでは今まさにリアムにその銀髪の美女が詰め寄っているところだった。
リアムの様子を見てみると、顔を赤く染めて恥ずかしがっているようにも見えた。
まさか、あなたは心に決めた相手がすでにいたのでしょうか?
そう考えたら、ルナの心はズキンと痛んだ。
もし、そうだったなら、わたしは何てことをしてしまったのでしょう。
「人聞きの悪い事を言わないでください! あれは錬金術で使う素材とかを手に入れるために協力してもらっただけですから! それにその依頼をしたのはセリアさんですから!」
リアムが何やら叫んでいるが、ルナの耳には入ってこなかった。それどころか、自身が手に持っていた荷物が落ちたことさえも気が付いていなかった。
わたしは……わたしは……何てことをしてしまったのでしょう。
そう考えた途端、ルナの視界が霞んでいくのを自覚していた。
「私はセリア・ノルゼ。あなたはリアムくんのメイドか何かかしら?」
謎の美女――セリア・ノルゼの声で、我に返ったルナは慌ててセリアに向かって頭を下げてから宣言する。
「わたしはルナ・ラザールです。リアムさんの妻です」
ルナは涙目になりながらも宣言する。
そうです、わたしはリアムさんの妻なんです! 心ではそう思っているものの、その気持ちはどんどん萎えていく。
それを聞いたセリアは、一瞬驚いた表情を見せるがすぐにそれを不敵な笑みへと変えた。
「へぇ~、結婚したとは聞いていましたが、まさかあなたのような人がリアムくんの奥さんだとは。失礼ですけど、あなた年はおいくつなのかしら?」
からかうような声で言われたのを感じるが、ルナは断言する。
「十四歳です!」
「じゅ……十四ッ⁉」
どうして、わたしの歳を聞いた人は最初はそんな反応をするのだろう?
しかし、驚きから回復したセリアは逆に断言してくる。
「何というか、あなたがリアムくんの奥さんだなんて片腹痛いですわね。それに残念ながら、私とリアムくんは幼少期の頃から婚約を約束していましたの。なので、いきなり横から出てきて人の未来の旦那様を奪わないでもらえるかしら」
ああ、やっぱりそうだったんだ。
「ちょっと待て! そんな話初めて聞いたぞ! それに俺とセリアさんが出会ったのは一年前だろ!」
自身の瞳から涙が流れるのを感じる。
「あなた、言ってくれればわたしは……わたしは……」
ルナはそれだけ言い残すと、アトリエを飛び出して行く。
「ルナッ!」
リアムが自身の名を呼んだ気がするが、それに構わずルナは街の中を走って行く。
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わたしは何てことをしてしまったのでしょうか。
アトリエを飛び出したルナは、後悔の念に囚われてしまう。
やっぱり、リアムさんには婚約者がいたんですね。それはそうですよね、あんな素敵な方に心に決めた人がいないわけないですよね。スラム街出身のわたしなんかじゃ、リアムさんに釣り合いませんよね。
そう考えただけで、ルナの心は締め付けられるぐらいに痛んでしまう。
ルナはスラム街でリアムに助けられた時から、ずっとリアムのお嫁さんになることを夢見ていた。リアムとビャッコンで出会ってから二年間、ルナは母親から花嫁修業ということであらゆる家事を教わった。いつでも、リアムのお嫁に行けるようにと。
そして、ルナは十四歳になりビャッコンから出て、リアムが住むスーザックに向かったのだ。幸いなことに、リアムのアトリエ『クレアスィオン』は有名になり始めていて、リアムのアトリエの評判はルナが暮らしていたビャッコンまで届いていたのだ。それを聞いていたルナは、自分のことのように嬉しかったことを今でも覚えている。そこから、リアムがスーザックに住んでいることも分かったのだ。
いざリアムのアトリエに訪れたルナだが、心臓が破裂しそうなぐらいバクバクと鳴っていた。なんせリアムと再開するのは二年ぶりであったし、自分の容姿もあの時と比べればだいぶ変わっている。思わず回れ右をして帰りそうになったが、ルナはぐっとその気持ちを押し殺した。
ルナはアトリエの窓を鏡代わりにして、自分の髪や格好などを整える。
うん、大丈夫です。これならリアムさんの前に出ても恥ずかしくありません。……よね?
