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君がいる風景

作者: 恵奈
掲載日:2026/03/17

 




 僕の名前は。



 ……なんか言いにくいな。


 俺の名前は、尾崎和臣。


 うん、こっちの方がいいな。

 いつもと違う代名詞は、慣れなくて使えねぇ。

 カッコつけてないで普通でいくことにしよう。





 今、青嵐セイラン高校の三年。

 誕生日は迎えたからもう18歳だ。 

 身長180、体重71。

 まあ並ってところだけど、出来たらもうちょっと身長欲しかったなぁ。

 ―――――― バスケするには、さ。


 バスケ歴は、中学からだから6年になる。

 俺はというと。

 根っからの体育会系で、身体を動かすこと自体に喜びを感じる特異な性格。

 幸いなことに運動神経が人よりも良くて、どんなスポーツでもオールOK。

 でも今は、バスケが一番。

 面白くてやめらんねぇってのが本音、だな。

 大学へ行っても続ける。

 バスケやらしときゃ、どんな不機嫌も直るほどの……バスケバカ。


 この高校に来て、よかったなぁと思うのは。

 俺と同じぐらいのバスケバカがおんなじ学年に5人もいたこと。



 わが校のバスケ部は、今年『県大会万年予選落ち』のジンクスを打ち破り、悲願の本選出場を果たし ―――――― 見事ベスト8に!!


 全国制覇は無理だったけど、力いっぱい戦いきった俺は満足。

 ……いや、悔しいと思うのは、悪いことじゃないよな。

 一緒に3年間やってきた俺たち五人。

 そしてガッツのある後輩たち。

 バックアップしてくれたマネージャーや顧問。

 みんなのおかげで、俺は胸を張って引退することができた。




 引退。


 受験生である3年は、だいたいこの時期に引退するのが慣例。

 それでもまだ3年の何人かは部に在籍している。……と言っても毎日の部活に参加するわけじゃなく、まあ名前だけの状態。

 俺は慣例に従っての引退をしたわけだ。

 まあ、そうはいっても生活から、完全にバスケを切り離したわけじゃない。

 俺はとてもバスケが好きだし、大学へ行ってもやるってのは確実で。

 ここだけの話、引退したと言っても籍を抜いただけで、部活してるとこに乱入してプレイすることもある。

 それは部員達に言わせると『お遊び』らしいけど。

 まあ、俺もなるほどなって思った。

 確かに、毎日毎日びっしりと練習したり体力作りしたりしてるアイツらから見れば……。

 大概冗談で言われてるだけだけどさ。俺が練習も体力作りのランニングすらも好んでする人間なこと。あいつら良く知ってるし。

 走るの好きだろ、単にドリブルの練習とかシュ―ト練習とかも好きだし、とりあえず体動かすこと自体が好きで、それこそ趣味みたいなもんだしな。

 とりあえず高校生活の中で、バスケに関してはやることはやったし。

『お遊び』?

 上等じゃん。




 三年の夏から大学受験のある春まで約半年。

 最後の夏休み、残り一月弱。

 大学はスポーツ特待生として、何とかいけそうだけど……。

 俺にはしたいことが山ほど。

 車の免許、高校のうちに取っておきたいし。

 高校最後の文化祭は成功させたい。

 他にも……。


「……バスケは好きだけど、ほかのこともな。これからは俺、やるぜ?」


 バスケ仲間で親友の及川達彦。

 大会後も、バスケ部に所属し、なおかつ元部長として今だ 活動中のやつ。


「意外だったよ、オマエがあっさりと引退したの」


 そう笑いながら。

 達彦は俺に、『お遊び』での部活への参加を認めてくれた。ただし、


「俺の権力が残ってるうちだけな」

 と言って。


 達彦は高校生活を「バスケ一色で染めたい」と俺に言った。バスケバカ5人組の中でも一番クールで売ってたヤツが。

 それの方こそ俺には意外で。


「俺にもいろいろと事情があるのさ。まあ、その事情が許すうちはもうちょっと好きにさしてもらおうかな、と」


 まるきり正反対のこと。……でも、何でか俺たち仲いいんだよな。

 これが友情ってやつかと、二人で笑った。わざとらしいぐらいでOK。


 俺が意気込んで長々と話す『したいこと』を、達彦は黙って聞いてくれた。

 そして俺が「これで全部だ」としめくくると大声で笑った。

 そして、


「一番したいことが抜けてないか?」

 と。


 ハハ。

 気付かれていないつもり、だったのにな……。



 ……俺は高校生活の中で一番したいことを、実は誰にも言えないでいた。


 他にあげていた『したいこと』はカモフラージュに過ぎなかったこと。

 いろいろ並び立てて表面をとりつくってる俺に、達彦だけが気付き、まだ迷ってる俺の背中を力いっぱい押してくれる。




 ―――――― 俺がしたいのは『恋』だった。



 いや、こんなふうに言ってしまうと照れてしまう照れてしまう。

 何て言うか……、誰かを好きになってみたい……?

 女が欲しい……? いやいやいや。―――――― まあ、当たってなくもないんだが。

 健全な高校生が考えてるそっち方面へと進む前に。

 順当に踏んでおきたいプロセスのほとんどが未知の世界。




 世間一般に『恋をする』ってのはどういうことを言うんだろうか。イマイチよく分からない。

 ただ『好きな人がいる』っていうのなら、俺はもう『恋』をしていたことになるだろうから。


『好きな人』

 あんまりピンとこないな、この言い方だと。

『気になるヤツ』……?

 うん、これなら。


『好き』って、数学みたいに公式とかないから、あやふやで不確かだよな。


 バスケは好きだし、達彦も好き(変な意味じゃなく!)だけど、そんなんは『恋』とかじゃないよな。

 ようするに、俺は今まで『恋』ってやつをしたことがなくて、誰かをそういう意味で『好き』になったことってない。

 だからその感情が理解出来ずにいる。だから『好きな人』って言葉にもピンと来ないんだろうな。

 女の子から、


「好きです」


 って言われたことがないわけじゃないけど。言われたからって、それがどんなもんか俺にわかるわけでもねぇし。


 俺が今現在『気になるヤツ』ってのは一人。何人もいたりするもんじゃないって?


 その『気になるヤツ』ってのは……、と、女の子に『ヤツ』ってのは乱暴だな。



 彼女の名前はユウ。もちろんあだ名。

 ほんとのちゃんとした名前は……えーとたしかカワシマユウコ、だっけ。

 そうそう、川島由布子だ。

 ずっとユウって呼んでるからパッっとフルネームが出てこない。


 んで、なんだったっけ。あ、そーだそーだ。

 ユウに初めて会ったのは俺が二年のとき。ユウがバスケ部に体験入部してきたときだ。

 初めて見たとき、なんて細いやつだなと思った。

 驚いたのは一年だってことと女だったってこと。



 女子部と男子部が合同で、ミーティングしてる最中にユウは体育館に入ってきた。

 ちょうどしんとしてた時に扉が開いたもんだから俺たちは一斉に注目した。総勢五十人くらいの視線の中で、ユウは平然としてた。

 黒いスウェットの上下。スポーツバックとタオルを持っていた。


「体験入部、したいんですけど。バスケ部、こちらでいいんですか?」


 多分誰もが不思議に思っただろう。線の細い少年の声が高いことに。

 当時の女子部の部長をしてた野々村さんが、


「川島さん! 来てくれたのね、嬉しいわ。こっちに来て。もうすぐミーティングも終わるし」


 川島……、女だったのか。

 納得。すらりとした身長、そのどこにもごつごつした、男子特有の筋肉が見えないことに。

 ゆっくりと歩み寄るとユウは俺たちの後ろに座った。俺が 振り向くとちょうど顔が見える位置。

 美少年。

 その形容が一番ふさわしいな、と。俺は思った。


 ここでついでに俺の容姿にも触れておきたい。

 その他大勢に見劣りしない程度、まあハンサムと言われないでもないギリギリのレベル。ユウは……女だから男の俺とはくらぺる次元が違うのだが。んー、ハンサムっていえるかもしんない。……いや、やっぱり美少年がピッタリだ。

