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転送少女とケモミミ少年 -Zerofantasia Gaiden-  作者: zakoyarou100
序章(上)獣耳の少年、カオル
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団員、光る巨木を目撃する

カオルとウォルの二人は集落へ戻ってきた。


集落には、微かに夕食の支度や人々の生活の気配が残っていたが、すでに日は落ち、静寂がゆっくりと広がり始めている。

自警団の集会所の前まで来たとき、薄暗がりの中でルクスが二人の姿に気づいた。

重い足音を立てて、こちらへ歩み寄ってくる。


「おう、遅かったな。無事だったか」


低く、圧のある声が夜気を切り裂く。


「はい、団長」


カオルの返事には、洞窟での出来事を思い返すかのような緊張が、まだ残っていた。



「それで? 何かあったのか?」


鋭い視線が、ウォルとカオルの間を行き交う。


「洞窟内に特に変化はありませんでした。遭遇した魔物も、スライム一体だけです」


ウォルが答えると、ルクスは眉間にしわを寄せ、深く息を吐いた。


「そうか……」

「それと、団長……洞窟の奥、封印の扉の前で、低いうなり声……のような音を聞きました」


カオルの言葉に、ルクスの表情が一変する。


「何だと!? 本当か?」


カオルが小さく頷くと、ルクスは口を閉ざし、深く考え込んだ。

しばしの沈黙のあと、決意を固めたように顔を上げる。


「よし。明日、私とウォルでもう一度あの洞窟へ向かう。

念のため、封印の扉を直接確認する」


そう言ってから、ルクスはカオルへ視線を移した。

厳しさの抜けた表情で、彼の頭にそっと手を置く。


「カオル、今日は疲れただろう。ゆっくり休め。お前がいてくれて助かった。感謝している」


ウォルが、ルクスに抗議をする。


「えぇ〜、俺は休めないんですかぁ?」


ウォルの抗議に、ルクスは即座に鋭い視線を向けた。


「お前は明日早朝に私と出発だ。準備しておけ」


睨まれたウォルは、露骨に肩を落とす。


「はぁ〜……わかったよ、親父」

「ウォル。団員の前で“親父”呼びはやめろと言っているだろう」

「はいはい。団長……」


そう言い残し、ウォルは足早に、自宅でもある集会所の中へ消えていった。


その場に残されたカオルの足元には、長く伸びた影が落ちている。

夕焼けの名残が、空の端にかろうじて残るだけだった。


「カオルも、完全に暗くなる前に帰るんだぞ。明日は他の団員たちと、集落周辺の見回りを頼む」


ルクスの低い声が、静寂の中に重く響く。


「明日は遅れるなよ」


そう言い残し、彼もまた重い足音とともに集会所の中へと姿を消した。


「はい、団長」


か細い返事は夜風に溶ける。

カオルは一人、その場に立ち尽くし、濃さを増していく闇を見つめていた。


(明日……あの洞窟で、何もなければいいけど)


その思いを胸の奥にしまい、静かに家路につく。

冷たい土の感触が靴越しに足裏に伝わり、遠くで夜の虫の声が聞こえ始めていた。


─────


――そして、翌朝。


カオルは早起きをして朝の支度を済ませ、自警団の集合場所へ向かった。


「おはようございます」

「あぁ。おはよう、カオル。昨日はよく眠れたかい?」


顔見知りの団員が声をかけてくる。


「はい。ところで、団長とウォルは?」

「あの二人なら、日が昇る前にもう出かけたらしいよ」


その言葉に、カオルは思わず目を瞬かせた。


「えっ……随分早いですね。朝ごはんも食べてないんじゃ……」

「多分な。昨日の夜に、急いで準備してたみたいだし」


団員は苦笑する。


「そうですか……」


カオルの表情に、わずかな心配が滲む。


「まぁ大丈夫だろ。昨日の話を聞いたけど、魔物はスライムだけだったんだろ?

