『事故』
突然の事だった。
青に変わった信号を渡ろうとした時そのトラックは突っ込んできた。
急な出来事に動く事なんて出来なくて私とその周りの人は成す術もなく吹き飛んだ。
ピッ...ピッ...という機械音で目が覚める。周りを見渡すとどこもかしこも真っ白で、隣で母が椅子に座ってうたた寝をしていた。私が身動ぎをしようとすると、その音に気が付いたのかハッと顔をあげ
「は、遥香!目が覚めたのね!」
と涙を零しながら私の頭の上にある変なボタンを押して「先生!先生!!」と何か慌てた様子だった。
混乱とする私に母はここが病院だということと私を含む約15名が交通事故に遭ったのだという事、そして私は約3日ほど昏睡状態だった事を知った。
事故の原因は運転手のよそ見で信号を見ていなかったことで起きたらしかった。交通事故、と聞いて私はトラックに跳ねられる直前の記憶が蘇る。
しばらくするとメガネを掛けた真っ白な白衣を着たいかにもな医者がカツカツと靴を鳴らして入ってくる。その両脇にはやはり真っ白い服の若いナースさんが重そうな鞄を持って何やら忙しく準備をしていた。
医者が私の目にライトをチラつかせる。すぐにライトを下ろし、私に優しい声で話しかける。
「自分の名前と、年齢が言えますか。」
体を起こそうとして、激痛に声を出そうとしたがむせる。3日も声を出していなかったから喉が張り付いているのだと、医者にぬるい水を渡された。
ゆっくりと体を起こし、これまたゆっくりと水を飲む。喉に少しざらつきを感じて私は砂を飲んだ気がして顔をしかめる。
暫くして、医者がまた同じ質問を繰り返してきた。
私はまたむせないように慎重に声を出す。
「...鈴木、遥香。17歳です。」
医者が深刻そうな顔をする。もしかして、間違えているのだろうか。私の不安は的中せず、医者は母と向き合って話をし始める。
「まだ歩けるほど回復していませんし、今は大丈夫そうに見えますが後々から脳に出血が、なんてよくある話です。まだ、あと1、2ヶ月の入院が必要でしょう。」
「わかりました...。どうか、娘を宜しくお願いします。」
そこで私はずっと気になっていたことを何の気なしに医者に聞いてみた。
「あの...先生?」
「ん?なんだい?」
「病院ってこんなに真っ白なんですか?それに...なんで先生もナースさんもお母さんもそんなに肌が灰色なの?服に色がないの?それって...偶然、じゃないよね。」
聞いてる途中で私は私の方がおかしいのだとわかった。みるみるうちに母は顔が泣きそうになっていくし医者やナースは顔が険しくなっていく。
そこから私は様々な検査を受けた。
私は『後天性色覚障害』という結果を告げられた。