 身長、170ぐらいかな。いや顔が小さいから実際より高く見えてるかも。

 足が長い。……というのも腰がずいぶん高い位置にある。外人体型、ってのかな。

 顔は……整ってるっていうか。一重の切れ長。すっと通った鼻筋。薄い唇。

 髪は俺と同じぐらい。俺は体育会系の頭髪としては異例に長いほう。……でもまあ、女の子のする髪形としては短いほうだろう。

 と、いうようなパーツをもってして、ユウは全体的に少年というムードを持っていた。もちろんその前に「美」という字が付くが……。 

 俺がユウ感じた第一印象はだいたいこんなふうだった。

 その時は気になるとかそんなもん何もなかった。ただ、変わったヤツだなと思っただけだった。


 それが興味に変わったのはユウのプレイを見たときだった。


「戻って!」


 ユウの声に同じチームの連中が走り出した。


「フェイク!?」


 ユウはパスすると見せかけ、マークをすり抜けて走り出す。

 見ている部員の中でため息がもれた。

 俺はユウの姿に釘付けだった。身体がするりとディフェンスを抜ける。隠れていた筋肉がしなやかに動き出す。


「行くよ!」


 ユウからボールをパスされたその一年が、一瞬迷う。そのあとシュートしようとするがその隙を2年の部員が見逃すはずもない。


「打たせない!」


 真正面のディフェンスでシュートが打てない。ボールを持ったまま立っている1年の目が、真正面のガードの後ろから走って来るユウを捉える。 


「パス!」


 キュッキュッとシューズが鳴る中、ユウの声は体育館に響いた。ボールがユウに渡る。


「シュートだ!」


 俺は叫んでいた。

 側にいた何人かが驚いたように俺を見る。

 ユウが今いる位置は3ポイントラインよりもまだセンター寄り。

 ユウが(まだその時は彼女をユウと呼ぶとは知らなかったが)……俺のほうを見た。

 ほんの一瞬だったと思う。俺は彼女の視線を受けて、


「行け!」


 と叫んだ。

 なぜか、彼女は笑った。

 シュート寸前にどうしてそんな余裕があるのか。でも確かに俺のほうを見て笑った。

 次の瞬間彼女は見事なまでに安定したフォームで、構えた。

 少し沈んでから伸び上る身体。ゆっくりとスローモーションのように長い滞空時間。

 手を離れたボールは、吸い込まれるようにゴールした。


 新入部員と部員の対抗試合は僅差で部員の勝利に終わった。

 ゴールの差が5点だけなのは、彼女のせいに間違いなかった。

 彼女の統率力と信頼できるバスケセンスは、即席であるそのチームを何か月もの練習を乗りこえてきたかのような錯覚を起こさせた。

 気がつけば俺は、男子部の対抗試合そっちのけで彼女の姿に見惚れていたんだ。


 たぶんその時から。

 ……ユウは俺の中で、ほかの女子とは違う存在になった。




 結局のところ、ユウはバスケ部には入らず、抜きでた運動能力を持ちながらもほかのどの部にも所属しなかった。

 俺とユウの間には、何の接点もなく……。


 それでも、あの日の紅白試合。

 口を出した俺を覚えてたのか、すれ違うと会釈された。

 そのうち、廊下で会ったりすると少しは話をしたりするようにもなった。


 その頃、俺は彼女が好きだとか、そんなふうに考えたことはなかった。


 だけど、休み時間にふとバスケに誘うと、嬉しそうについてきて男顔負けのプレイをする。

 女のくせになんてやつだ、なんて感心しながら。

 いつの間にか部の後輩なんかより気に入って、ずいぶんかわいがってたような気がするなぁ。

 ただひとつ言えるのは一緒にバスケする時間が増えるにつれ、バスケをしてる彼女には間違いなく惚れてることに気付く。

 一緒にバスケをしたいと心から思った。

 部に誘ってもいいが女子部じゃ、俺には意味がない。同じチームでやらなきゃ。

 ……男だったら良かったのに、と。今ならとんでもないと思うようなことを考えながら。


 それから半年ぐらいして。

 ようやくバスケを離れてユウという人間に興味を持ち始めた。

 バスケしてない時も、彼女と一緒にられれば楽しいだろうな、と。



 きっかけは他の奴にしてみれば、たぶんささいなこと。


「何もしないで後悔するのが嫌なんです。……その方がつらいから」


 ユウの言葉。

 何の話をしていたかなんて忘れた。きれいさっばり忘れちまってるとこみると、なんでもないような話だろう。

 なのにその時の、真剣な目で答えたユウのことが忘れられない。

 初めてユウの、川島由布子の生身に触れたんだと思う。

 しっかり一言二言噛み締めるように言ったこの言葉。

 その奥に外見とはまったく違う少女がいると感じた。とても強い少女が。


 少年のようで、ユウはやっばり女の子だった。

 そんな当たり前の事、知っていたのに俺は。―――――― 今まで理解していなかった気がする。



 それに気付いてしまってから、俺はユウが気になってしょうがない。

 初めて気付いた一面に驚きながら。誰も知らない、もっと違うユウを知りたいと思った。


 ユウの中に、もしかしたらいるかもしれない弱い部分、柔らかくて、優しい部分を。

 俺が守ってやれたら、と。


 ―――――― たぶん、こういう感情を『恋』と言うのではないか?





 ……俺はユウをバスケ仲間として、川島由布子を女の子として「気になってる」というわけ。








「和臣」


 枕もとで声がした。



 居心地のいい夢の中から、意識が戻ろうとしない。

 無意識にタオルを頭の上まで引き上げた。

 ずいぶんと昔に植えた庭の桜の木に、今年もセミが集まっている。

 昨夜も網戸のまま寝たので、今朝も早くから鳴きだし、夢の中にまで入ってくる始末。

 うるさいな。

 心の中でぼやいても、セミが泣き止むはずない。



 枕元に立つ人間がふうと、息をつく気配。

 おふくろ……?

 寝ぼけた頭では現状が、理解出来ない。

 真夏の、それも西向きの部屋。窓越しの朝の日差しが、ベッドの上まで来ている。

 じりじり、とタオルに覆われた体が汗ばんでくる。

 そんな俺とおふくろ。

 我慢くらべのような時間。

 ピシャン

 何の音だ?

 さっきまでうるさかったセミの声が遠くなっていた。

 ?

 もしかして。

 背中を汗が流れた。

 …………。


「それは反則だと思う!」


 俺はタオルをはねのけてベッドから起きた。

 おふくろが机にもたれて立っていた。手にはMyウチワをもって。


「別にいいのよ? 好きなだけ寝ても。でも、昨日起こして、ってわざわざ頼んできたのはどちら様?」


 にっこりとそう言って笑うと、おふくろは部屋を出て行った。


 ふうう……。

 汗を手にしてたタオルで拭いて、窓を開ける。

 とたんにうるさいセミの声が部屋に飛び込んでくる。


「今日も……あつくなりそうだなぁ」


 もうすっかり目は覚めていた。

 時計を見るとちょうど九時。

 さすがおふくろ、と言うところかな。

 昨夜頼んでおいた時間ちょうどに起こしてくれてやんの。




 今日は夏休みの最後の日曜日。

 高校生活最後の夏休みにしてはずいぶん無駄にすごしたこの2週間を思い返す。

 こんなに朝早く(部活を引退した今の俺にとっては!)起きたのは、ずいぶんひさしぶりだった。

 バスケしてる間は、朝練があったから、こんなふうにだらだらとすごしたり出来ないもんな。昼ごろ起きては朝方に寝る、というものすごい不規則な生活を満喫。


 今日、こんな時間に起きたのには理由がある。

 理由がなければおふくろが起こしにきたって、起きない。

 無理矢理起こそうとしても、意地になって、また眠る。

 ……俺の性格というか、意地?だな。

 まあ、俺が高校生になってからは、自分で起きてたから、おふくろが起こしに来るなんてひさびさだけど。

 休みの日、つまり何の用事もない日は、自然に目が覚めるまではしぶとく寝てる。

 惰眠とか、二度寝とかって、いいよなぁ。

 でも、今日は特別だ。

 何が特別かって言うとおふくろが俺を起こしにくること。

 何が何でも、起きなきゃいけなかった理由。

 そう、なんと言っても今日は特別なのだ。

 ここ2週間ダラダラ生活してたとしても、

 昨日興奮してなかなか寝られなかったとしても、

 目覚ましをつい止めちゃったとしても、

 それが許されない日。


 俺にとって、とても重大な用事が控えてるんだから。


 だからおふくろにモーニング・コールを頼んだんだ。確実だからさ。

 ……ばらしちまうと、俺、昨日の夜ほとんど眠ってない。

 そ。極度の緊張で眠れなかったの。なさけないよな、十八にもなって大の男が。

 寝たのは、いいとこ四、五時間じゃないかな。

 そんなんじゃ、一個の目覚し時計じゃ起きる自信ねえよ、正直。

 ……現に八時半にセットしといたはずの時計、止めちまってるし。

 やっぱ、ここは『困ったときのおふくろ』だよな。

 あー、頼んでて良かった。

 たぶんおふくろのことだから、滅多に頼まない息子からのモーニング・コールに何か感付いてるなだろうな。

 ……何か言われるかもな。

 勘弁して欲しいなあ。ほんと、今日の俺ってゼンゼン余裕ないんだから。




 着替えを終えた俺は、もう一度窓から空を見上げた。

 外は晴れてる。

 雲一つもない。……快晴ってやつだ。

 こいつはツイてる。

 おし、気合入れていっちょいくか!!

