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転送少女とケモミミ少年 -Zerofantasia Gaiden-  作者: zakoyarou100
序章(上)獣耳の少年、カオル
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カオル、スライムと戦闘

洞窟の中は、外界の明るさとは切り離された、薄暗さと静寂に満ちていた。


天井のいくつかが崩れ落ち、その隙間から差し込む淡い光が、内壁をぼんやりと照らしている。

そのおかげで、松明などの光源がなくとも、内部を進むことはできた。


「……今のところ、何もいないみたいだな」


ウォルが洞窟の奥を覗き込みながら、小さく呟く。

声は壁にぶつかり、歪んだ反響となって戻ってきた。

その響きが、余計にこの場所の不気味さを際立たせる。


「……カオル、もう少し奥まで進んでみよう」

「そうだね」


カオルは短く頷き、ウォルの横に並んで足を踏み出した。


二人分の足音が、湿った洞内に鈍くこもる。

土の湿り気と、壁面に張り付いた苔の匂いが混じり合い、鼻腔を刺激した。

足を進めるたび、靴底の下で水が小さく鳴く。


─────


奥へ進むにつれて、外から差し込む光は次第に細くなっていく。


「……」

「……」


二人は、声を殺しながら慎重に進んでいく。

そのとき、二人の視線が同時に、洞窟の奥に揺れる微かな影を捉えた。


「……何か……いる……?」


カオルが足を止め、囁くように声を漏らす。

影は、そこにあった。揺れながら、ゆっくりと、粘りつくような音を立てて動いている。


「……待て、カオル。慎重に行こう」


ウォルが手を伸ばし、カオルの肩にそっと触れた。

警戒するように細められた瞳が、暗闇の向こうを射抜く。


二人は呼吸を殺し、物音を立てぬよう距離を詰めていった。


─────


距離を詰めると、影の輪郭がはっきりしてくる。

それが、小さな魔物であることに気づくまで、そう時間はかからなかった。


ゼリー状の体を持つ下級魔物――【スライム】。


半透明の肉体が、虹色に鈍く光りながら、ゆっくりとうねるように蠢いている。

二人の存在に気づいたのか、粘液を床に引きずりながら、こちらへ向かって動き出した。


「なんだよ……スライムじゃねーか。本当に弱そうだな」


ウォルは肩の力を抜いて言った。

だがカオルは、短剣の柄を握る手に力を込めたまま、警戒を解かない。


――『どんなに弱くても、魔物は魔物だ』


ルクスの言葉が、脳裏に蘇る。


スライムは攻撃力の低い魔物で、集落周辺にも時折現れる。

性質は大人しく、人を襲うことはほとんどない。

体の内部には濃い色の核が浮かび、核を壊せば活動を停止する。

動きは鈍く単純で、知性の低さが一目で分かる。


だが、集落では魔物はすべて警戒対象だ。

まして、洞窟という閉ざされた空間での遭遇は、どんな弱敵であっても油断を許さない。


カオルは素早く回り込み、スライムの背後に位置を取る。

腰の短剣を抜くと、金属音が静寂を裂いて小さく響いた。


――『油断するなよ』


短剣を構え、切っ先を魔物へ向ける。

足を地に根づかせ、わずかな動きにも即応できる体勢を取った。

薄暗い洞内で、スライムの体が不気味に脈動し、歪んだ光を反射する。


ウォルも隣で長剣を抜き放つ。黒い刀身が、淡い光を吸い込むように鈍く光った。

二人は無言で視線を交わす。それだけで、合図は十分だった。


「今だっ!!」


ウォルの声と同時に、二人は駆け出した。

湿った土を蹴る音が洞内に響く。左右に分かれ、自然な動きでスライムを挟み込む。


この連携は、幾度となく重ねてきた訓練の成果だった。


「はっ!」


ウォルの剣が振り下ろされる。

刃は抵抗もなくゼリー状の体へ沈み込み、ぬめりと共に、不気味な鼓動が伝わってきた。

カオルは一歩遅れて踏み込み、短剣を突き出す

豪快さはない。だが、無駄のない正確な一撃だった。


刃が側面を貫くと、スライムの体は不安定に揺れ始める。

透明だった体は徐々に濁り、脈動は乱れ、虹色の輝きが失われていった。


スライムは、微かな音を立てて、何かを訴えるように震える

だが、それが悲鳴なのか、最後の抵抗なのかは分からない。


――そして、決着。


カオルの短剣が中心へ到達した瞬間、内部の核が砕ける乾いた音が洞内に響いた。

スライムの動きが止まり、体は急速に固まっていく。

透明だった肉体は青緑色に変色し、やがて崩れ落ちた。


湿った苔のような匂いが立ち上り、洞内の空気が一瞬だけ変わる。

床に残ったのは、もはや生き物とは呼べない、ゼリー状の残骸だけだった。


「……終わったか」


ウォルは息を吐き、剣先の粘液を払い落とす。額には汗が浮かび、体は戦闘の熱を帯びている。

カオルも短剣を拭い、鞘に戻した。


胸の奥で、激しい鼓動がまだ収まらない。

初めて任された任務での戦闘――その緊張と興奮は、簡単には消えなかった。


─────


「ふぃ〜……まぁまぁ楽勝だったな」


ウォルは安堵の息を漏らす。


「……弱いと言っても……油断は禁物だからね」


カオルは静かに答え、残骸から視線を離さない。


「でもさ、親父は何で、こんなスライムしかいなさそうな洞窟を、わざわざ調べさせたんだろうな」

「……何かあってからじゃ遅いって言ってたし……慎重だったんじゃない……かな」

「それに……本当に弱い魔物だけとは限らないし……昨日、変な音がしたって話だし……」

「まぁ、それもそうか」


ウォルは洞窟の奥を見据えた。


「じゃあ、もう少し先まで見ておくか」

「うん……念のため……ね」


二人は並び、再び歩き出す。

洞窟の奥には、より濃い闇が広がっていた。

完全な暗闇ではないが、天井からの光はほとんど届かない。

壁に手を触れ、慎重に進んでいると、カオルがふと立ち止まった。


「……何か、気配がする……」


湿った土や苔とは違う、微かに甘い匂い。


「気配?」


ウォルも足を止め、周囲を警戒する。


「……もっと奥から……」


カオルは暗闇の先を見つめる。

その瞳の奥には、抑えきれない好奇心と、不安が静かに入り混じっていた。

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