ルナは一度深呼吸をして自分の心臓を落ち着かせ、アトリエの扉に手をかけそのまま中に入った。
アトリエの中には美少女なのかと思えるぐらいかわいい女の人と、会いたくてたまらなかったリアムの姿があった。しかし、いざリアムを前にしてしまうと、緊張が最高潮に達してしまい、ルナは固まってしまい何も言えなくなってしまう。
何度がリアムに声をかけられ、我に返ったルナは深呼吸をしてずっと夢見ていた願いを口にしたのだ。
今でもあの時のことはルナの中では恥ずかしい思い出ではあるが、それと同時に幸せな記憶でもあった。だって、最初は戸惑っていたリアムだったが、ルナのことを受け入れてくれたのだから。
それに、あれからすぐにリアムはルナのことを思い出してくれた。ルナはきっと忘れていると思っていたのに、リアムはしっかりとルナのことを覚えていてくれた。それだけではなく、お嫁になってくれてありがとうって何度もリアムにお礼を言われた。リアムにかわいいと言ってもらえた。それだけでルナは幸せだったし、心が温かくなった。
ルナはその時のことを思い出し、さらに涙が溢れてくるのを感じる。
リアムのことはそれぐらいに好きだった。だけど、先ほどリアムに詰め寄っていた女性――セリアは、ルナよりも魅力的な女性だった。こんなわたしが奥さんだなんて、あの人の言う通り、片腹痛いことなのかもしれないとルナは思ってしまう。
「あなた、わたしは……わたしは……あなたのことが……大好きなんです」
ルナは誰に言うでもなくそう呟いていた。
街を歩くルナは、どこに向かうでもなくただただ歩いて行く。
街行く人はルナの姿を見て、一同に驚いた顔をしていた。一人の少女が泣きながら歩いていれば、誰もが驚きの表情を浮かべるだろう。
そんな中で一人、彼女に声をかける者がいた。
「るっルナちゃん! どうしたの⁉」
ルルネ・ニーチェだった。ルルネは調べ物を調べ終え、家に帰るところだった。そんな時に、泣きながら歩いているルナの姿を見て声をかけたのだ。
「ルルネさ~~ん」
ルナはルルネの姿を見るや否や、ルルネに抱き着いた。ルルネはそんなルナの行動に驚きながらも、ルナのことを優しく抱きしめ、その綺麗な金髪を優しく撫でていく。すると、ルナはダムが決壊したかのように、ルルネの胸の中で声を上げて泣いていた。
声を上げて泣くルナの姿は、十四歳の少女年相応だった。
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あれから、泣き止まないルナを連れてルルネは自分の家に向かった。家に入るとすぐさまルナを自分の部屋に連れて行き、ベッドの上に座らせると、ホットミルクを用意してルナに差し出した。
ルナはそれを「ありがとうございます」と言いながら受け取った。ルルネはイスに座ると、小柄な体をさらに小柄に縮めている彼女を見た。
「それでどうしたのか聞かせてくれるのかしら?」
ここまでルルネは何も聞かずに、ルナのことをここまで連れてきていた。
ルナはゆっくりと首を振ると、ただ一呟いた。
「わたしが悪いんです。わたしが悪いんです」
ルルネが何を聞いても、ルナはそうとしか答えなかった。そんなルナの態度に困り果ててしまうが、何となくルナがこうなってしまった理由には当たりを付けていた。
きっと、ルナちゃんがこうなったのは、あいつのせいよね。まったく、こんなかわいい奥さんを泣かせてるんじゃないわよ!
