表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷炎二重奏  作者: 涼風 玲
序幕~刹那の紅に碧空は染まる~
18/34

第四章 紫の守護者 【二】

「刹那、少しは待ってくれ」

 すたすたと性急な足取りで屋敷へと向かっていく鬼に、奏炎は不安気に声をかけた。

「何故?」

 簡潔に問いながら、刹那は屋敷の中へと、容易に足を踏み入れた。

「え……?」

 奏炎と息吹、二人の目が限界まで瞠られる。

 息吹の占術の中で、叨埜家の人間と思われる者達は、皆屋敷の外へ出ようとしても出られずにいた。それが、外からは簡単に人を入れる。

 それはつまり、入れば外に出るのは困難という事だ。

「刹那―――っ」

 思わず叫んで、奏炎は彼の手を掴み外に引き戻そうとした。その奏炎を、息吹が連れ戻そうとする。それが間違いだった。

「うわっ…」

 短い悲鳴と共に、奏炎の身体が屋敷の中に引きずり込まれる。それにつられて、息吹もまた、まんまと屋敷の中に閉じ込められてしまった。

 当然、外に出られぬものかと、二人は扉の外へ歩み出そうと試みた。だが、外に出たかと思えば、広がる景色は真っ暗な屋敷の中だけ。先程までの月明かりや星の光は、どこにも見えない。

 二人同時に、己の情けなさと不甲斐なさを呪って膝をついた。

「やられた…」

 その状態のまま憎々しげに、奏炎が呻いた。

「だから、刹那を連れてきて良いのかと訊いたんだ」

 息吹もまた、今更言ってもどうにもならない事を呟く。

「そうだ、刹那はっ?」

 もう一人の同行者の存在を思い出し、彼は辺りを見渡す。真っ暗闇の中でも、妖気を辿れば見付けられると思ったのだ。だが、どこにも妖の姿は見つからない。

「何処に行ったんだ?」

 そう言葉を零した奏炎の背後で、息吹がふらりと立ち上がった。

「息吹、刹那がどこにもいないん―――」

 現状を伝えようと振り返った奏炎を、橙色の炎が襲った。



 混濁する意識の中で、叨埜真臣は新たな屋敷への侵入者の存在に息を呑んだ。

 もう、この屋敷に住む一族の者は全て帰還した筈なのに、どうして更に人が入ってくるのだろう。

(やめてくれ…)

 心の中で、彼は悲鳴を上げた。

 今自分の身体は、真臣の意志に関係無く屋敷を徘徊している。逃げ隠れしている一族の者を探す為だ。己の意志で動かしている訳ではないのに、自分の身に纏わりつく血の生暖かさと、それが熱を失い代わりに持つ冷たさは、鮮明に伝わってきた。

 恐らくこの身体は、一族全員を殺すまで止まりはしないだろう。だから祖父は不死を望んだのにそれを叶えられなかった、己の一族をも恨んでいる。せめて、一族以外の犠牲者を出したくはなかったのに。

 そう考えてから、覚えのある霊力に戸惑った。

(この、霊気…まさか、あの陰陽師?)

 自分より年下なのに、千聖軍の非公式部隊の指揮を任されていた美貌の少年。

 確か名前は、玉依奏炎。

(彼がどうしてここに)

 茫然とすると共に、希望にも似た感情が心に芽生えた。そうだ。数日前に祖父の目を盗んで、彼に助けを求める手紙を送ったのだ。きっとそれが届いたのだろう。

「随分と、嬉しそうだな。真臣?」

 冷やかな自分の声が、何もかもを見透かした様に語りかけてきた。

「お前が期待しているのは…ああ、この霊力の持ち主か」

 ふん、とせせら笑う声がしたかと思えば、突如、真臣の身体が自由を取り戻した。不意の出来事に、身体を支える意志を持たずにいた真臣が膝を崩す。

「何で急に…」

 現実が信じられず、自分の言う事をきく両手を握っては開いてを繰り返した。しかし自由な時間はすぐに終わりを告げる。

「叨埜汪唎…!」

 膝をついて茫然とする真臣の視界に、白衣の裾が閃いた。そして一瞬後。

 だんっ・・・

 凄まじい音を立てた己の背中と、そこに当たる壁。息苦しいのは、尋常ではない力で喉を掴まれ壁に押し付けられているからだ。

 片手だけで人一人を掴み上げた相手を見て、真臣の瞳が驚愕に見開かれた。

「あな、たは…」

 咳き込みながら、憎悪で瞳を輝かせた青年を見遣る。少し前に、この屋敷の前で見た相手に、間違い無かった。

 あの時も、恐れるべき相手だとすぐに解った。『赤鬼』だと判る証・・・真紅の髪と、琥珀色の瞳。そして、紅色の間から顔を覗かせる黒い角。

 その身に纏うのは、白を基調とした異装だった。見た事も無い型だが、その恰好が何よりも妖らしさを示している。

「十年…この時を、ずっと待っていた…っ!」

 怒りで燃える瞳に、自分は叨埜汪唎ではないと伝える事さえ、出来なくなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