物書きのAIの使い方
巷を見ると、物書きがAIを使うといえば文章を書かせたりプロットを考えさせたりといったものが多い。まあAI的にはそれが本流なのかもしれないが、他にも色々使い方はあるよという話をしたい。
例えばフレーバー・ページの作成である。
フレーバー・ページとは何かというと、自作に登場する架空の何かを、あたかも実在するかのようにウェブ上に再現したページのことだ。作中世界の一部をインターネット上に実体化させる、とでも言えばいいだろうか。
俺は例えばこんなページを作った。
https://dacco-music.pages.dev/
これはとある作品の主人公が好きな架空のシンガーソングライターの架空のプロモページだ。アーティスト写真があり、ディスコグラフィーがあり、ライブ情報がある。もちろん全部嘘である。存在しないアーティストの存在しないアルバムの存在しないツアー日程が、もっともらしいデザインで並んでいる。
こんなページも作った。
https://hinomura-records.pages.dev/
これは俺が以前書いたモキュメンタリー・ホラーに付随するものだ。モキュメンタリー・ホラーといえば資料である。行政文書、内部メール、インタビュー記録、SNSの投稿、新聞記事、学術論文。そういった体裁の文書を「それっぽく」並べて、架空の事件の記録集を仕立てた。江戸時代の前史から現代に至る時系列で構成してあり、情報開示請求で入手した内部資料という設定になっている。
こんなのもつくった。
https://hiyoku-episode64.pages.dev/
これはとあるハイファンタジー作品の一話をビジュアル・ノベル風にしたものだ。登場人物の対話を軸にAI生成の背景画や人物画を挟み込み、テキストだけでは伝わりにくい情景を視覚で補完した。
こんなのもある。
https://wakusei-kaitaku.netlify.app/
これはSF作品に出てくるブラック企業の募集ページである。西暦三八八九年、銀河開拓への参加を募る採用サイトという体裁で、開拓対象の惑星カタログだの個人用宇宙船の貸与制度だのランク制度だのが真面目くさった企業サイトのデザインで並んでいる。一見すると真っ当な求人案内だが、よく読むと「E ランク研修生の生存率██%」が黒塗りになっていたり、「死亡・行方不明・人格喪失に関する補償」の項目があったりする。
こういったあれこれを人力で作成することもまあできなくはないが、かなりの時間がかかることは言うまでもない。さすがにそんな時間があるなら本編更新しろよ、となる。ウェブページを一から組むにはHTMLとCSSの知識が要るし、デザインのセンスも問われる。画像素材の調達も必要だ。趣味の範囲で片手間にやるには重すぎる。
そこでAIだ。
AIならこのくらいなら数分で作成できる。こういうページが欲しい、こういう設定で、こういう雰囲気で、と自然言語で伝えれば、HTML/CSS/JavaScriptを一括で生成してくれる。画像もAIで生成できる。デプロイ先のCloudflare PagesやNetlifyも無料だ。思いついてから公開まで、下手をすると三十分かからない。
で、これらを作ったからってどうなるのかといえば──
別にどうもならない。
PVが増えるのか。増えない。小説投稿サイトのPVカウンターはぴくりとも動かない。フレーバー・ページを見た読者が本編に殺到するなどという都合のいい現象は起きない。
ブックマークが増えるのかといえば、さあとしか答えられない。
なら作る意味はあるのか──ある。
なぜあるのかと言えば、モチベーションがあがるのだ。
自分の作品世界がウェブ上に「実体」を持つ。その感覚がいい。架空のアーティストのプロモページを眺めながら「こいつ本当にいそうだな」と思う。架空のブラック企業の採用ページを見て「こんな会社には絶対入りたくない」と自分で笑う。そういう瞬間に、自分が書いている世界への愛着が一段深くなる。
なんというか、自作に対する責任感みたいなものも出てくる。ここまで世界を作り込んだのだから本編もちゃんと書かなければ、という気持ちになる。フレーバー・ページは読者のためというより、書き手である自分のためのものだ。
世に創作論は山ほどあるが、個人的には自分のモチベーションが何よりの肝である気がする。プロットの立て方がどうだの三幕構成がどうだの起承転結がどうだの、そういう技術論は大事だろうが、そもそも机に向かわなければ一文字も生まれない。自身のモチベをいかにあげ、如何に維持しつづけるかが物書き趣味の肝だと思うのだ。
そういう意味で、手軽に自作のフレーバー・ページを作れるようになった昨今は、俺にとって最高に楽しい物書き全盛の時代だと言える。
◇
そして、他にも使い道はある。
それは──執筆ツールの自作。