 財布をジーンズのポケットに入れて、俺は部屋を出た。







「おはよう」


 ダイニングへ行くと、玲子がテーブルについていた。

 玲子。

 俺の妹だ。年は三つ離れている。……つまり中学3年。


「お兄ちゃん、今日は早いんだね。何かあるの?」

「……ん、まあな。お前こそこんな早くどうしたんだ? ……と親父は?」


 朝食の用意をしていたおふくろが、ひょっこりと顔を出して口を動かす。

 ……ゴルフか。月に一度の親父の趣味。

 ふと、自分をにらんでる玲子。


「別に早くないよ。……たまに早く起きたからって自分と一緒にしないで。私はいつもこれぐらいにはちゃんと起きてるんだから。ね、お母さん」


 おふくろは朝食の用意をしていた。


「そうね、お兄ちゃんと違って玲子は規則正しい生活をしてる。和臣、ごはん食べて行くんでしょう?」

「ん、食ってく。まだ出掛けるまで時間はたっぶりとあるんだ」


 玲子の向かい側が俺の指定席。

 夕食だけは家族揃って、という絶対的規則が我が家にはあり、ダイニング・テ―ブルは家族の数だけ、つまり六脚椅子がある。

 小さいときから自分の席はいつもここ。

 六脚。……俺の家族は六人。

 テーブルの端に親父とおふくろが座る。その間に座る四人の子供の顔が見渡せるように。片方に玲子と姉貴。そしてその向かいに兄貴と俺。

 俺が覚えているかぎりずっとこの順番で座ってる。




 親父、四十六歳。ある会社の課長。

 このところ少し太ってきたとかいってるが、俺と玲子は少し所じゃないよなと日々思ってる。

 頭のほうは今の所無事で(つまりまだハゲてない)、性格は……一言で言えば呑気だ。

 おふくろ。年は親父より二つ下。具体的な数字は怖くて口にできない。

 家のこと、しいては家族のことなら何でも知ってるという言葉を吐く(事実なら尾崎家一の権力者!)立派な専業主婦。のんきな親父とうまくやっていける程度にはしっかりしてるが、正直結構天然。

 幸宏。長男、二十四歳。親父とおふくろが製造元とは思えない切れ者。

 今現在地方に転勤中。あと半年して帰ってくれば異例の若さの営業主任の誕生らしい。

 真澄。長女、二十歳。いまどきの女子大生。

 今ここにいないとなると、まだ寝てるか、大学に報告にでも行ってるんだろう。

 玲子。さっき言ったように中学3年の十五歳。

 俺と姉貴が両親に似て呑気? 天然? なのに比べてこの玲子と兄貴が変にしっかりした子供になってしまった。

 兄貴がいない今この家で一番しっかりしてるのはたぶん末っ子の玲子だと思う。


「お姉ちゃんはまだ寝てるの?」


 玲子がパンにかぶりつきながらおふくろに聞いた。

 いつもおふくろは親父と一緒に朝食を取るようにしてる。

 俺にとって今日が特別な日でもおふくろにとっては日常。

 今日とて例外じゃなく、すでに朝食を取っているよう。コーヒーを飲みながら俺たちが食べているのをのんびりと見ている。


「うん。まだ寝てるみたいだよ。……昨日遅かったみたいだからまだ起きてないんじゃない?」

「あ、俺知ってる。一時ぐらいっだっけ。終電で帰って来たって言ってた」

「お姉ちゃんが終電? めずらしいじゃん」

「電話は入れてきたし、酔っ払ってたようだけど声はしっかりしてたし。心配はしなかったんだけど、……和臣、帰ってきた真澄と話した?」


 おふくろがコーヒーカップを置いて俺を見た。玲子も俺の言葉を待つようにじっと見た。仕方無いか。あののんびり屋の姉貴が酒飲むなんて、終電で帰ってくるなんて、滅多に無いことだからな。

 俺は二枚目のパンにかぶりついて、コーヒーで流し込む。


「なんかあったとか。様子、変じゃなかった? あの子父さん似で呑気だし。一応女の子なんだから……やっぱり電話をしてきたときに早く帰るよう言えばよかったのかしら」


 おふくろがどんどん心配そうに顔を曇らせていく。

 まあ、心配するのもうなずける。

 普段はあんまり見た目に気を使わない姉貴だけど、就職活動の最中は、めがねもコンタクトにして、化粧なんかもして、そのうえスーツなんか着ちゃってるもんだから、そこら歩いてるオネーサンなんかより、ぜんぜんイケてたりする。

 でも心配してたわりに、お袋、昨日寝たの早くなかった?

 ったく、天然だよなぁ。

 玲子と言えば、俺が呑気に(やっばり俺も母親に似て呑気なのだ!)食べ続けてるのを見て、安心したようだ。


「心配ないよ。ま、帰ってきたときは今までにないほど酔っ払ってはいたけどね」

「そう。でもあの子、滅多なことでは酔うまでお酒は口にすることないのよ。やっぱり何か……」

「お母さんてば、変に心配症なんだから。……お兄ちゃんも回りくどい言い方しないではっきり言いなよ」


 玲子は俺のほうを見もしないで冷たく言った。

 やれやれ……。


「就職。無事内定したんだって」

「まあ」

「帰ってきて俺の部屋の電気がついてるからってノックも無しに入ってきて。それから一時間喋りっぱなし。……挙げ句に俺の部屋で寝ちまってさ。……運ぶの苦労した」

「あの子ったら電話で何も言わないで」

「よっぽど嬉しかったんだよ」

「そうだろな。んで友達連中とお祝いかねて飲みにいったって」

「そうなの。心配して損しちゃったわ」


 ふうと息をつくと、落ち着いてコーヒーを飲み始めた。

 なんか……心配して『遊んで』るように見えるのは。俺の気のせい? 考えすぎ?


「ごちそうさん」

「はい。コーヒーのおかわりは?」


 俺がうなずくとおふくろがカップを持って席を立つ。

 少し離れたところにコーヒー・メーカーが置いてあるのだ。

 俺のうちでは豆を挽いて入れる。……俺はインスタントでも平気だけど親父が結構こだわってて本各派なのだ。もちろん、豆からひいていれたほうが美味しいのは分かってるけど。時間かかるし、自分ではしない。

 のんきな親父らしいのは、本当にゆっくりとコーヒーを楽しみたい時は、コーヒーメーカーでも不本意らしい。

 手動式ミルでゆっくり自分で挽いて、じっくりとネルドリップ方式で淹れる。

 もちろん俺たちの分も入れてくれたりするけど、実際待ってらんないぐらいゆっくり。

 まあ、普段は出勤前ということもあって、メーカーで我慢してるけど。

 朝起きてする親父の日課がコーヒーをいれること。

 今こうして俺らがコーヒーを飲めるのは親父が朝いれたのが残ってるから。

 親父の好みは薄めだから少し時間たった今、漉い目が好きな親父以外の人間、つまり俺たちにはちょうど。


「お姉ちゃん、二日酔いかなぁ」

「姉貴、強いみたいだよ。昨日聞いた話、けっこう飲んだらしいし。……さんきゅ」

「嫁入り前の娘があんまり感心しないわねぇ」


 二杯目のコーヒーを飲みながら俺はダイニングテーブルを離れた。

 リビングのソファに座る。

 庭に面した一面の窓からの日差しで日中はほとんど電気が要らない。

 まあその分暑いから、クーラーが要るけど。


「いい天気だな」

「お出掛け日和よ」

「お兄ちゃん、出掛けるってどこに? あ、デート? ……まさかね」

「おいどういう意味だ、それは」

「へぇ。デートなの?」

「……ちがうけど」


 玲子がふふんと鼻で笑う。

 くやしいが俺としては何とも言えない。

 玲子には『彼氏』なるものがちゃんといて(何人かは知らんが)何かを言い返そうにも、


「いないからってひがんじゃって」


 の一言ですまされてしまうんだ。


「あら、今日は何も言い返さないのね」


 勝手に言ってろ!

