第98話 陞爵の儀
屋敷に戻った俺達は、まず着ていた服を洗浄の魔法で綺麗にしたうえで、乾燥の魔法で水分を飛ばす。
勿論辺境伯様と会った時にも同じ工程をしていたが、また外は土砂降りの雨になってしまったので、アキはびしょびしょ、俺達も服が湿気っちゃって着心地が悪くなっている。
なのでとりあえず綺麗にしてから乾かして、ミクに服を預けた後に風呂場に直行。
するとお背中流しますよとマンシュタインも風呂に入ってきた。
背中洗うのは男同士なので遠慮したが……。
「ふう……外だとシャワーだけだったから風呂に入ると疲れが癒されるぅ」
「地竜ってどれぐらい強かったんだ? ワイバーンより強いのか?」
「いや? 飛ばない分、そんなに強くなかった」
「……ナツが言うそんなに強くないは実際は滅茶苦茶強いんだろうな……」
「まぁぼちぼちね」
マンシュタインと風呂に浸かりながら、俺達が居なかった間屋敷はちゃんと回ったのかと聞いてみると、大きな問題は無かったらしい。
一部魔力量を上げるトレーニングに熱中し過ぎて腹を壊した奴が出たらしいが……。
「胃もたれするからな……薄めて飲んでも良いが、そうなると水分が多くなって胃が膨らむから食欲減るんだよな……多くても30回くらいにしねぇと危ないと思うけど……まぁアキ曰く体に胃もたれ以外の害がでることは無いらしいけど」
「スターとマリーの2人は1日40回以上トレーニングしてるから他の奴らドン引きしてるんだけどな」
「マンシュタインはどれくらいの量やってるんだ?」
「まぁ20回くらい? 1回数分かかるから20回でも1時間以上かかるからな。まぁ回数少ない分は勉強に時間さいているけどね」
「何を勉強しているんだ? 屋敷を運営するだけだとあんまり学ぶ様な事マンシュタインは無いだろうに」
「とりあえず南部に居る貴族達の家紋と苗字、あと家族の人数や財政状態なんかも調べているよ」
「……あぁ、俺も学ばないといけないやつだ」
「僕の場合ナツ達のフォローをするために知識を持っていないと失礼に当たったら面倒くさいからね」
「助かるは……マンシュタイン本当に助かる!」
「そんな褒めるなよ」
風呂の温度を調整し、のぼせないように風呂の縁に腰掛けて、マンシュタインと話を続ける。
「日中は予備校通っていたと思うけど、3日間で何を学んだ?」
「ラインハルトさんから冒険者では使わないけど文字をもっと綺麗にする必要があるからと綺麗に見える文字の書き方だったり、実践的な算術とかか? 冒険者よりもナツの家で食材や日用品を商人から購入しなきゃいけない時に結構な金額が動くし……あと帳簿の付け方とか」
「脱落しそうなのは居るか?」
「今のところは大丈夫、特待生組だから元貴族や家臣として最低限の教養は身に付いていたから。僕にとっては復習みたいなもんだし」
「マンシュタインは本当になんで冒険者目指したんやら……いや、ありがたいけどさ」
「前にも話した通り仕えるべき主人を探すためさ! 初っ端大当たり引いたけど」
「いや、まじで助かる」
俺は氷のグラスを作り、中に水を生み出し、汗をかいた分の水分を補給する。
マンシュタインにも氷のグラスを作って乾杯してから飲んでいく。
ふとマンシュタインの下半身に目がいくが、まぁ9歳にしてはデカい様な、長い様な……イケメンだし、将来女性を侍らせそうである。
「屋敷で働いてる人達で気になる子とかいないのか? マンシュタイン」
「おいおい、ナツがそれ聞くのは反則だろ」
「え? その反応……いる感じなの!」
誰だ誰だと俺はマンシュタインに問い詰めてみると、ホワイト・アブロッサムという子が気になるらしい。
「ホワイト……あぁ、物静かな」
「うん」
マンシュタインは物静かな子が好きらしく、元々はあんまり喋らなかったらしいが、共同生活が始まったり、クラス再編で喋ることが増えて、好意を抱き始めていると語ってくれた。
「逆にホワイト曰く、他の女子達は皆ナツに矢印向いているらしいぞ」
「矢印向いてるって言っても……俺はメアリー、シュネ、アキの3人が居れば結構満足なんだけどな」
でも3人から絶対性欲強すぎて受け止めきれないから増やしてとも言われているし……まぁそれは将来考えれば良い話か。
さて、身体も温まったことだし、風呂を出て部屋でゆっくり心身を整えるのであった。
数日後、俺、メアリー、シュネ、アキの4人は正装をして辺境伯様の屋敷の広間にて、他の貴族や辺境伯様の家臣達が見守る中、
陞爵の儀が行われた。
現在バイパー様の治療薬の調薬は順調に進んでいるらしく、あと2週間もすれば完成するらしい。
バイパー様の体調も落ち着いているので、2週間くらいは大丈夫だと思われる。
なので先に陞爵の儀が行われることになったのだが、陞爵が行われることがとても稀で、第代の辺境伯様の息子達……分家の創設や僻地を開発して騎士に任じられるというのは多いが、今回みたいに短期で爵位を上げ、なおかつ陞爵の儀を盛大に行うのは本当に稀な事らしい。
ちなみに俺達が1代騎士に任じられた時はもっと簡素な儀式だったが、今回は数百人単位で広間に入り、俺たちのことを見ている。
聴覚を強化して彼らの話を聞いてみるに、農民の成り上がり者がと蔑む者が約3割、辺境伯領活性化の起爆剤として期待していたり、バイパー様の代は魔法使いに関して他家に遅れを取られなくて済むと安堵の声が5割、残りは俺達をいかに利用して、自分達の利益にするかと野心を剥き出しにしている者……といった具合である。
足を引っ張られたり、詐欺の様な事をされない限り別に気にする必要は無いだろう。
儀式は進み、辺境伯様より家紋の入ったマントが贈られ、周囲から拍手が鳴り響く。
家紋の入ったマントは貴族でも当主のみが着用を許された特別な物で、公の場でも主役でなければ着ることが許されず、基本家の家宝として保管する物である。
没落貴族の冒険者の中には派手なマントを着飾る者もいるのだが、家紋として捉えられるような模様を入れることは許されておらず、製作者、購入者共々罰せられる為、どれだけ大切にされているかがよくわかる。
まぁ俺達もこのマントを冒険に着ていこうとは思わないので、家に飾っておくことになるだろうな。
「地竜討伐の功績によりナーリッツ・フォン・ケッセルリンクを男爵に、メアリー・フォン・ケッセルリンク、アキーニャ・フォン・ケッセルリンク、シュネー・フォン・ケッセルリンクの3名を女騎士の爵位に任ずる!」
「「「「はは!」」」」
こうして俺は男爵に爵位を上げることに成功するのだった。




