魔剣
その後、俺は抱きついてくる二コラを何とか引き離し、ギルドに服を買いに行くことにした。金は親切なことに二人が支払ってくれるらしい。
そして現在、俺達は人通りの多い街中を歩いていた。
俺の格好が気になるのか、それとも美少女二人に見とれているのか知らないが、やけに人の視線を感じる。
しかしそれを気に留める様子も無く、二コラが俺に話しかけた。
「そういえば自己紹介が遅れてたね。私はニコラ・クリスタス。よろしくね?」
「私はクレア・ヴィクトリア」
二人は自己紹介を終えるとまるで催促するかのように俺を見る。どうやら、俺の闇に包まれた素性を明かすときが来たらしい。
「フハハハハ! 俺の名前を聞いて恐れおののくが良い! 我が名はルシファー! 6666億人の悪魔の王であり頂点に立つ者。しかしそれは表の姿であり本来は大天使ミカエルとの双子の兄弟なのだ!」
決まった。これで俺の威厳を二人、いやここにいる群集に知らしめることができただろう。
しかし予想に反して、二人の反応は想像以上にドライだった。
「ふ、ふーん…… すごいねーぇ?」
「人前でそういうことするのやめてくれる? 私たちまで同類と思われるのは嫌なのよね」
俺が周りを見ると、周りにいる群衆が俺を哀れむ目で見ていた。
「畜生ぉぉぉぉおぉぉぉぉ! 異世界では俺のルシファー設定を受け入れてくれると思ったのに! だが俺は諦めない。必ず俺が悪魔王ルシファーであることを証明してやろう! フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
高笑いする俺に二コラは苦笑いをし、クレアは頭に手を当てて嘆息していた。
「まあいいわ。貴方の能力を教えなさい。悪魔王っていうからには、さぞかし凄い能力を持っているのかしら?」
「うっ!」
なかなか痛いところを突かれてしまった。悪魔王である俺は、この真の事実を隠し通さねばならない。なぜなら、ルシファーは封印されし闇の力を使うという設定だからだ。
「フフッ。フハハハハッ! よくぞ聞いてくれたな。俺の能力は封印されし闇の力。それを持ってすれば人界を掌握できるのだが、面倒な使用条件があってな。まあ能力など使わなくても俺にかかれば人間など下等な存在は俺の敵ではない」
「ごめん。ちょっと来てくれるかな? クレアも一緒に」
「お、おう」
「分かったわ」
俺達は二コラに連れられるままに、近くの人気の無い店の中に入った。
「君ってさ、無能力でしょ」
店に入るや否や、二コラは率直にそう言った。
「貴様…… まさか読心術の使い手か?」
「そうだね。私の能力は生き物の心の中を見ることができるの。まあいわゆる読心術に近いものかも知れない」
自分の能力の説明をすると、二コラは悲しそうな顔をした。
「無能力か…… 私もそれが良かったのに……」
「どうかしたのか?」
「ううん! 何でもないよ! ついでに、無能力っていうのは人によっては馬鹿にする人が出てくると思うから、それが嫌なら隠しておくのがいいかも知れない」
まるで自分の発言をはぐらかすような口ぶりで二コラは言った。
「でも、私とクレアは馬鹿にしないよ。ね? クレア?」
「馬鹿にするも何も、私は最初からルシファーのことは馬鹿にしてるから、これ以上馬鹿にしようがないわ」
クレアは長い銀髪を触りながら興味が無さそうに言った。
「何を言っている貴様ら。俺は別に無能力ではない。なぜなら、俺は悪魔王ルシファーだからな。悪魔の力を有している」
俺の言葉に二コラは「にこっ」と微笑んだ。
「君は強いね。そういうところいいと思うよ」
「強い? 当たり前だろう。俺は悪魔王ルシファーだからな」
「全く、貴方は強いって言うよりもお気楽ね。それよりも、ここって武器屋のようだから何か買えば? いざという時役立つかも知れないわ」
そういえば、ここには色々な武器がたくさんある。確かにクレアの言うとおりここは武器屋のようだ。
「金は出してくれるのか?」
俺の問いにクレアはふう……と軽く溜息をつく。
「自分で言うのは気が進まないけど、こう見えてお金は結構持っているのよ。貴方がよほどのものを買わない限り、お金に困ることは無いわ」
そんなクレアを二コラはにやにやしながら見つめる。
「随分ルシファー君のことが気に入ったみたいだねクレア?」
「何を言っているのニコラ。私はお金の使い道に困っていただけよ」
そんなやり取りをする二人を置いて、俺は武器を見て回ることにした。
しばらく見て回っていると、俺は一つの紫の剣を発見した。
禍々しいオーラを放っていて、いかにもこのルシファーの愛剣に相応しい。
手にとってみると、それは思ったよりも軽く、金属バットよりも少し重いくらいであった。
「お客さん。こいつが欲しいのかい?」
いつの間にか、俺の背後にこの武器屋の店長らしき初老の男が立っていた。
「こいつは昔から伝わる魔剣でね。選ばれた者にしか持つことができないらしいんだけど…… どうやら君がその選ばれた者のようだね。まさか、女装趣味ををしている人が持つことができるのか……?」
「ふ、フハハ…… 俺は悪魔の王だからな…… ちなみにしたくてしているわけじゃない!」
ま、まさか本当に俺は悪魔の王ルシファーなのか? あのような禍々しい魔剣に選ばれるとは……
「この剣は僕の親の代からあったんだけど、どうやら君が所有者に相応しいようだ。だから無料でいいよ。後ベルトも」
「フハハハハ! 感謝する武器屋よ」
俺は武器屋にお礼を言うと、魔剣をまじまじと眺めた。
「よし、貴様の名はエクスカリバーだ! これからよろしく頼むぞ」
俺は腰にベルトを巻いて、背中に魔剣を背負った。