 変ね、とでも言うように玲子がこっちをじっと見ている。

 たぶん俺の後ろでおふくろと顔でも見合わせてるんだろう。

 無視無視。

 と、いいたいけど。おふくろはともかくとして玲子は今日の俺の態度のおかしさ、というか普段とは違うことに気付いてるみたいだった。

 こりゃボロが出ないうちに出掛けたほうが正解かも。

 残っていたコーヒーを一気に飲み干してソファーから腰を上げた。


「少し早いけど出かける。久し振りにボールと遊んでくる」

「遊ばれないようにね」


 玲子がくすくすと笑いながら言った。

 ったく、何がおかしいんだか。

 コーヒーカップをおふくろに渡してリビングから廊下へ出る。

 右手に玄関、左手に二階へとつづく階段がある。

 玄関で靴を履いてると、二階から人が降りてくる気配。


「おはよう……」


 短パンにTシャツ姿の姉貴だった。

 昨日寝てるのを部屋に運んだときはスーツのままだったから、一度起きて着替えたんだろう。


「気分は?」

「ん……、まだ眠い」


 思った通り、案外酒に強くて酔ってもそれを翌日に持ち込まないタイプらしい。

 うらやましい、俺もそのタイプであってほしいね。


「出掛けるの? いってらしゃい」

「うん」



 ドアを開けた。

 太陽の光が予想以上にきつい。

 ……これじゃおれの方が二日酔いみたいだ。……じゃなかったら、吸血鬼だな。

 ま、似たようなもんか。この頃、夜更かし続きで昼間出歩くこと少なかったしな。

 十時前か。充分時間あるな。

 約束の時間は1時。

 どっかぶらぶらして駅前ででも昼飯食ってりや時間になると思ってたんだけど……。

 玲子に「ボールと遊んでくる」と言った手前、言葉通りにしないとまずいかな。

 べつに玲子が後付いて見張るわけじゃないのだから、何しようと俺の勝手なのだが……。

 そう思う反面、足は駅前とは逆のほうへ向かう。

 このまままっすぐ行けば、俺の通う青嵐高枚がある。

 バスケ部の連中が練習してるかもしれないから、飛び入りしようかな。

 練習してなかったら、戻ってくれば……、いや外にもバスケット・リングが一つあったよな。

 ボールの入ってる倉庫の鍵は……たしかあそこに隠してあるはず。

 考えながら歩いてると学校が建物の間から見えてきた。

 身体はもうバスケをするつもりで手を握ったり開いたりしてる。

 無意識だった。

 ぱーっと身体でも動かせば緊張も解けるか。

 そう思うともう歯止めはかからない。走り出してた。


 体育館からバスケ部の掛け声らしきものが聞こえてくる。

 ドリブルの青も、シューズが床を鳴らす音も。



 そういや、一週間以上もボールに触ってないんだ。



 ―――――― 違う興奮が身体を支配した。







「どーだ? 久しぶりのさわりごごちは」



 達彦が近付いてきてそう言った。座り込んでボールを抱いてる俺の横に腰を下ろす。

 達彦の息が俺と同様に少しはずんでいるのは軽く(本当のところ軽いなんてもんじゃないのだが)ウォーミングアップを終えた直後だからだ。

 後輩から借りたTシャツと短パンに着替え、少しダレ気味の後輩に混じってのフルトレーニング。

 柔軟体操・腹筋50回。腕立て伏せ50回。ダッシュが組み込まれたサーキットトレーニングを3本。

 ランニング・ドリブルフルセット5本。

 シュート練習、レイアップと3Pを各20本ずつ。

 毎日部活してたときは、こんぐらいなんでもなかったのにな。

 やだねぇ、ちょっと怠けただけでこんなに体力落ちるものか……。

 それでもボールを手にしたときの、このわくわくするような気持ちは、たまらない。


「最高」

「だよなぁ。このやわらかなラインが最高にそそらねーか?」


 そう言ってボールを目線の高さまでささげ持ち、ゆっくりとその輪郭をなぞる達彦。

 その手つきのいやらしさは……んんん。とても俺には表現できない。

 達彦って奴は、どことなく不思議な奴でつかみどころがないんだ。

 予備校に真面目に通ってると思ってたら、高校生がいちゃいけないような場所に出入りしてたり。チャラチャラ遊んでるように見えるときもあるし、まじめに参考書読んでたりするのもイヤミなく似合ったり。

 仲間からのビデオ(AV!)鑑賞会へのお誘いには興味を示さないのに、オトコノコの素朴な疑問に素で答えてくれたりもする。

 今は付き合ってる彼女はいないって聞くけど……なら過去はどうだって言われるとよく分からん。こいつ、言わねーし。

 俺にとって親友なのは確かなんだが。


「それにしても今日はいったいどうしたんだ? 引退したはずの3年みんなそろってるじゃねーか」


 達彦は肩をすくめて笑った。


「別に示し合わせたわけじゃないのに、妙なもんだよな」


 引退して2週間。


「ま。想像はつくけどな」


 毎日毎日、バスケ漬けだったこの2年半。

 急に取り上げられたら、禁断症状の一つや二つ出てくるものかもな。


「でも、俺の予想よりもったな、お前。……3日もすればひょっこり顔出すかと思ってたよ」

「ん、まあな」

「2週間か。よく平気だったな、フリークとまで言われたおまえが」

「平気じゃぁなかったさ。……けど、うちで勉強とかいろいろ……考えたいこともあったし」

「考えごとかぁ……」


 達彦が俺の顔を覗きこんだ。俺の『考え事』が何か知ってる目だ。

 目線がそれを確かめたがってる。

 うわ、やめてくれよもう。

 ……せっかく落ち着いてたのに……。

 俺は、好奇心でいっばいの達彦の視線を避けて、ごまかす。


「そうだ、ゲームやろうぜ」

「ゲーム?」


 とりあえず、達彦はごまかされてくれることにしたらしい。調子を合わせてくれる。


「そ。久しぶりに本気でやりたい」

「我を忘れるほどにか?……それもいいな。バスケの時ぐらい日常のわずらわしいことすべて忘れていたいよな。受験なんてくそくらえだ」


 達彦の言う『わずらわしいこと』がなんなのか。少し気になった。

 こいつ、あんまりこういうこと言わねーし。だから俺も聞かねーけど……。

 多感なお年頃。進路とか、部活とか、この時期悩むネタに困ることない。

 いろいろ問題があるんだろうな、きっと。バスケが好きだからといって、いつまでもそれに逃げてられない。

 なんかあったら。それこそ俺に話してすむような問題ならいつか話してくれるさ。

 そのときはに、力になってやれたらいいな、と思う。


「じゃ、決まりだな」

「ああ」


 手にしてたボール同士をぶつけ合う。

 ―――――― それは、今までの日常の風景。






「ゲームしようぜぃっと!」



 体育館に響く声で俺が叫ぶと、それぞれ個別の練習をしていた連中が手を止めた。


「元部長の許しもでたぞ。3年対1、2年でどうだ?」


 現役部長の様子も一応確かめておくと、どうやら乗り気らしく笑顔だ。


「それじゃ、俺たちに勝ちをゆずるようなもんですよ。いいんですか?」


 少し離れたところで冗談交じりに言ったのは2年の中山だった。


「そりゃ、どういう意味だ?」

「言葉通りですよ、センパイ。現役に勝負を挑むなんて無謀ですよ。3年の御隠居の方々じゃ相手として不足というか。日本茶でも持ってきましょうか」


 怖いものなしのその発言に1、2年が笑った。


「口だけはいっちょまえだよなぁ」


 3年も一緒になって笑う。

 中山の言うことには毒がない。

 コイツのキャラクターは、いつもなんか憎たらしいことを言ってくるくせに憎みきれずに笑いですんでしまう。

 そのおかげでいくつかの険悪な募囲気な場を乗り越えたりできた。チームの中では貴重なムードメーカーだ。しかもただ調子がいいだけじゃなく、バスケに関してはその言葉を裏付けるだけの実力と努力があるので、こちらもうかうかしていられないのだが。

 それにしてもたった2週間で隠居扱いとは、ひどいもんだ。


「その言葉は聞きずてならないなぁ。責任とれるのか? こっちには前の大会のスタメンが五人そろってるぞ。今のうちに取り消しといたほうが利口なんじゃないか?」

「その上を行くのが若さなんですって」

「バカさの間違いじゃなくて? ま、そこまで言うんなら、手加減してやる必要もないわけだな。3年対その他だ。じゃ15分後に試合開始。そっちはそっちで勝手にしろ。……たっぷりとかわいがってやるからよ」


