第1話「スーザックの錬金術師」
新作を開始したいと思います!
今回の作品は、錬金術師として働く青年とその青年を一途に想う少女の話です。ニヤニヤ出来る話を書いていきたいと思っておりますので、中身はないかもしれませんがよろしくお願いいたします。
第1話「スーザックの錬金術師」
その日はいつもと変わらない一日だった。いつもの様に溜まっていた依頼をこなして、それを取りに来た依頼人に渡す。その繰り返し。だけど、俺としては、そんな日常が当たり前で普通の毎日だった。しかし、そんな日常はその日を境に百八十度変わってしまった。今でもその現実はまだ少し受け入れられてはいなかった。
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その日は朝から依頼された物を作っていた。
俺――リアム・ラザールが個人のアトリエを構えてからすでに二年程が経過しようとしていた。
俺が錬金術を学ぶ学校を出たのが十五の時で、そこから俺の師匠であるロゼルダ・メールの元で学んだのが三年で、いきなり追い出されたかと思ったらこのアトリエを与えられて、一人で切り盛りしてみろと言われたことは、まだ記憶に新しかった。
それからは必死だった。何せこのアトリエには必要最低限の物しか置いておらず、さらに言わせれば生活費も自分の貯金から捻出しなければならない状況で。とにかく、あの時は生きることに必死で。それから二年が経った今は、何でもこの南区画【スーザック】の中では有名なアトリエになっていて、それなりに毎日が忙しい日々を送っていた。まったく、俺にはもったいないぐらいである。
俺は依頼書を見ながら、今日作っていく物を頭の中で整理していく。
えっと、船の補強素材に、腰痛を治す薬に、風邪薬。そして、植物の栄養剤か。
この様に俺のアトリエには、様々な依頼が駆け込んでくる。
錬金術師は素材と素材を掛け合わせることによって様々な物を作り出す。錬金術師がいればあらゆる物が生み出せるとも言われている。噂では生命までも生み出せると聞いたことがあるが、それは禁忌に等しい行為で、そんなことをやったものは問答無用で、この王国【グリゼルダ】の衛兵に捕まり投獄される。
王国【グリゼルダ】 この国はグリゼルダと言う人物の手で創り上げられた国だと学校では習った。建国から数百年が経っているのだが、この国には数多くの人間が暮らしていた。そして、巨大な国になり過ぎたため、東西南北で分けて統治していた。そして、俺が住んでいるのは、南区画の【スーザック】と言うわけだ。
俺はごちゃごちゃのアトリエの中から材料を引っ張り出すと、調合を始めていく。
依頼の数はそこまで多くはないものの、一つ一つ作るのにはそれなりに時間が必要なので、一日に受ける量を間違えると大変なことになるのだ。しかし、腰痛を治す薬に風邪薬とかは、魔法薬師と言う職業があるので、その職についた人が研究して作っているはずである。なのに、何故うちに依頼が来るのだろうか?
俺はそう思いながらも、材料を釜に入れると、棒を使って中をかき混ぜていく。
俺が扱う錬金術は意外と旧式だった。これが俺が一日の依頼の量を限定している理由でもあった。
旧式の錬金術は上手くいけばかなり高品質な物が出来るのだが、その分時間がかかってしまうのだ。それに対して、新式の錬金術は生産量とスピード化が重視されていて、かなりのスピードで沢山の物が出来るが、品質はそれなりの物しか出来なかった。
俺としては作るのであれば、やはり最高の物を作りたいという気持ちがあったため、こうして旧式の錬金術で調合を行なっていた。
今日もこうして調合に明け暮れていく。
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いくつかの依頼をこなしていると、アトリエの扉をトントンと叩く音が聞こえてくる。
ん? 誰だこんな時間に?
そう思いながら、俺は時計を確認するとすでに時刻はてっぺんを半周ほど回っていた。外を確認してみても、太陽はてっぺんまで昇っていた。
道理でアトリエの中がやたらと明るいわけだ。
俺が一人勝手に納得していると、再びノックの音が響く。
俺が重い腰を上げて扉を開けようとするのと、外から鍵が解錠されて扉が開けられるのは同時だった。
いきなり扉が開けられたので、俺は驚いてしまうが、目の前に立っている少女は良く見知った人物であったため、すぐに驚きは引っ込んだ。と言うよりも、ここの鍵を持っているのは俺を含めて二人しかいないのだ。
「何だよルルネ」
俺はぶっきらぼうに言いながら、目の前の少女――ルルネ・ニーチェを見下ろした。
茶色い髪をサイドテールでまとめ、勝ち気な紅い瞳がこちらを睨んでいた。俺よりも頭一個分背が低いので、下から睨み上げられている形だが。
「何だよじゃないでしょ! このバカ!」
いきなり怒鳴られたんだが、どうしたら良いのだろうか?
