アリシアの悲しみ
「え・・・。何?何が起きてるの?」
アリシアは白い天井を見上げる形になっていた。隣にはカイが座って寝ていた。時刻は時計を見ると夜中の3時。腕に違和感を感じ、見てみると点滴が刺さっていた。起き上がると頭痛の気配はなく立ち上がれる程だった。
「カイ。起きて。」
アリシアが呼ぶとカイはすぐに目を覚ました。目を見開き驚いた顔をした。
「アリシアッ!もう大丈夫か?」
「うん。何にもないよ。」
笑って見せると安心したようにカイは目尻を下げた。
「よかった。何があったんだ?」
顔はそのままカイは目から心配が伝わってきた。
「わかんない。わかんないけど、声が聞こえて来て、頭痛がしたと思ったらここにいたの。声の意味は私には理解できなかった。ただ、なんかわからないけど。何かの使命があるんじゃないかって思った。」
アリシアは下を向き考えはじめた。そこへ、カイの父。ウルアが入ってきた。
「目が覚めたようだね。気分は?どう?」
ウルアはアリシアの脈を取りながら聞いた。
「大丈夫です。さっきの頭痛が嘘みたいに消えています。」
アリシアが笑うとウルアはペンライトを出した。
「まっすぐ前見てて。」
目の動きを見てした瞼を下げ体調を一通りみるとウルアは再度アリシアの顔をみて笑った。
「もう大丈夫そうだ。今日は遅いからここに泊まりなさい。お風呂は明日の朝入って。明日は学校も休みだろう?カイ。」
「あぁ。明日は新入生は休みらしい。」
カイは呟くような声で言った。
「じゃあもう寝なさい。カイ。お前はどうする。」
「俺は、家に帰るよ。父さんは?」
目を向けて訪ねた。
「なら、一緒に帰ろう。アリシア、先ほど君の肩にひどい痣があった。明日、その治療も行う。とにかく、今は休みなさい。おやすみ。」
そうして、カイとウルアは部屋を出て行った。
「もう。時は近いのね。ねぇ、どうして私を選んだのかくらい教えてよ。」
アリシアは一人目を閉じつぶやいた。
✳︎
あれから3日。学校が始まった。学校での授業は基本的に戦術、体術をベースとして学び選択で戦闘医学かスパイ学を学ぶ。その中でもかなり細かく分かれておりかなりの授業を行う。一日6時間授業の50分1時間というのは他の高校と同じだ。アリシアとカイはもちろん戦闘医学をカレンはスパイ学を選んだ。この学校で学ぶものは国防機関のテストに直結するだけでなくその後の仕事にも繋がっている。
三人のクラスには30人が在籍している。クラスは一学年5クラスある。アリシア達がいるところが一番上のクラスでその下にどんどん繋がっている。アリシアはそのクラスの中で一番の成績優秀者の為非常に目立っている。そして、なんと言ってもアリシアは美しい。校内でもかなりのトップの美貌を兼ね備えている。そして今アリシアは席に本を読んでいる。それも医学書だ。ラファエルの医師だから読んでいてもおかしくはないのだが周りから見たら高校生が医学書を読んでいるという謎の行動に見えるのだ。
「アリシアさん。それ、どうして医学書なんて読んでるの?」
一人の女生徒が声をかけた。
「あ、私ミルカ・ハーツフェリアって言うの。ミルカって呼んで。」
ミルカは笑顔で手を差し出した。その手をアリシアは握った。
「よろしく、ミルカ。私もアリシアって呼び捨てでいいよ。この本は授業の予習をする為の本なの。授業は多分とても難しいからね。」
「アリシアが難しいって思ってたら私達なんて絶対無理じゃない。あーあ。スパイ学取ればよかった。」
「うふふ。ミルカって面白いね。」
アリシアは本を閉じた。
「ねぇ、お友達になって。」
アリシアは手を取り言った。ミルカはびっくりしたように目を見開いた後、目を細めて笑った。
「アリシアも面白いよ。だってお友達になってなんて普通言わないよ。それに答えはもちろんよ。だって友達になりたくて話しかけたんだもん。」
「そうかぁ。」
