日常と文化祭
実際にありそうな学校風景。
(旭side)
突然ですが。
私、椎名旭は恋をしました。
Act1
「恋をした」といっても珍しいことじゃない。
今までだって彼氏がいたし、恋だってしてた。
でも、なにかが違う。今回は。
耳の下あたりで鼓動が響く。
自然と目で追ってしまう。
ちゃんと好きって、こういうことなんじゃないかなぁって思う。
「よくわかんないなぁー」
折角いい話をしてたのに!
一言で片づけやがった!!
目の前で首をかしげるのは、同じ班の宮城透。
『透』なんて名前ですが一応女の子。
私はこの子は実は、変人なんじゃないかと思う。
いや、変人以上の何かを持っている。
「そもそも、あいつのどこがいいの?」
透の目線の先には私の想いの人。
「確かにいいやつだけどさ?旭、彼氏はどうしたの」
「え?別れた。」
透は呆れたようにため息をつく。
「なんで、ため息つくの?透も別れた方がいいっていってたじゃん」
「あのねぇ。仮にも好きで付き合ったんでしょう?」
「んー・・・たぶん?」
さらにため息。
「旭は熱しやすく冷めやすいんだから」
だってだってーー・・・。
かっこいいんだもん!!!
「良くんの笑顔って輝いてるよね!」
「輝いてないよ」
きっぱりと言われるとさすがに私だってむくれる。
「なんでわかんないの?」
「良はめんどいよ?負けず嫌いだし」
「そこもいい!!」
やはりわからないようで、ファイルを手にどこかへ行ってしまった。
良くんこと、佐々木良。
優しくて、かっこよくて、運動神経もよくて!
なにより笑顔が輝いてる!!!
そう。私の恋のお相手はこの『佐々木良』なのです。
透の隣の席の男子と仲が良く、しょっちゅう近くで話しているのをみていた。
最初はかっこいい人だな程度だった。
でも、あの笑顔を一度向けられてしまうと・・・。
「旭―。顔がにやけてるよ」
いつの間にか戻ってきた透が苦笑いで私を見ていた。
「まあ、いいさ。旭が本気なら私もひと肌脱ぐから」
「よろしく!」
(透side)
何故、人は人を好きになるのでしょうか?
何故、誰かの心を自分のものにしたいだなんて、強く思えるのでしょうか?
Act 2
旭が恋をした。
幸せそうに笑った。
少し目が合うだけで、本当に嬉しそうで。
私まで幸せを分けてもらってる気分になる。
「良くん、大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ」
良が、けがをしたらしい。
松葉づえをついて登校してきたのだ。
「透は心配じゃないの~?」
「心配だよ?旭が良とちゃんと話せるかどうか」
「それも心配だけど!!」
わざとはぐらかす。
こういうノリにちゃんと乗ってくれるから、ついついいじめたくなるんだ。
「まぁ、恋する乙女としては一言『大丈夫?』とか声掛けするってもんじゃないの?」
「だよね!頑張る!」
「はいはい、頑張って」
___私は旭がうらやましい。
自分の気持ちが自分で分かってる。
誰かを好きになれる。
人を幸せにできる。
真っ直ぐに、素直に。
自分に正直で。
本当にうらやましいんだ。
全部私にはなくて、わからないものだから。
「透?」
「ん?」
だから私はこうやって。
「どうしたの?」
「なんにもないよ」
今日も旭の前で笑うんだ。
私が笑うと旭も笑ってくれるから。
だったらそれだけでいい。
分からない感情が多い私でも、誰かが笑顔でいてくれるのは幸せだと感じれるんだ。
さぁ、目の前の君を笑顔にしよう。
「良」
(旭side)
少しでも私を考える時間がある?
一瞬でも私の事、想ってることがある?