 達彦が元部長らしくその場をまとめると、それが合図になって部員が二手に別れた。



 1、2年の中心になってまとめてるのは、ムードメーカーともいうべき中山と、もと副部長、つまり現役部長の秋本だ。


 俺たち3年は誰を中心とするでもなくぞろぞろと集まった。

 全員で5人。


「人数ギリギリ。……フルタイムだからキツイぜ?」


 多田が右の人指し指一本でボールを回しながら言った。

 俺はそれをぼんやり見ながら、頭の中で作戦を考える。


「そこまでなまっちゃいねぇよ。さぁどうする、和臣」


 山崎の言葉。まっすぐに俺を見る。田村も俺を見ていた。

 達彦はボールを抱いたまま俺の横で黙っているだけ。


「この際フリーでいってみるか?」


 フリーオフェンス。

 とくに作戦がないのが、この作戦の秘訣。

 5人、メンバーそれぞれが自己の判断と責任でもって攻撃する。

 下手なメンバーでやったら、ほとんど勝つ見込みのない無茶な……。

 この言葉に多田と達彦の視線も俺に向いた。


「できるよな?」


 聞くのではなく、確かめる。

 四人が同時に力強くうなずくのに俺は満足した。



 そうだ。この五人ならできる。

 山崎・田村・多田・達彦……そして俺。

 お互いを信頼し合う気持ちはみな同じだ。

 このメンバーで試合をするときが一番やりやすい。

 バスケを離れれば、五人それぞれで特に仲がいいというわけでもないのに。

 きっとそれは、それぞれに得意分野があり、それをお互いが理解してる為、自然と役割が分担されているせいだと思う。


 達彦。

 部全体で集まったときはコイツが中心になる。部長だから、という理由じゃない。

 今は卒業した前任の部長からの指名ではあるが、部員みんなが納得し信頼されるに足る人物。統率力、人望、実力、指導力、すべて問題ない。

 だけど達彦は、3年だけで集まったときだけ中心になろうとしない。

 たぶん、『部』ではなく、『チーム』だから。

 まとめ役がいないのであれば、俺たちはそれぞれに出来ることをやろうとする。

 達彦が後ろにさがると、5人それぞれに同じだけの責任がかかる。

 負けても誰かにその責任を押し付けることはできない。

 そのかわり、勝ったらみんなで喜びあえる。

 ―――――― 俺たち5人は、『チーム』だ。



 山崎はセンター。うちの部の中で一番背が高い

 コイツがゴール下にいるだけで俺たちは安心して走り回れる、とても頼りになる奴だ。


 多田はパワーフォワード。コイツのリバウンドはすごい。

 敵のシュートのラインを正確に読んで、誰よりも早くボールをモノにする。


 田村。3Pシュートを最も得意とするのでポジションはセカンドガード。

 速攻を仕掛けるときの戻りが誰よりも早い。


 達彦はオールラウンドプレイヤー。ポジションはスモールフォワード。

 ここが勝負時、というときにはいつもベストポジションでボールを持ってる。

 正直、俺が一番頼りにしてるかも。やつは、期待を裏切らないから。


 最後に俺。ポジションはガード。ゲームの流れをすべて肥握し、有利な方へと判断していかなければならない。

 ……大変だが、やりがいがある。作戦の指揮もたいてい俺が取る。俺の判断を信頼してくれるからこそ、出来ることだが。



 俺たちの互いへの信頼度は絶大だ。

 俺たちは高校に入学、つまりバスケ部に入部してから今までの2年と数ヶ月もの間、共に辛い練習を乗り越えてきた、そういう連帯感や、仲間意識が強いからだと思う。

 今でこそ、練習量はひかえめになってきたが、俺たちが1年のときの練習の多さは成績に反映されることはなかったが、それこそ県下一だった。

 20人を越えた俺たちの学年の新入部員も1年の終わりには8人になっていた。

 ここに今いる5人は、達彦を除いて大会後に引退したわけだが。実は夏休みの大会を前にして、受験勉強を理由に早々と引退する人間も3人いた……。

 山崎は就職だから関係ないが他の3人、多田と田村と達彦は、国立狙いだ。受験勉強を始めるなら、早いに越したことはない。

 それでも大好きなバスケを中途半端に終わらせることは出来なくて、必死で練習して、出来るかぎり続けたいと願ってる。

 最後の大会だから、悔いを残さないように。

 一日でも長く大好きなバスケに没頭していたくて。

 ……準優勝は、そうした俺たちみんなの成果だ。

 俺がこれからもバスケを続けたとしても、きっと、今よりも強いチームに入れることはあっても、これ以上息のあったチームにめぐりあうことはない、と思う。



「さて、十五分たったかな。秋本ー! どうだ、そっちのほうはまとまったか」

「なんとか、ですがね。どーも血の気の多いヤツぱっかりで。このゲーム荒れますよー、用心して下さいね」

「生意気な。望むところだっつーの。こっちも久し振りに大暴れしたいヤツばっかりだしな」


 田村ががっしりとした身体を伸ばしながら言った。さながら大きなバネのようだ。

 この体格のやつが言うと、冗談に聞こえねーっつの。


「オイオイ、ケンカじゃないんだから」


 この俺が思わず、そう言ってしまった。


「そっちのスタメン、誰になった?」

「おれっす!」

「……中山か。ま、出しとかんとウルサイから、妥当だな。あとは?……秋本はスタメンじゃないのか」

「俺は前半、監督なんです。んで、後半から入るつもりです。……秘密兵器ですから」

「何が秘密兵器だ、このバカっ。おまえら鍛えたのは誰でもない、この俺たちだっつーの。手のうちなんか読めるわ」


 俺たち5人がコート内に入ると、中山を含んだ現役選抜5名が入ってきた。


「これ付けて下さい。……白が俺たちで、赤がご隠居方です」

「その言い方はやめろって。……はちまき? 紅白試合か」

「さあさ、はじめましょ。試合に出ない一年、審判頼むぞ」

「任せて下さいよ!……んで今なら賄賂受けますが」

「バカ言え、そんなもん必要ねぇわ」


 山崎が前に進み出る。


「さ、ジャンプボールは誰だ?」


 俺たちはそれぞれの場所に散る。白チームからは2年の村上が出てきた。



 ボールが高く宙に舞う。これで、ゲームスタート。


 身長197の山崎と192の村上の身体が重なるようにしてそのボールを追い掛けた。

 俺はそれをじっと見つめた。

 ―――――― この瞬間が好きだ。

 今まで鍛えた体中の筋肉が、懐かしい感覚に熱くほてるのを感じる。

 これから俺たちが戦う試合を象徴するかのように、ただひとつボールを追い求めて伸び上がる肉体に強く魅せられる。 

 ……そして、負けられないという強い意志に俺は全神経を支配される。



「取った!速攻いくぞ!」


 俺の足下へとはたかれたボールをとって俺は叫んだ。

 田村がすでに相手コートへと走り込んでる。俺はすぐさまその場でパスを出す。

 大きなモーション。

 手からボールは仲間へとまっしぐらに向かう。


「よし!」


 田村はドリブルをしてゴールに向かう。

 横からディフェンスのチェックが入るのもラクラクと抜けていく。

 田村がゴール下にいくとにらんだ秋本が、ゾーンを組んだ。

 それに気付いた田村が笑った。


「甘いね」


 キキュッ!!

 3Pラインの手前で止まった。

 ボールを構える。

 腰が沈み、目がしっかりとゴールを捕らえてた。


「俺の得意技を忘れたか!」


 身体が伸びたかと思うと、田村は宙にいる。その頂点でボールは手から放れる。

 ダン!

 田村の足がコートに戻る。目はまだゴールを見つめたままだ。

 ボールはゆっくりとした軌跡を描いてゆっくりと音もなくゴールに吸い込まれた。

 その確実なシュートに、誰かの息を飲む音が聞こえた。


「先取点ゲットー!!」

「おまえら、ぼやほやしてると1点も取れなくなるぜ」

「俺らを甘く見てるとヤバイよ?」


 中山がくやしそうに顔をゆがめてる。ガッツは認めてやれるんだがなぁ。

 腰を低くして構えている中山の、そのすぐ側に俺はついた。


「俺の相手は尾崎センパイですか」

「不満か?」

「いえ、もったいないことです」


 中山がふっ、と俺を見た。……ったく。緊張感が足りねぇのか?


「ボールから目を離すな! 敵を正面切って見るのはディフェンスでハッタリかます時だけだ。それ以外は気配で感じろ!」


 中山が小さくうなづく。もう俺を見てはいない。


「よし、それでいい。……さっきの田村のシュートだが、防げたはずだ。何のデータもない敵なら仕方無いかもしれんが、よくよく見知った相手じゃないか。敵の得意なプレイを知っているなら、試合中は絶対に忘れるな、つねに頭の中に置いておくんだ」

「はい」

「ただの紅白試合だから、ってのは通用しねぇぞ。本気出せ」


 ふざけた表情が顔から消えた。真剣な瞳がまっすぐボールに向かってる。


 スローインされたボールが二年の中島に渡った。

 中山は俺を振り切るように走り出した。

 ……振り切れるもんかってね。

 中山のあとを追って俺は走り出した。

 ドリブルを続ける中島に達彦のチェックが入る。

 悪くないボールさばきだが、達彦の手にかかれば、ってとこかな。

 手元から転がり落ちたボールをものにしたのは二年の大月。

 すばやくドリブルし、戻ってきた山崎の横をすりぬけて、ゴールリングを狙った。


「まだ甘い!」


 大月の手を離れて中に放たれたボールは、山崎によってはたき落とされた。


「よし!」


 達彦がオールコートを抜けるきついパスを放る。

 ……中山から離れ、相手コートに待機していた俺に向かってまっすぐに。

 攻めようとしていた中山の足が止まった。

 いつの間にか俺がそばからいなくなったことにまるで気がついていなかったらしい。

 俺に向けられた視線が射るようだ。

 まだまだ、だなぁ。まだゲームを見極められていない。熱いだけじゃガードはできないのよ、っと。

 俺はニヤッと笑うと視線を振り切り、ドリブルしながら走った。

 追い詰めるようなディフェンスの足音が、消える。

 ―――――― シュートの瞬間、俺の周りのすべてが存在を失くす。

 あるのはリングと鼓動。

 確かなのはボールの強い反動。


「……ああっ!」


 中山の悔しそうな声がした。


「まだまだ健在だな。おまえのダンク」


 肩を叩いたのは達彦だった。

 俺は笑顔を返した。

 ……久し振りに思い切り笑ったような気がする。やっぱり、バスケがいい。


「気持ち良かった!」


 思わずそう言ってしまった俺に、達彦はしょうのないやつ、と笑った。

 今の俺、誰が何を言っても、笑って許しちまいそうなくらい、最高に気分がいい。

 まだ手に、身体に、ボールををリングに叩き付けた感触が残ってる。


「どうした、初めてダンクを決めたような顔してるぞ」

「似たような気分だ。……今なら何でも出来そうな感じがしてくる」

「まあ、初心忘れるべからずってな。新鮮な気持ちは大切だぞ」

「センパーイ、何話してるんすか。再開しますよ?」


 審判をしてる一年がタイムウォッチを振り回しながら言った。

 あれ……?


「わりぃわりぃ」


 俺を残して、3年の連中はコートを戻り始めた。俺は、というと……。

 何か忘れてるような気がしてるが。


「……あああっ!」

「尾崎センパイ?」

「オイ、今、何時だ?」


 コート脇の審判役に問い詰める。


「なんすか、突然。え……と、十二時を少し回ったくらいです」


 ヤバイ! ひじょーにヤバイ!

 一時の待ち合わせに間に合わなくなっちまう。


「和臣、早く戻れって」


 達彦がコートの反対側で俺を呼んだ。


「悪い! 俺、用事あったんだ、抜けさせてくれ!!」


 俺はそう言うとはちまきをとって、Tシャツを脱ぐ。

 すぐそばにいる2年を見た。

 ……こいつは確か……。2学期から編入してくるから、と夏休み中から特別に練習に参加してる熱心なヤツだった。けっこういいプレイをしたっけ。


「先輩命令! オマエ、俺の代わりな。……負けたら承知しねえから! 死ぬ気で頑張れ」


 指名された2年が、大慌てするのを無視する。


「センパイ、ズルイですよ! 勝ち逃げするんですかー!?」


 中山の声。


「和臣、オマエ言い出しっぺのくせに……」


 多田の声。

 あー、もう、どうとでも言ってくれ。

 大慌てで着替えて、体育館から出ようとする俺に。


「和臣ー! この貸しはデカイぞー? 次は手ぶらでなんか来ないよなー?」


 と達彦。


「おう!任せとけ!」


 その場のノリ。言っとけ!


「和臣!」


 まだなんかあるのか?

 振り向いた俺に、達彦は親指を立てて……、


 GOOD LUCK!!


