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追放された王女ですが、捨てられた離宮を温泉宿にしたら父王が泊まりに来ました

作者: 入河 珈一
掲載日:2026/05/31

追放先に温泉がありました。勝ちです。

 王女アリアは、父王に追放された。


 与えられたのは、森の奥の朽ちた離宮。侍女は一人。予算は半年分。王都の者たちは、すぐ泣いて戻ると思っていたらしい。


 だが離宮の裏庭には、湯気が立っていた。


「温泉です」


 侍女の声が震える。


「では宿にしましょう」


 アリアは泣くのをやめた。


 浴場を直し、薬草を浮かべ、狩人には肉を、村人には野菜を納めてもらう。最初の客は腰を痛めた木こりだった。次は旅の商人。その次は噂を聞いた貴族夫人。


 離宮は少しずつ宿になった。


 王都では、アリアを追放した側近たちが失政で責められていた。彼らが削った街道予算のせいで物流が止まり、王宮の評判は落ちるばかり。


 ある雪の日、父王が宿に来た。


「戻ってくれ」


 アリアは湯呑みを置いた。


「お泊まりは一泊二食付きで銀貨八枚です」


「娘に金を取るのか」


「宿ですので」


 父王は黙り、湯に入り、夕食を食べ、翌朝深く頭を下げた。


「国を立て直してほしい」


「まず街道予算を戻してください。宿のお客様が困ります」


 王女は王都へ戻った。


 ただし離宮の宿は閉めなかった。


 疲れた人が帰れる場所を、彼女はもう二度と手放さなかった。

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