第99話 辺境伯のお抱え魔法使い 上
陞爵の儀から数日後、再びの貴族達によるお祝い攻勢により対応に追われていたが、デーニッツさんが他の貴族達を牽制し、辺境伯様から次世代のお抱え魔法使い達を育成するために、俺達にもお抱え魔法使い達の修練の様子を見て欲しいと言われ、連れ出してくれた。
辺境伯様からの命令でもあるので、これを邪魔すると不興を買いかねないと貴族達が屋敷に押し入ってくるのはピタッと止まるのであった。
「やれやれ、これだから貴族社会は怖いんだよな」
「ありがとうございますデーニッツさん」
「なに、お前らが困っているのは、俺もお館様もご子息様達も困る。バイパー様に至っては命の恩人だしな……成り上がり者だからと蠢く貴族達に牽制くらいはしねぇと」
「ああいうのって事前に止めることはできないんですか?」
「一応お祝いという体裁だからそれを止めるのはおかしいからな。今回は別件の命令をお館様が坊主達に与えたことで収まったが……」
辺境伯様との距離を縮め、他の貴族達からの付け入る隙を無くしていけば、自然と嫌がらせは減っていくだろうとも言われたし、バイパー様の派閥の貴族達はお祝いの品もちゃんと活用出来る物やタイミングを見計らってくれたので、貴族全員が敵という訳でもない。
バイパー様やフレデリック様経由で徐々に味方を増やしていけば良いはずである。
「さて、到着だ」
町の中心部からやや外れた場所にあるお抱え魔法使いの訓練場に到着すると、デーニッツさんは小さな学校みたいな建物に入っていく。
俺達も中に入ると、中も小さな学校みたいながら、綺麗に清掃されていたり、調度品も高そうな物が並んでいる。
「おーす、お前ら。修行は捗っているか?」
デーニッツさんが教室に入ると、20代前半から30代後半の男女達名が20名ほど勉強をしたり、魔法の練習を行なっていた。
「紹介するぜ、男爵に成り上がったナーリッツ・フォン・ケッセルリンクと女騎士の爵位をもらったメアリー、アキーニャ、シュネーだ。まぁお前さん達も陞爵の儀に居たから今更だと思うが……」
「デーニッツ様! ケッセルリンク男爵がデーニッツ様の後継という話は本当なのでしょうか!」
「デーニッツ様の弟子である私達がデーニッツ様の跡を継いでお抱え魔法使い筆頭になるべきなのではないのでしょうか!」
金髪をスポーツ刈りにし、軍服のような服着こなした筋肉質の男性とザ・貴族みたいな銀髪のツインロール……ドリルヘアとも言うような髪をし、ドレスを着ている女性が俺達がいる前で堂々と批判してきた。
「ザテラスにセレフィか……俺はナーリッツがお抱え魔法使い筆頭に相応しいと思っているが……不満か?」
「ええ! 地竜を倒せる実力があるのは認めますが、お抱え魔法使いは政治的な駆け引きもできなければなりません。冒険者として名を馳せ、政治力もあったデーニッツ様はともかく、農民から僅かな期間で成り上がったケッセルリンク男爵達にはその様な能力は身に付いていないかと」
「そうですわ! それに指導力があるかも分かりません! ケッセルリンク男爵達はまだ9歳。年上を教える立場になるのは酷なのではなくて?」
男性がザテラス、女性がセレフィと言うらしく、デーニッツさんが耳打ちしてくれたが、彼らも男爵位の貴族の当主らしい。
あとああいう風に言っているのはあくまで他のお抱え魔法使い達の気持ちを代弁しているだけで、本人達の性格は良いし、派閥もバイパー様なので心の中では感謝しているだろうと言っていた。
『心の中では僕達に対して凄く謝っているね』
心が読めるメアリーが念話で俺達にザテラスさんとセレフィさんの気持ちを伝えてくれる。
なんなら念話で彼らの気持ちを直訳してくれると
『ちっ! お抱え魔法使いとして確かに俺とセレフィが筆頭に一番近いって言われていたけど、バイパー様を助けてくれたケッセルリンク男爵達が次期筆頭になるのは別に良いだろうに……』
『全く、私達ではワイバーンすらろくに討伐できないのに、ワイバーンを何百頭と狩れる彼らの実力を疑うのはどうかしていますわね……でも批判的な意見を持つ人達も親族の政治争いに巻き込まれていますから不満が爆発する前にポーズだけはしておきませんと……やれやれ、後にケッセルリンク男爵達にはお詫びをしなければなりませんわね』
こういう事らしい。
お抱え魔法使い達はその更に下に見習い魔法使い達を抱えているので、各々派閥を構成している。
日本で言うところの議員とかの組織に近い。
政党が辺境伯家、党首がデーニッツさんで、議員達を構成し、その下に議員達を支える支援者がいるみたいな構図が近い。
まぁ政治が絡むとどこもこんな感じの組織になるがね。
ザテラスさんとセレフィさんは彼らが抱える下からの焚き付けで俺達に文句を言わなければならなっていた感じだろうか。
お抱え魔法使いの組織について詳しいのは俺達のパーティーに所属しているスターの一族がお抱え魔法使いや見習い魔法使いに一族を多く送り込んでいるため、事前に詳しく教えてくれた。
スターの親父さんも元はお抱え魔法使いだったらしいが、現在は別の役職を与えられて勤務しているし、スターの兄や姉はまだ見習い魔法使いらしいので、この場には居ない。
「お前らの不満は多少はわかる……だが既に坊主達の魔力量を探っていると思うが、魔力量はお前らの数倍はあるからな。筆頭である俺でも坊主達に比べると4から5分の1程度だ……ここまで言って実力差が分からねぇ馬鹿はお抱え魔法使いに相応しくねぇから役職を辞退して帰れ」
流石デーニッツさん、一声で不満を一蹴した。
「とは言えだ、ナーリッツ男爵達もまだ9歳と未熟な部分もあるから、先輩であるお前らとの違いを比べるために一勝負といこうか……俺、ザテラス、セレフィの3人とナーリッツ、メアリー、シュネーの対決で良いか? アキーニャでも良いが」
アキはデーニッツさんに自分は見学で良いですよと伝え、緊急時の救護役を立候補した。
まぁアキの調薬したポーションなら腕が吹き飛ぼうが理論上再生できるらしいし、大怪我しても大丈夫だろう。
教室を出て、広場に移動した俺達は、アキが即座に土魔法でスタジアムを作り上げる。
それだけでも実力が分かりそうなものであるが……。
「すげぇ……全部大理石に近い物質になってる」
「土を一瞬で石化させるって、どんだけ魔力があるのよ……それにこの規模を一瞬で」
「デーニッツ師匠曰くアキーニャさんは近接戦闘タイプの魔法使いらしい……これだけの大魔法が使えるのにか……」
「そりゃワイバーン倒せますわ」
過半数はアキの魔法を見て納得したらしい。
一部は苦虫を噛み潰したような顔をしているが……。
「今表情が変わっている4名が僕達と敵対している派閥の貴族やそのご子息っぽいね。一応辺境伯様の家臣ではあるけど、初代から仕える古参の家柄っぽいね。そういう家って成り上がり者には厳しいイメージあるから、そのまんまなんだろうね」
「メアリー解説ありがとう」
さてと、誰から戦うか……相手はセレフィさんから戦うっぽいのでメアリーが出ていった。
「両者素直に負けを認めること、殺し合いは避けること。よろしいですね」
「「はい」」
「では始めてください」
審判役の魔法使いの人が手を下ろすと魔法の応酬が始まるのだった。




