一騎打ち
「勝負?」
俺はその二文字に首を傾げる。
「ルールは簡単! 俺と手前がタイマン勝負して、勝った方がニコラにふさわしい男だという寸法だ」
「お前…… いや貴様、たぶん日本語間違ってるぞ……」
「日本語? 何を言っているのかさっぱりだな」
どうやらこの異世界の言葉は日本語という名の言語では表現しないようだ。どう聞いても完璧日本語なのに……
「とりあえずは俺が貴様に勝てばいいことだな。フフフ、この悪魔王ルシファーが栗ごときに負けるはずはない」
「へえ、随分自信があるじゃねえの。だが、これを見てもその自信は健在かな?」
直後、栗の手に一つの剣が現れた。
それは俺のエクスカリバーと同じくらいの大きさであった。
「貴様…… 武器を召還する能力か?」
「ちょいと違うな。俺の能力は二つの物質を使って何か一つの物質を作り上げる。いわゆる錬金術ってわけだ。ついでに今のは俺の小銭と小銭を使って作った。後でその分払って貰うからな」
理不尽なことを言うと、栗は扉を開いて外に出て行った。
とりあえず、俺は後についていくことにした。
外では先程の晴れている空はどこにもなく、代わりに豪雨が降っていた。
しかし、栗はそれを気にする様子もない。
「勝負方法は剣での一騎打ちだ。勝利条件は相手の剣を弾き飛ばした方の勝利だ」
「フッ、人殺しはしないということか」
「俺はあまりそういうのは好きじゃないんでな」
「いいだろう。受けて立ってやる」
そうは言ったものの、俺は当たり前なのだが剣は初心者だ。
剣道の経験もないし、剣をどう扱えばいいかも分からない。とりあえず見よう見真似でやってみるか。
俺は背中からエクスカリバーを取り出し、それを震える手で両手に持った。
今更ながら、剣というのはなかなか重い。俺の力ではとても片手では持ち上げらるのがやっとくらいの重さだ。
そんな俺の様子に気付く様子も無く、いや、気付いているのかもしれないが、栗は俺に向かって斬りかかった。
俺は剣の打ち合いでは敵わないと判断し、咄嗟の反応で栗を避ける。
「!」
俺の反応が予想以上だったのか、栗は驚いた様子を見せる。
その隙に、俺は奴の背後に回りこんだ。
しかし、予測されていたらしく、栗は背後を振り返りつつ剣を振る。
今度は避ける余裕はなかったので、俺はエクスカリバーでそれを受け止めた。
「ぐっ!」
思いのほか衝撃が大きい。危うくエクスカリバーを弾き飛ばされるところだった。
俺が反動で動けない間に、栗はもう一度剣を振る。いわゆる返し切りだ。
先程よりは威力は緩和されていたので、俺は再び受け止めるものの、何とか弾かれることはなかった。
「何だ、おもっくそ初心者じゃねえか。全然ガードの仕方がなってねえ。それに剣の持ち方も初心者だ」
「今更気付いたのかよ節穴が」
俺は今のうちに体勢を立て直す。
「どうする? 続けるか? それとも手を抜くか?」
「貴様如きにこの俺が負けるなど天地が引っくり返ってもありえない。手を抜くなど俺を舐めているのか」
「けっ、いい度胸してるじゃねえか。そういう奴は嫌いじゃねえよ」
なぜか栗は微笑すると、再び俺に向かって突進する。
先程の突進で避け方は理解した。しかし、同じ方法が通じる相手だとは思えない。きっと俺の裏をかいた戦法を使うだろう。
そう思い、俺はバックステップを使い、奴から距離をとる。
「何だと!?」
どうやら栗は俺が先程と同じ動きをするものだと思っていたようで、一瞬ではあるが無防備になる。
俺はそれを見逃さなかった。
すかさず地面を踏み込んで、栗に向かって猛然とダッシュする。
「らあぁぁぁぁぁ!」
掛け声と共に、俺はエクスカリバーを奴の剣に叩き付けた。
いくら初心者だからとはいえ、剣を振り下ろすくらいのことはできる。
「ふっ!」
しかし奴は俺の攻撃をガードで弾き、思わず俺は後ろに仰け反った。
思わず、ゲームのガード弾きのことが脳裏に浮かぶ。
「真正面から俺の剣を弾き飛ばせると思うなよ小僧!」
そう叫び、奴は俺に向かって再び斬りかかる。
しかし、今の俺は隙だらけだ。奴を防ぐ術など存在しない。
『カァーン』
鉄の奏でる小綺麗な音と共に、エクスカリバーは空中へと舞い上がった。