アマノジャクノタビビト
その昔
人は空想状の生き物で
鬼がこの世を闊歩していた絵空事の時代
その時代に一人の嘘が生まれた
その名を
「安倍晴明」という
母を狐に持つその少年は
昼は土の中で眠り
夜は空を駆け回るという横暴ぶりを見せる
鬼という架空にも似た存在は
人の罪悪感からとも
また
人を正す存在とも言われているが
その正体はこれほど認識されているが
事にして不明な物なのである
その鬼でさえ
そんな意味不明な術を操る物の存在は
実に実にまれであり
海千山千
いや
どちらにしても何十万億と言うほどの時間の中で
身につける物は入れど
生まれ手間もなくしゃべるは
笑うは
お手玉するような物は見たことがない
どちらかと言えば
物理的に無茶な存在が鬼であり
その清明のような存在は実に鬼からしてみれば嘘のような存在になるのだ
そんな清明が十二歳の時
清明の元に一人の娘がやってきた
名を、雲概況と言い
その流れる髪
抜けるような白い肌とは対照的に
その黒い抜けるような厚かましい目は
まるで清明を今にもどういたぶるか思っているように見えなくもない
しかし清明は
その暑い昼間だというのに
そんなことは感じさせないまるで春風のような目をしてそれを見て
一人縁側でみかんをかじっていた
「おいお前、清明というのか」
女は不躾な言葉を縁側でみかんの種を飛ばしている清明にかける
「ああ、雲概況」
清明は暇そうに
いや興味さえないようにそう言っておくに引っ込もうとしたが
その足を雲概況が掴んで放さない
「わしにもそのみかんくれ」
「・・・・毒かもしれんぞなつの蜜柑なんぞ」
清明はそう言うと
涼しげな白とうすいこがわのような着物の袖から蜜柑を二つだして
雲概況にわたす
「・・・いらんわ」
その女はそう言うと
自分から言ったにも関わらず
そのみかんを握りしめると
清明に向かって
実に力強く投げた
しかしその時不思議なことが起こった
きっとその涼しげなきものを汚されてしりもちでもつくと思われた
その細身の少年だったが
実際に服がよごれたのは
投げた張本人の雲概況その娘自身だった
「なっなんで」
「それでお前は、何をしに来た」
そう言うと
清明はどこからだしているのか
焼いた南瓜を手に持ち無表情で口に運ぶ
「・・・・おま・・お前に所に行けと」
「・・・それで」
南瓜を口の中に入れて租借しながら聞く清明
「・・・・少しはましな性格になるだろうからって」
「もうじゅう分幸せな性格をしていると私は思うがね」
「ふざけているのか」
「自分でみとめるのか雲概」
「お前に名前を呼ぶ資格はない」
「そうだな、お前を私の手に納めたことになる」
「何・・・意味の分からんことを」
「それで何をしに来た」
雲概況は、この異様な人物をしばらくみた
何を言っても無駄なのではないかと思えたが
しかしその勝ち気な性格が
それよりも
食ってかかる方を選ばせた
「あんたをボコリに来たんですよ」
「・・・それで何時になったら帰るんだい」
「・・・っえ」
雲概況はその男をみた
それは何も考えないような目で
こちらをみた
「・・・どう言うこと」
「こう見えても私はいそがいいのだよ
君のようなお子さまを見ている暇はない」
「何言ってるの、あなただって」
「そう、私はお子さまだ
だからなおさら君の面倒など見ることは出来ない、帰りたまえ」
それはそう言うと問の方へ指を指す
すると彼女の意思とは無関係に
その足が問の外に向かって歩く
「っあ・・ちょ・・とこれ」
「もうお帰りですか、ではでは」
後ろで男の気配が消える
しかし首まで固定されたかのように動かず
ただ足だけが彼女を意思とは無関係に
扉の外に向かわすのであった