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稜戦姫の恋  作者: 三茶 久
第一章
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プロローグ

 空はどこまでも白かった。


 一人、二人。李永(りえい)は目の前にいる人間の数をある程度数えて、やめた。数えると同時に、自分が薙ぐ剣によって、人間は面白いように地面に倒れていく。人をどれだけ斬ったのか、数えて、心にとめても、それは不快なだけであって意味のあるものだとは感じられなかった。


 常に迫り来る圧倒的な数の敵兵。いくら烏合の衆と言えども、ひたすらに攻撃を続ければ息もあがる。吐いた息はひんやりとした空気を白く染めた。

 空はどこまでも白かった。大地が、どこまでも遠くまで続いていた。うっすらと、雪が残った大地。そこには点々と、敵味方関わらず、人間が転がっているのが見えた。それがひどく、当たり前になってしまっていた。


 時は乱世。誰もがそう言う。かつて繁栄した(れい)王朝はもう朽ち果て、蝋燭の炎が消えてしまいそうなほどに弱々しい。

 皇帝は権力を失い、暗愚な臣下達が権力と富の奪い合いを繰り返し、国をまるでそれぞれの所有物のように扱う。民は疲弊し、朝廷に対する不満はふくらみ続けている。そして、その結果がこれだ。


 国家は完全に分解し、各地域を治める豪商・武家が名乗りを上げ群雄割拠の時代へと突入したのだ。そして李永も立ち上がった一人である。

 稜河(りょうが)の北——稜明(りょうめい)の地から、李永は自分の麾下(きか)の兵を連れ、治安を維持するために各地へ派兵していた。もちろん、彼自身も先頭に立ち、今は北方の騎馬民族の流入を押さえ込んでいる。



 李永は瞳を閉じた。暗くなる視界の先、心に写る景色を見やる。広大な大地をさらなる高みから見下ろす。そこはこの戦場と比べて、ずいぶん静かで、落ち着いているように見えた。


 乱世は、静まるだろうか。


 ふとよぎる質問を、李永は自分に投げかけ、そして前方を見据えた。

 ざっ、と。瞬間。自分の右手から白い残像が揺れた。空から舞い散る白雪が疾風に飲み込まれ、舞い散る。


「父上、行くわよ!」


 他の騎馬よりも、一回り小さな白馬。それにまたがる少女は、李永を一瞥して前方へ駆けてゆく。その瞳は煌々と輝き、前方をまっすぐ見据える。

 彼女の奮闘に奮い立ち、李永は大きく首を振る。剣を天へと掲げ、号令をかけた。


「まずはこの地を押さえる! 全軍、進め!」


 ひぃぃぃぃ……ん! 李永に答えるように、彼の騎乗する白馬が嘶く。そして李永は見据える方向を変え、手綱を引いた。

 一面の敵を殺そうとも、進んだ先にはまだまだ敵兵は溢れている。少なくとも、まだ、この戦は終わる気配を見せない。

 それも良かろう。兵が疲弊するのは免れたいが、それよりもどこか期待するところがある。何になのかは知らない。ただ、戦をする中で自分の心の中に何かの光が生まれたような、不思議な感覚を覚えた。

 李永は進む。ただひたすらに、かけてゆく。

 この小さな鎮圧が、やがて天下をゆるがすことになることを、薄々感じつつ。

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