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氷炎二重奏  作者: 涼風 玲
序幕~刹那の紅に碧空は染まる~
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第四章 紫の守護者 【五】

「そ、奏炎、なのか?」

 愕然として息吹が問う。

「お前の目はどうなっている? 俺が奏炎な訳がないだろうが」

 苛立たしげに答えた桔梗色の髪と、血色の瞳を持つ妖の顔。

 それは確かに、奏炎のそれと酷似していた。

 彼の陰陽師の少年と違うのは、髪と瞳の色、そして。

「その翼。まさか、お前…鵺か」

 恐る恐ると言った体で呟いた響一朗の言葉に、妖は薄い唇を笑みの形に吊り上げた。奏炎では絶対に浮かべない、自信に満ち溢れた意地の悪い表情。

「まあまあ勉強してあるみたいだな。桔梗島の妖を知らなかったにしては、上出来だ。真田響一朗」

 傲岸不遜なその妖怪の正体は、鵺。

 その姿を見れば死の世界へ招かれるとまで言われる、最強にして最凶の妖。鴉羽の様な漆黒の翼を背に持つ鵺は、奏炎と同じ貌でにやりと笑った。

「どうせ陰陽術程度で結界を破れるんじゃないか、なんて馬鹿な事を考えているだろうと思ってな。呪符の無駄遣いをさせない為にも、わざわざ結界を破ってきてやったんだが…」

 そこまで言ってから言葉を切り、鵺は自分が燃やした呪符の燃えかすを見遣った。

「自分達で無駄遣いをするとは思わなかった。どこまで抜けているんだ」

 呆れ混じりに言われ、響一朗の額に青筋が立つ。

「妖にそんな事言われる筋合いは無い! 大体、陰陽師の前にいきなり現れて攻撃されないと思ってる方がどうかしてるだろうが」

「だから馬鹿だと言っているんだ」

「何だと?」

「お前達は敵でも利用価値のある者は利用する、という賢いやり方に未だに気付けないのか? 愚かにも程があるな」

 はっ、と嘲笑する鵺。それに当然、切れやすい響一朗の怒りは膨らむばかりである。

「真田副長、堪えて」

 さりげなく肩を叩いてくれた息吹に、副長は心底感謝した。おかげで怒りを何とか収める事が出来そうだ。だが、あの生意気な奏炎と同じ貌で、奏炎よりも更に質の悪い言葉を吐きまくる妖には、とても良い感情は抱けない。

「とりあえず、お前の名前は何だ」

「知るか」

「ふざけるな、妖とて名前はあるだろう」

「教える気はない」

 さらりと切り捨てられた問い。もういい加減に響一朗も限界だった。

「ああそうか、だったらお前の事は妖怪、妖怪と呼ぶからな」

 鵺と呼べば良いものを、と息吹は副長の大人気の無さに少し呆れた。それは妖も同意見らしく、響一朗が定めた呼び方に、心底嫌そうな表情を浮かべていた。だが、そうなっても名前を言う気は無いらしい。舌打ちするに留まった。

 それが息吹にとっては決定打になる。

(彼が、奏炎の『大切な兄弟』か)

 奏炎が頑なに正体を、名を言おうとしなかった人物。そう思えば、刹那の不可思議な発言の辻褄も合うというものだ。人間もどきと言うのは、兄弟が妖だからという意味なのだろう。

 鵺という妖が人そっくりな容姿というのは初耳だったが、とりあえず息吹の中からは、一切の疑問が消えた。

「言っておくが、心を読まずとも考えている事が丸解りだぞ、砥上息吹」

 余程満足気に微笑んでいたのだろう、いつの間にか目の前に立っていた鵺に、呆れた様にそう言われてしまう。

「お前達『兄弟』は、本当にお互いを想い合っているんだな」

 思ったままの事を言ってみる。すると、鵺は驚いた様に目を瞬かせた。

「あの鬼と同じ事を言うんだな」

「刹那が?」

「ああ。お前と全く同じ事を言っていたぞ。妖と思考回路が同じとは、陰陽師として感想はどうだ?」

 完全に面白がっている相手に、息吹は彼の予想を裏切るだろう反応をしてみせた。

「奏炎があんなに隠したがっていた刹那の正体を、よくぞ教えてくれたな」

 妖が「しまった」と口を抑えたのは、当然の反応だった。


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