「あー、いきなり叫ばないでくれるか。頭に響くんだが」
ずっと作業をしていた頭に響くんです。
俺はそう思って言ったのだが、それはルルネの機嫌をさらに損ねることになってしまった。
「あんた、それ本気で言ってんの?」
ものすごい不機嫌な声で言われ、俺は知らずのうちに地雷を踏んでいたことに今更気が付いた。
俺はルルネに何か声をかけるべきだとは思うが、結局何と言ったらいいか分からず、口を噤んでしまう。
しばらくの間、お互いの間には沈黙が降りていた。しかし、その沈黙を破ったのは驚くことに、ルルネの方だった。
「約束してたのに……」
沈黙の中、ルルネがそう呟いたのだ。
約束……? 俺はルルネと何か約束をしていたのか?
俺は必死に自身の記憶を手繰り寄せる。約束……約束…………あっ!
俺はそこでようやく思い出す。今日はルルネに頼まれて、一緒に参考書を見に行こうと約束をしていた日だったのだ。
ルルネは俺と同い年で、魔法薬師を目指している。何でもご両親が揃って魔法薬師なのだそうだ。だけど、ルルネのご両親は別にルルネに魔法薬師になれとは言ってはいないと聞いていた。自分の道は自分で決めなさいと常々言われていたそうだ。けど、ルルネはルルネで、ご両親に憧れて自身も魔法薬師になりたいと言っていた。
なので、その勉強の手伝いをして欲しいと頼まれていたので、俺はルルネにここの鍵も預けていたのだ。いつでもここで勉強していいと言う意味を込めて。
「ごめん、ルルネ。今思い出した。そういや今日だったんだな。約束の日って」
「もう、昨日も明日よろしくねって言ったのに!」
えーと、そうだっけか? 確かに何か言った後に、ルルネは帰って行ったような気がしないでもないが。
「それで、俺は何て答えたんだ?」
「ああ、分かったよ。また明日な。おやすみって言ってました!」
前半の言い方は俺のモノマネか? って、論点はそこじゃなくて。マジか普通に答えてたのかよ。
それは俺の悪い癖でもあった。作業に没頭しすぎると、ものすごく適当に話を合わせてしまうのだ。
なので、俺はルルネにこう提案する。
「ルルネ、俺をぶん殴ってくれ! こう思いっきり!」
俺は体を使って、全力にくるようにアピールするが、ルルネには盛大にため息を吐かれてしまう。
「あんたが仕事バカだってことは、今に始まったことじゃないから、今更怒りも湧いてこないわよ。約束しても、ほとんどが仕事をしていて来ないなんて当たり前だからね。このやり取りもそろそろ慣れてきたわ」
そんなに頻繁にこのやり取りをしてるのか?
俺は少し考えて、考えることを放棄した。言われてみれば、記憶のあちこちにそんなような記憶が転がっていた。
うーむ、そこまでやっていた記憶はないんだけどな。
俺はそう思いながらも、再度ルルネに謝った。何はどうあれ、ルルネとの約束を破ってしまったのは事実なのだから。
「えーと、何というか本当にすまん! お詫びになるかは分からんが、これから飯を食いに行かないか? それから参考書を見に行くってのはどうだろうか?」
俺の提案にルルネは少し考える素振りを見せた後、ニヤリと笑った。
「も・ち・ろ・ん、お昼はあんたの奢りなんでしょうね?」
ルルネの何とも言えない迫力に押されて、俺は渋々頷いた。
今月、結構やばいんだけどなぁ〜。
今となってはそれなりの収益はあるのだが、月の給料のほどんどが調合素材に変わっているため、収益があっても手持ちにあまり残らないのだ。
「それじゃあ、行きましょう!」
俺の提案にルルネはすっかりと機嫌を戻したのか、早く行こうと急かしてくる。
俺は分かったよと答えた後、ローブを取りに戻ろうとするが、それは再びのノックの音で遮られることとなった。
依頼人が依頼品を取りに来たのかと思って、扉の方に視線を向けるとそこには一人の少女が立っていた。
「えっと、依頼しに来たのかな?」
俺は扉の前で固まっている少女にそう問いかけた。その少女は俺の問いかけに対して首を横に振った。
ん? 依頼じゃないなら何の用なんだろう?
俺が不思議に思っていると、その少女が控えめに前に出てきた。そして、何やらもじもじとし始めたのだ。
「ねぇ、何なのあの子?」
隣にいたルルネが俺に耳打ちしてくるが、俺にもさっぱり訳が分からなかったので、首を傾げることしか出来なかった。
「でも、あの子めちゃくちゃかわいくない!」
ルルネの言う通り、その少女の容姿はかなり整っていた。肩甲骨辺りまで伸ばした金髪に、垂れ目がちの翠色の瞳が印象的だった。人形かよ! と言いたくなるほどかわいらしく、その中にも儚さを感じさせた。ただ、全体的に小柄な印象を受けた。それに顔も幼さがあるので随分と若く見える。一体いくつなのだろうと思ってしまう。
俺たちがひそひそと話していると、その少女はいきなり顔を上げた。だが、その顔は何故かものすごく赤く染まっている。その赤さはこっちが心配になるぐらいだ。
「えっと大丈夫?」
俺はそんな少女を見ていられず、思わずそう声をかけていた。すると、少女は肩をピクリとさせて驚いていたが、深呼吸を何度かして落ち着いたのかこう言ったのだ。
「わたしをあなたのお嫁さんにしてください!」
その少女の一言に、俺とルルネは固まったのである。
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