第90話 フレン・フォン・マングローブ 上
うちの名前はフレン・フォン・マングローブ。
フォンの名前がついているから分かるように貴族出身の娘や。
で、ここらへんでは珍しい魔族の娘でもあるんやな〜これが。
帝国の歴史の古い貴族はエルフ、人族、竜人しかいなかったんよな。
その頃の魔族の扱いは奴隷階級だったと歴史書に記されていたんや。
でもここ数百年で歴史は大きく変わってきた。
帝国という巨大かつ多民族国家を統治する上で種族ごとに優劣を極端につけるというのが統治において悪手と気づいたんやろな。
それに魔族の中にとてつもなく強力な魔王が誕生したのも帝国を大きく揺らがせたんやな。
魔族は奴隷階級だった魔族や小人族、帝国の支配に反発した人々を巻き込んで大規模な反乱を起こしたんやが、魔族の中にはこの反乱で帝国側で活躍することで身分向上を画策した策士がおってな、魔王の反乱は大陸を巻き込んだ後に隣国に飛び火し、魔王も帝国では鎮圧されてしまうと思い、隣国に逃げてしまったんや。
そのおかげで隣国は一度分裂した後に連合国家へと変わって魔王の残党を吸収し、近年でも帝国北東部で国境紛争を続ける様になっとるが、そのおかげで魔族への当たりがだいぶ柔らかくなったな。
ただそれでも貴族になれるような魔族はほぼおらんかったんやが、魔族は種族的は優秀な者が多い。
魔力量が多かったり、平均寿命もエルフの次に長いし、肉体も頑強。
ちょっと子供ができにくい特性はあるものの、繁殖力旺盛な人族と混ざってしまえば、ハーフはデメリットもほぼ消える。
魔族は人族と同じくらいの優勢遺伝子を持っているので、人族以外の種族と交わったら魔族の遺伝子が強く反映され、人族に血が偏らない限り魔族としてのアイデンティティを失わなくて済むんよな。
まぁそのせいで純血主義と呼ばれるような連中からは血の汚染を恐れて毛嫌いされることがあるんやがね。
うちの家が貴族に成れたのはほんま偶々やな。
うちの先祖が所属していたパーティーが大きな功績を残したことで、貴族になれたんやと。
世にも珍しい魔族の貴族の誕生やな。
最初の頃は魔族やからと色々苦労したらしいんやが、先祖様はしたたかで、婚姻関係を積極的に結んで影響力を増やし、分家を立てては人を集めて開拓に送り出し、開拓に成功したらそこの領主として辺境伯様に認めてもらうことで、どんどん分家を増やしていったんやな〜。
まぁ本家はその後の政争に負けて没落したらしいんやが、地方領主として幾つかの家が残り、魔族なのにフォンを名乗れる者がいるようになったんよな。
帝国南部……ここの辺境伯様の領地では殆ど魔族差別も無いからありがたい。
そして、うちも貧乏地方領主の娘だったし、今の時代婚姻政策で勢力を広げる様な野心もうちの親父は持ち合わせて居なかったから、長男の兄を残して兄や姉、そしてうちは9歳になったら家を次々に出ていったんよな。
先祖みたく冒険者として一旗当ててやるぞってな!
幸いうちは他人より多く魔力があったし、魔力を増やす練習を早いうちからできたお陰で、冒険者予備校の入学試験は突破できた。
さて、うちの成り上がり生活の始まりや……と、意気込んで特待生になったは良いものの、うちより凄いの……いや、超のつく天才が4人もおった。
農民出身かつ同じ村出身の幼馴染の4人はリーダー格のナーリッツが空間魔法を使えるわ、そこからホーンタイガーの生首をゴロゴロ出すわ……それからどうやって強くなったか聞いたり、パーティーに入れてくれないか聞いたりしていたら、あっという間にマンシュタインとスター、マリーという辺境伯の家臣筋の子達とパーティーを結成して狩りに行くようになっていた。
出遅れたなーと思いつつも、ナーリッツ達とパーティーを組めなかった者同士でパーティーを組んでナーリッツ達から遅れること1週間後にうちらも狩りに行くようになった。
結果は散々。
連携できてない、足音で獲物にバレる、狩りに慣れてないのが多くてせっかく倒した動物も傷だらけ……。
鹿を数頭倒して冒険者ギルドに買取してもらったけど、買い叩かれてしまった。
肩を落として帰る途中、ナーリッツ達が買取所に入っていくのが見えた。
荷車にはたんまり獲物が載せられていたが、異空間から色々な魔物を取り出しているのも見えた。
「すげーな……ナーリッツの奴ら」
「ナーリッツから聞いたけど娯楽が近くの魔物の領域で魔物を倒すくらいしかなかったらしいぞ」
