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氷炎二重奏  作者: 涼風 玲
序幕~刹那の紅に碧空は染まる~
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第三章 黒の一族 【三】

「俺に付いて来い。刹那」

 短く命ずると、紅の瞳を持つ人物は踵を返す。その足取りは早く、夕陽の溢れんばかりの光も相まって、追わねばすぐにでも姿を見失ってしまいそうだった。

 身勝手とも言える態度に内心舌打ちしながらも、刹那は大人しく相手に従った。

 相手は振り返る事も話しかける事もなく、ただ黙々と紅葉林を歩き、そこを抜けると今度は市中を無言で進んで行く。

「お前の名を、訊いても?」

 無音の状態に気分が悪くなり、刹那は突如、そう切り出した。すると相手は少しだけ歩を緩め、刹那との間を狭める。

「『あいつ』は何て言っていたんだ?」

「…教えられない、と」

 不敵な笑みで問う相手に真意を知り、刹那は苦笑した。

「お前達はどこまでも相手を尊重するんだな」

 少々の呆れが混じった感想に、相手は満足げに微笑んだ。

「当然だ。この世でたった一人の相手なんだからな」

 速攻で返してきた相手と、彼の言う「たった一人の相手」との違いに、妖は口の端を吊り上げる。

「普通の人間であるあいつが、全ての殺人現場に誰よりも早く辿りつけたのは、お前のお蔭か」

「そうだ。異界からは、妖力や霊力の動きは実に見通しやすいからな」

「異界…」

 あっさりと口にされた言葉に、刹那は戸惑った。

「それは一体どういう―――」

「遅ぇんだよ、今まで何やってたお前っ!」

 突然の怒鳴り声に、刹那は柄にもなく飛び上がった。

「息吹に炎で何やら妙な術やらせたかと思いきや、突然飛び出して行きやがって、少しは集団行動というものを―――って、なっお前、刹那?」

 驚いた事に、刹那が立っているのは千聖軍の屯所の門扉だった。秋も近く夜は冷え込むというのに、響一朗は外で待っていたのである。奏炎の帰りを。

 そして人の気配がしたと思い、考えもせず奏炎相手だと決め付け怒鳴ってしまったのである。だが、間違った相手が意外過ぎて、響一朗はそれ以上何も言えなかった。

 ただ、情けなく口をぱくぱくと動かし、茫然と刹那を指差したまま。いつの間にか刹那をここに連れてきた張本人の姿はない。

 二人がお互いにどう反応すれば解らず固まっていると、不意に屯所の奥から声がかかった。

「何をしているんですか真田副長。ああ、刹那、君はこっちへ来てくれ」

 中庭の方から歩いてきたのは奏炎。

 帰りを待っていた響一朗としては驚愕の現実に、彼は目を剥いた。

「奏炎っ? お前いつの前に屯所に帰ったんだ!」

「ついさっきですよ。それより、今の季節、夜は冷えますよ。早く内へお入りになった方が良いんじゃないですか?」

「何の為に俺が外にいたと思ってやがる!」

「何の為です?」

 わざと馬鹿正直に問い返され、響一朗は言葉に詰まった。まさか「お前を怒鳴り散らす為だ」とは言えない。言ったとしても何の役にも立たない。

「話は終わりですね? 刹那、俺の部屋へ来てくれ」

「あ、ああ…」

 誰がどう見ても、それこそ妖であり、人の身分立場などよく解っていない刹那にさえ判る程に上司を無下に扱うと、奏炎はよりにもよって鬼を自室へ手招いた。

 鬼とは知らないものの、妖怪であるとは知っている響一朗が蒼褪める。

 例えどんな事情があろうとも、陰陽警察の中枢に妖を招き入れるなど言語道断。幕府に対する背信行為にもなり兼ねない所業だ。

「お前何考えていやがるんだ? そいつは妖だろう」

 何とか冷静を保ちながら忠告すると、奏炎は少し考え込む素振りを見せた。だが。

「でも、叨埜一族からこれ以上の犠牲者を出さない為には必要な事ですから」

 そう告げると、もう言う事はないとばかりに部屋へと歩き出す。人間に気遣いなどしなくて良い刹那の方が、奏炎より余程躊躇いを見せていた。

「この…生意気な餓鬼がっ!」

 どかっ・・・

 冷静沈着、無表情で冷酷な毒舌家として有名な筈の千聖軍副長は、とりあえず門扉を蹴り飛ばす事で鬱憤を晴らした。


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