『写真』
私と優は度々廊下ですれ違った。優は私のことを「遥ちゃん」と呼ぶことに決めたらしく、
「やぁ、遥ちゃん」
「あ、どうも。」
「体調はどんな感じ?」
「悪くは無いです。」
「はは、良くもないってことか。」
と、すれ違う度に話しかけてきた。
ふと優が思いついたように聞いてきた。
「そういえば」
「?」
「遥ちゃんはなんでまだ入院しているの?」
「それは...」
『色』が見えなくなった目のことを私は話そうかどうか、迷った。今は言わなくても、いずれ分かることだと思い私は言葉を選びながら答える。
「私は、事故が原因で『色』が見えないんです。」
「『色』が?」
「はい。」
「でも、色が見えないだけで入院する必要なんてあるの?」
「色が見えないだけじゃなくて、光もあまり拾わなくて...」
「そうなんだ。」
「そのせいで、初めて優さんと会ったときぶつかってしまったんです。あの廊下暗いでしょう?」
「あぁ、なるほど。」
優は思い出したように頷き納得したようだった。
「意外と不便なんだね。」
「まぁ、はい。信号とか見えませんし...」
「信号?あ、そっか。光も見えないからどっちが光っているかわからないんだ。」
「そういう事です。」
「へぇ...あっ」
優が子供みたいな無邪気な顔で思い付いたように言った。
「外行けないと外が恋しくなるでしょ?今度写真いっぱい持ってくるよ!」
「え」
「うん、我ながらいい思い付きだ!」
優は満足した顔で頷く。そしてハッと
「あ、そういえば俺遥ちゃんの部屋知らない。」
「え、来るんですか。」
「行くよ!行かないと写真見せられないでしょ?」
「そうですけど...。え、もう写真見ることは決定なんですか?」
「見ないの?」
私より身長が高いくせに優はいちいち屈んできて私と目線を合わせてくる。私が嫌いな彼の癖。質問する時やおねだりする時は必ずコレをしてくる。そうすると私は何故か目を合わせることが出来ず最終的に折れてしまうのだ。
「...見ます。部屋は302で。」
「よし、決定!じゃあどんな風景が好き?山?海?それとも子供たちの笑顔とか?」
「私は夏の夕暮れ時の海が好きです。」
「お、結構詳しく教えてくれるね。」
にまにまと覗き込んでくる。私はなんだか恥ずかしくなって、
「暫くぶりに外を見てないから見たいだけです!」
顔を逸らしながら素っ気なく言った。
「そっかそっか、じゃあ持っていくからね、楽しみに待っててな。」
頭をポンポンされる。それだけの事に私は動揺して赤くなり、ドキドキと動悸が激しくなった。