アリシアも笑った。二人で仲良く話している時、先生が入ってきた。授業は団体戦術だ。するとクラスの雰囲気が一気にピリッと引き締まった。皆戦士になりたい者たちばかりだ。この授業での成績も深く関わってくる。しかし、アリシアやカイやカレンとしては既にメンバーであるからそこまで緊張もしないし全て頭に入っていることだ。アリシア達が学校に行っている理由も年齢が学生年齢だからだ。学校側はその事を知っているが、生徒達は知らない。アリシアは席について自分の患者のカルテをパソコンで開き治療方針を考えはじめた。この学校ではパソコンでの授業が行われている。よって他の人々に知られることなく自分の仕事ができるのだ。しかも学校側の配慮かアリシア達の席は一番後ろだ。後ろから覗かれることもない。そして後ろの3人がそれぞれの仕事をしていた時、3人の元へメールが届いた。国防機関からだ。
「機関員全員に告ぐ。
本日14時より緊急ミーティングを行う。遅刻はしないよう。」
3人は顔を合わせたい気持ちを抑え授業中にメールをそれぞれ送りあった。3人のグループチャットが開かれた。
「今が4時間目だから、この授業後にでないと間に合わないな。」
カイが送るとすぐに返事が来た。
「流石に3人そろって早退したらバレるよね。」
アリシアの返答に少し全員がため息をついた。
「でも、遅刻は駄目っぽいじゃん。だから、仕方ないけど3人で抜けようよ。あ、今ちょっと寝ちゃわない?そしたら怒られるじゃん?それで別室授業的な感じで。」
カレンが送ると即答で二人から嫌と返事が来た。
と、そこへアリシアのパソコンにメールが入った。
「アリシア医師へ
1204号室の患者さんが急変しました。至急お戻り下さい。学校に車はもう向かわせております。」
アリシアは流石に冷や汗をかいた。先ほどみていた患者だ。一番の重症者だ。
「ごめん。私病院行かなきゃいけなくなった。抜けるね。」
グループにアリシアは送ると流石に二人はアリシアを見た。さて、どうやって抜けるかだ。アリシアはさっと手を上げて先生を呼んだ。
「先生。母から連絡が今来てしまいました。かなり急な用事のようなので授業を抜けてもよろしいですか?」
先生はアリシアがラファエルの医師である事は知っているのですぐに帰らせてくれた。
「分かりました。後でどの用事だったか教えてくださいね。」
アリシアはぺこりと頭を下げるとカバンの中にパソコンをしまい軽く片付けて部屋を出て行った。残された二人は必死でお昼に抜ける方法を考えた。そして、結論二人は寝ることにした。結果二人は怒られ授業退出を命じられミーティングに間に合うように学校を抜け出せたのだった。
✳︎
「アリシア先生早く!」
車から看護師が声をかけて来た。アリシアは走って中に入るとすぐに状況を聞いた。
「呼吸が激しく乱れ、酷い不整脈を起こしています。胸の痛みが強いようです。」
アリシアが一番恐れていた症状だった。
「分かりました。」
アリシアを乗せた車はすぐに病院に着いた。
「先生案内します!」
看護師が前を走りアリシアは白衣を着るのも忘れて制服のまま病室に入った。中では他の先輩医師2人が応急手当をしてくれていた。
「アリシア君。どうする。」
ぱっとアリシアは患者のモニターを見て答えた。
「とにかくこの不整脈を抑えます。」
そう言って用意されていた薬の中で最も強い薬を点滴のルートから入れた。2分ほどして不整脈は収まった。そして安堵の息を吐こうとした時。突然患者の心臓が止まった。心筋梗塞。アリシアはすぐに判断し緊急オペをすることにした。しかしアリシアはまだ若く手術の執刀はしたことがない。
「患者を緊急オペ室に運んで下さい!」
そう言ってアリシアは部屋を飛び出した。先輩医師はアリシアのあまりの迫力におされ言葉を発せなかった。アリシアはその足である医師の元へむかった。
「ウルア先生!」
そう。カイの父だ。
「ウルア先生!お願いです!患者さんが心筋梗塞を起こしました!執刀をお願いします!!お願いです!!」
頭を下げたのみに頼んだ。
「自分ではやらんのか?」
「私の今の技術では成功する確率は低いです。悔しいですがそんなことよりも命の方が大切です!お願いです!!」
もう一度深く頭を下げた。
ウルアは頷いた。
「君は第一助手だ。案内しなさい。」
「ありがとうございます!!」
