苦い肉
遠足の日の朝
朝日射した台所に
父のまあるい背中が
あった
いつもならパンと
バターのにおいが
焼き肉のにおい
台所から居間まで
漂い、朝という
気がしなくて
父のまあるい背中は
黙々と動いて
肉が焼ける音が
はではでしく
聞こえた
食卓には三人
兄はべそをかきながら
焦げた肉を頬ばり
私は父の苦い顔を見ながら
苦い肉を食んだ
台所の片隅に
かた結びのお弁当箱
持てば父の重いに
よろけた
母のやわらかさを
思うと鼻から思いが
噴出してしまいそうで
私は鼻を押さえながら
学校へ向かった
昼に開いた弁当の中身は
ごけた肉と四角いチーズ
母が作ったんじゃないと
私は必死に叫んだ
やさしいお父さんだね
友だちは妙にやさしい目で
私を見た
あのころ
母はどこへいっていたのか
今でも知らない私
兄は父から逃げるように
遠くへ行ってしまった
思い出すのは
朝日射した台所に立つ父の
まあるい背中と
苦い肉の味だけ