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氷炎二重奏  作者: 涼風 玲
序幕~刹那の紅に碧空は染まる~
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第四章 紫の守護者 【七】

 一方、屋敷の中。

 抵抗もせず、大人しく憎しみと怒りの矛先を受けようとしていた真臣の身体は、汪唎の帰還によって突如動きを取り戻した。

「まさかそなたの方から来てくれるとは思わなんだ。歓迎せず申し訳なかったな、桔梗島の角鬼殿」

 突然表情が一変し、あっという間に自分を突き飛ばした相手を、刹那は茫然と見詰めた。

「我が生を永らえさせる為、よくぞ来てくれた。ようこそ、我が屋敷へ」

 腕を広げて笑う青年。その脆弱そうな身体から放たれる気が、先程までとは打って変わって禍々しいものとなっている。自分に首を絞められながらも澄んだままだった瞳には、今や醜く濁った色が浮かんでいる。

 口の端は吊り上げられ、まるで異形の笑みを浮かべている人間。

「貴様が、叨埜汪唎か」

 目の前の人間の変貌ぶりが気にならない訳ではないが、刹那にとってそんな事は些細な問題。それよりも、同胞達を殺した張本人を殺す事の方が先決である。

「儂の名を知っていてくれたか。これは実に光栄だな」

 くつくつと笑う声は、老人のものに聞こえなくもない。

「一度だけ、訊く。何故殺した」

 上機嫌な汪唎に向かって、鬼は率直に本題を投げかける。すると汪唎はその顔から笑みを消さずに答えた。

「それは実に簡単な質問だよ、角鬼殿。儂が永遠を欲したからだ」

「…何だと」

「人の人生は短い!」

 歌う様に、朗々たる声音で汪唎は切り出した。

「人は天から何の生物よりも優れた知性を授かりながら、その寿命はとても知性の量に相応しいだけのものを与えられていない。長く生きれば解る筈の事も、天命により命尽きる事で、その人物が掴みそうだった真実は闇に葬られてしまう。儂にはそれが許せない」

 身振り手振りで大袈裟に言葉を表そうとしながら、生に執着する魂は訴え続ける。

「儂はの、人生の終わりで世の理を覆すかも知れぬ呪術を見付け出せそうになった。だが、そんな希望が湧いた次の日、儂は病で倒れた。おかしいと思うだろう?」

「……」

 独壇場を続ける汪唎に、刹那は無言だった。ただ、相手の言葉を聞くだけ。

「天は人に幸福を与える為に知性を与えたのではない。絶望を与える為に知性を与えたのだと、儂は気付いた。ならば、そんな身勝手な神には逆らうしかあるまい」

「だから、私の同胞を殺したのか」

 神などという不可思議な存在よりもずっと、更に身勝手な人間を前に、刹那は呻いた。

「そなたの同胞を殺すつもりはなかった。儂はただ、不死の妙薬となる鬼の角を持つ角鬼…つまりはそなたを探し出せればそれで良かったのだからな」

「では、何故…ッ!」

 頭の奥が熱くなるのを感じながら、鬼はなお真実を追い求める。すると老人は興醒めしたかの如く、冷めた声音であっさりと言ってのけた。

「仕方なかろう。そなたの仲間達が『長を売る訳にはいかぬ』と儂らからそなたを庇ったのだから」

「……!」

 どくん、と、一つの鼓動が大きく刹那の耳に響いた。

 まるで走馬灯の様に、温かい同胞達の笑顔が脳裏を突き抜ける。自分を長と慕ってくれた島の仲間達、弟妹達、そして・・・最愛の朱里。

「貴様ぁあああっ!」

 絶叫と共に、刹那と汪唎のいる屋敷の一角が、真紅の炎で包まれた。普通の妖には起こし得ない、膨大な妖力により作り出された炎に、汪唎の瞳が歓喜に染まる。

「よくも、私の同胞を! 殺してくれたな…! 許さない、絶対に、貴様は許さん!」

 妖特有の身体能力で一気に詰め寄り、刹那は至近距離で汪唎への怨嗟の言葉を吐いた。怒りで爛々と燃えた琥珀の瞳を見て、真臣の瞳、つまりは汪唎の目が輝く。

「これだ、これだよ角鬼殿…そなたのこの凄絶な妖力。こんな力を持つそなたの角があれば、儂はもっと生きる事、が―――」

 恍惚とした言葉が、途中でくぐもり、そして止んだ。

「かはっ…」

 ごぼりと嫌な音を立てて、真臣の血が吐き出される。突然の事に、憑依している汪唎は何が起きたのか理解できなかった。だが、支配している真臣の神経を通して激痛を感じ、それが伝わってくる場所へと、ゆっくりと視線を移す。

 右の脇腹に、銀色の何かが突き刺さっていた。それはずぶずぶと思い音を立てながら、遅くも早くもない速度で引き抜かれた。

「三叉剣か…」

 憑依していても、身体自体は真臣のもの。どんなに汪唎が望もうとも、真臣の体力に限界がくれば、身体を動かす事は出来なくなる。傾いでいく視界の中、目の前に現れた武器の名を、汪唎は呟いた。

 刹那の手に握られた、三つに刃が分かれた武器。べっとりと血に濡れたそれは、自分を刺したものだ。

「ち…だが、儂にはまだまだ手段がある!」


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