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氷炎二重奏  作者: 涼風 玲
序幕~刹那の紅に碧空は染まる~
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第三章 黒の一族 【四】

 そんな彼の様子を横目で見遣りながら、刹那は戸惑いつつも奏炎に問うた。

「良かったのか? あの男は仮にもお前の上司だろう」

「仕方ないだろ。あの人に付き合っていたらいつまで経っても本題に進めない」

 うんざりした様子で返す奏炎は、自分の部屋に辿り着くとその扉を開け放った。

 まだ入隊したばかりで、部屋の仲は殺伐としている。あるのは元から置かれていた文机と、一本の長刀だけ。

「本題、か。それが私に関係する事なんだな」

 蝋燭の小さな灯りだけで照らされた室内に腰を下ろし、刹那が確認を取る。彼は既に、自分をここに連れて来たのが「誰」なのか判っていた。

「流石に話が早いな。その通りだ」

「で? その本題とは」

「一緒に叨埜家を守ってくれないか」

「……は?」

 真剣な碧色の瞳が、真っ直ぐに刹那を見据えていた。

 だが刹那としては、予想外過ぎるその内容には当然、驚かざるを得ない。

「正気か? お前」

 思わず、そう訊いていた。

「本気だよ、俺は。お前がいれば、俺は叨埜家を守り切れると考えている」

「そういう事を訊いているんじゃない。私は言った筈だ。私は叨埜家に一族を殺され、彼らを憎んでいると」

「知っている。だが、殺していないんだろう?」

「殺したくなくて殺さなかったんじゃない!」

 怒鳴り声で反論したが、奏炎は素知らぬ顔で首を振った。

「お前には殺せないさ。何しろお前の一族に直接手を下した者は、もうこの世にはいない。今叨埜一族にいるのは、そんな先祖達の罪を理不尽に贖わされている彼らの子供達だ」

 はっと、刹那が息を呑む音が響いた。

 十年前に、刹那はその場にいた人間達を皆殺しにしたのだろう。だとすれば、容易に想像出来る現実でもある。

 だが、憎悪というものは現実を見えなくさせるものだ。

「それがどうした。たとえ私の一族を殺した者ではなかったとしてもだ。殺す理由はなくとも、助ける理由もまたない」

 きっぱりと拒絶した刹那を、奏炎は睨み付ける様な視線で眺めた。

 碧玉が妖しい光を帯びた様に見え、相手がたじろく。

「叨埜一族が、叨埜汪唎に殺されそうになっていてもか?」

「おうり? 誰だ、それは」

「桔梗島の遠征を命令した張本人。不死を求めた当時の当主」

「な…っ」

 ざわり、と空気が揺れた。瞬く間に刹那を取り込んだ凄烈な妖力に、奏炎は苦笑した。

「自分の真の仇の名すら、知らなかったのか」

「どういう事だ!」

 詰め寄り、今にも胸倉を掴み上げそうな勢いに鬼に、陰陽師は事も無げに言った。

「息吹に占術をさせた。と言っても彼は占いは初心者だったからな、俺が彼の霊力を借りてやった様なものだ。その占術で、今の叨埜家の実情とお前の居場所を特定した」

 だが、その占術の結果を息吹は知らない、と付け足した奏炎。

 彼の自室に、問題の息吹が飛び込んで来た。

「奏炎! いい加減にさっきの占術の結果を教えてく―――っ?」

 勢いよく襖を開けて入室した息吹は、そこで響一朗と全く同じ反応を見せる。

 部屋の中に居る筈のない妖に向けて指を差し、茫然と硬直するだけ。

「君は本当に真田副長と息が合っているな」

 副長は副長で、息吹は奏炎と息が合いすぎていると思っているとは知らず、そう感心した様に奏炎は言う。

「何のつもりだお前っ! そ、そいつは妖だろう」

「真田副長も全く同じ事を仰っていたな」

 うん、と感嘆と共に頷くと、息吹は「ふざけるな」と言いたげに顔を顰めた。

「お前には陰陽師としての自覚があるのか?」

 いつにも増して濁りの無い追及の色に、奏炎は溜息と共に目を閉じた。

「ここに座ってくれ、息吹」

 自分のすぐ隣を軽く叩くと、は彼部屋の隅から火鉢を持って来た。それを、自分の隣に座った息吹の目の前の押しやる。

「さっきもやった、占術だ」

 叨埜家から帰還した後すぐに二人で行った占術。それをもう一度奏炎がやろうとしているのだと察し、息吹は更に眉間に皺を寄せた。

 何故なら。

「あの奇天烈な踊りをもう一度やれと言うのかっ!」

 そう、炎を用いての占術は、非常に恥辱的な行為を伴うものなのだ。

「事件解決の為だ。頼む、息吹。この通りだ」

 言うと、奏炎は顔の前で両掌を合わせる。俗に言う「お願い」の姿勢に、息吹は瞠目し、そして頭を抱えた。この行為が果たして悪意を伴ったものなのか判断出来ないのだ。

「…解った」


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