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おっさんが回復術師を目指したっていいじゃないか! 作者:悠聡

第二部

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第七章 その4 おっさん、仲間のフリをする

 カウンター裏の倉庫に通されたハインは、そこからさらに階段を上った。通常なら店舗より上の階は、この酒場を営む家族の住まいになっている。

 だが階段を上りきったハインの目にしたものは、円形のテーブルに座ってブラックジャックに勤しむ3人の男だった。

「お、新入りか?」

 男たちは手にしていたカードの図柄を隠したままハインに尋ねた。いずれも日々の仕事で鍛えているのであろう、逞しい体つきの労働者風の男たちばかりだ。

「いや、大切な伝言だ。ダン・トゥーンに会わせてほしい」

 3人のひとり、最年長であろうももじゃもじゃとした髭と髪の毛がつながっている肉団子のような体格の男がぎろりと目を向けて頭を傾けた。

「手違いかな? 生憎だがボスは今ここにはいないぞ」

「あちこち転々としている人だからな……どこにいるかわかるか?」

「詳しくは聞いてねえが、今日ひとり貴族の娘を捕まえたそうだ。何に利用するかわからんが、そいつと一緒にいるだろうよ」

「そうか……」

 そう話すハインはポケットに手を突っ込み、超小型の通信用水晶玉を握りしめていた。



 ハインたちの会話はポケットの水晶玉を通し、対策本部の受信用水晶へとそのまま伝わっていた。

「マリーナ嬢はあの酒場にはいないようだ」

 机の上に置かれた水晶玉にじっと聞き入りながら、ベーギンラート大佐は眉間にしわを寄せる。傍らには会話を速記する書記役が3人、凄まじい手さばきで紙に文章を書き連ねていた。

「ダン・トゥーンも同じく。だが店の近くで待機している兵はそのまま据え置く、急いで新たに班を編成し、有事に備えろ」

 命令を受けてふたりの兵士が部屋の外に駆け出す。それと入れ替わる形で、「大佐、新情報です!」と別の兵士が息を切らしながら会議室に駆け込んだ。

「今朝、コメニス書店を襲撃した連中が吐きました。ダン・トゥーンのアジトは全部で5箇所あるそうです」

 彼は捕まえた反王政派を聴取する部門の兵士だ。

 今朝、ハーマニーが店番をしていたところを襲撃された事件についてもハインたちは話した。おかげで単に強盗として処理されそうになっていたのをダン・トゥーン一味による一連のテロ事件と関連付けられ、急遽取り調べが行われたのだった。

「そんなに……まるでいくつも巣穴を持つキツネのような奴だな。よし、すぐに各地点に監視隊と突撃隊を手配しろ。各隊の指揮官は中尉級の者を、それらを合わせた統括役に大尉級の者を充てろ。だが相手は必ず我々への対策を仕込んでいる、絶対に抜かるな!」

 大佐は吐き捨てるも、すぐに指示を出す。これ以上反王政派の思うようにはさせまいと、強固な決意で勝負するつもりだった。

「ハイン殿にはまだしばらく情報を聞き出してもらう。何かあったら、すぐに突撃を指示しよう」

 そして再びハインたちの会話を中継する水晶を強く見つめる。書記の3人は額に汗粒を浮かべながらも、その手を休ませること無くハインたちのやりとりを記録していた。

「ハインさん、お願い……」

 部屋の隅ではナディアにパーカース先生、そして鍛冶屋の兄妹アルフレドとヴィーネの4人全員が皆強く拳を握りしめながら、送られてくるハインからの通信に耳を傾けていた。

 そこにこつこつと靴の音を響かせながら、ひとりの軍人が近付く。

「そなたらが鍛冶屋の兄妹かな?」

 唐突に声をかけられ、4人はとび上がるように振り返った。

 胸の階級章から中佐級だろう。だが服装は巡回の兵士とも大佐とも違い、優雅な羽根帽子に真っ赤な外套と職務をするにはいささか華美な物だった。

「私は国王軍近衛師団の者です。我らの将軍がお呼びです、是非ご一緒願いたい」



 その頃、ハインはまるで仲間のように振る舞って男たちと会話を続けていた。

「で、資料を探してコメニス書店を襲ったんだが、そこを連中の仲間の魔術師のせいで一網打尽にされちまったわけだ」

「なるほどな、そういう事情があったのか」

 髭の男が腕を組む。今朝のコメニス書店襲撃はこの男たちの知り合いの起こしたものではないせいか、この場に居る者は誰も事件のことを知らなかった。

 やはりダン・トゥーンは相当な曲者だった。部署ごとにバラバラの情報を伝え、部下たちはその指示を忠実にこなしているだけだ。末端からすれば自分の行いがどういった結果につながっているかはわかりづらいものの、皆が皆全幅の信頼を寄せるボスの考えることだからと疑念も持たず動いている。実際はもしもの時ダン・トゥーンの足がつかないためのトカゲの尻尾切りだというのに。

 ふとハインは思いついた。つまりニセの情報を流して、こいつらの連携を内部から乱してしてしまえば組織は瞬く間に崩壊してしまうのではないだろうかと。

「ああ、そこで捕まった連中のことだが、もしもあいつらが軍に口を割ったら大変なことになる。追跡役なら娘をどこに連れて隠すか、場所を知っている。そのことを吐いてしまったらすぐにボスの所に軍が押し掛けてくる」

 ハインはわざと声をひそめた。3人の男たちは身を乗り出し、聞き漏らすまいと真剣な表情を向ける。

「そこで上から指示があったんだ、今すぐ娘を別の場所に移せと。で、もうしばらうしたらここに娘を連れてくる。荷車を手配しているから、裏口に大荷物が来たら急いで運び込んでくれ。その中に娘を放り込んでいる」

「なるほどな、わかったぜ」

 髭の男が机の上にカードを放り投げて立ち上がる。その図柄はキングと8の合計21だった。

 他の男たちも同じく、ゲームを中止して髭の男に続いた。

「ああ、よろしく頼む」

 そう会話を続けながら、ハインはポケットに突っ込んでいた通信用魔道具に魔力を送り続けていた。心なしかその口角はほんの少しだけ上がっていた。
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