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転送少女とケモミミ少年 -Zerofantasia Gaiden-  作者: zakoyarou100
序章(上)獣耳の少年、カオル
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カオル、唸り声を聞く

カオルの感じた不気味な気配の正体を確かめるために、慎重に、二人は洞窟の奥へと足を進めていった。

やがて、洞窟の最奥が視界に入る。

そこは、天井からの光がほとんど届かない場所だった。


「……何も無いみたいだな」


ウォルは奥の暗がりへ視線を巡らせてから、振り返ってそう告げた。


だが――その闇の中に、不気味な存在感を放つ異様な扉が佇んでいた。


洞窟の自然な壁面とは明らかに異なる、人工物。

それだけで、この場所が特別であることを否応なく悟らせる。


表面には幾何学的な模様が刻まれている。

微かに差し込む外光を受け、薄暗闇の中で白く浮かび上がるその紋様は、見る者の視線を強く引き寄せた。

模様は、古代の文字のようにも見える。

だが、どの文明のものなのか――二人には、まったく見当がつかなかった。


扉の中心には、不思議な色合いを放つ宝石が埋め込まれている。

それは、まるで内側から別の光を反射しているかのように、

白く脈動するような輝きを放っていた。


──その存在感は、周囲の闇を押し退けるかのように、異様なまでに際立っている。


─────


洞窟内に漂っていた不穏な気配は、この場所で最も濃くなっているようだった。


「……封印の扉」

「ああ、言われてたな。触れるべからず、ってやつだ」


ウォルはカオルの隣に立ち、興味深そうに扉を見上げる。

彼の瞳には、宝石の放つ奇妙な輝きと、外から差し込むかすかな光とが、判別のつかないまま反射していた。


「でもよ、こんな扉、一体何の意味があるんだ?

古代文明の遺産って話だけど、誰にも開けられないなら、

ただの石切場の忘れ物みたいなもんじゃねぇか」

「ウォル……」


カオルの声には、隠しきれない不安が滲んでいた。

気づけば彼は、腰の短剣へと無意識に手を伸ばしている。

自分でも驚くほど強く、柄を握り締めていた。


「……何だよカオル、そんな顔するなって。多分、魔物はさっきのスライムで終わりだろ」

「別に……魔物だけが、怖いわけじゃないんだ」


カオルは視線を扉から離さず、言葉を紡ぐ。


「万が一……この扉の奥に、何か邪悪なものが封印されていて……

それが解き放たれたら……この集落が、どうなってしまうか……」


ウォルは、思わず目を見開いた。

冗談で流すつもりだった言葉が、喉の奥で引っかかる。

カオルの瞳に宿る真剣さが、それを許さなかった。


「……まあ、そうだな」


短く息を吐き、ウォルは再び扉へと視線を戻す。


「封印ってのは、そういうもんだ」


そう前置きしてから、続ける。


「だがな、カオル。考えてみろよ。

この封印が解けない限り、俺たちはこの扉の向こうに何があるのか、

永遠に知ることはできねぇ」

「中にあるのが、邪悪な魔物かもしれない。

けどな……そうじゃないかもしれない。

もしかしたら、俺たちを助けてくれる“何か”がある可能性だって、ゼロじゃないんだぜ?」


カオルは黙り込み、しばし考え込んだ。

未知への恐れと、わずかな期待――

外の世界を知らない彼にとって、その二つは常に表裏一体だった。


─────


「さてと……奥まで確認したしな」


ウォルは軽く肩を回す。


「これで、洞窟には特に異常なしってことで、集落に戻って親父に報告だ」


そう言って、カオルの肩を軽く叩いた。

伝わってくる力強さに、張り詰めていた肩の力が、ほんのわずかに抜ける。


――そのときだった。


「”ぐぉぉぉぉぉぉぉぉん……”」


洞窟全体を震わせるような、不気味な唸り声のようなものが響き渡った。

それは、巨大な獣が喉の奥から絞り出すような、低く、重く、揺らぐ音。

壁にぶつかり、何度も反響し、二人の鼓動を乱暴にかき乱す。


「なんだ!?」


ウォルは即座に剣の柄へ手を伸ばし、カオルも短剣に触れる。

全身が硬直し、毛が逆立つような感覚が背筋を駆け抜けた。


唸り声は、どこから聞こえてきたのか。

息を殺して周囲を見回すが、目に映るのは静まり返った闇と、天井から覗く微かな光だけ。


「さっきの音……魔物……?

それとも……魔獣……?」


カオルは壁に背を預け、震える声でウォルに尋ねた。


「分からねぇ……」


ウォルは低い声で答える。


「だが、あれが魔物や魔獣の声なら……相当ヤバい」


――次の瞬間


「”ぐるるるるるるるるるぅ……”」



再び響く、唸り声。


「……今度は……どこから……?」


唸り声は洞窟内にこもり、発信源を特定できない。

まるで――洞窟そのものが、低く鳴いているかのようだった。


……やがて。

洞窟に、静寂が戻る。


水滴が床に落ちる音が、異様なほど大きく耳に響いた。


「……止んだ?」


カオルが、ぽつりと呟く。

ウォルは無言で頷く。

視線は、なおも暗がりの奥を捉えたままだ。


「……分かんねぇ。とにかく、集落に戻って親父に報告するぞ」


その声には、張り詰めた緊張がはっきりと滲んでいた。


「……うん」


カオルは不安を隠しきれないまま返事をし、ウォルの背中を追う。

洞窟を抜ける二人の足音は、先ほどよりも速く、わずかに慌ただしい。


─────


洞窟の入り口に差し掛かったとき、夕焼けの光が二人の顔を照らした。


「はぁ……結構、時間かかったな」


ウォルが大きく伸びをする。

伸ばした腕の筋肉が、夕暮れの中に浮かび上がった。


「うん……」


カオルは、どこか遠くを見るように答える。


(さっきの唸り声……一体、何だったんだろう……)


歩きながら、何度もその音を思い返す。


(あんな声……今まで聞いたことがない。

もしかしたら……誰も見たことのない、新しい魔物……)


思考に囚われ、無意識のうちに足が止まる。


「おい、カオル! どうした?」


少し先を歩いていたウォルが振り返る。

その声には、はっきりとした気遣いが含まれていた。


「あ……ごめん。何でもない」

「そうか。なら、急いで帰ろうぜ

大丈夫だ、何かあっても、俺と親父がなんとかするからさ」


ウォルは隣に並び、歩調を合わせる。


二人が集落へ戻った頃には、すでに日の光は完全に失われ、世界は静かな闇に包まれていた。

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