ルルネは心の中で毒吐きながら、ルナに笑いかけた。
「ルナちゃん。ルナちゃんが話したくないなら無理に話さなくても良いわ。それと、ルナちゃんはそれを飲んで少し寝て気持ちを落ち着けた方が良いわ」
「ありがとうございます」
そう言って無理に笑う彼女の姿を見て、ますますルルネの中でリアムに対する怒りが湧いてくる。
あいつ、絶対に会ったらぶん殴る。
ルルネにとってルナは妹のような存在だった。だからこそ、ルナが目の前で悲しそうにしているのが許せなかったのだ。
ルナはルルネの言葉に甘えると、ホットミルクを飲んでベッドに横になった。
「ルルネさん、ごめんなさい。迷惑をかけてしまって」
「別に大丈夫よ。あたしのことは姉と思って慕ってくれると嬉しいわね」
ルルネが笑うと、ルナも力なく微笑んだ。
そんなルナの頭を撫でていると、ルナは小さく寝息を立てていく。
さてと、ルナちゃんも寝たことだし、あたしはあいつから事情を聴かないとね。
ルルネは「おやすみルナちゃん」と言うと、音を立てないように部屋を出て行った。
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目を開けると知らない天井が広がっていた。
あれ? わたしは寝てしまったのでしょうか?
ゆっくりと起き上がると、横から「起きたのね」と声が聞こえてくる。声のした方に視線を向けると、そこにはルルネの姿があった。それを見てルナは、泣きながら歩いていたところを、ルルネがここまで連れてきてくれたことを思い出した。
ルナはルルネに向き直ると、改めてお礼を言った。
「別に気にしないでってさっきも言ったんだけどな」
ルルネは照れくさそうに笑っている。
ルナは最後にもう一度「ありがとうございます」と告げると、どうして泣きながら歩いていたのかを思い出し、一気に気が重くなってしまう。
わたしはあなたのお嫁さんにはなれなかったんですね。
ルナは寂しそうな悲しそうな表情を浮かべている。そのルナの表情を見て、何を考えているが察したルルネは、ルナが勘違いをしていたことを伝える。
「あのね、ルナちゃん。あたし、ルナちゃんが寝ている間にあいつに会ってきたのよ」
ルルネの言葉にルナの肩はビクンとなってしまう。
「夫の様子はどうでしたか?」
「ルナちゃんのこと、ものすごく心配してた」
「そう……ですか。夫にはとても悪いことをしてしまいました」
しゅんと項垂れるルナに、ルルネはすかさずフォローを入れる。
「いやいや、悪いのはあいつの方だから。ルナちゃんが気にすることじゃないでしょ。それに、あいつから話は聞いたわ。まさか、あの女とのことを説明してなかったとは思わなかった」
ルルネの言葉に、ルナはやはり自分の考えは正しかったんだってことを悟る。そう考えたら、再び涙が溢れそうになってしまう。しかし、ここで泣いたら駄目だと思い何とかその涙をこらえようとする。
「やっぱり、夫にはわたしよりも先に婚約者がいたんですね」
認めたくない事実だが、今のルルネの言葉で完全に肯定されてしまった。そして、その変わりようのない事実の中、自分が出来ることは大人しく身を引き実家に帰ることだとルナは理解していた。
そこまで思考を駆け巡らせたが、次の瞬間、ルルネの口から思いもよらぬ言葉が飛び出してくる。
「婚約者? それって誰のこと?」
「えっ? あの方が夫の婚約者じゃなかったんですか?」
ルナもルナで素っ頓狂な声を上げてしまう。だって、アトリエで見た感じがそれっぽい感じだったので、そうだと思っていたからだ。
「ああ、あれね。あれは違うわよ。あの女の悪ふざけ。そもそもあいつに婚約者何ていないわよ。それに、あの女が勝手に迫ってるだけで、あいつはあの女にちっとも興味はないわよ。だって、今のあいつにはルナちゃんがいるんだから。あいつ言葉にしないけど、態度で分かるのよ。ルナちゃんのことが大好きだって。だから、ルナちゃんがそう思う必要は絶対にないのよ」
「それじゃあ、わたしの勘違いだったんですか?」
「そっ、勘違い。だから、ルナちゃんがお嫁さんになれないなんてことは絶対にない。むしろ、ルナちゃんだからあいつのお嫁さんになれるのよ」
ルルネの言葉を聞いたルナは、再び涙を流した。そんなルナをルルネは優しく抱き寄せる。
「だからさ、自分にもっと自信を持っていいんだよ」
「はい……はいっ! ありがとうございます、ルルネさん!」
そう言って泣きながら笑うルナの姿を見て、ルルネも安堵の息を吐いた。
こうしてルナの勘違い騒動は幕を閉じた。しかし、彼女はまだ知らない。次の日に愛する夫からの素敵なサプライズがあることを。
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