もし何かあっても、あの二人なら昼過ぎには戻ってくるさ」


(……そうだといいけど)


カオルは心の中で、そうつぶやいた。


─────


その後、カオルたちは集落周辺の警戒活動に入った。

朝の空気は冷たく、吐く息が白くなるほどだったが、体を動かすうちに次第に温もりが戻ってくる。


警戒は、集落の入口から森の縁まで、二人一組で巡回する手筈だ。

カオルは若い団員とともに、東側の森を担当していた。


――『半日とはいえ、村を留守にする間に何かあれば一大事だ。警戒を怠るな』


念のため、いつもより範囲を広げての巡回だった。


「……」


『”ぐぉぉぉぉぉぉぉぉん……”』

『”ぐるるるるるるるるるぅ……”』


カオルは、洞窟で聞いた唸り声を思い出すたび、背筋に冷たいものが走る。


そんな最中だった。


「お〜い、カオルくん! ちょっとこっちに来てくれるかな〜?」


遠くから呼ぶ声が、はっきりと耳に届く。


「はい、今行きます」


(何かあったのかな……)


そこには、数人の団員が集まり、何やら話し込んでいた。

驚きと好奇心が入り混じった表情が、彼らの顔に浮かんでいる。


カオルに気づくと、全員が一斉に振り返った。


「あの……どうしたんですか?」

「いや、大したことじゃないんだけどさ。ほら、南の崖の方から見える、でっかい巨木があるだろ?」


――巨木。


かつて人々が『世界樹』と呼んでいという逸話を持つ、巨大な樹。

集落から少し離れた場所に立ち、大地に根を張り、空へ枝を広げ、葉を茂らせている。

その姿は、この小さな集落にとって、あまりにも神々しい存在だった。


住人たちは敬意と畏怖をもってそれを見上げてきたが、決して近づこうとはしなかった。


正確には、近づけなかった。


─────


かつて、若者たちが調査を試みたことがある。

好奇心と冒険心に突き動かされ、巨木の謎を解けば集落の役に立つと考えたのだ。



だが彼らは道中で謎の嵐に遭い、命からがら戻ったものの、多くが負傷した。

それ以来、巨木には「近づくべからず」という掟が定められ、誰もが遠くから眺めるだけになった。


─────


「実はな……昨日の夜、俺、見ちまったんだよ」


年配の団員が、興奮気味に切り出す。


「何を?」


「巨木が……光ってたんだ」


「……え?」


一瞬、意味が理解できなかった。


「光ってたって……どういうことですか?」


カオルが問い返す。


「ああ、真夜中にな。用足しに外へ出たら、南の空が妙に明るくてな……」


団員は身振りを交えて語る。


「裏の丘に登ると、木の上の方が少し見えるだろ?

登ってみたら、どう見ても巨木が光ってたんだよ」

「慌ててカミさんを連れてきたが、その時にはもう消えてた。

幻覚だって笑われたけどな……今思い返しても、ありゃ間違いなく光ってた」


話を聞き終え、カオルは言葉を失った。


(巨木が……光る?)


とてもではないが、信じがたい話だ。

無意識に首を傾げ、視線を落とす。


その反応を見て、団員はさらに声を弾ませる。


「だからさ、あの洞窟で聞こえた唸り声も、

もしかしたらこの光と関係あるんじゃないかって思ってな」


その言葉をきっかけに、周囲がざわつく。


「巨木と唸り声が関係してるって?」

「まさか……あの木が……」


「団長も唸り声の件は真剣に調べてる。何かしら関係があるのかもしれん」


別の団員の言葉に、場は静まり返った。


「もし本当なら……とんでもない話だな……」


誰かが小さくつぶやく。


(巨木の発光と、唸り声……ほぼ同じ時刻に起きた二つの現象……)


考え込むカオルの耳に、森を渡る風の音が届いた。


「ところでカザトさん、昨日どれくらい酒を飲んだんだ?」

「あぁ? カミさんの作ったツマミが美味くてなぁ。覚えてねぇくらいだ! ガッハッハ!」


「ああ……」

「そりゃ幻見るわ」


半笑いでその場は収まり、団員たちはそれぞれ巡回へ戻っていく。


─────


「おーい、カオルくん。ぼーっとしてないで、そろそろ帰ろうか~」


声をかけられ、はっと我に返る。


「あ、はい!」


散り始めた団員たちの背を見送りながら、カオルは歩き出した。


(良くないことの前触れじゃないと、いいんだけど……)


カオルの頭の中では、先ほどの話が何度も繰り返されていた。

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