「!?」


 バレテタマシタ? モシカシテ。



 ―――――― 俺は、大きくガッツポーズをして体育館をあとにした。








「センパイ」


 声をかけられて振り向くと、キャップを目深にかぶった少年がいた。


「ユウ?」


 俺が名を呼ぶと、キャップの下から笑顔が覗いた。


「ったく……。少しは女らしいカッコして来いよ」

「女らしい……カッコ……ですか?」


 ユウは自分の姿を見下ろした。

 紺色のハイカットシューズ。

 少し色あせたジーンズ。

 そして大きめの綿シャツ。

 なんてことはない。学校でいつも見る、いつもの格好。

 ……そりゃ、


「ヒマなんだろ、ちょっと出てこいよ」


 と軽く誘ったのは俺だし、ユウなりに動きやすいカッコで来ただけだろうが。

 万に一つもデートだ!とか……思わなかったんだろうなぁ。


「それじゃ男の連れと歩いてるのと変わらん。まあ、お前らしいといえばそうだが」

「へへ」


 キャップをかぶりなおして、ユウが笑った。



 久し振りのユウ。

 なんだかんだ言ってる俺だが。

 どんな服を着てよーが、たとえ男同士に見られよーが。正直……嬉しい。

 こういうふうに学校を離れてユウに会うのは初めてのことだし、なんといっても休みに入って顔も見れなかったからな。


「センパイがこういうふうに誘うの初めてのことですよね。どういう風の吹き回しですか?」

「別に。あ……、なんか用事あったか? 強引に……」

「あ。ゼンゼン大丈夫です!それに……実は、学校始まる前に一度先輩に会いたかったから」


 ナニ?嬉しいことを……。

 ニヤニヤしそうになる頬を、急いで手をやってごまかす。


「最後の試合、私、見に行ったんですよ?」


 アア、ソウイウコト。


「……負けたけどな」


 俺は笑った。高校生活最後の、完全燃焼した試合。



 駅前のロータリー。噴水の脇で、自販機で買ったコーヒーを片手に。


「うらやましかった……カナ。私」


 空を見上げながら、ユウがつぶやいた。


「?」

「すごくセンパイ楽しそうだったから。……負けたけど。試合には負けちゃったけど、先輩楽しそうだった」

「そう見えた?」


 俺を見てこくんとうなずく。


「そっか」

「私ね、最後の先輩のシュートがカウントされなくて、負けた!って分かったとたん。思わず目をつぶっちゃった。センパイが泣いちゃう……って。なんでか一瞬そう思って」

 ユウはまっすぐに俺を見て話をする。

 表情を微妙に変えながら、俺の目を見て。

 夏の太陽が、噴水のしぶきに輝いて。

 その景色の中にいるユウを見てると、気持ちがあふれそうになる。


「ヘンですよね。でも何でかそう思っちゃって。でも。目を開けたら、先輩笑ってた。悔しくないわけないのに。……でも笑ってたの」

「……ん、笑ったな、確かに」

「俺はやったぞーーーー!って、カンジに私には聞こえたんです」

「……」


 チガイマスカ?

 ユウの瞳。

 できるかぎり正直に答えるべきだと感じた。


「よく覚えてないんだ本当のとこ。でも、満足感はあった。達成感かな。やるだけやったって」

「それが、うらやましかったんです。私……なんかずっと焦燥感にとらわれてて、何をしても飽き足りない、って言うか……。チガウ!っていつも頭の中で言われてる気がして……。先輩みたいに、あんなふうに笑えたこと、一度もない気がする」


 珍しく、目を伏せてユウがしゃべる。


「だから、あんなに無茶したりするの?」


 ―――――― グランドを走り続けるユウを見たことがある。

 バカみたいにずっと体育館でシュートを繰り返してるところも、見たことがある。


「……見てたんですか?」

「うん。わかる気がする。たぶん、ユウの気持ち。……俺もユウみたいにあがいてた時期があったよ。おんなじことずーっと続けて、へとへとになるまでやって、死んだように眠らないとリセットできないような焦り」


 そっか……と安心したようにつぶやいてユウが俺の隣に座った。


「……だからセンパイと話してるとラクなんだ」

「ラク?」

「センパイといるときは変なプレッシャーから開放されたような気がするんです」

「……」


 思っていたより、ユウが近くにいたことに初めて気付く。

 身体の距離だけじゃなく、心の距離。




 中学のとき。

 バスケが好きなのに、思うように背が伸びず、焦り、あがきまくってた自分を思い出す。

 じっとユウを見ていたつもりだったけど、あのころの俺と同じような痛みを抱えていたことは気付かなかった。

『何か』があるとは感じたし、その部分に魅かれてはいたけど。


「センパイのこと、もっと知りたいな。どんな風にして、あんなふうに笑えるようになったのか」


 すぐそばで見上げるユウの笑顔にくらくらしながら。


「俺もユウのこと知りたいと思ってる」

「わたし?」

「そ。男勝りなバスケするくせに、スポーツなら何でもこなすくせに、部活してないわけ。……ひとつのことに執着しないのも、感じる焦燥感も、元はきっとひとつのタネだろ?それが解決したときのユウ。今のままでも十分気に入ってるけど、そしたらきっと……」


 ユウが、話す俺をまっすぐ見てる。

 その視線が、なんていうか……、すごく恥ずかしかった。

 心を見透かすような、その、本人に悪意はないんだろうけど。

 俺の、ユウを好きだって気持ちを知られてしまうようで。

 それじゃ困るんだ。この気持ちは自分の口で、ユウに告げたいと俺は願ってる。

 ……きちんとユウに、受け取ってもらいたいから。


「なんか嬉しいですね」

「嬉しい?」


 俺が聞き返すと、今度はユウが恥ずかしそうに視線を少しそらせた。


「ええ、うれしいです。興味って、少なからず誰かに持つことはあるけど……、『知りたい』って直接言われることってあんまりないですよね」

「なら、俺も嬉しいって言っとこうか?」

「?」

「『知りたい』って先に言われたのは俺の方」

「あ!……そうですよね。へへ」


 ―――――― 逃げ道を作る訳じゃないけど。

 もし、ユウに告白して振られたとしても、俺はそんなに苦しまないかもしれない。

 ユウなら相手を傷付けるような断り方は絶対しないし。

 もしユウにその気がなかったとしても、俺の気持ちが行き場を失って苦しむことはない気がする。


「ユウはいつもまっすぐだな。……俺、オマエ、すっごいいい奴だと思う」


 すごく嬉しそうに、ユウが笑う。

 俺が本当に言いたいことは『いい奴だ』なんて言葉じゃ言い表すことは出来やしない。

 けど、ユウの笑顔を見れただけで、そんなことどうでも良くなる。

 もし分かってもらえてないとしても別にいいじゃないかとも……。



「あ、センパイ。さっきまでなんか運動でもしてました?」

「わりぃ、汗臭いか? バスケしてたんだ」

「なんか……まだ暴れ足りなさそうですねぇ?」


 いたずらっぽい瞳が俺を覗き込んだ。


「ズバリ」

「あはは。そうだと思った!」

「ユウは、夏休みに入って何か運動してた?」

「ん、いろいろと。ホラ、ここから一駅のとこに、『アスレチックス』ってジムがあるでしょう? 夏休みを機に会員になったんですよ。そこでスイミングだとかスカッシュとか……」

「うん、知ってる。俺も一応会員なんだ」


 サイフからカードを出してみせると、ユウも背負っていたリュックの中からカードを出した。

 俺が何となくそのカードを指で回すと、ユウも同じ様にした。


「センパーイ」

「ん?」

「今日、この後の予定、なんか考えてました?」

「いや、何とかなるだろうと思って考えてなかったが……」


 ふとユウを見ると、ユウも俺を見ていた。


「何の用意もしてないけど……」

「あたし、なら。あっちのロッカーにあるんです。センパイは……」

「レンタルがあるよな!」

「そうですよ。……んじゃ」

「キマリ!だな」


 俺たちは顔を見合わせてニンマリすると駅の改札へ急いだ。










 屋内プールヘと続くドアを抜けると、ドーム状になった天井のガラス窓からの光が水面に輝いていた。

 屋外のようにまぶしい。


「ユウは……と」


 ユウはまだ来ていないようだった。

 ……ま、当然か。男の俺の方が着替えるのは早いもんな。

 俺はタオルをプール・サイドのロッキング・チェアに投げると、そのままプールに飛び込んだ。

 会員制のジムだけにそんなに人は多くない。

 今の俺のように突然飛び込んでも文句を言うような奴もいない。

 ―――――― 気持ち良い……。

 冷たい水がバスケをした名残の熱い身体を鐘めた。

 久し振りの水の感触が心地好い。

 だらだらと過ごしていたこの数日がもったいなかったな……。

 少し足を伸ばしてここまできてたらいい気分転換になったのに。何より、予想外のラッキーとしてユウに会えたかもしれないのになぁ。

 軽く二十五メートルを流した後ふとプール・サイドを見ると、ユウが俺を探してるのか、辺りをキョロキョロと見回してた。

 初めて見る、ユウの水着姿。

 その感想を事細かに述べてもいいものかどうか……。

 いや、感動だね。胸があった!

 いや、あるだろうとは思ってはいたけど(当たり前。かなり失礼発言。すまん)……とと予想以上に?