・・・答えは一番私がわかってるのに、問わずにはいられないなんて。
Act 3
文化祭。
これはもう、絶好のチャンス!だと思ってた。
のに。
「いやいや。文化祭マジックは長く続かないよ?」
透の一言に私のテンションは一気に下がった。
「もう!なんでそういうこと言うの!?」
「事実だからじゃん?私、旭には長続きする恋をしてほしいのよー」
からかうような、でも至って真面目な声音で言われた。
「まぁ?アピールする分には最高のシチュエーションだと思うけどね」
ちゃんとフォローも入る。
「やっぱり押せ押せで行った方がいいのかな?」
「そうでしょう。良は押しに弱いと思うけどね、私は」
透はアメピンをつけながらも一瞬、私の方に視線を向けた。
「頑張ってみる!」
「頑張って!」
よし。頑張ろう。
良君と少しでも近くなれるように。
私は有言実行型だ。
だから頑張ってみている。
積極的に話しかけたり、足の事を気遣ったり。
良君はだいたい、笑顔で話してくれる。
でも。
「早く治るといいね。折角球技の選択でサッカーも出来るし」
「そうだね」
その時だけ、ほんの一瞬。
見間違えかもしれないと思えるほどの一瞬。
__良君の表情は『憎しみ』や『恨み』のようなものに染まったように見えた。
きっと気のせいだ。
そう思えば思うほど、脳裏からあの表情が離れない。
「どうしたの?旭が浮かない顔してると、調子狂うんだけど」
透がごく自然に、声をかけてきた。
言うべきか迷った。
あんな表情、見たことなくて。
正直困惑している。
でも、信じられない。
だから。
「ううん?なんでもないよ」
わざといつも以上にテンションを高くして笑って見せた。
「そう」
腑に落ちなそうにしていたが追究はしてこなかった。
助かったようで、なんとなく寂しい気分になった。
透、ごめん。
私はね。良君が何か人に言えないようなことを一人で抱えてるんだとしたら・・・。
真っ先に手を差し伸べてあげたいよ。
透の力を借りずに。
だから見守ってて?
今は言えなくてごめんね。
(透side)
「透ちゃんって冷血だよね」
冷血・・・?私が?
涙を流すことが少ない。
ただそれだけで『冷血』。
Act 4
私は基本、人前で涙を流したりしない。
遊びであるならまだしも。
感情を殺すことは得意だ。
悲しかろうが、苦しかろうが、悔しかろうが。
もともと『泣く』という行為が得意ではないと言った方が正しい。
それが『冷血』だなんて表現されるとは思っても見なかった。
文化祭。
旭が良に猛アピールしている中、私は目まぐるしく過ぎていく時間にただただ困惑していた。
「休みたい・・・」
思わず口から出た言葉に自分で気が付かなかった。
「大丈夫?」
少し笑って言ったのは私の元カレ。
「大丈夫じゃないよ。ここんとこ毎日7時まででさ?みんなイライラしだすし。」
なんか意味あんのかな?って思うくらい、みんなイライラしているのだ。
「まぁ、ね。焦ってるんじゃん?」
「焦ったって何も変わらないって」
同感、といったふうに元カレは頷く。
「俺らは穏便にいこうぜ。おとなしく言うこと聞いて、おとなしく演じてれば
とばっちりは受けないだろ?」
「うーん・・・。それはどうだろう?」
「えっ、なんで?」
こいつは相も変わらずバカである。
「会長、女子副、男子副は3人してお互いの事嫌いだし?
こんな険悪な本部でいいのかね」
「マジか!」
もう一度言おう。バカ。
察しろよ。つか、もう何か月も役員やってて気が付かないのかよ!?
今の彼女がかわいそうになる。
つっても今の彼女はよくできた子だから心配はいらないだろうけど。
「ホントに疲れる・・・」
「だね」
そこで会話は途切れ、お互い話し相手を探しに散った。
『冷血』。
そういわれたのは、昨日の事だ。
文化祭の一つに運動会がある。
そこで全敗した私たちのクラスの女子は泣いてしまった子もいたのだ。
それを見た別のクラスの子が。
「透ちゃんって冷血だよね」
と。
一瞬何を言ってるのか分からなかった。
そして今日も。
最後の合唱コンクールで、賞が取れなかった。
取れたクラスの子も、取れなかったクラスの子も。
舞台裏ではみんな泣いていた。
私だって悔しかった。なんせ最後だ。
といいつつ、私のクラスは曲の選択の時点で賞が取れないだろうとは思っていたのだ。
でも悔しいものは悔しい。
泣きたかった。
だからって、みんなみたいに私には泣いてる暇はない。
この後私は、ステージで演じなきゃいけないのだ。
泣きはらした目で立てるわけがない。
感情を殺し、フォローに回った。
そして、閉祭宣言後。
泣き崩れる女子がほとんどだった。
そこでも私は泣かなかった。
まだ、片付けがあるのだ。
感極まってる暇があったら片付けを進めたい。
順序を考えていると、昨日と同じ子が。
「透ちゃんはやっぱり冷血じゃん。」
・・・さすがに私だって傷つくわ、二日連続で言われれば。
そして言い返してやりたかった。
“私は冷血じゃない!あんたらより、理性的なんだ!!”と。
あぁぁぁぁぁ・・・・。
言ってやればよかった。
もう後悔しても遅いことは分かっていたので、私はさっさと片付けに入るのだけれど。
早く教室に戻ってみんなと話したいな。
___こんなバカげた集まり、辞めてしまいたいよ。
ため息も出ないなんてね。
続く
読んでくださった方、本当にありがとうございます。
初投稿で右も左も分かりませんし、文章も拙いですがお許しください。