「食い物がろくに無かったから物心ついてからは魔物を食べて生活していたとか」
うちも田舎の領主の娘だから動物の狩りくらいはしたことはあったけど、良くて鹿くらいだし、正直パーティーで動くより、うち1人で動いた方が今回の狩りも上手くいったと思うが、パーティーを組まないと狩場に行く許可を教官から貰えないからね。
一緒に組んでいた男子達はナーリッツ達の成果を他の子にも広めて、うちや一部の子らはどうやったら魔物を倒せるのか、綺麗に倒すためのコツみたいなのをアキーニャに聞いたわ。
ナーリッツは女子から人気が高くて、男子は子供の中では大人びているメアリーやシュネーに聞くことが多かったので、マンシュタインやスター、マリーとよく喋っていたアキーニャに聞くのが狙い目やったんよな。
それにアキーニャは肉体強化と土魔法は得意と公言していたんやけど、種族的に他の魔法が使えないって縛りがあったから、色々な魔法が使える他3人に人気が集中したんよな。
あとアキーニャは身長がクラスでも2番目に小さかったってのも迫力がなくて、見た目だけだと強そうに見えない点も人気無かった理由やろな。
お陰でうちは色々聞くことができたけど。
そうこうして予備校が始まって3週間と少し経った時、アンデッドの集団が町に向かっているって報告があり、うち達予備校生も駆り出されることになったんよね。
町の治安維持部隊の補助という役割やったけど、万が一辺境伯軍や先輩冒険者達が討ち漏らしたアンデッドが出た場合、うちらが町に入らんようにする最終防衛線やったから皆緊張していたと思う。
ナーリッツ達4人は緊張を全くしないで無言で瞑想を続けていたけど、後から聞いたらナーリッツは空間魔法と探知魔法を駆使してアンデッド達の動きを探っていたらしいんよな。
で、いきなり4人が待機所から飛び出して空飛んでいくと、数分後に郊外から巨大な火柱が上がった。
十数キロ離れた位置からでも見えるって、どんだけ巨大な魔法なんやろと思っていたけど、その魔法でアンデッドの大群を消し飛ばしていたらしい。
それだけじゃなく、アンデッドドラゴンや首謀者も討伐して、辺境伯様から認められ、予備校生でありながら爵位を授与されるに至ってしまった。
ナーリッツって呼び捨てしたらあかん立場になってもうたな。
で、予備校は少しの間休校になってたんやけど、その間うちは暇やったから1人で近くの森に狩りに行き、うさぎや狐を倒して小遣いを稼いどった。
教官に届け出しなくても良いくらい近くの林だと普段はアイアンの冒険者達が溢れかえっているんやけど、アンデッド討伐に皆駆り出されて、冒険者ギルドから報奨金が出されたから、皆その日から数日は狩りを休んでいたっぽくて、町では連日辺境伯軍を祝うパレードが開催されて、賑わっとったけど、稼ぎ時やと思って狩りに勤しんだんやね。
で、ぼちぼちアイアンの冒険者達が狩場に戻って来た頃は逆に体の手入れとしてちょっぴり贅沢して風呂入れる所に行って、全身を綺麗にしたり、お菓子を買い食いしたりして過ごしたんやけど、予備校が再開したら教官からいきなりクラスの再編を行う言われて、クラスメイトの5人が別の特待生クラスに移動になった。
で、残ったのは8人。
ナーリッツ達のパーティーがおらんけどなんでやろなと思っていたら、教官から4人が爵位を貰ったこと、マンシュタイン達パーティーメンバーの3人は既に家臣へと組み込まれたこと、ここにいる8人はナーリッツ達から家臣にならないかとスカウトされている者達だと言われたんよな。
そんな都合の良い話ある?
と、うちは思ったけど、まぁ残ったクラスメイト達は大喜びよな。
辺境伯の家臣だったり、うちみたいに継承順位が低くて家を継げないほぼ平民と変わらない貴族もどきも何人かおったから、安定した職を得られるならそら飛びつくわな。
勿論うちも飛びついたし。
翌日、スターとマリー以外疲れ切ったナーリッツ様達が入ってきて、本当にこの場の8人は家臣として雇うことと雇用条件の確認、そして新しい教師としてラインハルトさんっちゅうめっちゃイケメンのお兄さんがうちらに家臣としての仕事や常識を教えてくれる事になったし、ナーリッツ様達の屋敷に部屋を与えるからそこに住むようにとも言われたわ。
しかも食事に見習いなのに軍属の兵隊よりも高い給金も毎月貰えることになったし……何これ?
めっちゃ運が巡ってきた感じやないか?