例えば執筆エディタだ。
世の中には色々なテキストエディタがある。VS Code、サクラエディタ、秀丸、Notion、Scrivener、Nola。どれも優秀だが、小説執筆に特化しているかと言われると微妙なものが多い。プログラミング用のエディタは高機能だが小説書きには過剰だし、執筆支援ツールを謳うアプリは逆に機能が足りなかったり、UIが好みに合わなかったりする。
ないなら作ればいい。AIに作らせればいい。
というわけで、執筆特化のエディタを自作した。主な機能は以下の通りだ。
まず自動テキスト整形。
半角括弧を全角に統一する。
三点リーダーを偶数個に揃える。
閉じ括弧の前の句読点を削除する。
感嘆符や疑問符の後に全角スペースを挿入する。
段落冒頭の字下げを自動で行う。
こういった「小説の約物ルール」をワンタッチで一括適用できる。地味だが、手作業でやると膨大な時間を食う作業だ。まあマクロ機能があるエディタならマクロ登録すれば済む事なんだが。
多段タブ。複数のテキストファイルを同時に開いてタブで切り替えられる。設定資料を参照しながら本編を書くとか、前話を確認しながら次話を書くとか、そういう作業が一つのウィンドウ内で完結する。
リアルタイム文字数カウントとセッション管理。現在の文字数、原稿用紙換算枚数、起動からの経過時間、今日の執筆文字数、一時間あたりの執筆ペース。こういった数字がステータスバーに常時表示される。
ルビと傍点。なろう系の投稿サイトで使われるルビ記法に対応しており、テキストを選択してショートカットキーを叩くだけでルビや傍点の記法を挿入できる。
シーンジャンプ。章見出しや区切り線をリストアップして、選択した箇所に一発で飛べる。長編を書いていると「あの場面どこだっけ」と探す時間が馬鹿にならないので、これがあるとないとでは効率が段違いだ。
自動保存。指定した間隔で自動的にバックアップを取ってくれる。書いている最中にPCが落ちて原稿が消えるという、物書きにとって最悪の悪夢を防いでくれる。
ダークモード、フォント切り替え、折り返し幅のカスタマイズ。長時間の執筆で目が疲れにくいように、表示まわりの設定も一通り揃えた。游明朝で書くかBIZ UD明朝で書くか、折り返しを四十文字にするか五十文字にするか。そういう細かい好みに応えられる。
こういったエディタを、AIの力を借りてPythonで書いた。一から自分でコードを書いたわけではない。「こういう機能が欲しい」「ここのUIをこう変えたい」とAIに伝えて、出てきたコードを実行して、気に入らない部分を修正して、の繰り返しだ。プログラミングの専門知識がなくても、自分の理想の執筆環境を組み上げることができる。
それと全く実用性はないが、しばらく入力が停止するとでかい猫があらわれて画面内で飛び跳ねるようにもした。この辺は市場のエディタには中々ない機能なんじゃないだろうか。
◇
音声入力用のツールも自作した。
https://voice-novel.pages.dev/
「声筆」と名付けた音声入力小説執筆エディタだ。
マイクに向かって喋ると、音声認識でテキストに変換される。ここまでなら普通の音声入力と変わらないが、小説執筆に特化した機能がある。
組込みコマンド。「かいぎょう」と言えば改行が入り、「とうてん」と言えば読点が入り、「かぎかっこ」と言えば鉤括弧が入る。音声だけで約物を制御できるようにした。
地の文モードとセリフモード。モードを切り替えると、それぞれに適した自動整形が走る。地の文なら字下げが入り、セリフなら鉤括弧が自動で付く。
カスタムコマンド。よく使う表現やキャラクター名を登録しておけば、短い発話でそれらを呼び出せる。
これの何がいいかというと、手を使わずに書けることだ。キーボードを長時間叩いていると、腱鞘炎とまではいかなくても手首や指が痛くなることがある。散歩しながら、風呂に入りながら、ソファに寝転がりながら、思いついた場面をそのまま声で書き留められる。思考から文字への変換ロスが減って、脳内で流れている物語をより直接的に掬い取れる感覚がある。
あとはランキングタグの作成だ。
ランキングタグっていうのはなろう小説作品ページの目次や各話の下に表示することができる画像や文章だ。
これは一定の制限があるものの、HTMLタグが使えて多少盛れたりする。
例えばこの作品の下部には先日出版された自作の宣伝ページが見えると思うが、これはAIに3分で作らせたものだ。ほかにも例えば沢山短編を書いている人ならジャンル分けしてランキングタグ中で宣伝したり、まあとにかく考えれば色々工夫して導線を作れる。
むしろAIの使い方としては文章を書かせるよりもこちらのほうが本流じゃなかろうか。
密かに、あるいは公然とAIを使ってる物書きは多いかもしれないが、こういう使い方をする物書きが余りいないのは残念に思う。