アリシアはウルアを緊急オペ室に案内し自分もオペ室に入った。その後、6時間後手術は終わった。ミーティングには間に合わなかった。患者は、まだ予断を許さない状況でアリシアは遅れてもミーティングには行かなかった。
✳︎
そして、あの患者が亡くなった。アリシアの目の前で、3日経った時亡くなったのだ。一度も目を覚ますことはなくそのまま穏やかに息を引き取ったのだ。アリシアははじめて自分の患者を死という形で失った。アリシアは屋上のベンチで一人白衣を脱ぎ泣いた。まだ若い16歳の若い医師だ。だれもアリシアを責めなかった。
✳︎
「カイ。アリシアに、ミーティング内容を伝えないと。」
カレンが少し気まずそうに言った。アリシアの話は全機関員に知られている。
「あぁ。分かっている。」
カイはため息をつきながら答えた。アリシアはあの日からあまり寮に帰らなくなった。アリシアは生活の拠点を病院にし勉強に勉強を重ねた。風呂も病院で、睡眠も病院の机で、食事も病院で行った。明らかに疲れているのは分かるがアリシアは一度も弱音は吐かず一度も疲れた顔は見せなかった。しかし、代わりにアリシアは自分自身を見失っているようにも見えた。
「アリシアを誰も止めようとしないのは皆があのような状況になったことがあるからだよ。」
カイがウルアに聞いたときウルアはそう答えた。だから、カイも辛かったがアリシア自身で乗り越えて欲しい為に暖かい声をかけなかったのだ。カイとカレンはまた一度ため息をついた。
✳︎
次の日、アリシアが学校の席についていたときミルカが声をかけた。
「アリシア。最近、疲れてる?」
「どうしてそう思うの?」
アリシアがミルカに笑いかけるとミルカはアリシアの頬に手を当てた。
「だって、アリシアの顔が青いんだもん。」
ミルカは少し笑った。
「そうね、私は今自分と戦っているのよ。」
ミルカはそれ以上聞かなかった。そして、ミルカはアリシアの席を離れた。それから度々ミルカは他愛もない話をしにアリシアの元へ来るようになった。次第にその会話が楽しくなっていったアリシアはミルカに心を開き二人は親友となった。カイとカレンはそれをみていつも胸を撫で下ろしていた。今日もアリシアは楽しそうだと。そんな日々が続いたある日カイはミーティング内容をアリシアに話す事を決めた。
「アリシア。ちょっといいか?この前のミーティングの内容を話したい。かなり時間がかかるからゆっくり話したいのだがいいか?」
丁度アリシアの回診が終わった時、カイは声をかけた。
「うん。いいよ。」
アリシアは患者を見るようにカイの方へ振り返った。これも長い間病院に居続けている証拠だろう。
「まず、一つ。ここの国の何処かに天使が紛れ込んでいるという話がでた。これは主にミカエルが探すようだが、見かけたり手かがりをつかんだ場合すぐに届けるようにとの事だ。何故天使を捕まえたいかと言うと、敵国が狙っているらしく保護しようというものと、どこから来たのか等を調べたいかららしい。正直真面目に天使が紛れているなんて言われてもあんまりしっくり来ないけどな。
もう一つ、敵軍がかなり近いらしい。かなりの厳戒態勢がもう既にしかれている。俺たちは若いから、戦場に出される可能性は低いと思うが可能性がないというわけではないという事。だから、今この二つが同時に俺たちに出されている危険勧告だ。そして、俺たちラファエルに与えられた仕事はそろそろ始まる外来シーズン、若いが俺たちも参加することになった。助手ではなく医師として患者を診るらしい。だが、あらかじめ俺たちには軽い患者を送ってくれるらしい。まぁ、軽いと言ってもラファエルに来るような患者だ。相当なのじゃなければ来ないがな。そこで、アリシアは何科の手伝いにいくかこの紙に書かなくちゃならない。
基本的にはどこでも行けるそうだが、できるだけ内科か外科か小児科に来て欲しいとの事だった。」
そこまで一気に話すとアリシアは頷いた。
「分かった。この紙、今もう書いちゃうね。私、最初から決めてたの。専科に分かれたら何にしようかも。私、小児科に行くわ。」
アリシアにピッタリだとカイは思った。カイもそうなると思っていたからだ。