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転送少女とケモミミ少年 -Zerofantasia Gaiden-  作者: zakoyarou100
序章(上)獣耳の少年、カオル
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カオル、光る巨木を目撃する

――そして、現在。

カオルは、ベッドに腰掛けながら、考え込んでいた。


連日のスライムとの遭遇、そして戦闘。

脳裏をよぎるのは、洞窟で聞いた唸り声と、巨木が光っていたという噂。


(この集落は……平和だと信じていたけど……)

(もしかしたら……何かが、もう始まっているのかもしれない)


カオルはベッドに倒れ込み、再び眠ろうと目を閉じる。

だが、戦闘の緊張が抜けきらず、意識は冴えたままだった。


(……少し、歩こう)


気を紛らわせるため、カオルは家を出て、夜道へと足を踏み出した。


─────


外へ出ると、肌寒い風がカオルの頬を掠める。

月夜の明かりで木々の輪郭がはっきりと浮かんでいる


「……ん?」


ふと、何気なく見上げた南の空が、かすかに青白く染まっていることに気づく。


(あれ……?)


無意識のうちに足取りを早め、南の小高い丘へ向かう。


(まさか……)


冷たい風が頬をなで、枯れ草のざわめきが耳をくすぐる。

月明かりに導かれた夜道は、宵闇の静寂に沈んでいた。


響くのは自分の足音だけ。

遠くで鳴く夜鳥の声が、かえって孤独を際立たせる。


(まさか……まさか……!!)


丘の斜面は木々に覆われ、自然のままの姿を保っている。

根や石に気をつけながら、一歩一歩、慎重に登っていく。


胸の内には、不安と――それと同じだけの、期待があった。


丘の頂が近づくにつれ、空の異変ははっきりとした輪郭を帯びていく。

足取りは自然と速くなり、鼓動も高まっていった。

耳は周囲の気配を捉えていたが、意識は次第に呼吸と心拍へと集中していく。


そして、丘の頂に立った瞬間――


「……本当に、光ってる……」


カオルは目を見開き、息をのんだ。


─────


そこに広がっていたのは、世界の神秘そのものと呼ぶほかない光景だった。


「あ……っ、ああ……っ……」


喉から、思わず声が漏れる。


視線は、月明かりに照らされた森を越え、その奥にそびえる巨木へと吸い寄せられていった。


夜の静寂が、鼓膜を打つ。

胸の鼓動が、不意に大きくなる。

冷たい夜風が頬をなで、背筋を走る寒気は、恐怖ではなく――畏敬だった。


そこにあるはずの巨木は、確かに存在している。

だが、普段とは決定的に違っていた。


(凄い……)


巨木は、青白い光の粒子をまとい、それを天へと放っていた。


昼間に見る姿とは比べものにならないほど神々しく、

まるで生き物のように、光の粒がゆっくりと脈動している。

光の粒は、無数の蛍のように宙を舞うと、星空へ溶けていく。


やがてそれらは帯となり、呼吸するかのように、収束と拡散を繰り返していた。

吸い込まれ、吐き出される――

そのリズムは、不思議とカオルの心拍と重なっていく。


ときおり、光の帯が強く輝く瞬間、

遠くで鳴いていたはずの虫の声さえも消え、世界が一瞬、停止したかのように感じられた。


巨木を囲む広大な森も、その光を受けて銀色に染まる。

葉の縁がきらめき、風に揺れるたび、地面には光と影の文様が描き出されていく。

そこはもはや、ただの森ではなかった。

夜明け前の空気そのものが清められ、聖域と化したかのようだった。


「……巨木が……光ってる……」


震える声が、息継ぎも忘れてこぼれ落ちる。

昼間に聞いた団員の話が真実だったのか。

それとも、これは幻なのか。


(……あれが、世界樹……)


か細く名を呼ぶが、声は夜風に紛れて消えていく。

だが、指先に伝わる空気のざわめきと、瞳に焼き付く確かな光景は、

これまでの平凡な日常とは、明らかに異なる何かが始まったことを告げていた。


(……神秘的だ……)


カオルの心臓は、異様な速さで鼓動しながらも、

その光景から目を離せない、抗いがたい引力に囚われていた。


世界の根幹に触れる出来事を、

今まさに目撃している――そんな確信が、全身を駆け巡っていた。


─────


――翌朝。

カオルはいつもより早く起き、自警団の集会所へ向かった。

脳裏には昨夜の光景が胸に焼き付いており、誰かに話さずにはいられなかった。


「おはようございます」


扉を開けると、数人の団員が顔を上げる。


「おう、カオル。早いな。何かあったか?」

「えっと……」


一瞬ためらい、だが意を決して口を開く。


「……昨日の夜、南の崖から見える巨木が、光っているのを見ました」


「えぇ!? カオルも見たのか!?」


甲高い声が静寂を破る。

団員たちの視線が一斉に集まり、驚きと困惑が入り混じった表情が浮かぶ。


「本当なんだな? 昨日の夜に、確かに光っていたんだな?」


カオルは、静かに頷いた。

瞳の奥には、天へ昇る青白い輝きと、呼吸のような脈動が、まだ鮮明に残っている。


それほどまでに、強烈な記憶だった。

ただ美しいだけではない。

そこには、古代の歴史や、失われた世界の記憶が眠っている――

そんな感覚が、確かにあった。


─────


「……そうか……」


奥から現れたルクスは、はるか南――世界樹の方角を一瞥し、ゆっくりと目を閉じる。


「団長……?」


表情が、次第に険しくなっていくのを、カオルは感じ取った。

やがてルクスは目を開き、静かに語り始める。


「世界樹の発光は、少なくとも、自然な現象ではない」

「実はな……過去にも、発光は目撃されている」


そう言って、ルクスはテーブルを指先で軽く叩いた。


「”コッ……コッ……コッ……”」


その音が、不安を押し殺すように響く。

集会所にいる全員が、息を潜めて次の言葉を待っていた。

カオルの胸は、早鐘のように鳴っている。


「……そう、なんですか……?」


かすれた声。

握り締めた手のひらに、汗が滲む。


「黙っていたがな……」


ルクスは深く息を吸い、覚悟を決めたようにカオルを見据えた。


「お前の父親が、巨大な魔獣に襲われて亡くなったことは、覚えているな?」


その言葉に、カオルの肩がわずかに震える。


「団長! その話は――」


遮ろうとする声を、カオルが静かに制した。


「……覚えています。忘れたことは、ありません」


落ち着いた声の奥に、押し殺した感情が滲む。


父の死の記憶と、世界樹の発光。

二つの光景が、不思議なほど自然に重なり合っていく。


夜明け前に見た幻想的な光が、

幼い頃に訪れた父の死の真相を、照らし出そうとしている――


そんな予感が、胸の奥で確かに芽生えていた。

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