始まり
まず初めに言っておこう。
俺は内田恭二16歳、高1である。
成績は文系とは相性がよく理系は相性が悪い。例を挙げれば国語は悪魔であるこの俺の何でも解析できる邪眼を使って文章が述べている意味を捉えることができるが、逆に数学は魔界には存在しない数式がぞろぞろ出てくるので解けない。いわゆる外国人が古典が全くできないと同じことだ。
運動は人間をはるかに超越した悪魔の力のためかできる方。趣味は漫画、ラノベ、アニメ、ゲーム等である。
全く、何を言っているんだ俺は、心の中で自己紹介をしてどうするんだ。
そんなことを心の中で思いながら、俺は街中をすたすたと歩く。
十月なのにこの現代世界は灼熱地獄だ。全く愚かな人間共め、貴様らが地球温暖化などという現象を引き起こすから、秋なのにこんなに暑くなるんだ。やばい、このままだと脱水症状を引き起こすかも知れない。
まあいい、俺はもうじき異世界へと旅をする。もうこんな夢も希望も無い現実世界とはお別れだ! ハハハハハハハハハハ!
心の中で高笑いをしながら俺は一軒の古びたアパートの前で立ち止まる。
「ここで合ってるよな?」
チャットで教えてもらった住所と一致した部屋の前まで行き、俺はその部屋のインターホンを押した。
『ピンポーン♪』
しかし、誰一人として出てくる気配は無い。
なので、俺はもう一度インターホンを押す。
『ピンポーン♪』
先程と同じように、全く反応が無い。
「壊れてるわけじゃないよな? 音は聞こえてるし。もしかして留守とかいうオチじゃないだろうな?」
普通の人間ならここで諦めるかも知れないが、俺は自称悪魔…… いや6666億人の悪魔の王ルシファーである。何度でも挑戦してやろう。
そして、俺は何度もインターホンを押し続けた
『ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポピンポピンポピンポピンポーーー』
「うっせえ! 何度も鳴らさなくても分かるんだよ!」
突然部屋の玄関から、野生のおっさんが怒声を上げながら出現した。
無精ひげで無気力そうないかにもリストラされて仕事が無いといった感じの中年オヤジのようであった。
しかし、見た目は気にせず俺は中年に尋ねる。
「異世界の番人か?」
「いかにも、俺は異世界の番人だ。まさか手前、悪魔王ルシなんちゃらとか名乗ってた中二野郎か?」
「だ、誰が中二だ!? 俺は正真正銘魔界からやって来た悪魔の王ルシファーだ! 中二なら貴様も異世界の番人とか言ってただろ!?」
「俺は正真正銘本当のことだから問題ねえ。まあ上がれや、異世界に行きたいんだろ?」
「そうさせて貰う」
そっけなく答えると、俺は部屋の中へと入った。
部屋の中は、ごみ屋敷と言っても過言無いほどの汚さであった。
「何だこの汚さは……」
「人間ってのは生活をすればその住んでる場所は自然と汚くなる。それだけのことだ」
中年は当然のように言い放つ。
「じゃあ掃除しろ! そしてかっこつけたように言うな腹立つから!」
「うるせえガキだな……」
面倒そうに中年はボサボサの頭をぼりぼりと掻いた後、どうやら中断中のようであるテレビゲームの方を向いてコントローラーを手にする。
「まさか…… 俺を無視したのはこれをやっていたからとか言わねえよな……?」
「ったくよ、後五分あればこのモンスターを狩れたのに手前がピンポンピンポンうるせえからわざわざ時間を割いて出てやったんだ。これだけ終わらせたら異世界に連れてってやるからありがたく思えよクソガキ」
その発言に、俺の眉間に皺が寄った。
あまりにもムカついたので、俺は怒りに任せてゲームの近くまで来ると、そのコンセントを勢いよく引っこ抜いた。
刹那、中年は部屋中に響き渡るほどの絶叫をあげた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 電源が切れたあああああああああ! このクソガキ! 俺の時間を返しやがれ!」
「いい歳してゲーム脳とは、育てた親の顔が見てみたいな」
部屋中を転げまわる哀れな中年を見ながら、俺は空いているスペースに腰を下ろした。
しばらく中年は転がり回って汚い部屋を更に汚くしていたが、突然ぴたっと止まり俺の顔を見る。
「いいか? 手前は俺の苦労を何も理解してねえ。俺がこのモンスターに挑んだ時間がどれ程のものだと思ってやがる……!?」
「またやり直せばいいことだろ。ちなみに、奴の弱点は氷だ。それだけ教えておいてやる」
「心に刻んでおいてやる。それはそうと、金は持ってきたかクソガキ?」
俺は大切に服の中にしまっておいた封筒を中年に投げ渡した。
その中身を確認して、男は馬鹿みたいにはしゃぎまわる。
「ヒャッホーッ! 諭吉が五十枚…… 何買おっかなー?」
「貴様がそれを何に使おうが貴様の勝手だが、下手に使ったら6666億人の俺の部下がお前に天罰を与えるから覚悟しておけ」
「それは天使だろうが」
最もなツッコミをすると、中年はいきなりゲームコーナーにありそうなルーレットを部屋の中に出現させた。
「何だこれは?」
「これでお前の能力を決めるんだよ」
「能力?」
「異世界で生きていくんなら少なくとも何らかの能力がないと正直厳しいからな、だからこの魔法のルーレットがお前の能力を決めてくれるわけよ」
俺はそのルーレットを見ながら中年に尋ねた
「個別に色が付いてるが、その色次第で能力が決まるのか?」
「そういうことだ。ちなみに赤が炎を出せる能力、黄色が放電能力、まあ他の色も大体理解できんだろ。お前中二だし」
「確かに大体は予想できるが、この白いのは?」
俺の問いに、中年はやっと聞こえるくらいの小さな声で呟いた。
「無能力だ」