 先ほど少年に見間違えたなんて冗談のように。

 ……やばい、かな。女じゃん……。

 はは……。ユウに言ったらどんな顔するだろ。

 俺はそんなことを考えながらユウの近くまで泳いでいった。


「センパイ」


 俺に気付いたユウがプールの端に腰掛けた。


「どこにいったのかと思いましたよ。……何ですか?」

「いや、ユウの色気にやられそうだな、と思って」

「なんですかソレ~」


 ユウはそう笑い飛ばすと、そのままプールに入ってきた。


「競争、しましょうよ」


 一度頭まで水に沈んだあと、髪をかきあげながら、自信ありげな顔で笑う。


「俺に勝つ気?」

「勝つ気ないのに勝負は挑みません。いい勝負する自信ありますよ。だいぶ泳ぎ込みましたからね」


 ユウの言ってることは多分、本当だろうな。

 ユウの着ている水着は競泳用で(水の抵抗をなるべく少なくする様にデザインしてあるから、正直、日のやり場に困ってしまうのだが……)、本格的。


「どうですか?」

「受けて立ちましょう」


 俺たちはプールの端まで軽く泳いで、スタート台に並んで立った。


「五十メートル、な。男女差のハンデは。ユウが飛び込んだのを見届けてから、ぐらいか? それとももっと?」

「充分。なくてもいいぐらいですから。負けてもハンデのせいにしないで下さいね」

「ほいほい」


 俺がそう言い終わらないうちに、ユウは勢いよく飛び込んだ。

 ……女にしては長い身体がキレイに伸びて、吸い込まれるように水の中に消える。

 水飛沫はほとんど立たなかった。


「見事なもんだな」


 長い潜水の後、ユウは優雅に泳ぎ出した。それを見届けて、俺も飛び込む。


「よっ!」


 だが残念。俺も泳ぎには自信があるんだなー、これが。

 ユウがターンをするころには、ほぼ、俺は追い付くことが出来た。

 ターンの力で、横に並ぶ。

 当然というか、先にゴールしたのは俺だった。



「負けちゃった!」


 ほんの少し遅れてゴールしたユウは信じられない、といった様子。

 慰めようかとも思ったが、ユウにはいらない気もする。

 俺は仕方なしにバラした。


「バスケのための基礎体力造りに、ここに通ってた時期があるんだ。もともとは小学校からずっと習ってたのもあるけどな。タイムはうちの水泳部の顧問が勧誘に来るぐらい。……まあ、キャリアの差だよ」

「えー、そうだったんですかぁ! ん~、でもやっぱり悔しい。練習するからまた相手してくださいよ? リベンジ!!」


 ドームを通り抜けてきた光が、ユウの髪のしずくを照らしてる。

 俺は……。



「俺、オマエが好きだ」


 ぽろっ、と言葉が出た。

 ユウはポカンとして、俺を見つめた。


 今日伝えようと思ってたわけでもないのに。

 なんか、ふと、好きだなーって思ったら、なんか声に出てた。

 こりゃもう一気に言ってしまうしかない、そう腹をくくった。



「はじめは。……すごくバスケのうまいヤツだって、そう思ってただけだった。男だったら、無理にでも部に入れていっしょにやれるのにって。……でも今は。女で良かったって思ってる。何に対しても前向きなとこや、負けず嫌いなとこや……、さっき話してくれた心の痛みの部分も。もし男だったら、こんな気持ちになっちゃった俺はどーしよーもねーし。俺……、ユウを支えてやりたいと思ってる。普段はふつーに対等に遊んだり勝負したりふさげあったりしてても。苦しいときに・・・俺を頼ってもらいたいと思ってる」


 一気に溢れるように出た俺の言葉は、すべてユウの瞳に吸い込まれてしまったような気がした。

 俺はそれでいい、と思った。

 ユウは俺の言葉を聞いてくれた。そして受け止めてくれた。

 それだけで充分だと。

 言ってしまった後の恥ずかしさ半分と、答えを聞く怖さ半分、ってとこかな。


「まだ泳ぎたりねぇから、もうひと泳ぎしてくる」


 何も言わないユウの髪をくしゃっとして、俺は水の中に再び身を沈めた。


「セ、センパイ」


 声は、水の中の俺には届かなかった。





 ひと泳ぎした俺は、ロッキング・チェアに寝転んだ。

 ユウの姿は、見えない。


 ―――――― 唐突すぎた。

 そうだよな。俺も自分でびっくり。

 それに……思いやりがなかった。

 俺は気持ちを知って貰えてそれで満足した。

 ……だけどユウは……?

 俺はなんかはやまったことをしてしまってないか?

 自分の気持ちを押し付けて、俺がした事はユウを苦しめただけかもしれない。

 ユウは時々素直すぎて、人の何気ない言葉も真剣に受け止めようとする。

 俺の気持ちが、軽いいい加減なものじゃない分、ユウにとっては重荷かもしれない。

 カタッ

 物音に振り返ると、ユウが居た。

 俺のすぐそばのテーブルの上にコーラのグラスを二つ置いて。

 ユウはその向こうのロッキング・チェアに座って俺を見ていた。


「ユウ、俺……」


 ユウは笑った。たぶん困り顔の俺を見て。


「センパイ、話をしましょう」

「……話?」

「そうです。あたしの話、聞いてくれますか」


 コーラを一口飲んで、ユウは話し始めた。



「物心ついて……、背がどんどん伸びてた時期かな。自分が他の女の子とちょっと違うことに気付いたんです。それから……ずっと男に生まれればよかったのにって思ってました。こんな姿かたちで生まれて、どこにも女らしいところがなくて」


 遠くを見ながら話してるユウの横顔。


「スポーツが得意だから、そのうち女の子たちが騒ぎ出して……、まるきり男の子のように生活してた時期もありました。一番つらかったのは中学3年のときかな。……女の子が、真剣に「好きだ」って告白してくるんですよ? 男の子たちからはからかわれるし……。高校に入ってからは私服だから。……制服着なくていいから、ずいぶん気が楽になったんですけどね?」


 平気そうなフリ。……見ているほうがつらくなる。

 抱きしめてやりたい衝動を、ぐっとこぶしを作って抑えた。


「見てくれはこうでも、中身は……普通の女の子だって、誰もわかってくれないんですよ。おしゃれしたくても、似合わないし……。でもセンパイが、私が女で良かったって、言ってくれて……」


 俺が差し出したタオルをユウは黙って受け取った。

 それで目元を押さえる。

 顔を上げたとき、ほんの少しの笑顔を見せた。


「あたし、人を好きになったことないんです。親とか友達はもちろん好きですけど、……そういう意味じゃなくて。『恋』っていうんですか、そういう意味で人を好きになったことがないんです」


 そう言って、ユウはいったん言葉を切った。

 あとに続ける言葉を選んでるように視線が揺れる。

 俺の気持ちにこたえることが出来ない、そういう意味の言葉だからか?


「センパイが……あたしを好きだって言ってくれたのはどういう意味でですか?」


 自分の正直な気持ちが、もしかしたらユウの痛みを少しでも癒せるのかもしれない。

 わずかに感じ取れる希望を信じて言葉にする。


「俺はユウのことを後輩としても友達として好きだ。そして……ひとりの女の子としても好きなんだ」


 ユウが笑った。

 ……俺が今まで見たユウのどの表情よりも優しい笑顔だった。


「……ありがとうございます」


 そしてゆっくりと目を伏せた。


「こういうとき、何と言ったら一番いいのか、あたしわからないから。男の人に言われるのは初めてで。……もしセンパイを怒らせちゃったりしたら、ごめんなさい。……あたし、センパイのこと好きです。……でも、たぶん、センパイのいう好きとあたしの好きは違う、と思います。少なくとも今は。……先輩として、なら、自信持って好きと言えるんですけど……」


 ―――――― 俺は不思議と穏やかな気持ちでいた。

 はっきり言ってしまえば、俺は振られたことになるんだろうが、悲しいとかそういった感情はまるでなかった。

 ―――――― ユウのおかげだと思う。

 俺を傷付けまいと心を痛めながら選んでくれた言葉は自然と心の中にしみわたって、……あらためてユウを好きになったような気がする。

 もう一度ユウに好きだと告げてしまいそうな心を、俺は自分で歯止めを掛けた。


「それだけで充分だって」

「センパイ……」


 うまく笑えただろうか。

 優しく俺を気遣ってくれるユウに答えられただろうか。


「センパイ。あたし、本当に嬉しかった。それだけは分かって下さい。こんな……男みたいなあたしなんかを好きだって言ってくれて……すごく嬉しかったんです。……女として見てくれたなんて。……自信ついて、調子に乗ってしまいそう」

「男に見える、なんてたちの悪い冗談だよな。ほんと、俺にとってオマエは充分にいい女なんだから。……それこそ、惚れるぐらい」

「ヘヘ……」


 雫の落ちる髪をユウがそっと手でかきあげた。

 ほんのり朱にそまった頬のユウは、これまで見た女の誰よりも綺麗にみえた。


「あ……、俺が今から言うことは、まぁ、さらりと聞き流してくれていいんだが……」


 ユウが首をかしげる。

 俺は、内心、すごく照れながら一気にまくしたてる。


「オマエ、これから今よりずっとキレイになるよ、ゼッタイ。いつか誰かに惚れて、……そいつに大事にされて……、その時に誰よりもキレイな、とびきりの女になるんだと思う」


 俺が感じた予感を、そのままユウに告げる。


「……ありがとう」


 まっすぐ俺を見て、嬉しそうにユウは笑った。






「センパイに言っていいものかどうか、わからないけど……、聞いてくれます?」


 少し戸惑った表情したユウが小さな声で言った。


「ユウが話したいと思ったことなら、俺は聞くよ」

「人に話すのは、実は初めてで……」


 笑わないでくださいね、と続ける。


「その人、センパイと同じように私のこと見てくれて、すごく自然で居られる気がするんです。センパイが私を女として見てくれてるって分かって、今すごく嬉しいんですけど。でも、その人の前だと男っぽいとか女っぽいとかそういうこだわりが消えて、焦らなくていい、って思えるんです。その人といたら、今私が悩んでることのすべてが解決できそうで……」


 話をしてるユウは、どこか遠いところを見ていた。

 さびしいことを言ってくれる。

 ―――――― ユウは自分では気付かないうちに、そいつのことを好きになっている。

 俺では駄目って事なんだろうな、やっぱ。


「そいつ、友達?」

「いいえ。……夢に出てくる人なんです」


 夢? 一瞬目が点になる。

 だけど気になる符号がいくつか。

 小さなころからずっと見てる、おんなじ夢。

 その夢に必ず出てくる人。

 笑ってもいいですよ?とユウの視線。

 笑えるわけないじゃんか。

 ……まるきり恋してる女の表情して話してるのに。

 太刀打ちの出来ないライバルを紹介された気がして、苦笑いをするしかない。


「そっか。ユウの理想像ってやつだな」

「理想像……。そうなのかな……」


 そいつが実在してないのなら、俺にもまだチャンスは残ってるのか……な?

 わかっていることは、試合結果はまだ、ということ。

 途中で勝負を投げるのはいやだからな、と。俺は考え直す。


「さて、もうひと泳ぎしようぜ」


 タオルを置いて立ち上がった俺は、ユウにそう声をかけた。




 ―――――― せいぜい長期戦の構えでいくさ。






 高校生活最後の夏休みが終わった。




 最後の大会では完全燃焼。大好きなバスケでそれなりの成績を残せた。

 勉強は……まあそれなりにしたし。

 あんまりしたことない自堕落な生活も満喫したし。

 なにより、ユウに気持ちを伝えることが出来た。

 ……フラれちまったけど、な。

 落ち込んだりは不思議としなかった。

 ユウは、なんか不思議なやつで。

 フラれちまった今の方が、前よりも好きになった気もする。





「和臣。どうした、ぼーっとして。休みボケか?」

「達彦か」


 少し髪の伸びた達彦が、ジャージ姿でいた。

 手にはバスケット・ボール。


「帰らないのか? 時間大丈夫なら、寄ってけよ」

「そうだなぁ」

「ジャージ、持ってきてるか?」

「い-よ、このまんまするし」

「動きにくそ。今なら俺でも余裕でオマエ抜けるかもな」

「だれが」


 帰ろうとする生徒の中、俺と達彦は流れに逆らい、体育館に向かった。


 達彦はよく日に焼けていた。

 大学受験の勉強をしながらも、コイツは結局夏休みの練習には全部参加したようだ。

 俺がクラブに顔を出したとき、いつもいたし合宿にも参加したらしい。


「文化祭の招待試合が、本当に最後になると思うんだ」


 唐突に達彦が言い出す。


「第一志望、H医大に決めた。本腰入れて勉強しなきゃならないし、バスケももう終わりさ」


 ああ、そうか、と。

 達彦の実家は病院をやっていて。達彦はそこの長男で。つまり、跡継ぎだった。


「……そっか」


 バスケと医者。これから先は、両立できなくなる。それこそ、両方とも本気でやろうと思っている限りには。

 だからひとつだけを、達彦は医者になることを選んだんだ。

 たぶんどちらも達彦にとっては同じくらい大切なことだったと思う。

 きっと親父さんの願いが、その均衡を破ったんだろう。

 人に相談しない達彦の事だから、自分一人で考えて、悩んで。

 その結果、出た結論。

 何とか力になってやりたいと思っていたけど。

 なんか気のきいたせりふのひとつでも言ってやりたいけど。

 俺、バカだから何も思い浮かばない。

 何を言ってやればいいか、わからない。―――――― 達彦の気持ちを考えると。


「ま、頑張れや」


 こんなありきたりの言葉だけなのに、達彦がほっとしたように笑顔を見せる。


「サンキュ。つくづくオマエと友達で良かったと思うわ、おれ」


 達彦が真面目な口調でそう言った。


「親父さ、俺に何も言わないんだ。……好きなことしろって」


 達彦の放り投げたボールが、空高く。

 ……そのまま達彦の手に返ってくる。


「だからバスケ、続けようと思った。大学でもオマエと同じチームでやったら楽しいだろって。……でもうちの親父、年だしさ。背中見てたら……なんか、な。ま、他にも理由はあるんだけどな」

「ああ」

「決めたからには、俺はやるぜ? 今から勉強必死でして、現役で合格、とんとん拍子で、30歳ごろには開業医!……バスケのことホントに好きだからさ。片手間には出来ない。すっぱりとやめるつもりだ」

「……ああ」


 達彦の潔さには、言葉もない。

 その決断は、たぶん俺にはできなかっただろうから ――――――。


「和臣!」


 至近距離からのきついパス。


「オマエは続けるんだろ? 俺の分も走ってくれと頼んでいいか」

「そうだな、できるかぎりやってみるから」


 ボールと一緒に受け取った達彦の気持ちを、俺はたぶん一生忘れないようにしよう。そうしなきゃならない、と思った。


「で、次はオマエの番。バスケ休んでしたいことあるって言ってたよな。……ちゃんと出来たか?」


 話してすっきりとしたのか、いつもの調子に戻った達彦が言った。

 ボールはすでに達彦の手元に戻ってる。

 指先でまわしながら、俺の顔を見る。

 ……う、とうとうツッコミますか。

 もうごまかされてくれないような気がして、観念するしかない。


「……まあな」


 とたんにうれしそーな顔をしてせきたてる。


「教えろよ、どうだったんだ?よけーなことは置いといて、本命。……と、噂をすれば、かな」


 達彦が指差す方を見ると、ユウが歩いていた。友達と一緒らしい。

 このごろ、楽しそうに笑ってるのをよく見かけるようになった。

 それを見て俺は嬉しくなる。


「センパイ!」


 ユウは俺に気付くとそのまま駆け寄ってきた。


「バスケしに行くんですか?」

「うん、オマエも来ないか」

「え-、いいんですか?」


 ちらりと、達彦の方を見て確かめる。


「もっちろんだよ、女の子が来てくれると、うちの連中はりきるし。な、和臣」

「おお。よかったら友達も誘って来いよ」


 ハイ!と元気に返事をして、


「こずえ! 和美! センパイ達がバスケ見に来ないかって」


 友達のところに戻っていった。

 達彦は俺とユウ後姿とを交互に見て。


「オマエ、ちゃんと彼女に言った? 前とあんま変わんないような気がすっけど…」

「言ったよ、ちゃんと」


 達彦は首を傾げた。


「センパイ! ちょっと用事あるんで、後で行かせてもらいますね?」

「ん、待ってるからな」


 にぎやかに話しながらユウたちが行ってしまう。

 達彦はまだ納得いかない様子で、


「わかんねぇな。どうなってんだ、オマエら」

「どうもなってねぇよ。さ、行くぞ」


 達彦からボールを奪って、俺は体育館まで走った。




 ―――――― 他のヤツにはちょっとわかんねえだろうなぁ。

 と、苦笑。


 俺とユウは、はっきり言って前と変わってない。

 ユウが俺の気持ちを知ったってこと。

 俺が前よりもユウを身近に感じるようになったこと。

 この2点を除いて。

 ユウは今の通り、俺に好かれているってことを知った後も態度を変えなかった。

 表面だけ見てる奴には、ただの仲のいい先輩と後輩でしかない。

 ユウにも言ってないから、たぶん、他の誰にも言うことはないと思うけど。

 ……これでもけっこう俺は幸せなんだ。

 想いを伝えることができたし。

 フられたけど関係が崩れたわけでもないし。

 強いて言えば俺を少し頼りにしてくれるようになった……かな。


 ずっとユウを見てる俺だから、分かることかもしれないが。

 ―――――― ユウは前よりも綺麗になった。

 もしかしたら、見つけたのかな。理想のオトコを。

 それが俺でないことが少し残念だけど、それはそれでいいんじゃないかと納得はしてる。俺だけのものにして、どこかに閉じ込めたかったような気持ちじゃない。

 フられたにもかかわらず、ユウがまだ好きで。これからどんどんキレイになってくユウをもっと好きになっていく。それはきっと、彼女が俺に恋する日が来なくてもかわらない。


 ―――――― 初恋、だった。



 ユウを好きなこの気持ちが、いつの日か少しずつ変化していくことを予感する。

 ユウが誰かの横で幸せそうに笑う日が来て。

 いつかきっと、ユウじゃない誰かに俺が恋する日が来て。




 ―――――― でもきっと、俺は忘れない。高校最後の夏を。






「センパーイ!」


 体育館のドアから俺を見つけて呼ぶユウ。

 俺は彼女に笑いかける。


「早く来い、しごいてやるぞ-!」


 その言葉に笑うユウ。


「見学ですよ! もうっ」


 そう言うユウを、どうやってコートに引き込んでやろうかと考えるとわくわくする。



 ―――――― ユウがいる。

 それだけで幸せに思う瞬間。





 俺が思い出す、この夏。

 君は、笑ってる。






 ―――――― 忘れない、君のいる風景を。





 一次脱稿 高校3年の秋

 サイト初出2002/08/5-8

 加筆修正2003/08

 加筆修正2006/01/30

恵奈@PRECIOUSTIME


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